ヨーロッパ畜産、見て聞いて、触れて(1)

梶 尾 規 一


 中央畜産会では、地方競馬全国協会の補助を得て毎年海外畜産事情研修事業を実施しています。平成8年度においては、ドイツ・フランス・イギリスの3ヵ国に研修者を派遣しました。
 このたび、その中の一人である梶尾規一氏(静岡県中部農林事務所畜産振興課長)にお願いして、ヨーロッパで見聞きした生産技術のちょっとした工夫について数回に渡り紹介していただくことになりました。今回は、イギリスの放牧養豚について紹介します。


 <放牧養豚>


写真−1 イギリスの放牧養豚

 養豚経営は近年、生産の効率化や環境対策から設備投資にコストがかかり過ぎる傾向が見られ、勢い大規模な農場で太陽の光を浴びることなく、一生を過ごす豚が多くなり、成育環境は快適かもしれないが、自然とはほど遠く、生理的に無理があり、抗病性の低下等の面から生産コストも上昇せざるを得ない状況にあるといえます。
 EUにおいては動物福祉や動物愛護の観点だけでなく、消費者の求める、健康的な環境で安全な食肉を提供するという点から、密飼いの禁止や成長ホルモンの禁止等が提唱されています。こうした中、動物福祉大国のイギリスにおいては99年1月から放牧養豚を全面的に取り入れると聞いており、その決定は今後欧州各国に多大な影響を与えるものと考えますが、今回私たちは、その一端を垣間見てきましたので報告します。
 イギリスではここ数年放牧養豚が増えてきており、5年前には5%程度であったが、96年には25%を占めるようになっています。今後、イギリスを旅行すると行けども行けども広がる広大な農地に羊や牛だけでなく、豚も見られるようになるものと思われます。
 放牧養豚といっても、ご承知のように牛や羊の放牧と異なり、牧草地の利用ということでなく、あくまでも、自然環境のなかで伸び伸びと運動をさせるということです。また、自然交配ということで繁殖成績も良好のようです(写真−1)。


写真−2 1区画に雌16頭と種雄豚2頭がセットで飼われる


写真−3 かまぼこ型簡易ハッチと給水施設


写真−4 キツネよけの電気牧柵を張り巡らしている



 訪問した農場は、合成豚の繁殖部門を担当しており、成雌豚350頭、子豚600頭を飼養し、2.5人で管理し、通常2年ごとに移動するシステムをとっています。母豚は周年放牧で、1区画に雌16頭(1エーカー当たり7頭)と種雄豚2頭がセットで飼われ、かまぼこ型簡易ハッチと給水施設を設置し、周囲にはキツネよけに電気牧柵を張り巡らしています(写真−2、3、4)。分娩パドックは、1頭1パドック35aで、自然分娩し、子豚は25日で離乳し、育成群へ移動します(写真−5)。ハッチには麦藁が敷き詰められていますが、母豚を種付けパドックへ移動後、ハッチとともに焼却消毒します。豚は当然のことながら地面を掘り起こすのを仕事のようにする習性があるため、一部の豚には鼻輪をつけて、農場が荒れるのを防止していますが、動物愛護を唱えながらいかがかなと首をかしげた次第でした。年間1頭当たりの産子数は25頭で2.3産と省力的な管理ながら良好な成績でした。
 育成豚は任意の場所に設置した組み立て式の豚房で育成し、72日齢、約31kgで肥育農場に販売します。豚肉の消費は、狂牛病の影響で増加し、このため子豚の価格も上昇し、経営は安定しているものの今後増加することを見込んでおり、より一層の低コスト化、技術水準の向上で乗り切るとのことでした。


写真−5 育成専用ハッチ

 終わりに、土地条件や気象条件からわが国に即導入することは課題が多いと思われますが、衛生管理や環境問題、低コスト生産の面からでなく、消費者の求める高品質な豚肉を供給する観点から、産直のような有利販売できる経営で一考に値するものと考えます。


ヨーロッパ畜産、見て聞いて、触れて(2)ヘつづく


(報告:静岡県中部農林事務所畜産振興課長)


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