生産技術セミナー

和牛子牛の育成技術

安 藤 嘉 章



 はじめに

 肉用牛繁殖経営にとって子牛は生産物であり、その市場評価は経営の収益に直結しています。通常は大きな子牛が高く評価されることから濃厚飼料の多給がなされ、一時は濃厚飼料を不断給餌する生産者もみられました。極端な例では1日5〜6kgの濃厚飼料が給与され、粗飼料は1kgも食べない牛が出荷されていたこともあり、様々な育成をされた子牛を導入する肥育農家では飼い直しを余儀なくされているのが現状です。 家畜市場によっては良質乾草の充分な給与等の子牛管理のポイントを子牛せり市名簿に記載して、共通の育成方法で斉一性の高い子牛を生産するように努力されています。
 京都府碇高原総合牧場(以下、碇牧場)においても低コストで効率的な子牛育成技術の確立を目指して、より良い育成方法を確立する努力をしています。そこで、子牛評価と発育、子牛育成のポイント、当場の試験の取組み等について紹介します。


 評価の高い子牛の発育は?

 碇牧場産の黒毛和種子牛の過去3年間における特徴検査時の成績と発育を見てみましょう。等級別に増体を見ますと、図−1、2のとおり1日当たり増体量(DG)の高い子牛が評価されています。しかし、出荷時のDGが良ければ良い子牛といえるでしょうか。図−3を見てください。1等と2等を比較すると、出荷時体重は同じでも1等の子牛は初期発育から順調で2等の子牛は後半に増体が良くなっています。2等と3等を比較すると、3等の子牛は後半の発育が停滞しています。従って、評価の高い子牛は初期発育から出荷前まで順調な発育をしていることが解ります。

-1 特徴検査時の等級と DG(雌)


-2 特徴検査時の等級と DG(去勢)


-3 特徴検査時の等級と発育曲線(雌)


 子牛育成のポイント

 子牛がスクスクと育つためには、適正な栄養管理、疾病予防が必要です。そこで、子牛が順調に発育するためのポイントについて述べていきたいと思います。

1.分娩管理

 分娩時には逆子、難産、虚弱児といった事故につながる事態が多いため、看護が必要であり、さらに初乳の摂取と紅歯の確認は生後3ヵ月間の病気に対する抵抗性を付与する上で重要です。従って、分娩時の立会いは大切です。従来、分娩が夜間に多いことから分娩が近づくと夜間の観察に気を配る必要がありましたが、昼間分娩誘起技術により大半が昼間の作業時間内に分娩するため充分な看護ができるようになります。

@初乳の摂取
  初乳の早期摂取は子牛が病気に対する抵抗性を獲得するために重要ですから、分娩後1時間以内に必ず哺乳させましょう。子牛は通常分娩後20分で起立し、90分で哺乳を開始するといわれています。哺乳を拒否する母牛もいることから、確実に1時間以内に哺乳させようと思えば、哺乳の補助が必要となってきます。
  また、起立、哺乳が遅れる虚弱子牛には搾乳して初乳を飲ませましょう。給与量は分娩後1時間以内に0.5〜1
l、分娩後1日間で3.5〜4.5l程度です。

A昼間分娩誘起技術
  碇牧場では分娩予定の1週間前から午後6時に1日分の餌を1回に給与し、翌日の朝には残飼を除去しています。この給与方式により図−4、5のとおり昼間分娩する割合が増えています。方法も簡単ですから是非実行されることをお薦めします。

  図-4 夜間給餌による昼間分娩         図-5 通常給餌による昼夜間分娩割合 
  

2.哺乳状況の確認と人工哺乳

 2〜3ヵ月齢までの子牛は栄養源を主に母乳から得ており、その発育は哺乳量に大きく影響されます。従って、哺乳状況を常に確認して、不足する場合は人工哺乳することが必要です。
 母牛の泌乳能力は、子牛の1週齢体重を測定して、生時体重との差から子牛の1日当たり
DGを求めることにより推定できます。DGが0.6kg/日を切るときは、母乳が不足していると考えられます。また、子牛が頻繁に乳頭をかえて吸っているときは、乳量が少ないことを示しています。

