ヨーロッパ畜産、見て、聞いて、触れて(2)

梶 尾 規 一


<サックラーカウ>

 サックラーカウは、文字通り訳せば授乳する雌牛ですが、肉用牛経営において低コスト生産を目的とした、EUならではの飼養形態といえます。
 サックラーカウは血統的には交雑種の繁殖雌牛で、母はフリージャン種(乳用種、因みにEUでは乳用種は北米系統のホルスタイン種へと改良が進んでいます)、父はシンメンタール種(乳肉兼用種)であり、これに肉用種のブロンド種を交配し、3元交配として産出した子牛を肉畜資源とするわけです(写真−1)。 飼養形態としては、夏期に種雄牛を導入し、自然交配を行い、翌春分娩すると、秋まで放牧地に置き、離乳した後、肥育へ移行します。従って授乳期間が長く、離乳時には6ヵ月齢となっています。このため、サックラーカウの名称が生まれたものと考えられます。


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1 フリージャン種の母牛と3元交配で生まれた子牛


 放牧面積は1頭につき1エーカー(0.4ha)を基準としています。子牛は生後3ヵ月から飼料を給与されるが、6ヵ月齢までの1日平均の増体量は1.2
kgで、親牛は子牛の飼料を盗食できないように簡易柵が設置してあります(写真−2)。


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2 親牛が子牛の飼料を盗食できないように簡易柵を設置

6ヵ月以降は舎飼い肥育となり、生後12〜14カ月齢で出荷されます。出荷時の体重は枝肉で雄牛(去勢はしない)が330kg、雌牛が240kgで、1日増体量は雄が1.4kg、雌が1.0kgです。
 私たちが訪問した農場は、イギリスで良く見られるように、なだらかな丘陵地がはるか地平線まで続くなかにあり、経営面積が700エーカー(283ha)で、飼養頭数は400頭で、うち125頭がサックラーカウでした。広大な小麦の収穫後の放牧地にサックラーカウと母牛、かわいそうなくらいにしか成長していない子牛が点々とみられる光景は圧巻でした(写真−3)。


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3 なだらかな丘陵地にある農場

経営者の聞き取りによると、狂牛病の影響で生産した牛の出荷が頭数、金額ともに大きく落ち込み、経営状況は厳しいが中止の考えはないとのことで、今後は、生産性の低い土地を有効に活用して低コスト生産が可能で、消費者に安全性をアピールできる(母牛から肥育出荷まで掌握、管理できている)サックラーカウを利用した一貫経営を主体に経営を続けるとのことでした。

 ところでわが国の酪農経営を振り返り、和牛を種付けしたF1生産が行われていることを考えると、読者にはこのような飼養形態について疑問が生じることと思われます。しかし、イギリスではEUの共通農業政策(CAP)により、農畜産物の大増産が図られ、それまで、外国に依存していたものが自給率100%あるいはそれ以上を達成したため、余剰農畜産物が生じるようになりました。このため、いわゆるデカップリング政策(所得補償政策)が行われ、条件不利地域における所得補償の一環として、搾乳しないことを条件に、このような生産形態に対し、補償が行われているようです。

 おわりに、経営者の夫人から「このような時期だからこそ、消費者に安全性をアピールして消費拡大を図るべき」との前向きの意見に接し、歴史に裏付けされた経営理念が感じられるとともに積極的な姿勢に共感しました。


ヨーロッパ畜産、見て、聞いて、触れて(3)ヘつづく



(報告:静岡県中部農林事務所畜産振興課長)


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