経営技術セミナー

豚の防暑対策

…ひと夏のデータですが…

島 正徳



 もうすぐ暑い夏がやってきます。  ここ香川県における夏場の養豚については、それこそ「うだるような暑さとの戦いである」といっても過言ではありません。
 香川県は、日本一・二を争う年間の日照時間が長い地域であり、県土面積当たりのため池個数「日本一」が示すとおり、歴史的にも慢性的な水不足地帯です。
 これが対策のため、阿讃山脈、四国山地の向こう側、愛媛県に源を発し、高知県、徳島県を流れる吉野川の池田ダムから、阿讃山脈を貫く「香川用水」を経由して恵みの水が送られてきます(数年前から夏の水不足で有名になった「早明浦ダム」は、池田ダムの上流、高知県にあります)。

 それぞれの年によって、35℃を超える気温が連日続く猛暑であったり、数年前のようにいわゆる冷夏であったりはしますが、養豚農家は夏の気温、乾燥対策、さらにはこれに付随して起こる臭気対策などに腐心され、日夜、目配り気配りされております。
 また、瀬戸内地方は、私ども香川県を中心に総体的には温暖な気候風土に恵まれ、年間を通じて過ごしやすい地域ではあるものの、夏場には「瀬戸の朝凪、夕凪」と称し、風が完全に止まる時間帯があります。また、この時期にはいわゆる熱帯夜が連続することがあります。
 このため、この地域での養豚は、これらの時間帯に飼育豚をいかに快適に過ごさせるか、また、昼間の最高温度を示す時間帯の温度をいかに下げるか、熱帯夜をいかに快適に過ごさせるかなどがポイントになります。

 豚の最適温度については、成書や文献など諸説様々ですが、一般的には出生当日の子豚は35℃前後、それから日齢の進むにつれて下がっていくといわれています。
 豚の体感温度は、湿度とも関係しますが、「舎内温度−4√風速(m/s) 」(山本ら)とも「乾球温度−2.7√風速 」(池内ら)ともいわれており、これからすると、豚の体に1m/sの風を当てると、体感温度は2.7〜4℃下がる計算になります。
 実際、我々人間においても気温が30℃近くあっても、風や湿度が適度にあればとんでもなく暑いとは感じないことは体験済みのことでしょう。

 このようなことから様々な試みがなされ、種々の機械が利用されています。
 中でも養豚農家のみならず、畜産農家によく使われているのが、大型の工場扇や畜産用ファン、さらにはドリップ・クーリングシステムなどです。
 これらは大型の工場扇を風上に設置して、舎外の冷気を強制的に吹き込んだり、写真のように畜産用ファンを畜舎の天井から吊り下げ、さらにこれにビニールダクトをつけ、豚の背中に向けた穴から直接効率よく豚体に風を送るとか、ドリップ・クーリングシステムでは豚の首から肩にかけて水滴を落下させ、体感温度を下げようというものです。
 また、あまりの暑さに毎年水に苦労する、ここ香川県においてでさえ、屋根散水などの対策を講じている畜産施設も一部では見られます。
 このような状況の中で、当場(香川県畜産試験場)では平成4年度に豚人工授精の研究と精液の採取・調整および種雄豚飼育のための豚人工授精研究棟(以下「種雄豚舎」を略す。)、平成7年度に繁殖モデル豚舎(以下「繁殖豚舎」と略す。)と改築してきました。
 最近、建設されている最新式のシステム豚舎・施設には比ぶべくもありませんが、二つの豚舎の建設で特にその暑さ対策について取り入れたことをご紹介するとともに、昭和40年前後に建設された古い豚舎についても、少しでも豚が涼しいようにと工夫したことなどをお知らせし、今後のご参考になればと思う次第です。

 さて、古くから畜舎の建設は、東西に長く、日光の恩恵を十分に受けられるように建てるのがよいとされてきました。
 しかしながら当場の立地条件は、標高203mの富士山のような形をした「白山」の南西斜面に位置しており、種雄豚舎は片面に屋根より高い道路を擁したほぼ東西方向に立地、繁殖豚舎は東面に土手、西面は約5m下に住宅と畑に面するほぼ南北の立地であります。
 このように畜舎を設計建築しようとする者にとっては、頭の痛い条件ですが、日本一狭い県土の中ではそうそう理想に走ってはおれません。さらに旧豚舎を壊してその場に建築するという条件をもベースに置き、検討を重ねました。

