明日への息吹

趣味からうまれたふれあい牧場

「奈義 風の村牧場」

大村昌治郎

 岡山市から国道53号線を北上し津山市を過ぎると、岡山県と鳥取県との境に奈義町(なぎちょう)があります。岡山県北、那岐山(なぎせん)のふもとにひろがる日本原高原には豊かな自然がいっぱいで、奈義町は畜産が盛んな町です。奈義町の畜産の概況ですが、乳用牛は46戸で1,580頭、肉用牛は35戸で2,200頭、豚は7戸で5,830頭、鶏は3戸で2,460羽といったところです。最近、奈義町では環境問題にも本格的に取り組み、奈義町有機センターでふん尿処理にも対応しています。
 そんな中で黒籔光廣(くろやぶみつひろ)さん(56歳)は有限会社協和養豚の代表取締役として繁殖母豚150頭、肥育3,500頭の規模で養豚経営を営んでいます。その黒籔さんが2年前に個人的趣味からふれあい牧場的な「奈義 風の村牧場」を開園し、近隣住民のふれあいの場として広く利用されているので紹介したいと思います。


養豚経営について

 まず、風の村牧場について語る前に、黒籔さんの経営について紹介します。養豚経営は30歳から始めた時、繁殖母豚10頭規模の経営でした。そのときは親の経営を後継したのですが、ほとんど無に等しい状況から経営が始まったそうです。その後、昭和54年に現在の(有)協和養豚を設立し、繁殖母豚150頭の一貫経営で再スタートをきりました。肥育頭数を増やしてきたため、自分のところだけでは肥育素豚は足りなくなりました。そこで地域の繁殖農家12戸と契約して子豚を導入して、現在では繁殖母豚150頭、肥育3,500頭の規模で経営しています。黒籔さん本人を除いて、従業員は正職員6名、パート職員2名です。

 飼養豚の種類はほとんどがLWDで、1割弱が黒豚であり、平成8年の肉豚は1万2,000頭出荷販売しています。将来的には黒豚を若干増やしていく見込みです。今のところは加工販売については研究期間として個人的に加工品を製造している段階だそうです。将来的に加工品を販売するとなったら販売員を置かなければならず、コスト面等を含めてまだ検討段階だそうです。

 これからの (有)協和養豚の展開は、後継者である忠章さん(26歳)に託すようになるから、規模拡大、加工品販売などの経営戦略は忠章さんが決めるだろうとのことです。これから規模拡大をするにしても現在の養豚を取り巻く状況では新規投資が難しいので、廃業した農家の既存の豚舎を利用することによって規模拡大するしかないだろうと言われていました。


風の村牧場について

 ここ風の村牧場は(有)協和養豚の養豚場のそばに設置されています。ここは道路のすぐそばということもあって、近所の住民や学校帰りの小学生などが良く利用しているようです(写真−1)。ただ、ここは入場料無料で受付もないので、誰がいつやってきたのかは黒籔さんはよく分からないそうですが、人は頻繁に来ているそうです。また、小学校や幼稚園の遠足に利用されることがあるそうです。

写真−1 風の村牧場の入口

 このように、近隣住民の憩いの場として提供することによって、牧場周辺の非農家の人々に対して理解を得ることができるそうです。
 この牧場には、乗馬できる馬が4頭(乗馬できますが予約が必要です。午前中、黒籔さんは養豚の作業があるので、午後のみ対応ができるとのことです。写真−2)、駝鳥(だちょう)3羽(写真−3)、放牧されている鶏(ボリスブラウン、名古屋コーチン、ロードアイランドレッド、プリマスロック、鳥骨鶏など)多数飼育されています(写真−4)。もちろん敷地内には本業の豚もいます。ここの動物の世話はすべて協和養豚の職員が行っています。

 

        写真−2 厩舎の中                   写真−3 幼い駝鳥

写真−4 放牧されている鶏

 

 駝鳥は平成7年12月に3カ月齢で導入したそうですが、かなりの大きさになっています。話をうかがいに行ったとき、黒籔さんに良くなついており、じゃれて噛み付いていましたが、パクパク音がして端から見て痛そうでした。そもそもこんなところで駝鳥を見るなんて思ってもみませんでしたが。
 風の村牧場のすぐそばには道路を挟んで大池があり、風の村牧場の敷地ではないのですが、あたかもこの牧場のなかにあるようなセッティングで牧場そのものが広く見えます。その池のほとりにある小さな公園には、黒籔さんの手製のベンチが置いてあり、道ゆく人々の休憩場所になっています。池でゆっくりしても良し、牧場でゆっくりしても良し、といったところでした。 
 また、牧場内には40種類(ラベンダー、ミント類、ラムズイヤー、カモミール、セージ、ローズマリー、タイムなどなど)のハーブが植えられているハーブ園もよく管理されています(写真−5)。

