生産技術セミナー

SEWによる養豚の生産性向上

中村 慶逸

 

はじめに

 最近の養豚を巡る情勢は、これまで長く続いた豚肉の計画生産から国内生産の維持・安定へと大きな変化を迎えています。
 この安定的な生産の確保のためには、国内生産基盤の強化が必要であり、国際化に対応した可能な限りの生産コストの低減や豚肉の品質向上、環境保全対策および衛生対策の充実等による養豚経営の体質強化と安定化が求められています。
 このことから、ここでは今話題となっているSEWによる生産方式について、一昨年のカナダにおける調査事例をもとに紹介するとともに、農村の活性化等についても考えてみたいと思います。

 

SEWとは

 SEW(早期離乳隔離方式)は、Segregated Early Weaningの略称であり、米国において1980年代末に開発された新しい飼育技術で、早期離乳した子豚を分娩農場から離れた育成・肥育農場に移動させ、母豚から分離(隔離)して育成・肥育する生産方式のことをいいます。
 また、一方ではマルチサイトプロダクション(Multi Site Prodution)という言い方もあり、SEWと同様な意味で使われている場合もあります。このマルチサイトプロダクションとは、分娩、育成、肥育を分離して複数の場所で生産する(多場所生産)ことを指しており、例えば、「分娩+育成」と「肥育」、または「分娩」と「育成+肥育」のように2つの分離生産する2サイトプロダクションや「分娩」と「育成」と「肥育」の3つに分離して生産する3サイトプロダクションが代表的な生産方式になっています。

 

SEWの生産方式に到達するまでの経緯

 1980年にアレキサンダー博士等により、隔離した分娩舎において分娩させた母豚と子豚の双方に投薬を行い、5日間で離乳するMEW(投薬早期離乳法:Medicated Early Weaning)が提唱されたが、この方法は外科的手術をすることなくSPF豚と同等の衛生レベルの子豚を産出できたものの、離乳後の子豚の事故が12〜15%と高いことが欠点として残されました。
 次に、コーナー博士やハリス博士等により考えられたものにMMEW(改良型投薬早期離乳法:Modified Medicated Early Weaning)があります。これはMEWよりも投薬量が幾分少ない代わりに、子豚の離乳時期が遅れることになります。
 この両方式とも離乳子豚は繁殖豚群と同一の農場で飼育するものでありましたが、SEWは繁殖、育成、肥育の3部門がそれぞれ離れた農場で管理され、かつ、21日齢未満(一般的には14〜20日齢)の早期離乳を行うことを原則としています。このため、SEWではMEWやMMEWよりも薬物に頼ることが少ないという長所となって発展してきています。

 

子豚の離乳時期はいつが良いか

 SEWは基本的には母豚を効率的に利用するために考えられたもので、母豚や施設等の回転率を高めるために採用されたものでありますが、一般的にはより早い離乳によって子豚は一つ以上の疾病に感染する機会が少なくなるといわれています。
 このことは、母豚は子豚に対して大きな免疫を与えますが、一方では子豚に対して疾病の垂直感染源になっているということから、子豚の離乳時期は14日齢前後が推奨されています。
 これは、分娩後10日前後より子豚自身が抗体を作り始めるまでは、母豚の初乳からの移行抗体が疾病の感染を防いでいますが、親からの移行抗体と子豚の産出する抗体を合わせたレベルは、生後14〜21日頃が最も低くなることから、14日齢前後で離乳することで親の周辺環境からの病気感染の危険度を低くすることが出来るということに基づいています。

 

離乳子豚の移動に伴うストレス対策

 従来から離乳に際しては、できるだけ子豚にストレスを与えないために、子豚を分娩豚房に置いたまま、母豚を移動したり、予め哺乳期間中に人工乳の飼料を給与して配合飼料に慣らすなどの工夫をしていると思います。また、豚房を効率よく使用するためには専用の離乳豚房に子豚を移動しますが、その場合でも環境温度を幾分高く設定していると思います。これは、離乳に伴う子豚の一時的な発育停滞を防ぐために出来るだけ採食量を維持または増加させるために行われているものです。
 カナダのオンタリオ州で実際にSEW方式を採用し、14日齢離乳で育成農場に搬入された子豚に対するストレス対策として、次の3つのことが施されています。