 1.新豚舎について

 最近、新しく建築されている豚舎については、かなり気を配って断熱材を屋根材の下や壁材の下に使っています。とくにシステム豚舎では、断熱材一体型のガルバリウム鋼板の使用が常識で、コンピューターにより室内の温度・湿度制御ができるウインドレスタイプの豚舎が主流になってきています。
 しかし、私どもで建設した二つの豚舎については、ウインドレスタイプではありません。
 基本的には、吹き上げ気味の自然の風を極力利用するとの方針から、風の通りを考慮してモニター(越し屋根)の設置、サッシのガラス窓やアルミ板の跳ね上げ式の窓を設置しております。
 屋根や外壁については、これらからの熱の侵入を考え、断熱材一体型のガルバリウム鋼板を採用しました。
 これによって、大幅に屋根からの熱を防ぐことができるようになり、実際に夏場の作業中にこれら二つの豚舎に入りますと、古い豚舎よりもかなり涼しく感じております。

@ 豚人工授精研究棟(種雄豚舎)
 この施設は、急速に増加してきた農家への人工受精用精液の年間を通した配布に対応するため、平成4年度に建設されました(写真−1、2)。

 

写真−1 豚人工授精研究棟      写真−2 クーラーからの冷気吹き出し

 農家側の人工授精実施のメリットは、コストダウン、疾病予防、優良種畜の利活用、危険防止など様々ですが、これにも増して大きなウエートを占めているのが、夏季不妊症につながる6〜11月期の種雄豚の造精機能低下です。当然、私どもが供給する精液は、年間を通じて良好な精液をコンスタントに供給しなければなりません。
 このため、種雄豚の飼育環境をより良好な状態に保ちたいということから、この施設には大型のクーラーが設置され、これにつながるビニールダクトによってスポット冷房ができるようになっております。
 通常は、舎内温度が25℃以上になると、センサーが舎内温度の上昇を感知し、まず越し屋根に設置した大型のファンが作動、ついでに舎内に設置しているサーキュレーターファン4基が連動して、暑い空気をサッシのガラス窓やアルミ板の跳ね上げ方式の窓、大きく開いた出入口から排出します。
 さらに、舎内温度が30℃を超える状態になりますと窓を閉めてクーラーを稼働させるということになります(写真−3、4)。


 

写真−3 豚人工授精研究棟の窓等の開放     写真−4 クーラー稼働 スポット冷房

 これによって、舎内温度は25〜28℃程度に抑えることができます。
 また、当場では、不足する水の有効利用や畜舎から発生する悪臭の防止などの観点から、活性汚泥法により処理され放流する水を畜舎洗浄等を中心に再利用しておりますが、この水にも目を付け、屋根に散水装置を設置して温度の上昇を抑えるとともに、二次的効果として蒸散による放流水の削減を期待し、実施しております(写真−5)。

写真−5 屋根散水の状況

A 繁殖モデル豚舎(分娩豚舎)
 この施設は、バークシャー種を活用した地域特産豚の発信基地として母豚の早急かつより衛生的な生産に対応するため、建設されたものです。
 この豚舎は、分娩室と観察室、飼料庫、倉庫、現場詰所を擁しており、分娩室と観察室の暑さ対策として、太陽光とくに西日の当たる西側の窓を取り払い、紙製のセルの中に水を通しその気化熱を利用して冷却する「豚舎冷却装置」を設置しました。(写真−6、7)。

 

写真−6 繁殖モデル豚舎           写真−7 水の気化熱利用豚舎冷却装置

 昨年の夏の稼働時における舎内外の温度を図−1に示しました。

 これからもわかるように、最大温度差は7.6℃であり、稼働期間中、舎外の最高温度平均を5.2℃、最低温度平均を1.9℃下げることができました。
 今回、短期間のデータで、温度等との関係を詳しく追求できておりませんが、この装置の稼働により舎内の最高温度を30℃以下に、最低温度は25℃以下に抑えられることがわかりました。
 実際、この装置の稼働により、昨夏の周産期の母豚および子豚哺育に関する暑熱ストレスはかなり軽減されたものと感じております。

