経営技術セミナー

規模は零細でも生産性は低くはないぞ

林 希史雄

 

4.子牛の飼い方(承前)

1)出生直後

 生まれた直後の子牛の被毛は濡れていますが、母牛が上手に子牛を転がしながらなめて乾かします。母牛がこのことを知らないときは、子牛にフスマを振り掛けてなめることを覚えさせます。分娩直後に牛房に入るときは注意が必要です。母牛の中には普段はおとなしいにもかかわらず、分娩直後は異常に興奮し、敷きわらの交換に牛房に入った畜主に向かってくるものがいます。この困った癖は、産次が進んでも直りませんから、このような牛は要注意牛としてマークしておき、無理に子牛の体重を計ったりせず、落ち着くのを待つのが一番良いようです。
 子牛の体重は雄で30kg、雌で28kgあれば正常です。生まれて30分もすると、子牛は転びながら立ち上がろうとします。そして母牛の乳房を探り当てます。敷料が少ないと足を滑らせ、股さきになることがあります。分娩後1週間くらい出る初乳は、養分を補給するだけでなく、免疫体を含んでおり、病気に対する抵抗力を高める働きがありますから、必ず飲ませなければなりません。子牛が母乳を飲むことが確認できれば、先に述べた3.8kgの配合飼料の増し飼いを始めます。

子牛が生まれたら、まず分娩届けを出そう

 子牛が無事に生まれたら、分娩届けをJAに出します。2カ月以内に地方審査員が子牛の検査に来て、子牛登記の手続きをします。平成2年度から始まった、肉用子牛生産者補給金制度の交付契約の手続きを一緒にすることが多いようです。この制度は、肉用子牛の販売価格が下落して、再生産が困難になった時、生産者に補給金を交付するもので、今までに1度発動されています。基金に加入すると、耳標を付けてくれます。多くの県では子牛登記書に基金協会の耳標番号を印刷し、枝肉成績と個体の血統の確認作業の効率化を図っていますので、家畜の改良面からも加入をお勧めします。

2)哺乳期の飼い方

1カ月齢までは何がなんでも母乳だけで

 黒毛和種では、のように生後1カ月くらいまでしか、母乳だけでは子牛が必要とする栄養分を補給することができません。1カ月を過ぎると、人工乳を給与して不足する分を補給する必要があります。初乳中の免疫体は2週間くらいから無くなり、自分で抗体が作れるようになるのは3週齢以降です。2週齢頃から空腹のため母牛の餌を盗み食いしたり、敷きわらを口にして下痢をすることが一番危険です。4kg近い濃厚飼料を与えれば、少々泌乳能力の低い母牛でも、母乳だけで子牛を1カ月齢まで無事育てることができます。

親子分離が子牛の発育改善の鍵

 当場では10日間分娩房で親子を同居させ、親子であることが確認できた後、柵越え哺乳方式(写真1)に親子分離牛房に移します。目的は母牛に積極的に運動をさせるためです。哺乳は朝夕の給餌時が中心で、解放時には母牛が粗飼料を食べに帰った時に飲んでいます。当場は親子3組用の群飼施設なので、母親以外の牛が隣の成牛房に入ることがありますが、いずれの牛も授乳中のためか、自分の子牛でなくても平気で乳を飲ませます。母牛の泌乳量が少なくても発育に差がでないのはこの辺に原因が在るのかも知れません(写真2)。

 ※ なお、現在は改良されて4頭群飼養親子分離房になりました。

離乳までは、無理に運動させることはない。

 母乳の栄養分だけでは足らず、別飼いによって、やっと平均的な発育を達成している現状や、親子放牧を行っている公共育成牧場の子牛の発育成績を見ると、哺乳期の子牛を運動させることは、エネルギーを無駄に消費させるだけで意味のあることとは思えません。当場では、哺乳期のハウスに運動は不必要と考えてさせていません。前述の親子分離施設は県内の公共牧場にも設置されており、分娩子牛の発育改善に役立っています。

1カ月齢になれば、別飼いを始めよう

 1カ月齢以降は、母乳だけでは子牛の発育に必要な養分が摂れなくなります。このような場合に、補足的に与える飼料を「別飼い」と呼びます。子牛の第1胃は、まだ十分発達していませんので、消化の良い人工乳を少しずつ与えます。人工乳は、不足する母乳を補うためのものですからエネルギーや蛋白質含量が高く、ミネラルやビタミンが補強されています。成牛用の配合飼料や、フスマを与えている例がありますが、蛋白含量が低いので適切な飼料とは言えません。この時期は、初回述べたように、穀類に由来するプロピオン酸によって第1胃の絨毛の発育を促し、自立への準備をする期間ですから、粗飼料は特に必要ありません。「食べたければ、お好きにどうぞ」と言う感じで良質の粗飼料を少量餌箱に入れておけば良いのです。
 水分は母乳からも補給されますが、いつでも自由に飲めるようにします。

どうやって、人工乳を食べさせるか

 親子同居方式の場合には、生後1カ月もすると、母牛の餌を口にするようになります(写真3、4)。子牛が確実に人工乳を食べれるように子供の餌箱を準備します(写真5)。専用餌箱に人工乳を入れても子牛はそれば餌だと直ぎには分かりませんから、なかなか食べに来てくれません。乳牛のように無理やり人工乳を口に押し込んで、餌だと分からせる方法は、人工哺育をしていない黒毛和種の場合には、人間に対し警戒心や恐怖心を植え付けるだけで逆効果です。


