生産技術セミナー

繁殖和牛の飼育管理

−分娩時の事故防止−

中野 恭治

 

 繁殖和牛農家の目的は健康な子牛を連産して、順調に育成した素牛をせり市にだして高く売ることです。
 日本の豊かな自然と暖かい人情に育まれて飼育され、世界一美味しいビーフとし高く評価される和牛も、経営の強化や生産性の向上が要求されて、病気や障害にかかりやすくなっています。
 産業動物獣医師の使命は、飼養管理技術の確立を図り、畜産振興の後楯として寄与することにあります。そこで今回は、繁殖和牛の分娩とそれに関する飼養管理について紹介します。


1.妊娠中の管理

 受胎を確認したら、寄生虫の駆除はもちろんアカバネ病等についても、地域に応じた衛生管理プログラムに従って行いましょう。このことは目には見えませんが、胎児の発育や産後の母牛・子牛にとってたいへん大切なことであり、子牛の一生を左右するといっても過言ではありません。また、妊娠牛の太りすぎや痩せすぎは、胎児の発育不良、難産事故、泌乳量の減少等をまねきますから特に分娩予定2カ月前からは、母牛のコンディションの観察を怠らないことが必要です。


2.お産の気配り

 元来牛にとってお産は生理的なことです。しかし最初にも書いたように、和牛の飼養管理の変化により、その様相は変わってきました。また、新生児死亡事故の大半は、お産時の気配りでなくなるものと考えております。

1)ストレスからの開放

 多頭使用になると必ず分娩室をつくりましょう。
 分娩予定日の20日前頃から分娩室に移動します。また、分娩室はストレスから開放するために、十分な敷わらを用意して、清潔でゆとりあるものとします。いずれにしても、お産は母牛も生まれてくる子牛にとってもたいへんなストレスとなります。したがって無事お産をさせることが、事故防止対策の第一条件となります。

2)昼間分娩の誘導

 人間が活動している時間帯(6〜21時)に分娩させましょう。特に分娩室が家と離れた所にある場合のお産は、夜間ですと介護がたいへんです。そこでお産予定日の7〜10日前からえさの給与を夕方1回だけにして、朝には食べ残しを除き、昼間は水だけを与え安静にします。
 この方法を用いると、ほとんどのお産に立ち会いができるという結果がでています。

3)お産の立ち会い

 乳房がはり、陰部も大きくなり便が軟らかくなってくると母牛の動作が変わり分娩が近づく徴候です。いお産には必ず立ち会って、分娩時の不慮の事故に備えましょう。


3.お産のポイント

 お産はまず、正常か異常かの判断を早く見極めることが大事です。
 難産の原因は母牛によるものと、胎児によるものとがあります。また、最近は陣痛が弱くてお産に気付かず、事故につながる例が多くありますので特に注意して下さい。

1)難産判断のポイント

 ・足で腹をける。

 ・始まりのおりものに出血が多い。

 ・一度はった乳房が縮小してくる。

 ・陣痛が始まって2〜3時間しても胎児が出ないか、陣痛が弱くなる。

 ・第一破水後1時間経過しても胎児が出ない。

 このような症状の時期は、必ず診療所の獣医師さんに連絡しましょう。

2)出生子牛

 通常分娩直後に母牛は、子牛に付いている粘液をなめてぬぐい取ります。母牛がなめない場合には、子牛にフスマを振り掛けてなめさせます。もしそれでもだめなら、ぬれた身体をふいてやりましょう。
 この作業は、子牛の呼吸を刺激して体温の低下を防ぐことにもつながりますので必ず実行して下さい。


4.お産後のポイント

 お産がすめば一安心ですが、飼育者にとっては大事なことがまだ二つあります。

1)後産の処理

 後産は、お産後3〜4時間で排出します。母牛は、本能的に後産を食べる習性を持っています。しかし、これは母牛の健康によくないことですから、食べる前に必ず取り除き処理して下さい。

2)初乳を飲む確認

 もう一つ大事なことは、子牛が最初に母牛の乳を飲む時間の確認です。お産後に母牛が最初に出す乳を初乳といいます。この初乳の中には、病気に対する免疫成分などの発育に必要な、各種の栄養分が多量に含まれております。ですから初乳をたくさん飲めば、病気に対してもストレスに対しても、抵抗力の強い子牛になるのです。それでは初乳について、もう少し考えてみましょう。


5.子牛の初乳吸収能力

 子牛は生まれてから限られた時間を過ぎてしまうと、初乳の免疫成分を体内に吸収する能力を失ってしまいまう。つまり生後一時間を過ぎると、免疫成分を体内に吸収する能力が著しく低下します。もし子牛が生後1時間を過ぎても初乳を飲まない時は、母牛から乳を搾り、人工強制哺乳を行わなければなりません。特に虚弱児(哺乳弱子牛)や起立できない新生子牛、また、初乳を飲ませない母牛の時などは、必ず人工強制哺乳をおこなって下さい。

1)凍結初乳の確認

 最近、多頭飼育農家や家畜診療所で、凍結初乳を保存している所をみかけるようになりました。下痢予防ワクチンを接種した健康な乳牛で、経産初乳が最高です。
 もしなければ獣医師に相談し、凍結初乳を確保して、緊急時にそなえましょう。

2)哺乳器の準備

 和牛の新生子牛には、乳牛用の哺乳器具は応用できない場合が多く、しかも人工哺乳を必要とするのは虚弱な子牛が多く、苦労するところです。経済的に安価で、手近に準備できる哺育牛用カテーテルキットや油さし改良型をお勧めします。

 

(筆者:兵庫県農業共済組合連合会 家畜臨床総合研修所所長)


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