@人工哺乳
  碇牧場では表−1のとおり独自に開発した和牛用哺乳瓶により代用乳を給与しています。代用乳はカウハッチ等により親子分離して給与するか、もしくは母牛に付けたまま給与します。カウハッチがあれば親子を分離した方が容易に管理できます。
  代用乳は45〜50℃の温湯で溶かし、給与時には40℃になるようにしましょう。哺乳瓶は熱湯で消毒して清潔な状態にしておくことはいうまでもありません。1週齢時に人工哺乳に切り替えて飲まない場合は半日か1日断乳します。

-1 代用乳給与量

3.哺乳期の飼料給与

 子牛は3週齢頃までは必要な栄養を母乳だけで充足できますが、3週齢以降は泌乳量の低下と子牛の養分要求量の増加により粗飼料と濃厚飼料を給与する必要があります。また、第1胃の発達には固形飼料の摂取が必要であり、健全な反芻胃を作るためには粗飼料への嗜好性を高め、粗飼料の消化に適応した第1胃を作っておくことが大切です。子牛は1週齢頃から乾草等の粗飼料をついばみ始め、少しずつ摂取するようになりますので、1週齢から良質な粗飼料を飼槽に入れておくようにしましょう。
 経営規模が大きくなってくると、哺乳子牛も群飼することになりますが、適正規模は5〜6頭といわれています。群の構成にあたっては体重、日齢を出来るだけ揃えるようにしましょう。

@濃厚飼料
  濃厚飼料は2〜3週齢頃から給与し、40日を過ぎてから採食量が増してきますが、本格的に採食する3ヵ月齢頃までは不断給餌とします。この時期は哺乳量の減少に対応して如何に濃厚飼料を給与していくかがポイントになります。飼料は毎日交換しましょう。4ヵ月齢で離乳する場合は離乳時までに濃厚飼料を1.5〜1.7kg/日採食できるように給与量を増やしていきます。

A乾 草
  乾草は10cm程度に細断したものを不断給与しましょう。碇牧場で子牛にチモシー乾草を飽食させた成績ですが、図−6のとおり摂取しています。


-6 乾草摂取量の推移

4.離乳牛の飼養管理

 離乳牛は、性、体重により採食スピードが違うため、定量給与する場合には雌雄別、体重別に群分けをした方が良いといえます。牛の組合せを考えれば2〜3頭くらいが望ましいといえます。
 去勢は出荷の3ヵ月前までに済ませておきましょう。

 8ヵ月齢までは反芻胃の発達を促進するために、粗飼料主体の飼料給与をすることが大切です。粗飼料の不断給与、濃厚飼料の制限給与を行います。体重を測れば日本飼養標準に基づく飼料設計が出来ます。
 濃厚飼料は飼料設計で計算された量、もしくは給与プログラムに指定された量を給与することになりますが、給与後30分以内に食べきる量にしましょう。また、増加量は1週間に0.5
kg以内にしましょう。

@飼料設計
  肥育素牛として出荷する牛の場合、発育中であるため育成としての飼い方が求められる他に、肥育の初期段階としての飼い方も求められます。条件としては粗飼料、濃厚飼料、カルシウム剤を混合した飼料として、
 *粗飼料は良質なものを乾物で40%以上

 *粗繊維は乾物中15%以上
 *TDN充足率は105〜110%
 *粗蛋白は12%
 *カルシウム/リン比が1.5〜2
  飼料設計は、次回体重測定日、現時点と次回測定日の中間時点の2段階で行い、濃厚飼料の給与量を増加する目安とします。

5.疾病予防

 子牛の下痢、肺炎は発育を阻害する大きな要因であり、この予防は重要です。特に下痢が問題で、環境要因や病原体の侵入が原因としてあげられます。

@環境要因による下痢の予防
 *アルコール不安定乳:母牛の飼料の急変を避け、エネルギー不足にならないようにします。肝てつ感染を予防するために稲ワラは4ヵ月間保管してから給与しましょう。
 *寒冷感作:乾燥した敷料、保温マット、保温灯を利用します。

