畜産豆知識

畜産経営法人化のメリット

 

 畜産経営の法人化のメリットを考える場合は、政策的な観点からのメリット(政策的意義)、経営者個人からみた経営メリット、制度的なメリット、制度外のメリットといったようにいろいろな分類の仕方が考えられますが、ここでは、制度的なメリットと制度外のメリットといった観点から解説します。


1.制度的なメリット

<税務>

 @ 法人税の適用等による節税効果
 法人税では不相当に高額でない限り、役員に対する報酬についても従業員の給与と同様に法人の損金とすることができます。また、役員の所得税の計算においても給与所得控除の適用が受けられます。
 また、所得税が累進課税であるのに対し、法人税は定率課税であり、課税所得の増大に従い、税率も有利となります。
 なお、農業経営を行う農事組合法人で確定給与を支給しない法人の法人税率は「協同組合等」の適用を受け、800万円を超える部分についても、一律27%とされています。また、農業生産法人たる農事組合法人の行う農業に対する事業税は非課税とされています。

 A 役員に対する退職金の積立・支払いと税制メリット
 役員の退職給与引当金は法人税法での損金計上は認められませんが、生命保険の定期性保険や養老保険などの活用により損金計上の余地があります。
 なお、常時雇用する従業員の数が20人以下の場合、いわば事業主の退職金制度として中小企業事業団が実施している小規模企業共済制度があり、農業経営法人(農事組合法人は除く)の役員も小規模企業共済制度への加入の途があります。
 高齢化社会が進行するもとで法人化の動機として、退職金の整備があげられます。支払った退職慰労金は功績倍率等を考慮した適正な範囲であれば、全額が法人税法上の損金となります。一方、退職慰労金の支払いを受けた役員は、退職所得控除の適用があるので、大きな税制メリットを活かすことができ、高齢化社会のもとで老後の生活安定に期待がもてます。

 B 肉牛の免税特例
 農業生産法人に限って、平成13年3月31日までの期間内に特定の市場または農林水産大臣の指定の方法により肉用牛を売却した場合、免税対象牛については、売却所得の課税特例措置により免税の適用を受けることができます。

 C 規模拡大や農地の有効利用を進めるための税制特例
 農業生産法人に農地等を売り渡したり現物出資した場合の譲渡所得の特別控除制度、農業生産法人が現物出資を受ける場合の土地の不動産取得税の非課税、農地等の登録免許税について軽減措置(農業経営基盤強化促進法の利用権設定等促進事業、農業委員会のあっせん等の場合)があります。
 さらに、特定農業法人では、農地の購入や借入・農作業受託に必要な費用の支出に備えて、農業収入の10%までを損金扱いできる準備金制度(農用地利用集積準備金)の活用が可能です。
 農業法人の多くは、役員報酬や事業従事分量配当、地代などにより経営外部に所得の分散を行い、課税所得の増加を抑える傾向があると考えられます。この結果、法人経営自体の資本の蓄積が進まず、機械、設備等の更新や追加投資にあたって借入金が増加しがちです。農用地利用集積準備金は、節税メリット以上に経営体質の強化を誘導するという効果があります。
 また、農業経営改善計画(農業経営基盤強化促進法)の認定を受けることにより、農業生産法人も個人の農業者と同様に機械・施設等の割増償却制度の活用ができます。

<制度融資>

 @ 制度資金の融資限度額が拡大
 法人経営は農林漁業金融公庫等から、個人経営より高い限度額で融資を受けることができ、有利な制度資金を活用して農地等の所得や設備投資などの経営展開が可能となります。

 A 役員の連帯保証で借入金に対応
 制度資金等の借入にあたっては、通例、借入者本人の外に連帯保証人を求められます。法人経営では、通常、その法人の代表者や役員(取締役・理事)が連帯保証人になることでよいとされています。法人経営では、経営に直接かかわる者が連帯保証人になるため、連帯保証人のなり手を見つける苦労をしなくてすむと考えられるでしょう。

<社会・労働保険制度>

 @ 雇用の導入と社会保険
 法人化の動機には「雇用労働の導入」ということが考えられますが、雇用労働の導入を図るには、従業員の労働条件の整備が必要です。
 法人化することにより、健康保険が市町村役場で取扱っている「国民健康保険」から社会保険事務所(または健康保険組合)で取扱う「政府管掌健康保険(組合管掌健康保険)」に強制的に切り替わります。また年金保険では「農事組合法人」以外の場合、「厚生年金保険」の強制適用事業所となります。農事組合法人で確定給与を支払う法人は「農林年金」の強制適用事業所となり、配当制の場合は、「農林年金」に移行せず、国民年金の1号被保険者として、農業者年金に任意加入できます。

 A 雇用の導入と労働保険
 法人化すると、たとえ一人でも労働者を使用していれば、すべての法人が労働保険の強制適用事業所となります。労働保険には労災保険と雇用保険があります。
 労災保険は、労働者が業務災害や通勤災害にあった場合の保険です。雇用保険は、労働者が失業した場合に備えての生活の安定や、積極的に失業を防止し雇用の安定を図るための制度です。
 法人化することにより社会保険料や労働保険料について事業主の負担が増加することとなりますが、これらにより、他産業並みの福利厚生が可能となり雇用の確保もしやすくなります。


2.制度外のメリット

 @ 経営者に向けての意識改革
 法人となることにより経営者としての経営責任の自覚が生まれ、企業経営としての効率性の追求(企業資産の有効活用、コスト意識)や従業員、顧客に対する意識の向上、社会的責任の自覚など、法人という公器を任されたという意識を自覚する、すなわち経営者に向けての意識改革にはずみをつけることになります。

 A 経営における個人の役割の明確化
 個人経営の多くで指摘されている課題に、家族内の労働関係が明確でなく、給料や休日の決まりも定められていないなど、とくに若者や女性にとって働きがいのある労働条件となっていない面があります。法人経営では、個人経営と比較して経営における個人の役割が明確になります。
 さらに後継者等を法人の経営陣(役員)に加えることにより、農業経営者として社会的に認知してもらうことが可能となり、意識の高揚をはかることも可能です。

 B 家計と経営の分離
 法人化することにより、法人格を持って独立した経営が営まれるだけでなく、経営管理を複式簿記による企業会計で行う必要があるため、企業としての資産や負債と企業活動の成果である企業利益の関係が明確となり、有効で近代的な経営管理が行いやすくなります。このことを通じて家計と経営の分離が行われ、経営確立という観点からも重要である「ドンブリ勘定」からの脱却が図られることが期待できます。

 C 経営に対する信用力の向上
 法人化すると、一般的に個人事業の場合に比べて経営者意識(利益の継続的な確保のため経営資源を可能な限り有効に使おうとする意識)の向上や経営の近代化(家計と経営の分離、経営における個人の役割の明確化による人材の活用など)、就業条件の整備による人材の確保などが図られ、経営を継続する力が高まってきます。またこれらと合わせて、法人として公的・社会的な人格を有することになるので、販売や仕入れなどの取引面においても融資を受ける場合においても対外的な信用力が高まってきます。

 

(中央畜産会刊「法人畜産経営育成支援マニュアル」より)


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