生産技術セミナー

和牛を群で管理する技術

天 野 宏 志



 牛肉の輸入自由化以降、海外の牛肉との肉質の差別化を図るため、肉質の良い和牛肥育が増加しています。しかし、質の良い和牛肥育においても、コストの削減が求められ、そのため規模拡大も進み、飼養管理も個体から群管理へと変化しています。少頭数では問題にならなかった角や子牛の病気等も、多頭飼育では大きな問題になってきます。
 そこで、群の飼養管理に適した育成・肥育技術について以下に紹介します。

  育成期の管理

 離乳前の子牛管理として

 1.親子の早期分離と早期離乳
 2.除角
 3.引き抜き去勢

の3つを育成のステップアップ技術としてセットでの導入をすすめています。


 離乳前の育成の要点

 1.親子の早期分離と早期離乳(哺育園方式)

 下痢などの疾病による子牛の死亡が、繁殖経営において、最も大きな経済的マイナス要因となります。繁殖牛の多頭化に対応した子牛の飼養管理法として、親子の早期分離・離乳(哺育園方式)があります。これは、生後5〜10日齢で親子を分離し、子牛を高床式の単飼ペン(カーフケージ)に入れ、代用乳で人工哺育を行い、2カ月齢で離乳するものです。
 カーフケージ内で早期から乾草を摂取させることにより、第一胃の良く発達した、肥育期に良く食い込む子牛をつくることができます。


写真−1 カーフケージの子牛の哺乳


 


 2.除角のすすめ

 牛を群飼する場合、角はお互いの闘争手段として使われ、当たり所が悪ければ大きなけがにつながります。肥育牛では「あたり」として取引価格を落とす要因にもなります。
 除角することによって、肥育牛に飼料の均一給与が可能になり、1頭当たりの必要面積が3/4から2/3程度に縮小できるといわれています。また、生産者にとっても、目の高さにある角がなくなり、保定時に首を振られてもけがをする危険がなく、牛の扱いが容易になります。
 除角には角が伸び始める前に、角根部を焼く方法と、角が成長してから除角器を用いて切る方法があります。作業労力や牛へのストレスを考えると、2週齢に角根部を焼くのが良いでしょう。


写真−2 焼きごてによる除角


 3.引き抜き去勢

 従来、去勢といえば無血去勢器(商品名:バルザック)による精管挫滅法を4カ月齢前後で行うのが主流でした。この方法は、操作が簡単で感染の心配のない利点があります。反面、牛に与えるストレスが長期間にわたり、また、挫滅不十分のため、精巣機能が残ってしまう場合もありました。
 引き抜き去勢法は、陰嚢の下部1/3位を切り取り、出てきた精巣を精管に人差し指を絡めながら徐々に引き抜いていくものです。挫滅法にくらべ牛へのストレスは格段に少なく、作業も数分で終えることができます。
 用意する物は、術前に陰嚢を消毒する消毒薬と陰嚢を切るカッター、術後の消毒に用いるヨードチンキのみです。術後の感染予防のため、敷料を乾燥したきれいな物に変えておくことが必要です。
 除角や引き抜きによる去勢を親子分離後ケージ内で単飼されている子牛に行うことは、作業が容易にできる利点があり、3つセットでの導入が良いでしょう。


 離乳後の育成の要点

  1.育成期の発育は体高が重要

 離乳後は粗飼料を中心とした飼料給与をします。この時期は、内臓や骨格をつくることを主眼において管理します。内臓を、特に第一胃が重要ですが、大きく育てるには粗飼料を多く給与することが大切です。
 育成時の発育の指標は体重よりも、体高が適当です。体高は骨格の成長を端的に表します。月齢に見合った体高のある子牛は、飛節が高く、伸びのある牛はおのずと月齢に見合った体重になるので、体重不足の心配はありません。富山県西部家畜保健衛生所は、簡単に子牛の発育状況を体高で確認できる「簡易子牛発育測定尺(商品名:丈蔵兵衛)」を考案しました。
 この測定尺は3cm角材に雄と雌の正常発育推定値をプロットし、それに樹脂製の透明なカーソルをつけたものです。使い方は、カーソルをき甲部に当てるだけと簡単です。カーソルの下端が測定する牛の月齢に対応した発育推定値の上限、平均、下限の位置に対してどこにあるかで発育状態が確認できます。


写真−3 丈蔵兵衛による体高測定


 2.体重の大きい子牛は本当に発育がよいか?

