明日への息吹

酪農地帯における和牛肥育の

産地形成を目指して

小 溝 真 弘



 このグループが所在する石井町は、徳島市に隣接する西方12
km、吉野川下流の右岸に位置し、土壌は沖積層の肥沃な耕土に恵まれて、蔬菜と畜産の盛んな地域です。  特に酪農の飼養戸数は124戸、飼養頭数は3,133頭と県下屈指の産地で、古くから徳島県の酪農をリードして来ました。
 しかし、昭和50年代より徳島市内へ至極便利な通勤圏としてベットタウン化が進行し、非農家との混住も見られる等、畜産を取りまく環境は次第と厳しい状況となっています。また、経営者の高齢化や経営不安から、毎年の様に飼養戸数が減少しています。
 この様な状況にありながら、総所得額の向上や労働力配分、環境対策等を考慮しつつ、グループ員相互の切磋琢磨により、肉用牛肥育の産地形成を進めているJA石井町(楠木幸雄組合長理事)肉牛部会及び和牛繁殖部会の活動状況について紹介します。


 <グループの特徴>

 グループの大半は乳肉複合経営ですが、その経営形態は酪農と交雑牛一貫肥育、それに最近推進している和牛繁殖一貫の3部門を組合せた経営となっています(表−1)。
 乳肉複合経営のメリットは、副産物収入の増大と労働力配分の改善が出来、さらに慣れた牛同士で親しみを持って飼養管理に携わっている点にあります。デメリットを敢えて探すとすれば、乳牛の餌給与で少々肥満タイプになるくらいで大きな問題点は見当りません。
 肉用牛経営では、子牛生産段階で良質肉が期待出来る種雄牛の選択が自由に出来ますし、素畜費のコスト低減を大幅に改善することが出来ます。また、子牛の飼養環境の変化が少ないことから、発育や肉質良好な肉牛生産が出来ますので、努力が報われる仕事として皆さん頑張っています。

 JA石井町肉牛部会は、交雑種肥育牛の共同出荷やグループ員の経営向上、安定化を目的に、平成2年に10名の部員で発足しました。
 平成4年に子牛基金制度の事務手続きをJA石井町が統一実施する様になってから、急速に28名の部会へと発展しました。そして、以前より一回り大きい活動が可能となりましたので、早速、共同出荷体制の取れた定時定量出荷の実施や、指定配給飼料の製造、定例会の活性化等著しい変革をとげています。 平成7年7月に18名で和牛繁殖部会が設立されましたが、以前から有志が和牛一貫経営を始めておりましたので、これが部会を発足する基盤的要素ともなっています。この会の発足が起爆材となって、自己資金や補助事業等を利用しながら増頭を行い、既に129頭を飼養しています。

写真-1 定例会風景

 繁殖一貫経営者は、殆ど酪農家ですから繁殖や飼料栽培技術は、日常的な仕事として作業を行っていますので、得意の分野です。また、繁殖一貫経営は運転資金に苦慮しますが、牛乳収入で賄いができますので、「知らん間に牛は大きになるでよ!」と経済的な余裕を言葉から感じとれます。また、グループのモットーは堅実経営の実施ですから、過剰投資は出来る限りしない様に心がけています。
 なお、JA石井町肉牛部会及び和牛繁殖部会の会員別経営概況は表−1のとおりです。


 <グループ活動と成果>

 平成8年度の交雑種、阿波銘柄牛における大阪市場への系統出荷牛は、年間489頭ですが、当グループは40.7%の199頭を出荷しており、重要な地位をしめています。
 肉牛の出荷状況は毎月第1週に10頭と第3週に6頭の、2回で16頭を出荷すると共に、年末に2回の共励会を実施して、定時定量出荷を行っています。なお、枝肉販売については、JA石井町交雑牛のブランド牛として、シールを貼って販売すると共に、グループ員は出荷ごとに1人が同行し、肉質改善のために枝肉成績の把握を行う等、販売と生産の双方の努力の結果、肉質面では、得意先から高い評価を貰っており、有利販売が出来ています。
 これは表−2の様に年間1〜4頭出荷が16戸(60%)の小規模経営を含めての出荷体制ですから、JA担当者は出荷対策には大変苦労をしています。これは乳肉複合経営では当然の結果であり、避けて通ることは出来ません。この対応策としては、年度当初に農家から出荷計画を出して貰っておいて、出荷近くになると担当者が適当かどうかの下見巡回に行っています。また、この他にも全戸を2カ月に1回巡回して意思の疎通を図っています。
 そしてもう一つ、担当者が乳肉複合経営を進めている大事なポイントがあります。それは労力的に酪農継続がむづかしくなっても肉牛は飼えますから、将来の畜産経営全体を見据えた畜産の維持継続を考慮した対策だからです。

