明日への息吹

超音波生体肉質診断
による肉用牛経営改善の取り組み

梅 崎  薫



 はじめに

 肉用牛肥育経営は平成3年の牛肉輸入自由化以降、枝肉価格の低迷に加えて品質の低下などから厳しい状況が続いており、増体及び肉質の向上が大きな課題となっています。
 新潟県畜産会では、平成4年度から超音波生体肉質診断による肉質の早期判定と肥育途中の発育経過について検討を重ね、肉用牛肥育経営の経営改善に取り組んできました。


 1.肥育経営の現状

 平成8年度に新潟県畜産会が実施した肉用牛経営診断結果を表−1に示しました。黒毛和種肥育8事例の出荷牛1頭当たり平均所得は8万4,579円、所得率は9.3%と平成3年度以来の好調な結果となりました。肥育技術数値(去勢牛)をみると、平均出荷体重は697kgと大型化の傾向にありますが、1日当たり増体重は0.66kg(県指標0.75kg以上)とまだ低く、平均出荷月齢も29.7カ月(県指標28カ月以内)と依然として長いため、一層の肥育成績向上に努める必要があります。また、枝肉4等級以上格付率は78.9%と前年に比べて15%向上したものの、事例間の較差は54〜93%と大きく、品質の斉一化が課題となっています。

表−1 平成8年度肉用牛経営診断結果


 さらに、同一事例内の出荷牛においても、肥育収益性を示す1日当たり増価額の上位30%の平均値は1,000円前後と良好であるのに対して、下位30%では400円と極めて低く、特に下位の牛群についてのレベルアップを図っていくことが必要となっています。


 2.実施方法

 超音波生体肉質診断装置は、平成3年度に肉用牛生産経営技術改善事業で導入した富士平工業製の「スーパーアイ・ミート」を使用しました。主に経営診断農家の黒毛和種去勢肥育牛(体重測定牛)を対象に、導入時から約4カ月間隔(肥育期間20カ月中に4回から5回程度)で肥育途中の肉質変化を経時的に測定し、出荷時には枝肉挌付結果との比較検討を行ってきました。測定部位は枝肉の屠体切断面と同位置の第6〜7肋骨間で、枝肉の主要形質である@ロース芯面積、Aばらの厚さ、B皮下脂肪の厚さ、C脂肪交雑(BMS)の4項目について測定しました。
 平成8年度の実績では、県下3地域の肉用牛肥育農家6戸を対象とし、年間延べ頭数で140頭の測定を実施しました。


写真−1 超音波診断実施風景(1) 第6〜7肋骨間を測定


写真−2 超音波診断実施風景(2) モニターで画像を確認


 3.実施体制

 超音波診断の実施フローチャートを図−1に示しました。診断装置は畜産研究センターに設置されており、畜産会が生産現場の要望に応じて、対象となる農業協同組合へ装置を貸し出すシステムとなっています。
 測定当日には、対象地域の農業改良普及センターと農業協同組合の協力を得て、畜産会並びに畜産研究センターの担当者が実施農家に対して、測定牛個体ごとに超音波測定モニター画像を解説し、測定データを現場で「測定牛飼養台帳」に記録します。なお、累積データを集計した「出荷枝肉結果との個体別比較一覧表」「月齢別肉質測定データー覧表」「月齢別肉質推移グラフ」等を作成し、「体重測定牛の増体グラフ」併せて測定終了後に検討会を実施しました。

図−1 超音波生体肉質測定の実施フローチャート


 4.生体測定値と屠体値の比較結果

 超音波診断の開始当初から測定精度の向上を目的として、出荷枝肉結果との比較検討を行いました。出荷の約4カ月前から実施した生体測定値と屠体実測値との比較差を表−2に示しました。@肥育後期においては、超音波の減衰により測定画像が不鮮明となることが多く、ロース芯の輪郭や脂肪交雑の測定が困難な場合がありました。 A脂肪交雑(BMS)の推定はロース芯測定部位で行い、担当者が測定画像の輝度を総合的に解析します。肥育農家の要望もあり、開始当初からBMSスコアでの推定を基本として実施しました。Bばらの厚さ及び皮下脂肪の厚さの比較差は測定部位の誤差もありますが、生体時と屠体時の形状変化によるところが大きいと考えられます。


