明日への息吹

土佐のいごっそうの牛飼い日記

おまんらあ!牛は楽して飼うもんぜよ

−元気になれ肉用牛農家−

中村弘樹



 高知県安芸郡東洋町甲ノ浦河内地区は、高知市より東へ100km、徳島県との県境に位置し温暖な気候に恵まれ観光と果樹園芸の盛んな地域である。サーフィンを趣味とする方は東洋町生見海岸という名前を聞いたことがあるのではないだろうか。この地に、非常に愉快でかつ豪胆にして、繊細な神経の持ち主が褐牛を飼っている。この人の名前は小池巌男といい、御年とって70歳、現役バリバリの兼業農家である。この「じいさま」とのつきあいはかれこれ8、9年まえになろうか。畜産コンサルタント対象農家として私が調査に伺ってからである。  それまで、この地区は牛の頭数も少なく、また、JA、役場の担当者も農業、畜産に対する意識が稀薄であったように感ずる。

 夏の1日(9月頃だったと記憶している)、このじいさまの畜舎に伺った時の第一声が「わしんく(わたしのところの意)を調査するち、それがてこにあうか」であった。

東洋町の位置

写真−1 安芸郡東洋町生見海岸

 実際、調査の前に少し心配したのは事実であった。果たして記帳等はあるだろうか。それもある程度細かい内容について……、しかし、ニヤニヤしながら話すこのじいさまに、妙な親近感をいだした私は、調査の意を話し、少しばかりの世間話をした。やがて、じいさまの方からいきなり畜舎の傍らに置いてあった机をドンとばかり私の前にだしてくれた。「おまん、聞くゆうたち、てこにあうまいがよ。机使いや(あなた、聞くと言っても大変でしょう。机を使いなさい)」、私はこのじいさまの腕力に少しばかり驚いた。その一方、ハテナと思った。意外に用意周到やないか。持参した調査表を開き、聞き出すと、スラスラと話をしてくれる。(さては、じいさま知っていて用意しとったな)。調査で最も重要部分である飼料の購入のところで、飼料はと話はじめると、「これよ、これこれ」といって紙片を出してくれた。(コンニヤロー完璧にその気になって待ってたのネ)。紙片には飼料名、重量、値段、合計まで書いてある。牛の繁殖成績はというと「芸東畜産組合で聞けばわかる。担当に話をしてあるき」との答え。そうこうしているとタイミングよくその担当者が車で現れた。(アラー、全部手配してこっちの出方伺っていたのネ)。全て聞き終わるのに余り時間はかからなかった。

 ところで、このじいさまは牛を飼うためにいろいろな工夫をしている。実は紹介したいのはこの部分である。「時間があるなら見せちょおき。ちくと待ちよりや」とのことで、いただいたジュースを飲みながら待っていると、じいさま、道路に干してあった乾草を運びだして、なにやら木枠の中に詰め込みはじめた。木枠が乾草で一杯になったところで、じいさまはその木枠の上にヒョイと乗り、畜舎の柱に手をかけて踏み込みはじめた。何ができるかと思っていると、また、木枠からヒョイと降り、木枠の四片の1カ所をはずした。そして、木枠を傾けると四角い草の梱包が転がり出てきた。それをいとも簡単に幾つかある草の梱包の上に載せた。「この乾草はのー、全部ワシらがつくったもんぜよ」、見れば畜舎の反対側に山と積み上げられた梱包は30〜40はあったと思う。傍らで奥さんが「質は、ざっとした乾草を買うたものよりずっとええぞね」。

 今は、ロールベーラーがあって乾草も簡単にロールしてしまうが、中小農家には価格的に高く不経済である。そこでじいさまは考えた。少々の労力で、品質は同じ物を作るにはどうしたらいいか。そこで刈った牧草は道路に干す。農道だから通る車は少ない。たとえ通っても踏んでいただいて結構。天日で畑で借り倒したものより早く確実に乾草になる。そうした草を先ほどの(本人曰く)「簡易梱包機」で梱包する。しかも機械で処理し、梱包したものより製品はよい。その上、牛の趣向性がよく食い込みもよいとのことであった。


 −ここでまじめに、その仕掛けについて−

@ 横板がバタンと倒れる箱を作る(高さ3尺、幅2尺5寸、横5寸くらい:本人の言)。

A あらかじめ箱底にヒモを2本、十文字にしいておく。長さは箱の大きさを考えて。

B 乾草をいれはじめ、箱に一杯になったら上から踏み込む。当然、踏み込むと圧縮されるので、さらにいれて箱の八分目になったところであらかじめ用意してあったヒモで縛る。