 *盗食:母牛飼料給与時に子牛をペンに隔離します。
 *給与飼料:濃厚飼料の量と種類の急変を避けます。

A病原体による下痢の予防
 疾病は子牛の抵抗力と侵入する病原体の攻撃力(数と毒力)の力比べの結果、子牛の抵抗力が負けたときに発生します。従って、子牛に病原体に対する抵抗力を付与し、病原体の数を減らすことにより予防をすることができます。
 *子牛の抵抗力の付与:ワクチンの接種はもちろんですが、栄養状態を改善し、寒冷感作等のストレスを軽減することも大切です。家畜の広域流通が顕著になっていますので、利用できるワクチンは全て接種した方が良いでしょう。しかし、コストの増加をもたらすため対象疾病を絞る場合は、家畜保健衛生所の病性鑑定や抗体調査事業の結果、家畜衛生情報システム等を利用して、農場の汚染状況、県内及び関連する地域の疾病の動きを把握して選択すればよいと思います。
 *病原体の抑制:子牛に侵入する病原体の数を減らすことが大切で、導入牛の隔離、踏み込み消毒槽の設置、敷料の定期的交換、空房時の消毒、可能ならばオールインオールアウト、放牧場のダニ駆除等があげられます。


 碇高原牧場の低コスト育成技術の取組み

 子牛育成の飼料給与については購入乾草、濃厚飼料を前提に説明してきましたが、持続型の生産をしていくためには自給飼料の生産利用が欠かせません。そこで、地域で生産される自給飼料を活用した子牛育成に関する試験を紹介します。さらに、安価な粗飼料である羊草の給与試験と、現在試験中ですが、新しい飼料給与方法の取組みとして濃厚飼料の時間制限給与法を紹介します。

1.グラスサイレージ、稲ワラの早期給与による和牛子牛の低コスト育成技術

 1989年の報告によると、子牛に給与する粗飼料として従来から乾草の給与が最も良いとされていますが、乾草は購入単価が高く、自家生産する場合も天候等に左右されるため、量的にも確保が困難になっています。そこで、粗飼料としてサイレージ(オーチャードグラス混播)、稲ワラを哺乳期から32週齢まで給与し、乾草(チモシー)との代替性を検討しました。
 給与粗飼料別の体重の推移は図−7、32週齢時の体型は表−2のとおりで、乾草を給与した子牛が大きく育ちました。しかし、飼料費で比較しますと、表−3のとおりサイレージを給与した場合に増体1
kg当たりの飼料費が最も安価になりました。


-7 子牛の給与粗飼料別体重の推移


-2 給与粗飼料と32週齢時の体型(cm


  表
-3 2〜32週齢における飼料費(円)


 粗飼料の給与割合は表−4のとおり低く、特に稲ワラを給与した場合、肥育並みの濃厚飼料多給型になっており、育成期の給与方法としては好ましくありません。
 サイレージについては栄養成分としては乾草に劣らないため、良質なサイレージを安定して生産でき、乾物中の粗飼料割合に留意して給与すれば、安価な子牛育成用粗飼料として使用できます。


-4 摂取飼料乾物中の粗飼料割合と粗繊維含有

2.羊草給与による和牛子牛の育成技術

 1992年の報告によると、高価な乾草の代替粗飼料として中国東北部原産の羊草を利用した育成方法を検討しました。
 羊草の標準的な栄養価は表−5のとおりチモシー乾草と比べると若干低い値を示しました。

-5 栄養価の比較(%)


 チモシー乾草を対照として羊草の嗜好性試験をしたところ、図−8のとおり羊草がチモシー乾草より固く細いために、8週齢までは羊草が劣っていましたが、12週齢以降では羊草の摂取量が大幅に上回りました。

-8 粗飼料摂取量                図-9 体重の推移  
  


 次に育成試験を16〜32週齢の間実施しました。供試牛は雄子牛を用い、16週齢で離乳を、24週齢で去勢を実施しました。粗飼料は羊草またはチモシー乾草を不断給餌、濃厚飼料は体重当たり1.5%量を制限給餌しました。子牛の発育は図−9及び表−6のとおり羊草とチモシー乾草の間に差はありませんでした。試験期間中の粗飼料の摂取量は表−7のとおり羊草がチモシー乾草を上回りました。粗飼料については表−8のとおり羊草を給与することによりチモシー乾草を給与するよりも1日当たり54円(約30%)の節約となりました。

-6 32週齢時の発育


-7 粗飼料摂取量


-8 粗飼料の比較(円)


 以上のことから、羊草がチモシー乾草の代替粗飼料として利用でき、飼料費の節約ができることがわかりました。しかし、羊草は購入ロットにより品質に差があるため、購入時には事前調査する等の注意が必要です。

