明日への息吹

WAKAYAMA PORK TON TON

山添 博次

 

ある朝、とあるお店でのことです。

「なーお兄ちゃん、さっき×××の店でなぁ、肉売ってるとこあるやん、そこでなぁ、思いっきり怒られてん。なんやのあの店のおっさん、腹立つわぁ。客をなんやとおもてんのや、ほんま腹立つで、気分悪う」

「ちょっと奥さん、何ですの急に」

こんなことから会話が始まりましたが、わかりにくいので訳します。

 

おばさま:「実は、さっき行ったお店で、最近の豚肉はどこで買っても同じで、家の旦那は気にいらんて言って機嫌悪いの。おいしい豚肉ないかしらって尋ねたら、お店のおじさんが急に怒りだしたのよぉ。本当に気分悪いわ。あー気分悪い、本当に腹の立つ、イーッ!チクショー、・・・(ブツブツ、ガミガミ)」

店員さん:「まぁ奥さん、そんなに怒らないで。それからどうしました」

おばさま:「えーっと、そうそうそうしたら、おじさんが急に怒りだして、大きな声で、『ここには、文句のつけられるような肉は置いてないよ。いやなら、よそで買いな、この店は文句買うほど暇じゃねえ』って言うのよぉ。立腹しちゃうわ本当に。あのお店どうなってるのかしら、朝から気分が悪いわ。あーいらいらする、キーッ、・・・(ギャアギャア、ブチブチ)」

店員さん:「まぁまぁ奥さん、落ち着いて。(ナンナンダ。このおばさんは、この店によその店の文句を言いにきたのか?)それはそうと、どうしたの。それから」

おばさま:「えっ。あっそうそう。それで、言ってやったわ。お客の相手もできないこんな店で、二度とお肉は買いませんって。そのあとおまけに、店のケース蹴飛ばしてやったの。おじさん目をむいてたわ、おもしろかった。でもね、そのつぎの瞬間、蹴った足が痛くて痛くて目から火がでそうだったのよ」

店員さん:「へぇー、目は忙しいんですね、むかれたり、火をだしたり」

おばさま:「冗談言ってる場合じゃないのよ、お兄さん。ちょっと聞いてよ。それでも格好悪いでしょう。自分で蹴っておきながら、痛くてその場にうずくまるなんて。

  だから何とか痛くない振りしてその店から遠ざかったの。こんな話しってあるう。足が痛いし、気分が悪いし。

  わかるぅお兄さん。アタシのこのカヨワイおみあしがこんなになっちゃって。わっはっは、がっはっは」

店員さん:(ナンダ。このおばさん、さっきまでえらく機嫌が悪かったのに今度は急に笑いだしたりして。確かに立派な肉付きの足だが、一緒に笑うわけにはいかない。そうだ、話題を変えよう)

 「ところで、奥さん。豚足の・・」

おばさま:「えっ、なんだって」

店員さん:「いやいや、豚肉のことなんだけどね。最近いろんな店で変わった豚肉が置いてますよねぇ、△△だの□□だの。そんなの食べてみましたか」

おばさま:「そうなのよ。いろいろ買って帰るんだけど、家の旦那にどれ食べさせても機嫌悪くってぇ。あっちのほうもナニでアレなのよぉっ。」

店員さん:「ナニって、なんです」

おばさま:「ナニって言えば、アレのことじゃないの。あらやーね。お兄さん、男前なのにナニだって、キャーッ」

(バシッ!)

店員さん:(イテーッ・・ナンナンダ? このおばさん、ちょっとやばいんじゃないの・・・。話題を戻そう)

「おいしい豚肉がねぇ」

おばさま:「そうそう、おいしい豚肉とか、ハムとか、ソーセージはないの。アタシみたいなフレッシュなヤツ」

店員さん:(「ふれ“っしゅ”なヤツゥぅ」

 そのあと、この気のいい店員さんに、根ほり葉ほり(二転三転)おはなしを聞いてみた。結局のところ、このおばさんの意向は、

 “最近の豚肉・ハム、ソーセージ(近所で売っているもの)は、そこそこおいしいものもあるが似たり寄ったりで、旦那さんの機嫌が悪い。そこで、旦那さんを納得させるようなものを、店に置いてほしい。”ということでありました。

 そこで、店員さんがおもいついたのが、

「よしっ!自慢のDOS/VでNetsurferッてみよう」

 つまり、店員さんの自慢のパーソナルコンピューターのDOS/V機を駆使して、インターネット上で検索を行い、ハム、ソーセージ、豚肉のよい情報を入手しようということでした。

 

 その夜のこと、店員さんは、自慢のパソコンの前で、

「えーっと、ここをこうしてクリックリッ。接続が完了したらっとクリックリッ、あっちのほうをナニで、アレするっとクリッ。おっといけねぇ、昼間のおばさんがうつっちまった」

「とりあえず、和歌山県のホームページをひらいて、URLはhttp://www. wakayama. go. jp/(カシャカシャ、クリ!)