 子牛市場は、体重を取引基準としているので、大きい子牛は高い価格で売買されます。大きい子牛は肥育成績がよい傾向にあるのを肥育農家は知っているからです。体重の小さい子牛は肥育農家に敬遠されがちです。子牛生産農家は体重を大きくするため、粗飼料を少なくし、濃厚飼料を多給する傾向があります。これが、無駄な肉「化粧肉」をつけているのです。
 一方、子牛市場に出荷しない一貫経営内の子牛の体重はどうなっているでしょうか。図−1に一貫農家の子牛体重と富山和子牛市場(年4回開催)の体重を月齢別に示しました。6カ月齢では50kg以上市場の子牛が重くなっていますが、12カ月齢で逆転しています。
 平成8年度に富山県経済連が開催した枝肉市場の生産者別成績の一部を表−1に示しました。上から1頭当たりの価格(単価×枝肉重量)順に並んでいますが、上位は一貫経営ばかりです。一貫経営の方が肥育技術が高いからではなく、肥育を考えた子牛の育成期管理を行っているからです。
 育成期に粗飼料を中心に給与し内臓、骨格をつくり、無駄な肉を付けない子牛が、出荷成績で良い結果となっています。


 3.子牛導入後の牛の状態をそろえよう

 市場購入の子牛の場合は、育成期の環境が異なるので、子牛の状態にもバラツキがあります。バラツキをなくして子牛の状態をそろえ、一つの群として管理することを心がけましょう。ビタミンAと第一胃の状態をそろえ、牛舎のレベルにあわせることが特に大切です。導入子牛のレベルを、過去に導入した牛と同じ状態にすれば、その時の方法が参考になり、今までと同じ管理ができるからです。
 導入時のビタミンAレベルをそろえるには、牛舎に到着後ビタミンAを200万単位投与します。14カ月齢まで、月1回の投与を続けます。第一胃は、粗飼料4kgと少量の濃厚飼料を食い込ませることによって、容量と原虫などの質を同じにしてレベルをそろえます。濃厚飼料の給与量を増やすのは、群内子牛の粗飼料の食い込みがどの牛も同程度になってからが良いでしょう。

 肥育期の管理

 表−1上位の一貫Nは、従来、いわゆる増体系の肥育を中心に行ってきましたが、牛肉の輸入自由化をきっかけに、種雄牛を肉質に重点をおいたものに切り替え、その後、肥育期の飼料給与法も変更しました。変更後の肥育牛の出荷が平成5年後半から始まり、肉質が急激に改善していることがわかります(表−2)。格付けの項目では、BMSが高くなり、バラと皮下脂肪が厚くなっています。しかも、枝肉重量は450kg以上を維持し、出荷月齢の延長も見られません。
 この肥育期の飼養管理の特長を2、3以下に述べます。


 1.目標をきめて飼料設計をする

 一貫Nでは、飼料設計を変更するにあたり、出荷目標は月齢を27カ月、体重を720kgに設定し、増体量は成長曲線にあわせ、肥育中期を大きく、後期は小さめにしました。飼料給与量は日本飼養標準のTDN量を基準に算出しました。
 飼料の組成としては、肥育中期は増体量を大きく設定したことから、通常の飼料では量が多くなり採食限界を上回るため、TDN含量の多いとうもろこしを主体にしました。後期は、「きめ・締まり」で格付け等級を下げることが多かったので、肉を締めるといわれている大麦を増量しました。


 2.肥育中期は飼料を多く給与する

 一貫Nの新旧の飼料設計を表−3に示しました。新しい飼料設計では、増体量の目標は肥育中期で1.2kg、肥育期全体を通しても高いものとなりました。濃厚飼料は8カ月齢から徐々に増やし始めました。15〜20カ月齢の肥育中期は、濃厚飼料が10kg以上になりましたが、育成期に粗飼料を多給し第一胃の容量を大きくしていたことからか、残飼はほとんどみられませんでした。


