生産技術セミナー

フリーストール酪農の現場から(4)

原 田 英 雄



(承 前)
 インターネットのホームページを開くと興味深い情報がいくつか得られます。その中の一つに、ミシガン州立大学、ヒューロン・ツコラ郡駐在のカート・アンダーソン専門技術員は1年間勤務した経験から、最も成功したと思われる酪農家の共通点を次のように挙げています。
(1)成功した酪農家は長期的にも短期的にも農場で何を達成しようとしているのかビジョンを持っている。
(2)トップの酪農家たちは高品質の粗飼料を最大限利用している。
(3)彼らは自ら経営の発展をモニターするために財政的な記録を継続してつけている。
(4)これらの酪農家は牛の快適性を最高にもっていくために、幾つかのステップをとっている。
(5)彼らは環境的ストレスを最少にするために、換気の良い牛舎を所有している。
(6)彼らは特に夏季においては、清潔な水を豊富に与えている。
(7)彼らは効果的な乾乳牛のプログラムをもっている。
(8)彼らは密接して、特別に必要な牛のモニターを行っている。
(9)もし、彼らが自身の飼料生産を行っているならば、家畜の排泄物を利用し、飼料作物生産のコスト低減を図っている。
10) 成功している酪農家は積極的な態度と彼らが行っていることを楽しんでいる。
 この中で、幾つかの重要なことは、日本の酪農家・経営者にも共通して言えます。特に、@ビジョンをもつこと、A経営記帳、B環境ストレスの最少化、C換気の良い牛舎、D清潔な水の確保、E効果的な乾乳牛のプログラム、以上はフリーストール酪農をやっていく上で、大切なポイントとなります。


 16. 「フリーバーン」の利点と欠点

 前回、フリーストールベッドの構造について述べましたが、話を続ける前に、最近筆者が気にしている「フリーバーン」について若干触れておきます。
 愛知県内にはフリーストールに代わり、俗称「フリーバーン」(米国ではbedded packあるいはloose housing systemと言われる。イスラエルではこの形態が多い)の酪農家が増えています。この理由はストールベッドを作らないために安価な牛舎ができることです。しかし、「フリーバーン」にはこのような利点がある反面、欠点もあります。
 一つは敷料がたくさん必要であることです。牛の横臥のためにはクッションの良い床表面を作る必要があります。そのためには多量の敷料を投入しなければなりません。床がコンクリートの場合には、深さ20cm以上の敷料が必要です。また、牛群密度が高くならないように、1頭当たりの面積は最少でも8uは必要です。快適さを求めるならば、10m2以上が必要です。従って、安価な敷料が多量かつ容易に入手できる地域では可能かもしれませんが…。
 二つ目に、飼育密度が高い場合には、牛体の汚れが増加します。特に夏季においては、乳牛は特定の場所(通路の糞尿が多い涼しい場所、水槽の近く、換気扇の良く当たるところ、比較的暗い所など)に群をなして、佇立したり、横臥します(写真−1)。「フリーバーン」では、牛が立ち上がって糞や尿を排泄する時、隣接する牛の顔面や牛体にこれらをかけ、汚します。特に、餌槽に沿った通路は糞尿が多く、牛には涼しく気持ちが良いために、一部の牛は好んでこの位置で横臥します。通路で横たわっている牛は、餌槽で採食している牛の臀部に近いために、まともに糞尿を浴びる形になります。

写真-1 「フリーバーン」の牛舎、奥の方に集合している乳牛。
   手前よりも奥の方が、比較的暗い位置にある。牛体
       も汚れている。             
       

 もっとも、フリーストールの場合でも過密に飼育した場合には同様の現象が見られますが、「フリーバーン」は放牧状態の牛とは全く異なり、ある限られた領域の中に牛が閉じこめられるため、牛の行動も自ずと異なってきます。放牧の状態では、牛は乾燥したクッションの良いところで牛と牛の間隔は一定の距離をとって、休息横臥しますが、過密な「フリーバーン」ではこれが崩れることになります。
 そこで、群れて横臥するのを崩壊させ、一頭ずつストールに収容し、牛舎面積と敷料の節約を図り、個体の安全性を確保しようとしてできたものが「フリーストール」です。「フリーバーン」はそれに逆行するものです。


