生産技術セミナー

繁殖母豚の飼料給与量の目安としての
ボディコンディションスコアの利用

−繁殖成績の向上はボディコンディションのコントロールにある!−

井口 元夫

はじめに

 養豚経営において繁殖成績は経営を左右する重要な要因であります。
 繁殖成績が優れていれば、離乳頭数の増加ひいては肉豚出荷頭数が増加し、収入の増大に直結します。肉豚の発育や枝肉成績の向上も欠かせませんが、まず第一に繁殖成績の向上が望まれるところです。
 最近、飼料価格があがっています。今後も、この傾向は続くものと思われます。繁殖母豚(以下母豚とする)に対する飼料のやり過ぎは飼料の無駄だけでなく、生産性さえも低下させます。
 そこで、繁殖成績を左右する母豚に対する飼料給与法について述べます。
 飼料給与量を決める要因として、母豚のステージ(交配期、妊娠期、授乳期)、産次、体重、肥満度(体脂肪の蓄積状態)および季節などが考えられます。
 ここでは、これらの要因が相互関連を持って母豚に現れる肥満度すなわちボディコンディションスコアを利用した飼料給与法について述べます。


1.ボディコンディションとは

 ボディコンディションは母豚の栄養状態すなわち肥満度(体脂肪の蓄積状態)を示すものであります。この蓄積状態を数値化したものがボディコンディションスコア(Body Condition score:以下BCSとする)であります。


2.ではなぜBCSなのか

@ 栄養状態を正しく保つことができる!

 繁殖育成豚は育成期を経て、8ヵ月令を経過すると、いよいよ初回種付けの時期が来ます。種付け、受胎、妊娠、分娩、授乳、離乳そして2産目のための種付けと、順次このサイクルを繰り返し、産次を重ねることになります。
 この繁殖サイクルを正しく回転させることすなわち母豚の栄養状態を正しく保つことが繁殖成績の向上につながることが分かりました。

A 落ちこぼれ母豚の発生防止!

 母豚の栄養状態がバラバラでは、離乳後の発情再帰が不規則になったり、受胎率が低下したり、産子数が少なかったりして母豚として落ちこぼれが発生します。繁殖成績の向上につながりませんし、グループ単位の管理も不可能になります。このように、落ちこぼれを出さないような母豚の栄養管理が必要になってきます。
 この栄養管理コントロールをボディコンディションスコアを利用し行おうというわけです。

B 脂肪の蓄積状態が「早く」「正確に」「簡単に」察知できる

 母豚に対する飼料量を決める要因は、先に述べたように、ステージ、体重、産次、ボディコンディション、季節などです。
 また、給与飼料の栄養レベルも給与量を決定する重要な因子となります。
 現場で飼料量を決めるとき、いちいち、母豚の体重や背脂肪を測ることは容易ではありません。もっと簡単な方法はないものでしょうか
 我々は以前「背中を指で押さえたり」「頸から顎にかけて余分な脂肪付着がないか」「乳堤や股間に余分な脂肪がないか」など母豚の肥満度を観察してきました。これは母豚の脂肪蓄積状態を考慮して、飼料量の増減をやっていたわけです。
 母豚の脂肪の蓄積状態すなわちボディコンディションは繁殖成績に影響があることを経験的に分かっていたのです。
 その後、寛骨周辺部の脂肪付着量が体全体の脂肪蓄積量と非常に密接な関連性があることが分かりました。
 母豚の脂肪蓄積状態を「正確に」かつ蓄積状態の変化を「早く」察知出来る技術がボディコンディションスコア法です。ボディコンディションスコア法は現場で「いつでも簡単に」「手間がからない」「費用がかからない」など簡便に実行が可能な技術です。


3.BCSはどう判定するのか?

@ ボディコンディションスコアの判定基準

 BCSの判定は表−1によって行います。


 また、BCS判定のための体全体のイメージを示したものは図1の通りです。


 まず、寛骨突起部の触診を行います。次いで体全体の脂肪蓄積状態を判定し、寛骨の触診による判定の確認と微調整を行うと良いでしょう。
 スコア2から4の間は0.5 刻みで判定する。

A BCSの判定のための手順

手順1
 繁殖雌豚の後ろの立ち、寛骨突起部を手のひら及び指で触診する。(突起部が容易に探せるかどうかを判断する。3秒程度で触れることが出来ればボディコンディションスコアは正常です)

 触診部位は図2、図3の通りです。


手順2
 背骨の突起部を親指で押し、背脂肪の厚さを判定。体全体の脂肪付着状態を観察する。(あばら骨、下腹部、股間等もみる)

B 判定はいつ行うのか?標準的なスコア値は?

 判定時期は離乳期、妊娠中期、分娩直前および授乳期です。
 また、ステージ別の標準的なスコア値は次の通りです。

判定時期(ステージ) 標準的な値
離乳期        2.5
妊娠期(交配後80日) 3.0
分娩直前       3.5

 各ステージにおいて、標準的なスコアになるように飼料給与量を加減します。
 この値はあくまでも標準値であって、農場によって異なっても良い。その理由は農場によって、判定基準が若干ずれることがあるし、母豚群の能力や産歴構成も異なるからであります。
 また、4産を経過した母豚はこの標準値より若干低くても良い。そのような母豚の分娩前体重は220〜230kgに達しており、体全体の脂肪蓄積の絶対量が多いのでBCSは0.5程度低くても差し支えないと思われる。


4.妊娠期のボディコンディションは何に影響するのでしょうか?

