畜産豆知識

マーケティング

 

 マーケティングは生産物に付加価値をつけて販売することです。そこから得られる収益増加は経営発展の原動力となりますが、同時に加工、販売対応にともなうコストアップや経営のリスク負担も考慮しなければなりません。そのバランスを保ちながら事業を軌道に乗せることが経営者に求められるマーケティング能力といえるでしょう。経営者は常に流通、消費の情報を収集・整理し、ビジネスチャンスを発見するように務めなければなりません。

 畜産法人に限らず、事業に取り組むうえでマーケティングが重要なことはいうまでもありません。しかし、農業では畜産経営を含めて生産者が零細なこともあって、自らマーケティングに携わることが少なく、マーケティング思考になじみが薄いように思います。そこでマーケティングを考える糸口として酪農経営を例に上げて具体的に話を進めましょう。

 一般的な酪農経営として経産牛40頭、1頭当たり年間7000kgの搾乳を想定すると、年間生産量280t、平均乳価90円で年間売上高は2520万円となります。家族経営で所得率30%なら所得は756万円です。ここで、生産効率を上げて5%の費用削減が図られれば所得は126万円増加します。また、品質向上で乳価が5円上がれば140万円の所得増加、搾乳500kgアップなら180万円の所得増加がもたらされます。このような生産の合理化による所得増加は経営にとって堅実なメリットではありますが、従来の経営のやり方を変えない経営改善の範囲であって、経営に飛躍的な発展をもたらすものではありません。何とか経営を飛躍させたいときにはどうすればよいのでしょうか。

 その答えがマーケティングにあります。生産段階では売上高2520万円でしたが、消費段階でkg180円で販売されているとすると280tの牛乳が5040万円の価値をあげていることになります。つまり、生産から流通、消費段階を経るうちに牛乳そのものが新たに2520万円の付加価値を生み出しているわけです。この付加価値を生産者が得るにはどうすればよいのでしょうか。すぐに思いつくのは消費者への直売でしょう。全量を消費者に直売できれば付加価値のすべてを手に入れることができます。しかも、農場から直接出荷することで新鮮、安全性をアピールできれば高価格設定も可能かもしれません。しかし、一方で直売はパッケージ、保管、受注、配送、代金回収、広告宣伝などさまざまな追加コストを要します。さらに280tを販売するためには1世帯1日1gの契約でも年間約800世帯との取引が必要で、それだけの顧客が確保できないとこのような事業構想は絵に描いた餅になってしまいます。加工販売のときも同じことがいえます。ヨーグルト、アイスクリーム、チーズなど牛乳加工に取り組んだときの付加価値収入は、牛乳という生産物を大きく上回るでしょう。しかし、ここでも加工機械・施設の設備投資、新しい技術導入のためのコストアップを考慮し、さらに顧客確保のための対策を講じなければ事業は成り立ちません。

 このようにマーケティングは従来の経営の限界を乗り越えるという意味で経営発展の大きな原動力になりますが、そこには高収益が期待できる反面で、それに見合った追加投資を要し、リスク負担が大きくなるという構造があります。収益と追加投資、リスク負担のバランスを保ちながら事業を軌道に乗せていくことが経営者に課せられたマーケティング能力といえるでしょう。経営にとってはできるだけ小さい追加投資とリスクで、できるだけ大きい収益を獲得できることが望ましいわけですが、そのようなビジネスチャンスは当然ですが容易にみつかるものではありません。経営者は常に自らの経営の状況を把握しながら流通、消費に関する情報を収集し整理してビジネスチャンスを発見するように努めなければなりません。

(中央畜産会刊「法人畜産経営育成支援マニュアル」より)


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