生産技術セミナー

養豚経営の高成績は衛生チェックから(1)

−養豚経営に学ぶ経営の基本−

宮内 一典

 

 養豚経営にとって衛生問題が経営に大きなウエイトを占めることは、従来より各指導者によって指摘されてきています。しかし、衛生上の差異がどの程度になるものかは個々の事例によっても差があり、養豚農家も衛生問題が大切なことは漠然と判っているのですが、その影響度合いを計りかねているのが実態であると思います。
 今回紹介する内容は、使用する種豚の系統が同じであっても、農場の衛生状況が異なるときに経営に及ぼす影響が経営を左右するほどの差となってくる場合があること、また、これからの養豚経営は“安全、安心”を消費者に提供する義務が生じてくることから、その状況に合わせた衛生管理が必要になってくることを理解してもらう参考になればと思います。


1.今、なぜ衛生が重要なのか

 日本の養豚業は、第2次世界大戦の後、各国より優秀な品種の導入を図り、生産性の向上を目指してきましたが、このことにより病気の進入もある程度許してしまいました。国や関係機関は十分に気をつけているのですが、品種、系統の選定、選抜、育種と病気の進入は切り離せない問題であったのです。
 また、養豚の規模拡大が急速に進んだため、大規模養豚場は1ヵ所の種豚場から定期的な種豚の導入が出来ず、市場からの導入をしたり、多くの種豚場から寄せ集めたりせざるを得なかったため、複数農場からの種豚導入に伴い異なる菌層の豚が同居することになり、農場の衛生状態が徐々に悪化していったのです。
 個々の農場でどの様に菌層の違いがあるのかHps(グレーサー病:一般の農場に常在しており、通常この菌単独では発病しない。ただし、他の疾病と重複した場合や、ストレスが懸かっている状況では熱発等の大きな弊害を起こすことがある)で調査した事例があるので表−1に示しました。ここで調査した農場は、種豚の供給をランドレース、大ヨークシャーを各1ヵ所、デュロックを2ヵ所より供給していますが、農場ごとでこの様に菌層の違いが出てきています。
 薬品の開発や使用方法の改善、また、関係機関の指導等により、日本の養豚が壊滅する様な事態は回避されてきていますが、いつ大きな疾病の発生による事故が起きるか、不安な状況で推移しているのです。


2.衛生問題を解決すると成績は向上する!

 このことを解決する為に、現在では種豚場を核とした生産ピラミッドが全国で形成されてきており、使用する種豚も国が指導する系統豚と商系が行っている合成豚に集約されてきています。この方式を採用するとGGP、GP、PS(CM)農場へと一方方向に種豚が供給されることになり、衛生的にはかなりレベルの向上が見込まれてきます。
 この方法により経営状況が好転した事例を表−2に示してあります。いわゆる在来豚と系統豚の能力の差もありますが、主に衛生面を中心として農場のクリーン度合いを高めたことによる生産性の向上が見られた事例です。この成績を見ると、分娩回転、分娩子豚数にはそれほどの変化はありませんが、離乳子豚数、育成率に差が現れ、飼料要求率については、かなりの改善効果が見られてきています。


 一方、国内に蔓延している生産性に大きな影響を与えている疾病をGCP(原々種豚場)の段階から排除して生産まで連結させていく方法も考えられています(いわゆる、SPF豚方式)。民間では日本SPG豚協会(現在6生産ピラミッドが加盟)が行っており府県の畜産試験場でも千葉県を初め、徐々に増加してきています。
 この方法とではCM農場(肉豚生産農場)においてもある程度の衛生管理が義務づけられていますが、その内容を検討してみると一般の養豚場でも本来は実行すべき項目が数多く盛り込まれています。ホクレン農業協同組合連合会が義務づけている条項を表−3に示しました。種豚がSPF豚協会ではCM農場の認定事業も行っており、全国で認定になった約100農場の生産成績を表−4に示しました。衛生面の徹底管理で生産成績がどの程度変化するのか、自分の経営と比較してみて下さい。


3.衛生問題解決の具体的手法は?

 それでは、一般の農場で衛生度を向上させていくためには、どのような方法があるのかを考えてみます。

(1) まず、農場に存在する病原菌の種類を調べます。

 調査は家畜保健衛生所や農協等の関係機関に依頼して、AR(萎縮性鼻炎)、SEP(豚肺炎)等の呼吸器に影響を及ぼすもの、PRRS、日本脳炎等の繁殖に影響を及ぼすもの、また、TP(トキソプラズマ病)等その他も調査した方が良いでしょう。

(2) 農場の状況をチェックし、影響度の大きいものから、対策を検討し、実行します。

 実行にあたっては、農場内細菌の感受性をチェックしながら最寄りの獣医師や関係機関の指導のもとに行います。くれぐれも過去の経験や自己判断のもとで行わないようにして下さい。

(3) 上の(2)を実行すると同時に農場全体の水洗を行います。

 農場を綺麗にするのには、水洗、消毒剤の散布、石灰乳の塗布等がありますが、最も重要で効果のあるものは水洗、消毒です。これをきちんと行うことにより、かなりの効果が生まれます(表−5)。
 一度に全体の水洗が困難な場合は豚房が空いた都度に水洗する様にします。また、種豚も移動した都度、豚体を含めて水洗する様にします。この方法で少なくとも年2回は農場全体を水洗することになります。
 豚舎が1棟空く機会があれば、豚舎全体をホルマリン薫蒸するとその効果が格段にアップします(このホルマリン薫蒸は一般農場SPF農場へ変換する場合に用いられる方法ですが、危険ですので実行は専門の人に依頼して下さい)。

(4) 種豚の導入は、衛生状態の良い種豚場から(1〜2カ所に限定する)導入します。

 前にも述べたように、種豚の導入など豚の移動に伴い病気混入の危険が増すので、繁殖能力、肉質等の資質条件も必要ですが、種豚場の衛生状況をより重要視し、また、長期的に安定した供給が出来る種豚場と契約することが必要です。
 また、種豚の導入にあたっては、導入後3週間程度は直に種豚舎に入れないで隔離豚舎で飼養し、自分の農場の菌層に馴致させてから種付けします。このことより種豚の移動、導入によるストレスの影響が軽減されることになります。また、Hps(前述)による導入後の発熱による各種の疾病予防ともなります。

(5) 豚の病気侵入を防止する上で更に重要なことは、人(従業員)の農場への出入り時点での衛生管理です。

 農場への病気侵入の原因としては、豚と人によるものがあり、この両方を規制していくことにより、始めて農場の衛生度が高まってゆくことになります。人(従業員)の守るべき条項は表−3の【従業員に対する注意事項】を見て下さい。

(6) この他に考えておかなければならないことは、農場の衛生状況を向上されるには、時間が必要であることです。

 SPF豚農場への変換であれば1年以内で農場をクリーンに出来ますが、一般農場のままで衛生度合いを向上されてゆくことは農場内に豚を飼養しながらの衛生アップである為に少なくとも2〜3年の期間は懸かるものであり、農場内の汚染状況によっては、それ以上になる場合もありますので、農場が綺麗になった後の生産成績の向上を目指して根気よく続けることが必要です。

養豚経営の高成績は衛生チェックから(2)へつづく

 

(筆者:ホクレン農業協同組合連合会畜産生産推進課)


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