生産技術セミナー

畜産農家に最適のふん処理技術

〜ハウスによるふん処理を見直しませんか〜

本 多 勝 男


 はじめに

 ハウスによる家畜ふん乾燥処理は昔から行われている天日や風に頼る原始的な処理法ですから、次々と紹介される最新のふん処理装置や機械と比べて、はるかに低い技術と見られ、簡易ふん処理法と思われています。
 たしかに、ハウス内に広げた家畜ふんを太陽と風の力で乾燥するだけの単純な方法ですが、自然の力を利用した単純な処理法だからこそ、なによりも低コストと簡便さが要求される家畜ふんの実用的処理技術として最適の処理法ではないでしょうか。
 建設費やランニングコストが安い、維持管理が容易で労力がかからない等、ハウス処理が持つ本質的な利点は、畜産農家が設置し、使い続けるふん処理施設が備えていなければならない不可欠な条件や能力なのです。
 一般に、企業が提供する高性能でコンパクトなふん処理施設を望む傾向が見られますが、このような施設は反面高額の建設費や高いランニングコスト(修繕費を含む)、それなりの維持管理技術やメンテナンスなどを覚悟する必要があります。
 畜産農家が何年でも使い続けなければならないふん処理施設は、なによりも低コストで骨太な技術が要求されるのですから、ハウス処理法は畜産農家に最適のふん処理技術として、畜産関係者が注目し、見直さなければならないふん処理法なのです。


 必要なハウス面積を計算してみましょう

 ハウス処理法が低性能と思われている原因の一つに面積(規模)不足があります。
 ふん処理ハウスは「空いている場所はここだけ」などの単純な理由で施設規模が決まることが多いのですが、飼養頭数とは無関係に敷地の都合だけで畜舎を建設するのと同じくらい無謀なことなのです。 ハウス処理だってふん処理技術ですから処理するふんの量と水分に応じた規模が必要です。シンプルなハウス処理法では畜産農家自身が施設の必要面積を簡単に算出できますので、次のような計算式を参考に自分の経営に必要な面積を計算してみて下さい。

【乳牛40頭、ふん量40kg/頭・日、ふん水分 84%、乾燥目標水分50%とした場合の例】
○処理対象ふん量
 40頭×40kg= 1,600kg/日(豚900kg)

○乾燥牛ふん量
 1,600kg×(1−0.84)÷(1−0.5)=512kg/日(豚450kg)

○必要蒸発水分量
 1,600kg−512kg=1,088kg/日(豚450kg)

○乾燥床必要面積
 1,088kg÷3kg/m2・日≒363m2(豚150m2)

 ( )内に示した豚の数値は肥育豚500頭、ふん量1.8kg/頭・日、ふん水分75%の条件で乾燥目標水分を50%とした場合の計算結果です。この計算から豚の場合は牛と比較してふん量が少なく低水分のため比較的小規模の施設になることがわかります。


 必要規模を計算する時の注意点

 ここに示したふん量とふん水分は一例であり、個々の経営によって異なるため実測値や本に書かれている標準値などを参考にして多少のゆとりを持たせた条件で設計することをお勧めします。また、上の計算式で使用した3kgの数値はハウスのm2・日当たりの水蒸発能力を示す数値であり、この数値の設定により必要面積が決定してしまう重要な数値です。
 ハウスの水蒸発能力/m2・日は季節、天候、地域によって大きく異なり1kg(寒冷地冬期)〜6kg(温暖地夏期)の能力差があります。
 最低能力値を使用して計算すれば安全ですが大規模な施設を必要とし、建設費や敷地の制約から施設の建設が困難になる例が多くなるため、一般的には3kg(寒冷地)〜4kg(温暖地)の数値を設定して必要面積を算出しています。
 つまり、ほとんどのハウスは設計の段階から冬期の処理性能が不足しているのですから、後で述べる冬期対策の実施をハウス処理法採用の前提条件としなければなりません。
 この冬期対策の必要性が事前に知らされてなかったり、承知はしていても実施されない例が多いためハウス処理技術の評価が低くなっているのです。
 どんなに高性能な堆肥化施設でも冬期の性能が悪化することはよく知られていますし、設計条件が変われば処理が困難になることもあるのですから、大切なのは自分が導入した施設がどのような条件の時、どこまでの能力を持つように計算されているのか、設計内容をよく理解し、納得することが必要です。
 施設を使う畜産農家自信が納得して施設規模(能力)を設定できるハウス処理法は、その意味でも畜産農家に適したふん処理法と言うことができます。