@ 授乳期の採食量

 先にも述べましたように、分娩直前のBCSが高くなると(妊娠期間中の飼料量が過剰になると)脂肪蓄積が過剰になり、授乳期に採食量が低下します。豚の繁殖成績の向上は交配、妊娠、授乳という一連の繁殖サイクルをうまく回転させるかにあるのです。あるステージの管理ミスが全体に影響を及ぼすのです。

A 母豚の体重

 妊娠期間中に飼料を多給すると、必要以上に母豚の体重が増加します。必要以上に大きくする必要はありません。余分な維持エネルギーが必要になります。
 ちばNOSAI連(北部家畜診療所)の堀北らは繁殖雌豚の体重変化が連産性に及ぼす影響について調査しました。
 その報告によれば3産までは繁殖雌豚自身の成長は著しくこの時期に栄養不足にならないような管理が重要であると述べている。
 また、産次間増体率は約105%、妊娠期間増体率は110〜120%が適当であると述べている。

B 妊娠期のBCS調整法

 母豚は、離乳後から種付けまでの期間に続き、妊娠初期は授乳期の体力を回復する期間であります。また、妊娠中期をすぎると胎児の発育および授乳期の準備に入ります。妊娠期はなるべく早期に正常なBCSに調整する大事な期間です。
 例えば、離乳時のBCSが2.5の場合
 飼料給与量(kg)の目安は次の通りです。

  空胎期  3.0
  妊娠前期 2.0〜2.2
  妊娠中期 2.2〜2.4
  妊娠後期 2.4〜3.0

 この量はあくまでも目安です。目安量で太り過ぎの場合あるいは痩せすぎの場合
0.2〜0.4kgの範囲で増減すればよい。この量は母豚を観察しながら増減し、農場の方が決定すればいいのです。大切なことは観察することなのです。


5.授乳期のBCS判定は特に頻繁に!

@ 授乳期間中の体重損耗量を10〜20kgにいかに抑えるか!

 通常、母豚は授乳期間中に体重が減少します。日本飼養標準においても、体重が減少することを前提にした標準が示されています。
 分娩後5日も過ぎれば、泌乳量が段々と増加し、母豚も飼料を多く必要としてきます。授乳期間中の飼料給与量が不足すると体重損耗量も多くなります。
 母豚が外観から痩せ始めたと感じた時、飼料量を増加しても、短い哺乳期間では間に合いません。そこで分娩5日目くらいから、頻繁にBCSを測定します。痩せ始めの時期が目で見ているだけよりも早く分かり、飼料量を増加する対策が早くとれます。結果的に体重損耗量を適正に保つことが可能です。
 また、授乳期間中の飼料摂取量は分娩直前のBCSにも影響されます。BCSが4にもなりますと、授乳期間における飼料摂取量は低下します。母豚は生理的にまず過剰な蓄積脂肪量を減少させようとし、採食しません。
 その結果、体重損耗量が多くなり、発情再帰日数、受胎率、排卵数にも影響が出てきます。妊娠期間の栄養管理の適否がここに現れます。
 反面、授乳期間中に母豚がBCSを減らない場合、給与飼料が多すぎます。我々が行った調査結果からも、いえますが、やはり、この期間、母豚は適当に痩せた方が良いようです。

A 摂取量を多くさせる工夫!

ア、授乳期の飼料必要量は6〜7kgにもなります。胃の容積が小さければ物理的な面を考えても、採食量は限界があります。 →給与飼料のカロリーアップが必要

イ、母豚は気温が高ければ、放熱量が抑えられ、産熱量を増加させないために、食欲を抑制します。 →室温を下げる。ドリップクーリングで放熱量を多くする。子豚保温温度を下げる

ウ、飲水量が少ないと採食量は低下します。 →水圧を調節

等々採食量を多くさせる工夫も必要です。


6.千葉県内養豚農家におけるBCS調査結果について(井口らの調査)

 繁殖雌豚のBCSを分娩時及び離乳時判定し、これらのBCSと繁殖成績の関連性を調査した。

@ 分娩時BCSは3.5 および3.0 程度に!

 分娩頭数において、分娩時BCSが2.5,3.0,および3.5のものは11.0〜11.3頭でほとんど差はありませんでした。
 育成率において、分娩時BCS3.0のものが97.5%で最も高く、次いで3.5 のものが95.5%でほぼ同様の結果でありました。しかし、2.5および4.0のものは約90%であり、前者より低い成績でありました。

A 授乳期間中のBCS減少量は育成率に影響があった!

分娩時のBCSから離乳時のBCSを差し引いた量を授乳期間中のBCS減少量とします。
 BCS減少量が0.5 であったものの育成率は95.4%で最も高かった。同様に減少量0及び1.0 のものは約90%でありました。

B 妊娠期間中のBCS増加量は正常産子数に影響した!

 前回離乳時のBCS(交配時期のBCSと見なす)と妊娠期を経て分娩直前時のBCSと比較し、その増加量が1.0 のものは正常産子数が変化量0および0.5 に比べて多かった。

C 本調査のまとめ

 本調査の結果から、離乳時BCSは2.5 程度で、BCS増加量を0.5 強とし、分娩時BCSは3.0 強とする事が分娩頭数、正常産子数及び育成率を多く及び高くなるものと推測された。


おわりに

 農場の繁殖成績を向上させるためには、単に飼料給与の改善だけでは解決するものではありません。母豚そのものの繁殖能力、施設、養豚場を取り巻く衛生環境等々多くあります。
 ここに紹介したBCSによる飼料給与法は農場の方がやる気があれば、すぐ実行が可能です。新たに費用はかりません。
 繁殖成績が低迷している農家には、有効な技術だと確信しています。まず、豚を観察することからはじめて下さい。

(筆者:千葉県畜産センター養豚試験場種豚研究室長)


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