生産技術セミナー

トウモロコシのラップサイレージ技術

森本 一隆

 

はじめに

 従来、トウモロコシやソルゴー等の長大飼料作物は、「タワーサイロ」「半地下式角型サイロ」「バンカーサイロ」等の固定式のサイロ施設によりサイレージに調製保存され、粗飼料として用いられてきました。
 一方、イタリアンライグラス等グラス類の飼料作物の調製保存方式としては、近年大型酪農家を中心にいわゆるロールラッピングサイレージ方式が著しく普及しております。このロールラップ方式は、「サイロや倉庫等の貯蔵施設を必要としない」「サイレージの運搬及び取り出しが楽である」といった利点があります。
 農家の中では、グラス類のロールラップサイレージ体系の機械装備も、夏作のトウモロコシやソルゴーにも用いることができないかという声がありました。
 トウモロコシ等の長大作物のロールベールラッピング技術は、小型のミニロールベール(50kg程度)の実用化技術について報告がありますが、大型のラッピングマシンに対応した技術はありませんでした。
 鳥取県畜産試験場では、大型ラッピングマシンに対応したトウモロコシのラップサイレージ技術の確立と実証について平成5年〜7年度に、当場(鳥取県畜産試験場)の粗飼料生産の中で取り組み、トウモロコシのラップサイレージを実用化しました。

必要な機械装備及び作業体系

 トウモロコシのラップサイレージ作業に必要な機械装備は次のとおりです。

 トラクター  4台
 コーンハーベスター
 ファームワゴン(またはダンプトラック)
 ブロア
 ラッピングマシン
 ベールグリッパ

 トウモロコシのラップサイレージ作業工程は図−1に示すとおりです。後で詳しく説明しますが、コーンハーベスターで刈り取ったトウモロコシをワゴンまたはダンプトラックで運搬し、ブロアを用いて袋に詰めた後、ラッピングし発酵、保存するといったものです。

 次に研究の経緯を述べて、トウモロコシをラップサイレージとするための工夫を説明します。

研究の経緯

<平成5年>
 まず平成5年は、トウモロコシのラップサイレージが可能かどうかを知るために、1ha分のトウモロコシでラップサイレージを試作しました。トウモロコシはコーンハーベスタにより短く切断されており、そのままロールしたりラップしたりできないため、袋に詰めた後、ラップ作業を行うこととしました。
 平成5年はトウモロコシを充填する袋に、目の細かいネット袋を使用しました。
 充填作業は、トラクターで牽引したワゴンの上に充填用ホッパーを作成し、そこからネット袋にトウモロコシを落として行いました(写真−1)。

写真−1 ホッパーを使ったトウモロコシの充填

 トウモロコシを充填されたネット袋のワゴンからラッピングマシーンへの移動は、フロントローダーで吊り上げることにより行いました(写真−2)。

写真−2 充填したトウモロコシの積み込み

 ラッピングの方法は、イタリアンライグラス等のロールベールと同じラッピングマシンを用いましたが、袋詰めトウモロコシの形態がやや不整であったため、ラッピングにムラがありますので、サイレージの高い気密状態を確保するためにラッピングの回数を通常の2倍の12層6回巻きにしました(写真−3)。

写真−3 トウモロコシサイレージのラッピング


 平成5年に試作して判った問題点は、次の点でした。

1)ネット袋では、袋の伸縮性のためロールの形態が安定せずラッピングしにくく、出来上がりのラップサイレージの形態が安定しない。

2)高い密度にトウモロコシを充填するためには、袋の上から足で踏み込む必要がありますが、充填用ホッパーはそれには不都合である。

3)移動しながらトウモロコシを袋詰めするため、これを積み下ろしするトラクターを運搬するためのトラクターが必要である。

<平成6年>
 平成5年に明らかになった問題点から平成6年は充填方法を変更しました。
 移動しながらの充填は止め、充填作業を行う場所を固定し、そこまで刈り取ったトウモロコシをワゴンで運び、ブロアを使って充填しました(写真−4)。

写真−4 ブロアを使ったトウモロコシの充填

 トウモロコシのブロアへの落とし込みにはシュートワゴンまたはエレベータワゴンを、ブロアはタワーサイロ用のものを用いました。 また、ネット袋は変形しやすかったため、この対策として袋には稲もみ用の袋等に用いられている素材であるポリプロピレンクロスを用い、畜産用カーテンの揺れ止めテープ(ビニール素材の帯)を縫いつけた袋を自作しました(写真−5)。

写真−5 ポリプロピレンクロスの袋

 袋の作成方法は図−2に示したとおりですが、袋の大きさはラッピングマシーンの能力に合わせるため、口の円周3.70m、袋の高さ2.50mとしました。袋の作成は、幅2m、長さ6mのポリプロピレンクロスを二つ折りにし、両側を袋状に縫い合わせ、底面は直径1.2mの円形になるように縫い込んで行いました。

 袋の材料費は、布代に約1,000円、吊り上げ紐用テープ代に約1,400円の計約2,400円でした。
 この袋を用いることによりトウモロコシの充填後、移動作業やラッピング作業による変形が小さくなり、ラッピングがよりスムーズに行えるようになりました。
 トウモロコシの充填作業については、充填用ホッパーの使用を止め、ベールグリッパに帯状ゴムにより袋を固定し、ブロアで充填作業を行うように変更しました。
 充填密度を高くするために、ブロアで吹き込みながら上から足で踏み込みました。また、トウモロコシを袋に詰め込む量は、ラッピングにより若干圧縮されることを考慮し1.40m程度の高さまで積めました。
 ラッピングは前年と同様に12層6回巻きを行いました。

