生産技術セミナー

乳牛飼料としての粕類の利用

古賀 照章

 

 畜産に限らずあらゆる産業はコストつまり生産費が利益に大きく影響します。畜産においてコストの中でもっとも大きなウエートを占めるのが餌代です。餌代を少なくするにはいろいろな方策がありますが、その中の一つに飼料としての食品製造粕の利用があげられます。
 しかしながら、現実には食品製造粕の飼料としての利用はあまり進んでいるとはいえません。その理由として、

 @粕の飼料特性がわからない。
 A粕を給与すると乳成分が低下する。
 B粕より輸入飼料を利用した方が安い。
 C粕は貯蔵しにくい。
 D粕の利用体系が作れない。

などが挙げられます。
 ここではこれらの問題点について順に説明していきましょう。

粕の飼料特性

 まず食品製造粕の飼料特性ですが、これらの飼料成分値は平均的な値が日本標準飼料成分表に記載されています。1995年版ではブドウ酒粕、アン粕、ミカンジュース粕などが追加され62種類の粕の西部名体が一覧できます。
 この表をみると成分値に大きな偏りがあることがわかります。極端に蛋白や脂肪が追いもの、またはその逆に少ないものであったり、CaやKが多かったりしています。まずはこれら成分値に対して十分理解しなければなりません。
 また、この成分値は様々な要因で変動することも頭に入れておく必要があります。例を挙げれば、豆腐粕は添加する水の量や豆乳を絞る際の搾汁の程度といった製造過程の違いによって成分が変動します。ミカンジュース粕は早生品種と晩生品種で成分が異なる傾向にあります。このことは早生種が材料となる12月以前の製造時期と1月以降の製造時期でミカンジュース粕の成分が異なるということです。
 このようなことから粕においても自給飼料と同様に成分分析をして飼料成分を把握する必要があります。
 しかしながら、一方でこれらの食品製造粕を成分値という量的な数字のみで把握することは危険でもあります。というのは、粕は牛のルーメン内での消化速度が特異的に速かったりするのです。これを調べるには牛の腹に穴をあけてフィステルを装置し、その穴からナイロンバックをいれた飼料をルーメン内に入れて行います。
 この方法によると豆腐粕は乾物・粗蛋白・総繊維とも投入直後とも休息に分解され、24時間後には約9割が分解されます。一方、ビール粕は分解速度が豆腐粕とほぼ等しいのですが、総繊維は5割が分解されたところで平衡に達し、残りは分解されません。ミカンジュース粕やリンゴジュース粕は0時間で、つまり牛が食べてすぐに乾物の5割が溶けてしまいます。ブドウ酒粕やトマトジュース粕は分解速度遅く、約半分の成分はまる3日ルーメン内に入れていても消化されずに糞として排泄されます。このような飼料特性はルーメンの恒常性を乱す原因につながります。
 また、いずれの粕も少なからぬ量の総繊維が含まれていますが、これらの繊維がルーメンマットを形成するとは考えにくい状況です。いわゆる有効NDFはほとんどないと考えてよいでしょう。ミシガン州立大で開発されたスパルタンという飼料設計ソフトのオリジナル飼料成分値では、Brewers grain(ビール粕)やCorn cobs ground(コーンコブを挽いたもの)などについてNDF中の有効NDF割合を25%としています。それを参考にするとウイスキー粕やブドウ酒粕などで有効NDFは総NDF中の25%程度、豆腐粕やリンゴ・ミカンジュース粕では有効NDFはほとんどないと考えていいでしょう。

乳成分は低下するか

 次に乳成分の低下の問題ですが、食品製造粕の飼料成分やルーメン内での消化パターンを考慮しないで粕を給与すれば、乳成分に影響を及ぼすのは当然です。一方で豆腐粕やビール粕を用いた飼養試験は各試験場で数多く実施されており、その多くが十分な泌乳成績を残しています。例えば、長野県畜産試験場で行った豆腐粕を乳牛の泌乳前期のTMR用飼料として多量に(現物30/日)に給与した試験結果は、乳量41.9/日、乳脂率3.46%、乳蛋白質率3.01%でした。このときの飼料設計で注意したことは以下のようなことです。
 豆腐粕は先に述べたように消化速度が速く、最終的にそのほとんどが消化される濃厚飼料の性質を持った餌ですから豆腐粕を給与する代わりに濃厚飼料を減らします。そしてTMRにすることによりルーメン性状の安定化を図ります。さらにモロコシ圧片を給与してデンプン濃度を上げ、加熱大豆を給与して蛋白のバイパス率を高めるなどの工夫をしました。こうすることにより豆腐粕を1日現物で30も給与していながら十分な泌乳成績が得られたのです。これらを分離給与で飼養する場合はせいぜい豆腐粕を5程度にし、かつ粗飼料の採食後に給与する必要があるでしょう。