「お肉の情報はないかな。なになに、『和歌山畜産広場』ってのがあるな。豚肉も畜産物にはかわりない。これになんか情報はないかなクリッ!」

「へぇー、いろんなことがのってるなぁ」

「おぅ、『ようこそ!TON TONの、手作りハム工房へ!」ってのがあるぞ。こいつはどうだろうクリッ」

「なんと!!!これだぁ!!!俺の求めていたのは」

 和歌山県の高野山の麓「姉山、背山・・・」万葉集にも書かれている古い町、そんな町に私達のハム工房があります。

 私達の作るハムは、すべて私達が育てた豚、人工乳・ホルモン剤・抗生物質など使わず小豚から自家配合飼料で育てた健康豚が原料です。化学調味料や添加物などを、一切使用しない手作りハムです。

 沖縄の潮風で育てられた塩、奄美の太陽の下で育った黒砂糖、紀州特産の木炭でゆっくり乾燥させ、桜の丸太で燻して仕上げます。煙の香りに私達の心が伝わります。

 

○ 手作りハム工房

 私達のハム工房は、和歌山県は高野山の麓、全国でも珍しいひらがなの町名、かつらぎ町にあります。

 もともと無農薬、有機栽培で野菜や果物を栽培していました。野菜などを食べていただいている消費者の方々から、「おいしくて安心して食べられる豚肉を提供してほしい」ということで始めました。

 母豚60頭の小さな養豚場です。

 初めは、お肉だけを販売しておりましたが、なにせ自家産の豚肉だけですので、どうしても余る部位が出来てきます。そのお肉を使って、ハムやソーセージを作っていました。

 3年がかりで自作の加工場が完成(平成7年)し、本格的に製造するようになりました。

 

○ すべて私達が育てた豚

 私達は、豚も人間と同じだという考えに立って、良い環境で良い物をバランスよく与えれば健康な豚が育つと、考えております。

 飼料はすべて自家配合です。一般に自家配合豚といわれれている豚肉でも、ミルクや子豚の飼料は一般の飼料を使っている場合が多いのですが、それではあまり意味がないと考えております。

 ロスも大きいのですが、人工乳などを使わず、子豚の飼料からすべて自家配合です。

 もちろん抗生物質やホルモン剤、酸化防止剤などは、使用しておりません。

 豚に海草粉末や天然鉱物等を与え、ヨード含量の多い肉になっております。

 生まれた子豚は、母豚から離乳した後、セメントの上では飼わずに踏み込み床の豚舎で、180日かけて育てます。

 

○ 手作りハム、ソーセージ

 私達の作るハムやソーセージは、無塩せきです。

 もともと塩せきとは、塩だけで漬け込んだ物を塩せきとされていましたが、近年、塩せきの解釈がかわり、亜硫酸塩などの薬品でつけ込んだ物を塩せきというようになりました。 TON TONで作っているハムやソーセージは、塩と天然香料だけで作っているので、無塩せきハム、無塩ソーセージと明記しなくてはなりません。

 沖縄の塩、奄美の黒砂糖、天然香料だけを使い、また、天然羊腸、豚腸に充填し、桜の木でゆっくりと燻します。

 

 てなわけで、店員さんはオイシイ情報をものにしました。

 だが、彼は店員である以上、「実際に物を確かめてみたい!」というプロ根性が沸々メラメラとわきあがってきたのでした。そう、プロならやっぱりミクロとマクロ、デジタルとアナログを兼ね備えておかなければ。

 翌朝早速、店員さんは、TON TONさんに連絡を取り、いそいそと出掛けていきました。そこで、彼が見たものは。

 概要は、つぎのとおりです。

● 養豚経営のきっかけ
 WAKAYAMA PORK TON TONの代表・大浦秀樹さんは、15年ほど前に三重県の愛農学園を卒業し、親父さんの農業を手伝っておりました。学園では、酪農を専攻し、ノルウェーで1年半の研修も受けておりました。しかし、実家に戻った頃は、牛乳がだぶつき気味で新たに酪農を行うには、多少の障害がありました。そんな中、親父さんの野菜や果物を買っていただいていた消費者の方から、おいしくて安心して食べられる豚肉が欲しいとの声があり、一念発起して養豚業を始めることにしました。

● 養豚を始めた頃
 種豚を導入し、飼い始めの1カ月間は完全配合飼料で飼養しましたが、“おいしくて安心して食べられる豚肉”をめざし研究を重ね、その後は自家配合飼料で一貫経営を行い、豚肉を供給しておりました。育て上げた肉豚を処理場に運び、枝肉を持ち帰り解体・脱骨、スライスして、パック詰めで豚肉を供給しておりました。