 経営内容が好転したもう1点は平成4年の交雑牛専用の指定配合飼料の作製でした。JA担当者は常にグループ員の共通課題である省力化を図りながら、経営規模の相違や技術の相違をなくす解決策は、グループに適した指定配合しかないと思っていました。グループ員の増加が図れたのを機会に、グループ員の意見を聞きながら、JA経済連に要望し、経済性の高い交雑牛専用配合飼料「華」を誕生させました。
 また、技術指導にも万全を期して飼料給与体系マニュアルを作成すると共に事後指導に当った結果、平成8年度大阪市場へ出荷した牛(26戸で147頭)のうち、日格協の肉質格付の上物率が73.8%と好成績が得られました(表−2)。
 平成9年には、飼料費のコスト低減と肉質改善をより一層図るため、肥育後期用飼料として「華の友」を追加しました。これはグループからの要望で実現されました。今回の様な素早い対応によって、農家も飼料会社も生き残りを掛けた運命共同体であることを強く感じました。
 粗飼料の購入にしてもJA石井町管内には、徳島県内屈指の乳牛頭数がバックにいますから、肉牛と和牛繁殖の両グループとも低コストで購入しています。
 これら一連の対応策は、将来増頭するであろう和牛肥育一貫経営の試金石となるものです。
 平成8年度に当グループ3戸の経営診断を実施しましたが、本年6月に実施された定例会では、特に経営内容が著しく改善されたA氏の肥育技術を取り上げ、身近な教材として意見交換を行って技術向上を図ると共に、経営診断を継続実施して、グループ間の経営意欲の向上をさせるための相乗効果を図っています。 地域が肥沃な耕土に恵まれた蔬菜地帯ですので、耕種農家との共同利用等の醗酵堆肥舎を2カ所設置して有効利用を図っています。また、非農家との隣接も多くありますから、平成7年度にはグループでEM菌を飼料に添加したり堆肥に散布して、消臭に努めています。地域の同意や協力があって初めて経営が存続出来ることを配慮すると共に、コミュニケーションにも心掛けています。
 これ以外にグループ活動としては、枝肉勉強会や去勢及び除角演習を行うとともに、補助事業を活用した繁殖牛の共同購入を平成7年より実施しています。


<将来は和牛肥育の産地形成>

 グループ員の経営形態の将来目標を大別すると、肥育部門と繁殖一貫経営の拡大、それに現状維持等多様ですが、共通目標は肉牛を通じての所得拡大にあります。そのための仲間意識の連体感が強く、まとまっていますから小規模経営の集合であっても大同団結を行って、現状以上の産地形成が可能であると確信します。
 現在は、受精卵移植成績が今一歩ですので、経営措置として和牛繁殖一貫経営も行っていますが、地域の特殊性、経営形態の状況等を考慮すれば、高品質和牛の受精卵移植による子牛生産が、普及される日も近いことだと思われます。既に今年からJA徳島経済連が事業主体となって、乳牛借腹による受精卵移植利用基盤強化モデル事業が実施されています。
 この様なことから酪農地帯をバックボーンに持つ当グループの前途は明るい感じがします。
 酪農家戸数の減少分を少しでも肉用牛経営に留め、畜産の維持発展を図りたいと進めた肉牛肥育が、現在では県下を代表する交雑牛肥育地帯として発展してきました。乳肉複合経営が基盤である小規模経営の肉牛農家を取りまとめ、肉質の斉一性を図りながらの定時定量出荷を実施した実績は、JA石井町の畜産担当者や両部会長の努力の結果であり、また、産地形成等同一目標を掲げて、意志の疎通を図りながら協調体制を取っているグループ員にも感銘します。正にグループ員一丸となった総合力の成果であることを強く感じました。
 現在の結束を更に強固なものとし、次への目標に向かって更なる発展を願っております。

 


(筆者:徳島県畜産会 畜産コンサルタント)


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