 17.隔柵の意義

 隔柵は、個体をストールの中へ誘導し、他の牛との隔たりを設け、牛体に損傷をあたえないように、1頭ずつ整然かつ快適にして、ベッドに横臥させるところにその意義があります。
 隔柵のサイズについては前回の図−11に示したとおりです。トップレールはストールへ牛を誘導する働きをします。その位置は、牛がストールに入る時、通路上から牛の目の高さで確認できるものです。通路上から140cm前後、縁石の上から115cmのところに設置します。ネックレールがある場合には、それが低すぎると(例えば縁石の上90cm以下のような場合)、牛はためらって、ストールの中へは入って行きません。
 ボトムレールは牛が横臥している時に、牛体が側方へ突き出して、隣の領域を侵さないためにあります。しかし、これが、牛の立ち上がりを妨げたり、ループの中へ足や牛体がはまり込みをもたらすものであってはいけません。牛の足はボトムレールの下になければなりません。その高さはベッドの上約38cmです。
隔柵の長さは、ストールの長さより短くします。隔柵の後部の端は縁石の端から約25cmの位置になるようにします。このように隔柵の長さをストールの長さよりも短くする意義は、@牛がストールを出入りする際に、牛が隔柵に当たらないため、A糞尿を処理する時に、トラクターなどが隔柵に当たらないため、Bストールの後部を牛が歩いて通過しないためなどです。
 隔柵には各種タイプがありますが、これらを図−12に示しました。また、表−9には愛知県内で使用されている隔柵の分類を示しました。

 愛知県内では1991年以前に導入された牛舎では@の「U型」の標準タイプのものが多くを占めていました。しかし、最近では、Aの「ドイツ型」(日本では「ミシガン型」と言われますが、もともとミシガン州立大学の研究者たちがドイツの隔柵を真似て造ったものです)のものが多くなってきました。「ミシガン型」はストールの前方及び後部がオープンになっており、牛が立ち上がる時には側方に頭部を突き出すことができます。また、牛体の後部はストールの後部にあたらないようになっているのが特長です。
 Bの「ワイドスパン型」あるいはCの「マッシュルーム型」も同様な配慮となっています。「ワイドスパン型」は牛が小さい場合、ストール内で回転しやすく、向きを変えて横臥する場合があり、このことが欠点です。これら3種はいずれも、立ち上がる時、頭部を側方へ突き出すことができるので、ストールの長さを10cm程度、短縮することができます。

-12 各種タイプの隔柵

 Dは「U型」の変形でストール後部に牛体後部があたらないように工夫がしてあります。Eは農家のオリジナルな「木製隔柵」ですが、これは機能的ではなく(ストールの利用率が低い)推奨できません。しかし、酪農家が安価な隔柵を考えた点だけは評価できます。
 @からDはいずれも、牛の動作を考慮に入れて、隔柵のボトムレールを変形させたもので、牛の横臥のための快適性を基本においている点に変わりはありません。今後もいろんなアイデアを取り入れたものが出て来るかもしれません。
 この中のどの隔柵が一番良いのか、試験結果はありません。だから、最終的には酪農家の好みによるところが大きいと言えます。大切なことは安価でかつ丈夫にできていることであり、また牛の出入り、横臥・起立の妨げにならないこと、牛体がなるべく隔柵に触れない構造であることなどの条件を持ったものです。このことが結果的に牛のストールの利用を促進することになります。
 その中でも、特に隔柵がしっかりと支柱に支えられ、何よりも壊れにくいことが最も大事なことです。隔柵が壊れた場合には、2ストールを1頭の乳牛が利用し、前後逆に横たわる場合があります。写真−2にはこの様子を示しました。また、壊れたまま放置しておくと乳牛に損傷をもたらします。写真−3には隔柵が支柱からはずれ、ネックレールまでが壊れています。しばらくしてからこの牧場を訪れても同じ状態でした。牛には元気のない様子がうかがわれます。
 よく酪農家が言うことですが、隔柵が壊れやすければ、牛への負担が減少し、損傷を免れるのではないかと。しかし、筆者が見たところ、壊れやすい隔柵、特に支柱への取付が弱いものでは、壊れた隔柵がいつまでもそのままにしてあります。何箇所か壊れたところがあると、牛そのものがベッドを利用しなくなります。また、牛体を回転させて、他の牛とは逆向きで頭を通路に向けて横臥することがあります(写真−2)。この場合には「フリーバーン」と同じことがおこり、通行している牛あるいは飼料を採食している牛の糞尿がかかり、頭部が汚れたりします。教科書には、壊れたらすぐ隔柵を修理するようにと書いてありますが、壊れてすぐに修理する農家が少ないのが実状です。従って、隔柵は壊れないようなしっかりしたものを設置することが最も大切です。