 平成6年に明らかになった問題点は、次の点でした。
1)ブロアの吹き出し口の下でトウモロコシを足で踏み込む作業は、塵埃を被りながらの作業であり重労働である。

2)袋への充填密度を高くしておかねば、ラッピング時に袋が圧縮されると逃げ場を失った空気によりラップが破裂する。

3)踏み込みを均等に行わねば、ラッピング後のサイレージの形状が変形する。

<平成7年>
 平成6年でほぼ技術的な目途ができたため、鳥取県畜産試験場のトウモロコシの貯蔵方式を、タワーサイロからラップサイロへ全面的に切り替え、技術の実証を行いました。
 また、平成7年はトウモロコシの充填作業のうち足で踏み込む作業を機械化するため、ベールグリッパを改造し油圧式のトウモロコシ圧縮装置を取り付けました(写真−6)。

写真−6 トウモロコシの圧縮装置

 

トウモロコシラップサイレージの飼料特性

 トウモロコシラップサイレージの出来上がりは、何れの年も官能検査では、色、臭い等非常に良好でした。
 粗飼料分析の結果は図−3・4に示したとおり、原物中の水分含量がタワーサイロのものと比べ若干低いものとなっております。これは、ラップサイレージは詰め込み後の廃汁ができないため、原料の水分含量を少なくするためにトウモロコシの刈り取り時期をやや遅くし黄熟期の後半から成熟期に刈り取るためです。


 乾物中の飼料成分はタワーサイロのものと大差ない結果となっております。
 開封したトウモロコシラップサイレージは、写真−7のとおりです。ラップサイレージは開封した後に熱を持ったりすることがなく、開封後の2〜3日経過しても変敗がほとんど見られません。
 また、詰め込み後2年間保存したトウモロコシラップサイレージも品質の変化は見られませんでした。

写真−7 開封したトウモロコシサイレージ

 

ラップサイレージの作業効率

 トウモロコシのラップサイレージと一般的なトウモロコシサイレージの作業工程を比較するとラップサイレージではラッピング工程が一工程が多くなっています。作業能率は、ラップサイレージは1日当たり0.4〜0.5haの漬け込みであるのに対し、タワーサイロでは1日当たり0.5〜0.6haの漬け込みであり、収穫の作業効率は大差ありませんでした。

 

ラップサイレージの経済性

 ラップサイレージの費用として、ラップ1個当たり袋代に2,400円、ラップフィルム代に1,500円が必要です。しかし、袋は再生利用できるためその分の費用は安くなり、袋を10年間使用した場合、ラップサイレージ1個(約1m 500kg)の梱包経費は約1,740円となります。
 一方、コンクリート角形サイロやタワーサイロを20年で減価償却する場合、サイロの形式にもよりますが、1年の償却費は1m当たり約860〜1,200円程度となります。
 やや、ラップサイレージの方が割高となりますが、固定サイロには償却費以外にサイレージの取り出しのためにサイロクレーンやアンローダーといった設備が必要であること、メンテナンスのための費用が必要なことを考えると固定サイロの経費はもっと高いものになります。

 

まとめ

 以上述べた点を総括するとラップサイレージの利点としては下記の点が挙げられます。

・固定サイロ施設が必要なく、サイロ容積に制限されることなく、収穫量に合わせてサイレージ貯蔵量を増加させることができます。

・サイレージの取り出しのためにアンローダーやサイロクレーン等の施設が必要ありません。

・1個ずつラップしてあるため、常に新鮮な良質のサイレージを開封し給与できます。

・開封した翌日になっても熱を持ったりすることがなく、開封後の変敗が少ない。

・野積みで長期保存が可能です。

・給与量をラップの個数により把握できます。

 このようにトウモロコシラップサイレージは多くの優れた点のある技術ですが、現場での技術の応用には次の点の工夫が必要と考えられます。

1)トウモロコシを詰める袋の大きさは保有しているラッピングマシーンンの能力に合わせて決める必要があります。
 また、ラップサイレージのコストダウンのためには安価に袋を作成することが必要です。出来合いの適当な袋があれば、それを利用するのも良い方法です。

2)袋への充填作業が作業全体の速度を決定する行程となりますので、充填作業をより効率的に行い、1日のサイレージの漬け込み量を多くする工夫が必要です。

3)以上述べた作業体系では、刈り取りから詰め込み作業に3〜4人の労力と3台以上のトラクターが必要であり、農家においては共同作業が必要となりますが、1戸の農家で作業を行う場合には、作業体系の工夫が必要です。例えば、ブロアを用いず、フロントローダーでトウモロコシを袋に詰め込むのも一つの方法かもしれません。

 トウモロコシのラップサイレージ技術はソルゴー等にも応用でき、サイロ等の固定施設が必要でなく、出来上がりのサイレージも良質であるといった優れた技術ですので、個々の農家の事情に合わせた工夫をすることにより、農家への普及を大きく期待しています。

 

(筆者:鳥取県畜産試験場 繁殖科)


 

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