C 箱の横板を開いて取り出せばいい。
 かさ張って扱いに困る乾草も一発で解消、場所もとらずキチンと収納できる。じいさまはニヤッと笑って、「ええろうがえ。銭は1銭もかかっちょらんぜよ」。

写真−2,写真−3 繁殖牛放牧の果樹園

 今はこの木枠は使っていない。もっと楽をしたいとのことから機械を買ったのである。最初に言っておかなければならないことが1つあった。忘れていたのでここで紹介しよう。実はこの農家は繁殖母牛を放牧している。といってしまえば、それのどこが珍しいかといわれるだろうが、果樹園の中に牧草を撒き、野草と一緒に牛に掃除食いしてもらうといえばどうだろうか。「そんな馬鹿な、果樹木がいたんで収穫にならんではないか」と心配するむきもあろうが、昨年のNHKの大河ドラマ秀吉、得意の心配御無用とのこと。「牛が踏んでいてくれるろう。ほんでなぁ−木の根がしっかりしてくるし、第一、木の下の草ゆうのは刈るのはめんどくさい。そんなこたぁーな、牛にまかせちょきゃあええがよ。下草食わいでも木の影が涼しいき、そこで牛が休むと草はペチャンコ、お陰で内は農薬を使いよらん。牛が通ると草を食う。あちこちで堆肥もやってきてくれる。わしんくの(私のところ)ポンカンはほんで大人気よ。第一味がええ。ほんでなぁー生協の人ら(厚生連関係)が収穫にきてくれる。さらに収穫したポンカンは客に箱詰めしてもらう。わしゃー、秤とおつりを用意して出口に座りよる。楽な物よ」とのこと。牛あっての果樹園芸といってはばからない。

 そこで登場するのが数々のアイデア機械類である。
 まず「簡易ミニダンプ」。これは堆肥下ろしが大変なことから考え出されたものである。ある日、じいさまは堆肥の搬出をしようとして軽トラックに堆肥を積み込んだ。まあ、なんとか積み込んで、運んで下ろす。この場合、クワ、フォーク、熊手等でかき下ろす作業をしなければならない。やりはじめてそのしんどいこと、しんどいこと、手にマメをつくって「こんなことができるか」、腹がたってきて、頭に血が上ったところで、じいさま考えた。「くそったれ、軽ダンプ買ってやる。だが、前年に軽トラックを買い換えたばかりでまた金がかかる。いかん、いかん女房に、にられまれる。こりゃめったよ(こまった)、ウーン」。

写真−4 簡易ダンプ(堆肥を搬出したところ)

 そこで頭をつかう=ぼけんにならん=仕事は楽になる=タダ同然。
 「よし造ってやる、ってことで、まず箱を作ることにする」それに丸太をしいてコロがわりとし、これを軽トラックにとりつけて転がし落としたらいい。そうしよう。やってみるとまぁ、これはこれでうまくいくにはいったが、このコロ替わりにおく丸太が、それぞれ平行になっていないと箱は滑らない。クソ、しんどいのにハンマーで丸太をたたいて調節し、車をバックさせ、急ブレーキをかけてみるがしんどい割りには結果はよくない。「まだまだ頭の使いようがたらんなァ」。じいさまは車を前に昼寝しながら夜寝もして考えた。ついに頭に浮かんだのは保冷車についているソロバンのようなローラー。「あれや!あれあれ」。俺は天才やないかといったかどうかしらないが、さっそく古物商にいき、L字アングル、チェーンを買う。今までの木製の箱に取り付ける。これで大成功。しかも経費はたったの1000円チョット。「わしって頭イイー、イエーイ」(そんなことは言わない)。


 −ここでまじめに注意点−

@ 箱の下に四寸角程度の柱を敷いてその上をローラーが滑るようにする。

A 箱の尻は地面から20cm程度で止まること。こうしないと地面にひっ掛かり軽トラックを出せなくなる。

図−1

 こうして、なんとか堆肥下ろしには成功。だが次なる難問がじいさまを襲った。下ろした堆肥である。1カ所にそのままにしておくわけにはいくまい。
 そこでまた夜寝しながら昼寝して考えた。「要するに下ろした堆肥をそこら周辺にいい具合に散らしゃいいじゃか。そうじゃ乗用トラクターと軽トラックのあおりでやりゃあ、いいやんか。わしって、とってもアッタマー、イー」(そんな事も言わない)。