@ 離乳子豚が母豚の側にいるような環境づくりのために、保温のライトを2〜3日間照射する(電気による光と給温)。

A Ca、P、Zn、Cu等を含む総合ミネラルの給与と新鮮な水(抗生物質を混ぜる農場もある)を欠かさない(総合ミネラルと清水3日間連続投与により子豚の体内の抵抗性を高める)。

B 良質の代用乳を給与する。

 このように、子豚に対する急激な環境の変化を緩和するような対策のほかに、豚舎自体はウインドレス豚舎で、内部は各部屋になっており、温水による床面給温とガスヒーターの温風をダクト送風して温度管理している。

 

SEWの経営的なメリットと課題

 SEWは新しい養豚管理システムであるが、現時点で考えられる利点と欠点は次のとおりです。

〔利 点〕

@ 疾病のリスクが少ない。
  (母豚からの疾病感染の防止)
A 分娩回転率が向上する。
  (母豚の年間産子数の増加)
B 育成・肥育期間を短縮できる。
  (育成率の向上、肥育豚の飼料効率の改善、出荷日齢の短縮、肥育豚の赤肉量の増加)
C 生産技術の細分化により作業が専門化して、作業効率が向上する。
 以上のことから、SEWの経営的なメリットとして衛生費、固定費(施設費、労働費)等のコストの低減ができるとしている。

〔欠 点〕

@ 多額の施設費が必要である。
  (SEWは2〜3ヵ所以上の農場を必要とし、全体からみると土地、豚舎、ふん尿処理施設等の投資額が増大する。これら固定費の増加を生産性の向上効果で補うことができるかどうかがポイント)
A 子豚のストレス軽減対策と給与飼料の精密化が要求される。
  (総合ミネラル剤と良質代用乳のコストアップと離乳子豚の発育にあわせたより細かなフェーズ・フィーディングが必要)
B 子豚の輸送コストが生産費に上乗せされる。
  (離乳子豚と肥育用もと豚の農場間輸送コストが新たに発生し、一貫経営ではありえない余分なコスト)
C 部門ごとの技術のスペシャリストが要求される。
 (分娩・育成・肥育と細分化することにより、システム全体として部門ごとの高度な専門技術が必要)
D 一定以上の母豚規模が必要である。
 (効率的な経営を行うためには、種豚群を大きくし、同一時期の分娩数を多くして同じ日齢の子豚を同時に離乳し、母豚から隔離することが要求され、母豚群の規模は最低でも600頭以上、必要であるとされている)
E 飼育契約の内容を吟味する必要がある。
 (契約飼育の場合の飼育料あるいは子豚の売買価格の設定方法、事故が起きた場合の損失の負担区分、各サイト〔農場〕ごとの投資額、労働に見合う適正な利益配分方法等)
 この他、離乳日齢を何時にするのか。今のところ、14日齢離乳による母豚の生産性の低下への影響(離乳後の発情回帰の遅延など)は不明である。
 但し、10日齢以内の離乳は母豚の子宮の回復に不安があるとともに、発情再起日数が延び、離乳後の受胎率が低く、1腹当たりの産子数も少ないといわれている。

 

SEWの実際例

 カナダのオンタリオ州とマニトバ州で実際にSEW方式を採用している農場では、離乳日齢が14または21日齢、サイト(場所数)も2ないし3と、その農場の技術あるいは考え方によりさまざまであるが、共通していえる点は、農場間の子豚の移動及び出荷はオールイン・オールアウトを実施していることであった(表−1)。