  実際の施設を計画してみましょう

 計算式に例示した必要面積はふんを広げる乾燥床の面積であり、実際の施設計画では出入り口作業通路や側面通路等を含め図−1の例のようにハウスの建設面積が決定されます。

-1 乳牛40頭用ふん乾燥ハウス平面配置図 (例)


 ( )内に示した豚500頭用の場合では図−1のレール部分の長さが25mになります。もしレール部分を長くしたい場合は撹拌幅の狭い機械を使うことになります。
 撹拌・移送機は撹拌幅3〜6mで市販されていますので、敷地形状に都合のよい巾の機械を注文するとよいでしょう。例えば5.4m幅の注文も可能ですが、6m以上の機械は構造・強度・運転等に問題が生じるため原則的には使用を避けるべきですし、小さな撹拌巾の機械は割高になります。  ハウス処理法で使用する機械は簡単な構造であるとともに、何社もある製造メーカーから直接、目的に合った機械を購入することができますので他のふん処理法と比べて機械が非常に安価なことが特長になっています。  シンプルな機械は故障も少なく、ランニングコストや修繕費も安いため、この面でもハウス処理法は畜産農家に適したふん処理法であると言えます。


 ハウス処理の運転は安くて簡単

 入り口側の空いている場所に1日分のふんを投入します。低水分ふんの場合は山積み状態になるので分散投入するかショベルローダー等でレール高(20cm)程度に広げてやります。後は機械が1日に何回か動いて(タイマーにより駆動時間、回数を任意に設定可能)撹拌、乾燥しながらふんを搬出側へ移送しますので、運転のための労力は搬出された乾燥ふんを取り出す作業だけになります。
 1回の機械駆動でふんが40〜50cm程度移送され、翌日のふん投入場所を空ける回数だけ機械を動かすことになりますから1日の駆動回数は投入ふん容積と撹拌巾で決定されます。
 例えば前述の乳牛40頭の例では、ふんの比重を0.9、堆積厚を0.2m、1回に0.5m移動する条件で計算すると1日の駆動回数は1.6t÷0.9÷(6m×0.2m)÷0.5m≒3回になります。この場合牛ふんは1日に約1.5m移送されるため約40日後に乾燥牛ふんとして搬出されることになります。
 機械の走行速度は2.5m/分程度ですから3回の往復は61m×2÷2.5m×3÷60分≒2.5時間となり、走行モータ0.75kw、撹拌モータ3.7kw、戻りは撹拌しませんので1日の消費電力はモータの負荷率を0.8として計算すると(0.75kw×2.5時間+3.7kw×1.25時間)×0.8=5.2kwh/日となり、電力単価を20円/kwhとして1日の電気代は5.2kwh×20円=104円にしかなりません。つまり、牛1頭1日当たりの電気代は104円÷40頭=2.6円しかかからず他のどんな処理法と比較しても、比較にならないほどハウス処理法のランニングコストは安く、この面だけでも畜産農家に適したふん処理法であることがわかります。


 実際の施設のつくり方

 ハウスの建設業者は全国に存在しますから、構造や費用は地元の業者に図−1のような計画図を示せばレール部分を除いて相談に乗ってくれるでしょう。植物を栽培するわけではなく、雨を防ぐことが目的ですから原則として壊れない範囲で安価なことが望まれます(ビニールの張り替え、積雪時の柱支えなどを覚悟すれば安価なパイプビニールハウスでも目的は十分に達せられます)。
 レール基礎、レール部分の構造は撹拌機によって多少異なりますので機種決定したメーカーから送られるレール基礎図面をハウス業者に提示します(レールは取り付け法とともに撹拌機メーカーから送られてきます)。
 地元業者はその地域に必要なハウスの構造、強度及び建築規則等に熟知しているので施工費が安くなります。このように畜産関係者が自ら設計したものを安くて信頼できる地元業者に建設を依頼できることもハウス処理法の大きな利点になっています。なお、ハウス内の温度を高めることにより乾燥が促進されるため、ハウスは全閉できる構造が必要ですし、全閉構造は強風時の安全性にも役立ちます。
 一般にハウスは換気の必要から開放型でなければならないとされていますが、閉鎖して内部気温を上昇させると空気中に含むことができる水蒸気量が飛躍的に増加(相対湿度が低下)しますので乾燥能力が高まります。また、閉鎖運転は必然的に臭気を外部に出さない運転法ですから処理性能の向上と臭気対策を兼ねた一石二鳥の運転法になります。
 閉鎖運転時は外気温の低下に伴いハウスの屋根内側や内壁に結露が生じますので、屋根の結露が乾燥床に落ちずに、屋根を伝わって内壁に流れるように屋根材の張り方を工夫する必要があります。このようにして昼間吸い上げた水分を放出したハウス内の空気は、夜明けとともに太陽のエネルギーをもらって相対湿度が下がり、空気中に含むことができる水蒸気量が多くなって、「せっせ」とふんから水分を吸い続けるのです。