 2.古い豚舎について

 前述のごとく場内には、昭和40年前後に建設された豚舎がいまだ現役です。
 これらの古い豚舎は、一部には壁があるものの、ほとんど屋根材と柱のみの構造や屋根が低くスレート瓦の下に形だけの断熱材を挟んでいるもの、手作りで、さらにコストダウンを図った(?)屋根材のみの豚舎やコロニーもあります。
 このような場合は、太陽によって熱せられた屋根材の熱は、そのまま、あるいは不完全な断熱材に伝わり、豚舎内に放散することとなります。
 急速に改善はされつつあるものの県下には、このような施設が場内を始め中小養豚場を中心に多々残っています。これらの状況を踏まえ、当場では古い豚舎の熱環境を少しでも軽減できないかということで、昭和48年度に建設されたスレート葺きの検定豚舎の温度を下げる試みをしてみました。
 この豚舎も上述のごとく豚舎内に吊したファンを利用し、積極的に木陰の冷気をダクトファン→スポット送風の形で送り込んでいたのですが、外気温の上昇とともに豚舎内温度も上昇し、30℃をゆうに超えていました。
 このため、日中はもちろん、早朝出勤あるいは夕方7時頃まで職員が残り、動力噴霧機で舎内に水を噴霧したり、スレート屋根に散水したり、さらには夏の日射しによって温度の上がっている豚舎周囲のアスファルトを少しでも冷まそうと散水しましたが続きません。また、これにかかりきりになっているわけにもまいりません。
 「何か良い方法は?」と考えた末、イチゴハウスなどで使われている農業用灌水チューブに目を付けました。
 これを利用した職員自らの手作り散水装置をスレート屋根の棟に設置し、これに水の有効利用の観点から、種雄豚舎と同様に活性汚泥法によって処理された水を再利用して屋根散水しました(写真−8)。

写真−8 農業用灌水チューブを利用した屋根散水

 その結果、この方法と今までのダクトファン→スポット送風方式の相乗効果によって、豚舎内温度を2〜3℃下げることに成功しました。
 奇しくも県下の一部で実施されている屋根散水の効果を確認したわけであります。
 また、早朝、夕方に実施した動力噴霧機による水の舎内噴霧によっても一時的に温度は下がりましたが、その後の温度の上昇によってかえって豚が暑がるような感じも見受けられました。
 このようなことから水を舎内に噴霧する時には、噴霧する時間帯(温度)や回数を考慮しなけれならないと思われます(現在は、浮遊塵埃対策、消毒を兼ねて自動細霧装置を設置)。
 また、昨年の夏は直射日光や豚舎周囲のアスファルト舗装の反射、輻射エネルギーを十二分に思い知らされました。
 写真のごとく新しい繁殖豚舎の壁は、ほんの一部を除いてありません。その壁は前述のように断熱材一体型の材質でしたが、いかんせん西日を受ける面が、壁と「豚舎冷却装置」を除いてサッシ窓であったことから、この窓ガラスを通して、これらの熱が侵入し、舎内温度が上がりました。
 あわてて日覆をしたのですが、これにもこだわって工夫してみました。使用したのは一般の農家でもよく使われている寒冷紗です。当場でも従前は、寒冷紗というと「黒」一点張りでしたが、今回はアルミを編み込んだ銀色で遮光率70%のものを使いました(写真−9)。

写真−9 銀色の寒冷紗

 これについては、前述の「水の気化熱を利用した豚舎冷却装置」と併用したので寒冷紗のみの効果はとくに取り出して調査できませんでしたが、下を通って作業に行く場員からは「黒」よりも「銀」がかなり涼しいとの感想が聞かれております。
 さらに、これにスプリンクラーで水をかけるアイデアも出て実施しましたが、これまた涼しいということで、古い豚舎の西、南面にも応用し好評でした。
 以上のように、新しい豚舎、古い豚舎それぞれの立地、材料等を勘案しながら一般農家と同様に暑熱対策をとってきましたが、展示・実証の意味もあり、当場では、種雄豚舎(人工授精研究棟)には「大型のクーラーにつながるダクト・スポット送風装置」を、繁殖豚舎(繁殖モデル豚舎)には「水の気化熱を利用した豚舎冷却装置」を設置しました。
 前者については、設備費、ランニングコストなどの関係から、一般農家においては設置がむずかしいと思われますが、後者の「水の気化熱を利用した豚舎冷却装置」については比較的簡単に取り付けられることから、養豚農家の防暑対策に利用できるのではないかと考えています。

 以上、思いつくままに私どもが悩みながら実施したことをご紹介しました。
 何かご参考になれば幸いです。

(筆者:香川県畜産試験場主席研究員)


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