生産技術セミナー

フリーストール酪農の現場から(3)

原 田 英 雄


(承 前)

 ここに一つのエピソードを紹介します。キューピーの藤田近男現副会長が、水産講習所を出てキューピーに入り、いきなり販売に回された時、口ベタで武骨者の彼は「とても私には10円のものを嘘をついて15円に売ることはできません。何とか製造の方へ回してもらえませんでしょうか」と訴えました。それに対して中嶋薫一郎前会長は「君は何か勘違いをしているんじゃないか。商売というものは10円の価値があるものを10円に売ることだ。それ以上に高くても安くてもいけない。まして口車にかけて、10円をみかけ以上の15円に売るなどとんでもないことだ。君は純情で正直で、ごまかし販売などは絶対にやらないと思うから、販売に回したんだ」と静かにさとしたと言います。中嶋前会長は、社長時代に功利主義に走らず「経済道義こそが企業の根幹であり、売れば売るほど安くし、利益を社会に還元するんだ」という理念のもとに戦後17回値下げを断行しました。水産メーカーなど大手4社がマヨネーズに進出した時、20億円の設備投資を断行し、徹底的に合理化を進め75%のシェア確保し、逆に大手メーカーが敗退したといいます(参照:佐高 信著「企業原論」、社会思想社)。
 それでは、強い者が勝ち、弱い者が負ける「弱肉強食」が企業世界かと言いますとそうではないと言っている人がいます。地元愛知県の中日新聞の質問に応えて、オリックスの宮内義彦社長は「優勝劣敗」だと主張しています。優れたものが残り、劣ったものが敗退していくのだと言うのです。また、特記すべきは、キューピーとオリックスがともに総会屋と絶縁している日本では珍しい会社であることです。
 ところで、筆者はいつも「フリーストール」の話ばかりしているので、繋ぎ飼いや小規模酪農家の人から「俺たちは潰れてもいいのか」と問いつめられることがしばしばあります。それに対して「酪農、大きくして尊からず、小さくして卑しからず」と応えることにしています。


12.窓際のストールは利用率が低い

 話が少し外れたかもしれませんが、「質」が問われていることは「フリーストール」についても同じことです。
 前回、ストール列のツーロー(2列)とスリーロー(3列)のことを話しました。そして、スリーローの場合には連動スタンチョン数に対する乳牛頭数が多いと、採食量の少ない牛が出てくるということを話しました。しかし、それ以外にも問題はあります。それではどこに問題があるのかというと、図−8の@のスリーローの牛舎を見ていただきたいと思います。これは第1回の時にも述べましたが、スリーローによるフリーストール式牛舎の平面図です。この場合、ストール列の3列に問題が生じます。それは、3列目のストールの横臥利用率が極めて低いということです。筆者の観察では、せいぜい20%から30%の利用率です。3列目のストール列は図のように南側に設置される場合もあるし、また、北側に設置される場合もあります。いずれにしても窓際か壁際に設置されます。そして、いずれの側にあっても利用率が低いということです。

図−8 ストール列の異なるフリーストール式牛舎


 このことをツーローのフリーストール式牛舎(対尻式ストール)で調査した事例がありますので、それでみてみたいと思います。図−9は、A牧場の高泌乳牛群のヘツドの横臥利用率を調査したものです。A牧場の牛舎構造は図−8のAツーローのFS式牛舎(対尻式)に当たります。調査は95年6月から10月の夏季にかけて行ったものです。月1回、午前9時30分から午後3時まで、30分間隔間で各ベッドごとの横臥利用率を調査しました。図−9における北側のストールは図−8のA1列目にあたり、図−9の南側のストール列は図−8のAの2列目に当たるところです。乳牛の飼育頭数はベッド数とほぼ同数の35.4頭、飼育密度(ベッド数に対する乳牛頭数)の平均は104%でした。乳牛は牛房の中でゆったりとした行動をしていました。通路上で横臥した乳牛は牛群の中の1.4%で、極めて低いものでした。