 特に出荷のオールアウトについては、販売に有利な体重に揃えることと、次のもと豚導入予定時期との調整が課題となりますが、各農場とも出荷時期を決定する基準を設定しており、例えば、体重が95kg以上の豚が95%以上に到達時に全頭出荷などです。
 次に、生産契約のしくみとして、3サイトシステムを採用しているブランディーポイント農場について紹介します。
 農場主(オーナー)のブランディー農場では、もともと種豚生産を目的とした農家養豚から規模拡大し、種豚生産用母豚750頭と一貫生産用母豚750頭の合計1500頭をけい養して、一貫生産用母豚から生まれた自家産の離乳子豚を対象にSEWを活用した契約生産を行っている。労働力は経営者を含む常時雇用6名とパート2名で運営している。
 この繁殖農場で生まれた子豚を14日齢で離乳(4.5kg)し、2〜3km離れた次の育成農場(アンディー農場)に移動し、ここでは9週齢(体重25kg)まで育成する。この後、ほぼ同じ距離の離れた肥育農場(デーブ農場)へ肥育もと豚として搬出し、150日齢(体重105kg)まで肥育して出荷する。

 なお、子豚育成段階の生産技術の特徴としては、次のとおりです。

@ 豚  舎:ウインドレス豚舎、300頭×8室=2400頭収容(3平方フィート/頭、約0.81u)


A ふ ん 尿:プラスチック製スノコの下のふん尿溝に一時貯留、スラリータンクに1年間貯蔵して8〜9月に飼料畑に散布
B 暖  房:床面給温(温水)、ガスヒーターの温風により室内を温度調節
       子豚導入時〜室温25.6℃
             床温29.4℃
       4週間後 〜室温18.3℃
             床温20.0℃
C 入 排 気:入気は天井裏から排気量に応じて自動的にダンパーが開閉、排気はふん尿溝から、温度上昇時には壁ファンから強制排気
D 給与飼料:4段階給与、第1段階(0.5kg/頭×3日)、第2段階(3kg/頭)、第3段階(4.7kg/頭)、第4段階(21kg/頭)、但し、第1段階のミルクはCA$1300〜1400/tと高価である(一般のミルクの約1.7倍)。

 

契約生産の諸形態

 カナダのSEW方式によるマルチサイトプロダクションは、支払い契約生産に基づいた独立分業システムとして飼養規模の拡大に貢献しているが、その形態は一様ではありませんでした。
 この契約生産に関して、我が国においては昭和30年初期にブロイラーの契約生産が始まりといわれており、これを契機に鶏卵、豚等の契約飼養へと拡大し、いわゆる畜産インテグレーションと呼ばれるものとなりました。その後、昭和48年の石油ショックを境に見直しがあったものの、飼料原料を輸入に依存するもとでの現在の養豚インテクグレーションは、おおまかに、@商社、飼料、加工の大手資本型、A農家養豚から大規模養豚に成長した企業的養豚集団型、B農業資本による系統農協型の3つの形態に分類されます。また、これらの形態には生産・加工・販売が一つの資本によって結合されているもの、複数の資本が個々の企業によって機能を分担して結合関係を併存させているものなどがあります。
 いずれにしろ、養豚農家戸数および飼養頭数が減少し続けている現状では、集団化あるいは個々の農家のネットワーク化が必要であると思われます。

 

農村の活性化対策について

 小・中規模層の養豚農家における飼養中止が続いていますが、豚価の動向を除けば高齢化(後継者不足)とふん尿処理問題が主な原因としてあげられます。
 SEW方式によるマルチサイトプロダクションは、これまでの一貫生産による集約度を高めた生産方法とは全く逆の発想〔連続・集中→断続・分散〕にあると思います。
 農家養豚においては、個々の共同組織による生産形態も今後、一考に値するものと考えられます。
 例え、高齢者であっても地域には子育ての上手なご婦人もいるでしょうし、発情観察、交配の得意な人も必ずいると思います。1農場当たりのふん尿処理量も軽減し、肥育はハウス豚舎を利用し、地域飼料資源を活用して特色ある豚肉生産を行うことができ、各段階で「顔」が見えることになります。
 ただ、この方式の大前提はお互いの信頼関係と種豚の斉一性が必要になることは言うまでもありません。
 (本稿は「平成7年度養豚先進国実態調査報告書」(社)中央畜産会をもとに作成するとともに、貿易日日通信社編「養豚産業・その全貌と展開」を参考にしました。)

 

(筆者:青森県畜産試験場研究管理員)


 

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