3.オールインサイレージを利用した和牛子牛の育成

 1992、1993年の報告によると、自給飼料を有効利用して和牛子牛生産費の低減を図るため、サイレージとして単独では利用されにくいライ麦及びスーダングラスを用いたオールインサイレージ(粗飼料と濃厚飼料混合サイレージ)を給与する和牛子牛の育成方法について検討しました。
 オールインサイレージの濃厚飼料と粗飼料の比率を3:2(乾物)で調製したところ飼料成分は表−9のとおりでした。

-9 飼料成分(原物%)


 このオールインサイレージを16〜32週齢の子牛に飽食させ、濃厚飼料を体重当たり1.8%量給与しながらチモシー乾草を飽食させる育成方法と比較しました。体重の推移は図−10のとおりで、
DGがオールインサイレージを給与した子牛で0.92kg/日、濃厚飼料と乾草を給与した子牛で0.84kg/日とオールインサイレージを給与した子牛がやや良い発育を示しました。

-10 体重の推移


 試験期間中の1日1頭当たりの乾物摂取量及び
TDN摂取量は表−10のとおりオールインサイレージを給与した子牛で低い値を示し、1日1頭当たりの飼料費で見ると、オールインサイレージ給与区が243円、乾草と濃厚飼料の給与区が307円でした。

-10 飼料摂取状況(kg/頭)


 以上のことから、サイレージの2次発酵に注意する必要がありますが、オールインサイレージは乾草及び濃厚飼料の代替飼料として低コストで利用できるものと考えられます。

4.時間制限給与による離乳子牛の発育改善

 1996年の報告によると、離乳から市場出荷までの子牛の飼料給与方法は、体重、性別により濃厚飼料給与量を調整するために体重当たりの比率で給与量を決定する方法や月齢別の給与プログラムが作成され指導に使われてきました。しかし、農家では体重を正確に測定することは困難であり、同じ月齢の子牛でも体重差のバラツキがみられます。また、飼育スペースが限られるため月齢、性別、体重別に群を編成することができず、様々な量の濃厚飼料を要求する子牛が同じ群で飼われています。従って、農家では経験と勘で給与量を増減していることが多く、下痢の発生や発育不良、過肥の原因となって市場価値の低下や生産コストの増大をもたらしています。
 そこで、当場では定量給与よりも簡易で、競合を防止して斉一性の向上を図ることのできる効率的な給与法の確立を目指して、子牛が一定時間内に摂取できる濃厚飼料摂取量を把握し、給与時間により濃厚飼料の摂取量を調整する時間制限給与法を検討しています。
 現在も試験を継続中ですが、次のような成果が得られています。

@4〜9ヵ月齢の黒毛和種離乳去勢子牛(2頭飼)の濃厚飼料摂取速度は体重が大きいほど速くなりました(図−11)。

A濃厚飼料摂取速度は採食開始時が速く、徐々に遅くなり、20分を過ぎると個体間の変動が大きくなりました(図−11)。

-11 体重別濃厚飼料摂取量の推移(2頭飼)

B採食開始後20分までの濃厚飼料摂取量は1頭飼と2頭飼の間に差が認められませんが、20分以降では1頭飼よりも2頭飼の摂取量が多くなりました(図−12)。

-12 体重別濃厚飼料摂取量の推移(体重251270kg

C4〜9ヵ月齢の離乳去勢子牛では、1〜2頭飼で良質な粗飼料を不断給与する場合には、濃厚飼料を1日2回各々16〜17分間給与すれば、適正量が摂取できると推察されました。

  今後、群を大きくし、性や体重の異なる群構成における濃厚飼料の摂取行動を調査すると共に、濃厚飼料の給与時間を一定に制限する時間制限給与法の実証試験を実施する計画にしています。
  市場評価の高いスクスクと発育した子牛を生産するためのポイントのなかで、粗飼料については乾草を中心に述べてきましたが、碇牧場の試験の取組みのなかでグラスサイレージ、羊草、ライ麦及びスーダングラスオールインサイレージを低コスト粗飼料として紹介しました。各地域の気候条件、農家における粗飼料生産基盤及び経営規模の違いにより低コストな粗飼料は異なりますので、地域、農家に合わせて選択していただければ良いと思います。
  また、濃厚飼料の給与については、従来の給与方法より簡単でかつ適正な給与が出来る時間制限給与法を紹介しました。今後、実証を積み重ね普及技術として完成させたいと考えていますのでご期待ください。


(筆者:京都府碇高原総合牧場主任研究員)


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