写真−3 皮下脂肪厚の測定画像

表−2 超音波診断による生体測定値と枝肉結果(屠体値)の比較


 5.生体肉質測定値の月齢別推移

 肥育途中の肉質変化を経時的に測定した生体肉質測定値の月齢別推移を図−2〜4に示しました。@ロース芯面積、ばらの厚さ、脂肪交雑は肥育前期及び肥育中期で大きく増加し、20カ月齢以降の肥育後期では緩やかな増加にとどまりました。A皮下脂肪の厚さは肥育後期においても増加傾向がみられ、肥育仕上げ期の25カ月齢以降も大きく増加する個体がみられました。B枝肉の主要形質については、20カ月齢前後で肥育終了時の推定が可能と考えられます。

図−2 増体別にみたロース芯の推移

図−3 肉質等級別にみた脂肪交雑の推移

図−4 肥育後期における皮下脂肪の増加


 6.超音波診断実施農家の肥育成績

 超音波診断実施農家の平成5年と平成8年の年次別肥育成績を表−3に示しました。黒毛和種去勢肥育牛の1日当たり増体重が0.70kgから0.77kgに向上し、平均出荷月齢が28.5カ月から28.1カ月に短縮されており、特に27カ月齢以内の割合が23%増加し、30カ月齢以上は24%減少しています。また、枝肉4等級以上格付率が57.1%から63.6%に向上がみられ、増体の向上により枝肉1kg当たり生産原価(素牛費控除)が1,019円から884円に低減されたことなどから、総合的には出荷牛1頭当たり所得で11万2,100円の増加となりました。

表−3 超音波診断実施農家の年次別肥育成績


 7.肥育経営の利用効果

 @肥育牛の体重測定と併せて超音波診断を定期的に実施することにより、肥育農家自身が肥育途中の肉質変化を確かめることができ、飼養体系の改善を図るための重要なデータとなります。
 近年の黒毛和種肥育経営は、肉質等級間の枝肉価格差が5〜3等級で500円以上もあることから、脂肪交雑の向上を期待して肥育日数が長期化する傾向にあり、平均出荷月齢で30カ月以上の事例も多くみられます。しかし、経営診断結果からみると、肥育後期の増体1kg当たり飼料費は1,200円と高く、枝肉1kg当たり生産コストの増加を招いており、肥育日数の延長が必ずしも肥育収益の増加に結びついていないのが現状です。
 超音波診断を利用することにより、枝肉の主要形質については生後20カ月齢頃までに大きな変化が終了し、肥育途中の比較的早い段階で肥育終了時の枝肉成績を予測できることから、枝肉の主要部分が最も増加する月齢での集中的な管理と発育過程に応じた飼料給与量の設定や群編成の改善を図り、肥育日数の短縮による年間出荷回転率の向上と枝肉1kg当たり生産コストの低減に結びつけることが重要です。


 8.今後の利用

 新潟県北部地域では、平成3年から肉用牛肥育農家が酪農家と連係し受精卵移植研究会を発足させ、肥育農家が優良素牛の確保を目的として、採卵用雌牛を飼養するケースが増えています。現状の優良雌牛の選定方法としては、育種価データや既に枝肉結果の得られた雌牛が中心ですが、枝肉結果の判明には採卵開始から30カ月以上と長い期間を要するため、計画的な優良雌牛の選抜保留が課題となっています。今後は、超音波診断の利用による雌牛の産肉能力の早期判定を取り入れ、選抜速度の向上に役立てていきたいと考えています。

(筆者:新潟県畜産会畜産コンサルタント)


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