 これからわかることは、北側の餌槽に近い1列目のベッドの横臥利用率が比較的高く、南側2列目が低いということです。ちなみに、北側の平均横臥利用率は58%で、南側は35%でした。また、ストール列の両端のベッド(1,17,18,34番)の利用率が極めて低いことがわかります。このような両端のベッドの利用率が低いことはまた、多くの研究者も指摘しています。両端ベッドの利用率が低いことの理由は定かではありません。筆者の考えではベッドの隣を他の牛が移動するのをベッドで横臥している牛が気になり、嫌がるのではないかと思っています。なお、1,11,24,27,28,31番のように横臥利用率の低いベッドがありますが、これは明らかにベッドのメンテナンスが悪いところです。このようなベッドは牛が嫌います。
 放牧のような状態では、牛は風の吹いてくる方向に向かってゆったりと反芻しながら横臥します。このことをフリーストール式牛舎で飼育されている乳牛にも当てはめて考えるならば、牛は風の吹いてくる南側のベッドをよく利用し、横臥してもよいはずです。しかし、実際にはそのようにはなりません。なぜか。理由は2つ考えられます。1つはベッドが餌槽から遠いということです。2つ目の理由として、光の影響があるかもしれません。牛は明るいところよりも相対的に暗いところを好み、そこで横臥するということです。これは、ある酪農家の弁です。しかし、この証明はありません。今後の研究が待たれるところです。

図−9 ツーローのFS式牛舎(対尻式)における乳牛の横臥利用率(A牧場)


13.スリーローは産乳性が低い

 以上、牛の行動という観点からベッドの利用をみてみましたが、産乳性あるいは繁殖性という観点からもスリーローをみてみたいと思います。
 そこで、県内にあるツーローとスリーローのフリーストール式牛舎で飼育されている乳牛の産乳成績と繁殖成績を比較してみました。
 表−8には、これらの成績を示しました。成績は牛群検定データを取りまとめたものです。調査農家はツーローが11戸、スリーローが6戸です。両方とも1ストール当たりの乳牛頭数は1頭前後でほぼ同じですが、1スタンチョン当たりの頭数はツーローが0.97頭に対して、スリーローが1.42頭と多くなっていました。また、通路上で横臥する乳牛もツーローに比べてスリーローの方が2倍ほど多くなっていました。産次数や分娩季節等を補正した305日間補正乳量についてみると、ツーローは9,261kg、スリーローは8,661kgでツーローの方が600kgほど多くなっていました。乳成分については、ほとんど差はありませんが、体細胞数はスリーローの方が多くなっていました。繁殖成績は、両者にほとんど差はありませんでした。
 このことはどのようなことを意味するかということですが、筆者は次のように考えています。スリーローでは南側(窓際)のストール列の利用が比較的少なく、通路上で横臥する牛が多くなること、スタンチョンの数に比較して乳牛が多いので、飼料摂取の少ない牛が多くなる傾向があること、1頭当たりの空間が少なくなること(1通路分の面積が縮小されること)、これらの総合要因が乳牛にストレスを与えて、乳量を減少させ、体細胞数を増加させているということです。なお、スリーローの農家で、乳房炎ではないけれども異常に体細胞数が多い乳牛が時々現れ、出荷乳の体細胞数が多くなることがあると言っていました。恐らく、乳牛に強いストレスが与えられた結果と思われます。なお、スリーローの場合、通路上の1頭当たりの面積はツーローよりも狭くなるため、ふん尿量は1.5倍になることを覚悟しておかなければなりません。最近、アメリカでもスリーローよりもツーローを選択する農家が多くなってきたと言われています。高泌乳牛(1万kg以上)にとってはスリーローではあまりにもストレスが多いのかもしれません。

表−8 ストール列数と乳量、乳質、繁殖成績並びに横臥行動との関係


 フリーストールベッドは乳牛が快適に横臥するためのものです。利用されないベッドは無駄な投資となります。乳牛が通路で横臥することや佇立時間が長いことは、牛にストレスを与えることを意味します。このことを経営者は理解しておかなければなりません。


14.ストール列の長さは18m

 ストール列の長さを何メートルにするかということは、乳牛の採食行動や飲水行動にとって極めて大切なことです。牛が飼料摂取や飲水のために容易に移動でき、他の牛の妨害を受けることなく目的地に到達できることや自由に休息場所を選択できることが牛の能力を最大限に発揮できることになります。そのことが考慮されて、ストール列の長さと横断通路の数とその幅が決定されなければなりません。
 短いストール列(ベッド数17)の横臥利用率については図−9でみたとおりです。それでは長いストール列ではどういった横臥利用率を示すかということです。

図−10 ツーローかつ長いストール列(対頭式)の乳牛の横臥利用率(C牧場)