 堆肥化発酵処理もできる改良型ハウス

 ハウス乾燥ふんは畑で水分を含むと元のふんに戻る、微生物分解を受けた発酵堆肥ではないから作物に害があると言われます。
 堆肥化発酵とは、ふんに含まれる分解しやすい有機物を好気性微生物が分解することですから、堆肥化発酵するかどうかは、ふんの内部に空気が届くかどうかにかかっています。
 ハウス乾燥においても、ある程度乾燥が進むとふんの通気性が確保されるため撹拌とともにふんの内部に空気が届く状態となり、好気性微生物の活動が活発になって堆肥化発酵が進行しています。
 ただし、これは低水分ふん、もしくは、ある程度ふんの乾燥が進んだ場合であり、流動性を持つほどの高水分ふんは撹拌されてもすぐに元の状態に戻ってしまうため内部は嫌気性になって堆肥化発酵ではなく腐敗が進行し、撹拌により悪臭が放出され、通気性がないため乾燥も進みません。これがハウス処理法の欠点ですが、この欠点を改善するには高水分ふんの内部を好気性の状態、つまり空気が届く状態にしなければなりません。
 オガ屑などの堆肥化資材を使用しない密閉型強制発酵機やエンドレス型(回行型)発酵法では発酵槽内部の乾燥堆肥と高水分ふんを槽内で混合して、ふんの水分を低下させるとともに通気性を確保し、切り返しと送風により内部を好気性に保っています。
 写真−1に示す改良型堆肥化発酵ハウスは、同様の方法をハウスで行えるようにしたものです。具体的には図−2に示すように図−1のハウスの面積を変えずに2分割して建設し、毎日1回ショベルローダーを利用して乾燥堆肥を隣の列へ移送することにより乾燥堆肥の回行状態をつくります。

写真-1 改良型発酵乾燥ハウス (施工例)


-2 乳牛40頭用改良型発酵乾燥ハウス平面配置図 (例)


写真-2 乾燥堆肥上の牛ふん(手前)、十分な通気性の混合物(奥)

 写真−2に示すように、移送した乾燥堆肥の上に高水分ふんを投入すると撹拌・移送機の混合によりふんの水分が低下し、通気性が十分に確保されて内部に空気が届く状態になり、スタート時点から堆肥化発酵と乾燥がすみやかに進行します。他の方法では内部を好気性にするために下部からの送風を必要としますが、この方法では堆積物に十分な通気性が確保され、しかも堆積高が20cm程度であるため空気は大気から自然に供給され、堆積物すべてが好気性の状態になって堆肥化発酵速度が速まるとともに、嫌気性時に発生する悪臭の心配もなくなります。
 写真に示すハウスでは基礎を独立基礎にし、コンクリート床を土間床にしたり、床を傾斜させて出口に堆肥貯蔵ピットを設け、屋根材に温室用の硬貨フィルムを使用するなど、低コスト化、省力化、高性能化などを目的とした様々な改良も行っています。
 このように、もともと畜産農家に適したハウス乾燥処理ですが、構造や運転法を少し変えることにより低コストで骨太な、畜産農家が使い続けるには最適の堆肥化発酵処理技術に生まれ変わることができるのです。