写真-2 隔柵が壊れて(右)が前後反対に横臥している。
   この農家ではストールの構造がよくないために
      通路で横臥する牛が多い。              


写真-3 隔柵が壊れネックレールもはずれている。
  牛体の損傷も多く、牛は全体に沈静である。
牛体の汚れも多い。        


 18.各種の敷料

 敷料は牛にクッション性を与え、水分を吸収し、そのことによって快適性と清潔さを与えるものです。 愛知県で使用されている敷料の種類を表−10に示しました。最も多く使用されているのがオガコで、52%の酪農家が使用しています。敷料資材には大別して、無機質資材(山砂、川砂、土、火山灰等)と有機質資材(オガコ、籾殻、バーク、戻し堆肥、不良乾草、イネ、藁、麦藁、新聞紙等)とがあります。最近では、ストールの基礎の上にゴムマットやマットレスを敷き、その上にオガコ等の敷料を散布する事例もあります。しかし、それぞれ利点と欠点があります。

 山砂、川砂、土、火山灰は地域によっては比較的に安価に入手でき、乳牛自身も好み、クッション性も良い利点があります。また、有機物を含まないので、排水がうまくいけば細菌の増殖が抑えられ、乳房炎の発生予防にもなります。特に夏季には、これら無機物は熱伝導に優れており(鉄を触って冷たく感じるのは体温が鉄に伝わりやすいからで、木が暖かく感じられるのは体温が伝わりにくいからです)、牛には涼しく感じられ、好みの対象となります。ベッドの真上に直下型扇風機を設置しても、敷料は風で吹きとばされないので、牛がベッドで横臥するのを促進します。しかし、欠点は糞尿処理です。液状のものを散布するほ場のない農家では、これが困難となります。固液分離を行っても、固体の部分は良質堆肥として利用できますが、液体の部分は浄化槽がないと尿処理は行えません。そのために、愛知県ではほんの限られた農家でしか「砂」等の無機質資材は使用されていません。
 オガコは最もポピュラーですが、それが高コストになり、最大の欠点です。また、最近では他への利用も多いためか、入手も困難です。筆者の知っている、ある酪農家では、ストールベッドの構造は良く、敷料が十分敷いてあり(推奨される深さ20cm以上)、ほとんどの乳牛がベッドで横臥して清潔ですが、オガコ代が年間1頭当たり約3万円かかると言っています。乳代の4%を占めます。写真−4には敷料の少ない事例が示してあります。オガコが高価なために、節約してあり、ベッドのクッション性が落ちている状態を示しています。この農家では、ベッドを利用する牛が比較的少ない状態です。
 籾殻はクッション性に優れ、安価なことが利点ですが、入手する時期に偏りがあること、確保すべき量が少ないことが欠点です。

写真-4 敷料が少なく、ベットの利用も少ない。

この牛舎はスリーローである。

 最近では、戻し堆肥を利用し、再度敷料として利用する農家が増えています。堆肥が65℃以上の高温で発酵しているならば、大腸菌類は死滅し、乳房炎への影響は少なく、敷料の節約にもなります。また、戻し堆肥には環境性乳房炎菌の働きを抑制する効果もあることも報告されています。筆者の知っている酪農家では敷料として戻し堆肥を利用して、乳質もよく、1万kg水準の乳量をあげています。
 マットレスも使い始められてきています。少量の敷料をその上に散布すれば、牛体の汚れも少なく、床表面は乾燥が維持できます。


 19.ニーテスト(膝試験)