 図−10は、C牧場におけるストールの横臥利用率を調査したものです。ベッド数は1列25と多いものです。調査期間はA酪農家の場合と同様で、95年6月から10月にかけて、月1回午前9時30分から午後3時まで30分間隔で調査しました。この牛舎構造は図−8のBのツーローのFS式牛舎に当たります。餌槽の位置はA牧場とは異なり、南側に位置します。ベッドは対頭式です。1列のベッド数は25、ベッドのサイズは122cm×250cmのものです。1列の長さは約30mです。平均の飼育密度は132%で、かなり高密度な飼育となっていました。高密度のために通路上で横臥する牛も比較的多く、約6%となっていました。
 図−10から明らかなように、ストールの横臥利用率は南側(餌槽側)の列が高く、餌槽から遠い列(北側)は低くなっています。ちなみに、餌槽側の利用率の平均値は72%、北側は55%となっていました。また、北側の10番から14番にかけてのストールの利用率が45%と低くなっています。丁度、この位置は餌槽への移動距離が最も長くなるところです。図−10には実線で弧を2個描きましたが、ストール列が長いとこのような弧が2個連なるようなベッドの利用のしかたになります。もし、ベッドの構造が良くて、ストール列が短かければ点線で描いたような1個の弧形となるはずです。筆者は、このことからストール列の長さはこの半分程度が良いと推奨しています。すなわち、ベッドのサイズが122cm×250cmのものならば、1列15ストールとなり、その長さは約18mとなります。長くても前述のA牧場の長さ(幅120cmのベッドが17個)、すなわち20.4mまでの長さが適切だと思います。対頭式にすれば30ベッドが1組となります。この3組のストール列を牛舎内に設置すると90ベッドとなります。その10%増しまでが収容可能ですので、100頭飼養管理できる牛舎ができます。なお、1牛房内の適正頭数(牛群構成頭数)については別の項で述べたいと思います。


15.ストールベッドの構造と寸法

 ベッドは乳牛が横臥するために最も重要なものです。フリーストールで成功するか、あるいは失敗するかということは、このベッドの構造が50%支配します。乳牛が清潔であり、快適に過ごし、事故疾病が少ないことはこのベッド構造によります。そして、放牧地のように自由にベッドに出入りできることです。ベッド構造が適正であるならば、牛は搾乳、飼料摂取、飲水以外の行動として、多くの時間をベッドで横臥し過ごします。その時間は50%から60%(12時間から14時間)になります。乳牛がベッドで快適に横臥し反芻しているのを目の前にする時、それは誰にも気持ちの良いものですし、牛飼いは最も満足する時です。
 牛体が健康で、しかも適切な飼料構成であるならば、乳牛の反芻は乾物1kg当たり35分となります。そして、1頭当たり乳量の平均が30kgの牛群であるならば、乾物を1頭当たり20kg摂取し、反芻を12時間近く行うことになります。従って、牛群の中で5割の牛が反芻していることは、その半群が健康であることを意味しストレスがないと言えます。
 適正なベッド構造については、ほぼ完成していると言ってもよいかもしれません。しかし、残念ながら、これは日本の研究ではなくて欧米の研究成果です。ここでは、筆者が愛知県内で見た中で、最もよいと思ったベッド構造を説明することにします。

図−11 フリーストールベッドの構成要素と寸法

 ところで、意外であったのは、愛知県のかなりの農家がブリスケットボードを設置していないことです(86%の酪農家はブリスケツトボードがない)。ブリスケツトボードが敷料に隠れて、その効果がないとみています。筆者は、ストールの基礎が土の場合には、ブリスケットボードを必ず設置することを薦めます。なぜなら、ブリスケットボードがない場合には、牛床の前方へ牛が穴をあけ、その中に牛がはまり込み、穴から出ることができなくなる危険性が高いからです。
 ネックレールは縁石から115cm、通路上から140cmの高さが最適です。ネックレールの位置は丁度、ブリスケットボードの真上とします。牛が立ち上がろうとする時、牛体が後方へ少し移動し、丁度、通路上でふんや尿を排泄すことができるからです。
 牛床の傾斜(スロープ)は6%とします。なぜなら牛は傾斜のあるところを好み、傾斜方向に向かって横臥するからです。また、ふん尿などの汚物を後方部へ移動させ、牛床の汚れを防ぐことができます。

 敷料や隔棚等については次回述べたいと思います。(次号へつづく)


フリーストール酪農の現場から(4)へつづく


(筆者:愛知県農業総合試験場企画情報部主任研究員)


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