写真−5 よく管理されたハーブ園は花がいっぱい

 ハーブの栽培は、退職された方に趣味と実益を兼ねて栽培をお願いしているようです。その人には管理料として月々謝礼を支払い、必要な種苗や資材は協和養豚で提供しているそうです。
 これら40種類ものハーブを管理するのに黒籔さんは自分がすると時間も知識もないし、やはりこういうハーブの栽培が好きで得意な人はいるだろうと思っていたそうです。ちょうどうまく知り合ったそうで、みるからにきれいに整備されたハーブ園は花が咲き乱れ見事なものでした。
 ここで、放牧されている鶏の卵は自動販売機で販売されています(写真−6)。平成8年の1年間に50〜60万円の販売高だったそうです。実際は餌代もかかるし儲けにはならないし、儲けようとも思っていないそうです。それよりもこの牧場で放牧している健康的な鶏が産んだ卵を喜んで買ってもらえればと思っているそうです。そのお値段の方は、卵12個で300円、烏骨鶏の卵3個で1,000円(平成9年7月現在)で販売していました。

写真−6 好評販売中! 卵自動販売機

 ここの取材をしていたとき、トラックで通りかかった2人の男性が4袋ほど買っていました。話をうかがったところ、仕事の帰りによくおみやげに買って帰るとのことで、差し上げた人の評判はとても良かったとのことでした。
 そこで、なぜ「風の村牧場」を作ることにしたのか黒籔さんに訊ねてみました。一般の人々に対して、豚、牛、鶏を飼っていても所得はあるしこんなことができるんだ、畜産はやり方によったら儲かるのだ、ということを知ってもらいたかったそうです。また、一般的につねづね畜産は3Kだと言われるけれども、3Kではなくやりようによっては十分な所得を得ることができ、このような牧場もできるんだということを一般の人たちに対して示したかったそうです。

 黒籔さん本人と話しているとかなり前向きで積極的に相当経営について考えていると感じました。そうでなくても経営者の中には、「最近の畜産情勢は厳しくなっているし、乳価も下がるし、飼料代は上がるし、枝肉価格は下がるし、云々……」、と愚痴をこぼす人も多い中、黒籔さんは、そういう情勢も把握しながら自分の経営が切り抜けることができるか、自分の所得を得ることができるか計算しているようでした。

 黒籔さん本人も経営を始めてから10年ぐらいはやはりきつかったそうです。ところが無茶な経営をしていない限り、いっときしてくると経営に余裕が出てくると言われます。そういうときに経営者が何がしたいのか、どういう夢を描いているのかはっきりした意思をもたなければいけないと黒籔さんは考えています。やはり、経営を始めてある段階から余裕が出てきたときに(そうでなければその経営は継続することができないだろうが)、豚舎の周辺の環境整備を行う必要があると考え、このような牧場を思い付いたそうです。その発想はすでに10年前ぐらいからあったそうで、その発想を暖めていたそうです。
そんな構想もどんな方法でしようかと考えていたそうですが、最初は馬をいれることを思い付いたそうです。そうすると、ただ馬場を作るだけでなく、そのまわりのハーブ園を作ろうとか、そばに鶏も放牧しようとか、どんどん構想が膨らんでいったそうです。

 こうしてできた「風の村牧場」ですが、もう一つの理由として次のように言われていました。現在、ここ奈義町においても経営者の高齢化などの理由で畜産農家が減少しているが、きっと将来、子供たちが牛、豚、鶏などを見ることができなくなってくるだろうと思われたそうです。そういうことではいけないと思い、豚はこういうものだ、鶏はこういうものだと見ることのできる牧場を作りたかったと語られます。都市部においてはそんな話は良く聞きますが、畜産の盛んな地域にもこのような危機が訪れてきているのかと感じました。

 「風の村牧場」を将来どのようにしたいですかと伺ったところ、この奈義町において観光スポットのひとつひとつはそんなに大きくないので、この「風の村牧場」は奈義町の観光の中において一つの線なり点なりになれば良いと思っていると黒籔さんは語られていました。

(筆者:岡山県畜産会 畜産コンサルタント)


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