● 加工のきっかけ
 当初は、精肉のみを1頭分セットで供給しておりましたが、需要のバランスからして、どうしても余ってくる部位があります。そこで、その肉を利用して、ハムやソーセージに加工しはじめたのが10年ほど前のこと。安定剤やPH調整剤などを使用しないがため、作り始めたころは、よく失敗し泣く泣く捨てたそうです。しかし、研究に研究を重ねた結果、化学調味料や添加剤を一切使用しない手作りハムができあがりました。

● 自家販売を始めた頃
 加工品を作り始めた頃は、「食品衛生管理者」の資格がなく、業者からの「委託製造」という形で供給していましたが、4年前に単身で東京に乗り込み、50日間の研修の後、その資格を取得しました。そのころから急に評判が広がり注文が増え始めました。

畜舎の全景;山の中腹に位置し、畜舎からは紀ノ川流域が望める。

● 現在の状況
・肉豚生産部門
 種雌豚約60頭の一貫経営。5年前に2階建ての繁殖豚舎を、続いて肉豚舎を新築(すべて自分で設計施工)。月に約100頭を出荷しています。秀樹さん自身は毎日、奥さんが週に2日ほど飼養管理に携わっております。種豚の品種から飼料の配合方法まですべて自分たちで研究しております。生産された豚は、ほぼ全量自家販売仕向けです。

肥育豚房;自家配合飼料、踏み込み床で快適。

強制発酵施設;堆肥生産もバッチリ。

冷蔵庫内部;解体脱骨された豚肉。天井には、オゾン殺菌装置が設置されております。

・製造加工部門
 2年前に加工場を新築(自前で)。月に精肉5t、ハム400kg、ソーセージ400kgを生産しております。奥さんが主に担当し、男性の職人さん1人、2人の女性パートさんで製造加工をしております。脱骨のときは、ご主人も参加します。加工製品は写真のとおりです。

ハム工房の内部;カッティング・充填機など、施設機械は自前で設置。

燻煙施設;木炭と桜の木で、じっくりと仕上げます。

仕上げ室;真空パック機器などが、設置されています。

できあがった製品;これはフルセット。いずれもここにしかない逸品。

・販売部門
 担当は、大浦さんご夫妻。お歳暮商品には製品メニューを添付したり、ソーセージ手作り体験教室を開いております。
 いわゆる“営業活動”はしませんが、問い合わせや依頼が舞い込みます。依頼内容によっては、お断りすることもあるそうです(例えば、物産展への特定商品だけの出品販売など)。

・販売状況
 販売先は、個人または共同購入サークル的な集まり、自然食品店などで、全体で約1万戸の購入者がいます。販売量は4年前の約3倍で、注文に対する生産の調整が大変なときもあるようです。
・その他
 問題点としては、肉豚の生産量と販売量のバランスや売れ筋製品とそうでない物の調整があげられます。いずれにしても、種豚の生産から精肉、加工品の製造販売までの一貫経営からくる悩みです。

 

○ これからの展望

 肉豚生産面では、需要の伸びに応じて、徐々に規模拡大したいとのこと。近いうちに母豚を90頭まで増頭したいそうです。ただし、豚の飼養管理のために人を雇用することは考えていないとのことです。

 販売面では、まだまだ精肉のほうが好評すぎて、加工品が追いついていないので、これからは加工品の販売量を増やしていきたいそうです。また、その実現に向け現在インターネットでホームページを作成中です。できあがったら和歌山畜産広場からリンクできるようにしたいと思います。

情報検索中の大浦秀樹さん;事務所にはOA機器が設置されている。

 と、まぁーこんな具合で、店員さんはただただ仰天。それも無理はございません。

 いただいた商品も、なんとまぁおいしいことったら、これ以上のものは、今まで食べたことがないほどでした。

 

 それから、幾日か後、

 「あっ、あんときの奥さん、毎度おおきに。この間、奥さんとお話したあと、とんでもない物見つけましてん。ほかのお客さんには内緒やでぇ。奥さんにだけ教えたるさけ、うちの店のケースは蹴飛ばさんといてよぉ」

 「なんやの、天下とったみたいに幸せそうな顔して」

 「そうなんよ。えーもん見させてもろて、ついでに幸せまで貰うたや。まぁー、いっぺん食べてみなはれ」

 補足;このお話は、フィクションです。

 しかし大浦さん(WAKAYAMA pork TON TON)のお話は本当のことです。

 お問い合わせは下記まで

〒640和歌山市美園町5−1−1(JAビル内)

社団法人 和歌山県畜産会 山添博次

TEL 0734−26−8133

FAX 0734−35−2118

 


(筆者:和歌山県畜産会 畜産コンサルタント)


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