食品製造粕の値段

 食品製造粕の値段はビール粕やウイスキー粕については製造業者系列の飼料会社が対応しているのが有料ですが、その他の粕についてはほとんどが無償か処理費付きで引き取るケースもあります。仮に運送料として1あたり2.5円かかったとして、つまり2tトラック1台分5,000円として、TDN1の単価を試算してみると、粕によって異なりますがおおよそ14〜20円程度となります。一方、一般的な乳牛用配合飼料を1あたり42円で購入した場合、TDN1の単価は58円となって粕の3〜4倍します。食品製造粕はこれほど安い飼料であるにもかかわず、餌として利用されず堆肥の原料となるのはもったいない限りといえます。

食品製造粕の貯蔵法

 食品製造粕の貯蔵方法ですが、粕は最大の欠点は水分が高いことです。このため重たく持ち運びは不便であるし、そのうちに腐ってしまいます。これらの貯蔵法としてはサイレージしかないといえます。乾燥することは安いというメリットが失われます。
 サイレージはご承知のように乳酸発酵をさせて保存する方法です。乳酸発酵する条件とは、乳酸菌が活発に活動する環境をつくることであり、すなわち水分・糖分が適当にあって密封がきちんとなされることです。
 ところが食品製造粕は多くの場合、水分が80%前後と高く糖分は少ないです。密封条件はつくりやすいものの、サイレージの原料としてはあまり適切ではありません。そこで考えられることは、水分や糖分を調節する資材を添加することです。このときそれらの資材を特別に用意することはありません。通常、牛に給与している飼料の中から選び、事前に混合する、さらには食品製造粕の偏った成分を補完する飼料を事前に混合するいわゆるオールインサイレージをつくるのが現実的です。この方法は、すでに多くの農家が実践しており、資料も数多く出ているので、検討していただきたいと思います。

食品製造粕の利用

 食品製造粕の飼料特性を把握して、乳成分が悪くならないよう飼養方法を行なえる技量があり、それを行うことでコストが下がる認識を持ち、食品製造粕の貯蔵が実際にできればあとは利用体系をつくるだけです。
 しかしながらこの点がネックで断念するケースが多く見られます。例えば、豆腐粕を例に挙げてみましょう。豆腐粕をどうやって手に入れるか、豆腐業者まで取りにいけばただだとして、その手間をどうつくるか、豆腐粕は毎日豆腐業者から産出されるが、これも毎日取りに行くのか。これがビール粕など大きな事業者から出るものやリンゴ・ミカン・ニジンジュース粕など季節的に多量に出るものであれば、収集する点については有利に行えます。しかし、ある程度まとめて手に入ったとして、他の飼料と混ぜて貯蔵する手間をどうするか。今ある動力で給餌できるか。現実問題として様々な問題をクリアしなければ食品製造粕の利用は進みません。
 これを解決するには、食品製造粕の利用により生産コストが下がるという断固たる信念を持って、それに手間暇をかけるのが一つの方法ですが、この手間暇のかけ方に工夫をしてみたらどうでしょうか。
 長野県のある飼料会社は食品製造粕を原料にしたオールインサイレージを袋づめにして、小規模酪農家に販売しています。この場合、調整するのは飼料会社でありますが、これを個々の農家がグループをつくって行うとします。袋づめにすることは必要ありません。共同作業で食品製造粕の効率的な利用を図ることが可能ではないでしょうか。

おわりに

 食品製造粕の利用は昔はカス酪といて今では敬遠されますが、この場合のカス酪は飼料費を削減するだけの、牛の生理や能力を考えに入れない酪農です。しかし、今まで述べてきたように食品製造粕の飼料特性を十分に把握し、牛の生理や能力にあった飼養方法をとれば、カス酪などと卑下していうことは全くなく、むしろ低コスト優良経営が実現できかつ食品製造粕の廃棄という環境問題も解決する自経営にとっても地域にとっても胸を張れる技術であるといえましょう。

 

(著者:長野県畜産試験場酪農部)

 本稿は、中央畜産会提供番組ラジオ短波放送「畜産アワー」で放送したものを誌上再録しました。


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