 ハウス処理法の冬期対策

 前に述べたようにハウス処理法では乾燥能力の低下する冬期の対策が必要になります。
 乾燥堆肥を十分に混合することにより通気性を確保し、堆肥化発酵を行う改良型ハウスでも冬期は堆肥の乾燥程度が悪化し混合物の通気性が夏期と比べて劣るため堆肥化発酵速度が遅くなり、処理能力が低下します。
 冬期はいかなる堆肥化法においても堆肥の乾燥状態が悪化するため、自ら生産した乾燥堆肥で投入ふんの水分調整と通気性の確保を行う方式の堆肥化法(密閉型や回行型等)ではハウス方式と同様に冬期の処理能力が低下し、程度の差はありますが次のような冬期対策が必ず必要になります。
 1.冬期と反対に夏期のハウス処理は処理能力過剰となり非常に低水分の乾燥堆肥が生産されます。この乾燥堆肥を夏の太陽熱の貯蔵と考え、販売せずにハウスの周囲に山積みしておき(貯蔵庫があるとなお便利)これを冬期に水分調整・通気性確保資材として利用することにより冬期の処理能力低下を補うことができます。
 2.冬期はモミ殻が入手しやすい時期でもあります。年間通して十分な量のモミ殻やオガ屑を確保することは困難ですが、冬期に限って利用可能な量のモミ殻やオガ屑を混合して通気性を確保することにより冬期の処理能力低下を補うことができます。
 3.冬期は作物を栽培しない農地も多く、臭気発生や臭気苦情が出にくい時期でもあります。年間通して全量ふんの土地還元は困難であっても冬期に限って還元可能な量を農地還元することにより冬期の処理能力低下を補うことができます。
 主な冬期対策はこのようなものですが、この外にも、それぞれの地域や個々の経営に合う冬期対策を自ら工夫することが大切ですし、単独の冬期対策が難しい場合は、それらの対策を無理のない範囲で組み合わせて実施することにより冬期の能力低下を補うことが可能になります。

写真-3 改良型発酵乾燥ハウス冬期の状況



 おわりに

 「寒冷地・積雪地では使えない」「広い面積が必要じゃないか」と言われる方もいます。
 ハウス処理法は自然の恵みを上手に利用したふん処理法ですから、自然の恵みが少ない地域では、無理してハウス処理を使う必要はありません。
 しかし、ハウス処理はシンプルで低コストだから、なんとか工夫して寒冷地でも使いたいと言う前向きな姿勢の方もいます。
 ふん処理法の選択には技術の本質を見抜く力と工夫や発想を生み出す前向きの姿勢が大切です。前向きの姿勢からは寒冷地にも暑い夏があるという発想が生まれ、牧草を作っている時期はハウス処理を行い、冬期は処理できる分だけ処理して、できない分は空いている牧草地に還元するという柔軟な思考が生まれます。また、積雪地は米作地帯だから冬期はモミ殻を使用してハウス処理を助けようという工夫も生まれます。このような自然に逆らわない謙虚な気持ちと豊かな発想を持って北海道十勝のような寒冷地で改良型ハウスによる高水分ふんの堆肥化発酵処理を実践している酪農家もいるのです。
 ハウス処理法は自然の恵みを利用するのですから、自然の力に合わせた大きさ、つまり広い面積が必要であることは事実です。しかし、費用・労力・面積のいずれも出さずに、ふん処理を行うことはできません。 畜産農家にとって最も出しやすいのが面積ではないでしょうか。また、装置や機械と違って土地は消耗しませんし、故障もしませんから出したといっても孫子の代まで残すことができます。
 いつでも、どの地域でも、どんなふんでも全部処理できる技術、しかも高性能でコンパクトな施設を求めるのなら、畜産農家が負担できないほどのコストや労力を覚悟する必要があります。「処理できない時は他の方法を考えよう」「工夫やちょっとした労力を惜しまずに自然の力をもっと利用しよう」という豊かな心があればハウス処理法は水分調整材も高いランニングコストも使わずに高水分ふんでも堆肥化発酵させ、しかも臭気対策さえ必要としない、畜産農家にとって頼もしいふん処理法になるのです。
 ハウス処理法は天日乾燥法として昔から使われてきたため最新の堆肥化処理が次々と紹介されると見向きもされない技術になってしまいましたが、今でも畜産農家で最も使われているのは頼もしくてシンプルなハウス処理法なのです。天日乾燥法では古くさいので、新たな工夫で堆肥化発酵法となった改良型ハウスを「ソーラーコンポハウス」とでも呼び、新たなイメージで、その価値を見直してみませんか。


(著者:神奈川県畜産研究所 専門研究員)


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