 ベッドが牛にとって快適であるかどうか、チェックする方法に「ニーテスト」があります。これには2つの方法があります。一つは「ウエットニーテスト(湿気膝試験)」というもので、ベッドの上に10秒間ひざまずいて、膝が湿ってくるとそれはベッドとして不適切です。敷料を追加するか、入れ替えを行わないといけません。もう一つは「ドロップニーテスト(膝落下試験)」です。まず、ベッドの上にひざまずいて、全体重を片方の膝に落とします。そして、膝が痛くなければ、牛にとっては快適なものです。次に、クッション性をテストするために、ベッドの上に立ち、少し膝を曲げ、そのままベッドの上にストーンと膝を落とします。もし、膝が痛くなければ、牛にも快適であることが証明できます。


 20.ストールベッドの状態が
    悪いと産乳性が低下する。

 表−11にベッドのサイズ、縁石の高さ、敷料の深さ、牛床の傾斜を愛知県内37戸のフリーストール農家について調査した結果を示しました。いずれも平均値について見れば問題なさそうに見えます。しかし、戸別に見ると先ほどの写真−1〜3に見られるように、随分悪い状態のものがあります。ストールの奥行きの短いもの、敷料がほとんどなく、牛が横たわるのに痛そうなもの、牛床が掘れてしまってその中に牛がはまり込んで、出られなくなるようなもの、隔柵が壊れてしまったものなどです。
 そこで、ベッドの状態と産乳性等との関係について調査しました。ストールのサイズが乳牛に十分適合し、敷料も多く入れて、牛に快適なものを「良」とし、写真−2〜4にあるような隔柵が壊れたり、敷料が極めてすくないものを「不良」とし、両者の中間を「普通」に区分しました。これらの3区分と乳量、乳質、繁殖成績等と関係を比較し、これを表−12に示しました。データはいずれも乳検を実施している農家17戸です。305日間補正乳量(産次、分娩時期、空胎期間などを補正して成牛換算したもの)についてみると、「良」とするものは約1万kgであるのに対して、「不良」とするものは約7,000kgほどで、3,000kgほど少なくなっています。乳成分も「不良」の方が若干低くなっており、また逆に体細胞数は多くなっています。そして、通路上で横臥する牛も18.8%とかなり多くなっています。繁殖成績も比較的悪い数値となっています。

 このことから次のことが言えます。ベッドの状態が悪いと、ベッドを利用する乳牛が減少し、通路上で横臥するものが増加します。そのために、乳牛はストレスを受けて乳量は減少し、乳房は糞尿で汚れ乳質が低下し、特に体細胞数が増加します。また、ストレスは繁殖性を低下させます。
 アメリカの2年間にわたる実験例(Hill,1973)ですが、粘土をストールの基礎とし、カンナクズを敷料としたストールベッド(この場合通路はコンクリート)とコンクリートをストールの基礎とし、その上にカーペットを敷いたストールベッド(通路は格子通路)を比較した時、前者の方が1日1.5kg乳量が多く、白血球数は20カ月のうち15カ月間少なく、牛体は清潔で、臨床性乳房炎は少なく、肢蹄の損傷は少なかったとしています。また、夜間は1時間多く牛がベッドに横たわっていたと報告しています。
 これはベッドの状態を比較したものですが、ストールの大きさを比較した試験もあります。これは繋ぎストールで比較したものですが、ストールの大きさを126×215cmのものと108×169cmのものを比較すると前者の方が後者よりも1日につき1kg乳量が多かったとしています。これらの試験はいまから20年以上も前にアメリカで行われたものですが、現在のように1万kgを越すような高泌乳牛では、表−12に示したようにベッドの状態が悪ければ3,000kg近くの差がつくのは覚悟しなければなりません。

 したがって、酪農家にとってフリーストールで乳牛を飼う最も重要なポイントは、牛がストールで快適にしかも十分時間をかけて横臥しているかどうか確認することです。定期的に発情や怪我等の発見を行うと同時に牛の横臥状況、ストールが利用されているかどうかを確認することが日常管理として極めて大切です。ベッド上に糞や尿を確認することはそれが利用されている証拠ともなります。次回は通路、餌槽についてお話します。

(次号へ続く)


フリーストール酪農の現場から(5)へつづく

(筆者:愛知県農業総合試験場企画情報部主任研究員)


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