 −どういうものにしたか−

@ 乗用トラクターの尾輪をはずす。

A 軽トラックの側面のあおりを尾輪とおなじ太さのパイプで取り付ける。

B トラクターのロータリーを回転させながら堆肥の小山を崩していく。

C 状況によりロータリー部を上下させながら何回か繰り返すと思いのままに散らすことができる。

 (じいさま曰く、最近のトラクターはコンピューターを搭載しているが、これははずして使うこと)

写真−5 乗用トラクター利用堆肥散らし

 これを使いはじめて一番喜んで盆踊りしたのは奥さん。(そんなことはしないって)。なにしろ堆肥散らしは重労働。これから解放されたものだから喜ばないわけはない。その日から母ちゃん機嫌のいいこと。
 「さて、つぎなるものは草刈りの時に考えた。どうせ草刈っていくのなら同時に集めることができたらええのになぁ……」から考えたのが針金1本でできる、「草刈機取り付け手動集草機」なるものである。これの作り方はとても簡単。

写真−6 草刈機利用自動集草機

 草刈機の回転刃の上に針金(野菜トンネル栽培用のもの)で弧をつくり取り付ける。たったのこれだけ。ただし、牧草の草丈に合わせて上下に引き上げ、引き下げができることがミソ。
 イタリアンライグラスなど余り伸びていないときに草刈機で刈ってしまうと、辺り一面、よくもまぁ上手に散らかしたとため息がでるくらい。その後で集めるのがとっても大変。「わしって、とっても無駄な労力使って因果な仕事しているのやぁ」。しかし、これを使いはじめて労力は今までの半分。頭と手先は生きてる時に使うに限る。この他にこのじいさまは炊飯器のタイマー利用の「自動スタンチョン、ベニヤ板製肥料散布機」段ボール作成機(ホッチキス打ち台)兼梱包台」などユニークな発明をしている。私が訪ねた時も「おまん、今わしゃーの自動簡易噴霧器を考えちゅき、試作段階じゃが、見せちゃうき」といって小型の噴霧器もどきを見せてくれた。じいさまとはいえ、この旺盛な研究心、農業に対する取り組み姿勢にはおどろく。仕事は楽にするがモットーである。そして、「楽しみなくてなんの農業」と言い切る。

 

写真−7,写真−8 炊飯器タイマー利用電動スタンチョン

 「おじいさま」は(突然「お」をつけるわたしって何?)、元プロの修理屋サン。それも旧日本海軍の機関兵なので相手にしたものがすごい。潜水艦、巡洋艦、ゼロ戦等だから今の型にはまったあたりまえの整備士とは発想も考えもちがう。このおじいさまの経歴もすごいが、現在でも町会議員等の要職を兼務し、かつ農業にも積極的に知恵をしぼり楽をする。3、4年前に普及所に頼まれて年間労働時間の調査をしたとのことで、出た結果は1500時間。(ただし、これは2人でだ。いやーとんでもない。いや、とってもとんでるのよネ。これ計算すると1日2時間だよ)。とにかくさまざまなとっても役に立つ機械類を考え作製する。そしてさまざまに使いこなす。(最近の農家は機械貧乏。その上、買った機械は充分に使いこなしていないのではないか)。このことで8時半起床〜4時終業、しかも週休2日をやってしまう。とってもすごいとは思わないか。しかも銀行の口座、農協の口座はすべて奥さん名義。(そういえば、奥さん名義の口座がないと奥さん自由に使える金がないなんて言う論争騒ぎが何年か前にあった)。自分がもらう小遣いは趣味の囲碁とパチンコに使う。仕事が早く片付けば囲碁にもパチンコにも日中にいける。夏の暑い時はクーラーはきいちゃうしモー最高。

 最後におじいさまの言。
 「仕事がしんどけりゃ、何かえい方法はないか考えてまずつくる。百姓仕事につかうものだから図面を引いたりいろいろ考えるこたあない。3〜4cmのちがいなど気にするこたあないがよ。悪けりゃ直しゃあえいし。とにかく自分に満足できる物ができたらそれでえい。そして人が2日かかる仕事を1日でやったら残った1日は遊ぶ。遊んだちそれで人並のことができたら文句を付けられる筋合いはない。考える時は、楽しみながら楽するためにするものよ。へへへ。(笑う)どうじゃい 畜産会まいったか」。
 当然、このおじいさまには、ちゃんと後継者がいる。

(筆者:高知県畜産会 畜産コンサルタント)


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