 表−3でもわかるように、肥育前期から中期にかけての飼料給与量が新旧の飼料設計で大きく異なっています。この新旧の飼料給与法で肥育した牛の体重と胸囲を比較してみますと、体重は出荷目標の27カ月齢ではほぼ同じですが、新設計群は中期に急激に増体し、後期は比較的緩やかになっています。これに対し、旧設計群は後期までほぼ一定の増体になっています。
 この傾向は、胸囲では一層顕著で、肥育前期から徐々に差が大きくなり、中期でさらに拡大し、27カ月齢では約10cmにもなっています。この差は僧帽筋(カブリ)が大きくなりバラの厚さが増したことによります。僧帽筋の大きい牛は背が盛り上がり、肥育牛として好ましい体型になります。


 3.ビタミン類の給与

 一貫Nの新しい月齢別飼料給与量と組成を図−2に示しました。一貫Nでは肥育牛の飼料にビタミン類を添加していませんが、ビタミンAは前駆体のカロチンを多く含むアルファルファミールを500g程度給与しています。このため、肥育牛にはビタミンA欠乏症状の関節の腫れ、盲目などは見られず、枝肉にもズルの発生はありません。このことから、アルファルファミール給与によってビタミンA欠乏は予防できたものと推察されます。しかし、肉色はBCSナンバー3、2が中心ですが、稀に1に格付けされることもあり、肥育終了時の血清中のビタミンA濃度は低く、どの牛も30IU/dl以下の危険な状態でした。肥育期間が30カ月以上と一貫Nより長い場合は、500g程度のアルファルファミールの給与だけでは欠乏症が発生することもあると思われます。
 一貫Nにおいても、肥育後半には食い止まりがみられました。ビタミン類が添加された配合飼料を用いていた旧の飼料設計では、食い止まりがなかったことから、新の飼料設計でもビタミンAの補給として、食い止まった肥育牛に乾燥肝油を約50g(50万単位)給与したところ、採食量が回復しました。食い止まりは肥育後期の生理的な現象ではなく、病気の症状と考えた方がよいでしょう。食い止まりにはいろいろな原因があると思われますが、ビタミンA不足もひとつの要因になっています。牛を健康に保つ意味からも、食い止まった肥育牛には乾燥肝油の給与が良いでしょう。


 4.量を守った飼料給与を

 一貫Nでは肥育牛の日常管理を行っている従業員が定着せず、ほぼ毎年変わっています。しかし、次の担当者に月齢(体重)ごとの飼料給与量を示したマニュアルだけは確実に受け継がれています。担当が変わってもマニュアルに従って飼料給与をしていれば、ほぼ同じ結果が毎年得られるのです。和牛肥育は複雑だと考えている他の生産者の中には「誰がやっても同じ結果?」と不思議に思っている人もいます。一貫Nには、日常の管理に込み入ったノウハウはありませんが、強いてあげれば、マニュアルを正確に実行することがあてはまるでしょう。
 飼料給与量をひしゃくで計っても、同じ「一杯」でも山盛りと擦り切りで10%は餌の量が異なっています。餌の量が予定量と違っていては良い結果は期待できないので、時々量のチェックをし、マニュアルどおりかを確認しましょう。

 記憶から記録へ

 少頭数では無理なく行えたことも、頭数が多くなると難しくなります。群では牛の名号や生年月日も記憶があいまいになりがちで、耳標、メモに頼らざるを得なくなります。従って、メモしておけば頭数が増えても混乱なく管理できます。ノートなどに気づいたことを色々と記録しておくと便利です。一貫Nも体重・胸囲の記録から後で振り返ってみて、肥育中期の飼料給与方法が肉質を良くしていたのがわかりました。もし記録がなかったなら、どうして良くなったのか、その答えは得られなかったことでしょう。
 「26カ月、720kgで出荷する」などの目標をたて、それに見合った飼料給与量などをまず決めます。そして、それに基づいた肥育過程を記録し、出荷後どうして今の出荷成績が出たかを(特に、成績が期待より悪かったとき)考える。このように、成績向上は、「どうして」と考えることの繰り返しによって成し遂げられるといえるでしょう。

(筆者:富山県普及技術課専門技術員)


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