 当場では、母牛がいつも食べているサイレージで人工乳をおおう方式をとっています。餌箱の中央に人工乳の山を作り、サイレージで隠します。子牛にとって、サイレージは大好きなお母さんがいつも食べている一番安心できる食べ物です。お母さんのサイレージがなくなっても、秘密の場所から良い匂いがしてくるので、おそるおそる顔を出してみます。鼻でつついたり、舌で掻き混ぜて、翌日山が崩れていれば、後は簡単です。サイレージを食べているうちに、自然に人工乳も口にすることになります(写真6)。
 親子分離方式の場合、子牛は親の餌を一切口にできませんから、未知の食べ物に対して飢餓状態におかれています。こんな子牛を騙すのは、わけのないことです。ほとんどのものが、その日の内にサイレージを口にします。

別飼いに使う飼料の種類と量は

 別飼いは人工乳50g、サイレージ1握りから始めます。確実に食べるのを確かめながら人工乳を少しずつ増やして行き、2カ月齢では400gを目標とします。2カ月齢になると、サイレージやヘイキューブのような粗飼料を食べる量に合わせて増やして行きますが、まだまだ主役は人工乳で、3カ月齢で1,100gを目標にします。3カ月齢になると子牛も個性が出てきます。サイレージの好きなもの、ヘイキューブの好きなもの、粗飼料は苦手なものとさまざまですが、哺乳中の粗飼料はどうしても必要と言うわけではありませんから、安くて入手しやすいものをさがしましょう。
 当場では、良質粗飼料としてヘイキューウを使っていますが、そのままでは硬くて哺乳牛は食べられないので、同量の水を加えてやわらかくしたものを与えています(写真7)。

3)早期離乳技術

離乳は4カ月齢でおこなう

 3カ月齢になれば、離乳の準備を始めます。出荷直後まで母牛に付けている農家がありますが、当場では離乳は4カ月齢、目標体重雄120kg、雌108kgで行います。母牛は既に妊娠していますから哺乳の負担を除いてやりましょう。
 人工乳は1.5kgまでとし、育成用配合飼料を500gを限度に増量して行きます。粗飼料は、いずれも自由採食です(写真8)。

離乳直後は細心の注意を

 離乳直後は、母子とも相手を捜して鳴き狂うことがありますが、お互いの姿が見える状態(写真9)にしておけば、2〜3日で落ち着きます。配合飼料を断ってしまえば、母牛は乳が張ることもなくなり、子牛への関心は急速に薄れます。子牛の方も空腹には勝てないのか、配合飼料・粗飼料とも採食量が増えますが、離乳子牛は飼料が変わることもあって下痢を起こしやすいので、人工乳から育成用飼料への全面切り替えは、1日100gずつ入れ替えていき、1週間から2週間かけて徐々に行います。粗飼料は残量が無い範囲で少しずつ増やしていきます。


 育成期は良質粗飼料を飽食させ、配合飼料は体重の1%以内に制限するのが良いと言われていますが、繁殖農家の粗飼料生産状況を見ると、質量とも十分とは言えず、成牛の維持飼料の一部を賄うのが精一杯です。このため、育成牛には流通粗飼料を与えている農家がほとんどです。しかし、流通粗飼料は配合飼料に比べて割り高ですから、ついつい配合飼料に依存した飼い方になっています。
 当場では、飼料畑の少ない繁殖農家が応用できるように、粗飼料は価格の安いヘイキューブとイタリアンストローを主体とし、それ以外に少量のサイレージを給与する方式を採っています。配合飼料は育成初期の発育改善のため、離乳直後から3kgを目標に増量していき、市場に出す10カ月齢まで維持します。出荷直後にはヘイキューブ4〜5kg、サイレージ5kg、イタリアンストロー1〜2kgを摂取するようになり、チモシーのような良質乾草を給与した子牛を勝るとも劣らない発育をしています。
 離乳後は十分運動をさせます。また、育成期の子牛は、単飼より群飼の方が飼料摂取量が多く、発育が良くなります。月齢の差が2カ月以内なら雄雌の区別なく群飼とし、集団生活に早くから慣らしておく方が、育成後期の管理が楽です。
 雄子牛は、離乳後異常がなければ去勢をします。去勢時期は遅いほうが、子牛の発育は良くなりますが、労力的に大変になりますので4カ月齢くらいが適当です。去勢の方法は色々ありますからJAの担当者にまかせるのが一番良いでしょう。

4)子牛の事故防止対策

 子牛の病気は、下痢を主とする消化器病と、肺炎を主とする呼吸器病が大半です。

下痢の対策は早期発見、早期治療です

 生後4〜5週齢の子牛は、体液調節機能が未成熟であるために、急性下痢による水分・電解質の喪失や、不均衡に対して旨く対応できず、脱水・アシドーシスが直接の死亡原因となります。下痢は腸管壁の機能異常によって起こりますが、直ぐに腸管上皮細胞と置き換わりますので、この間に下痢によって体内から失われた水分と電解質を、レクテードやエレクトロプラスのような経口補液剤で補ってやり、体力の消耗を防ぎ、肺炎などの2次感染を防止することが大切です。

スキンテストで脱水状態の確認を

 脱水の程度は、子牛の頸側部の皮膚を5指で握るように引き、指を離したときのヒダの状態によって判断できます(表)。ヒダが元に戻るまでの時間(秒)は、脱水の程度が重症になるにつれて長くなります。
 その他、牛房内はできるだけ乾燥させ、おが屑や敷きわらは少量ずつ使い、毎日交換します(写真10)。

5)市場への出荷

 地域によって、市場に出荷する子牛の月齢や、おおよその体重が決まっています。出荷日が決まれば、JAの担当者の指示に従って、予防注射や削蹄をします。子牛の元気が良すぎて、牛舎からの出し入れが難しい場合には、早めに鼻環を入れます。出荷当日は、子牛の引き出しや積み込みなど、力仕事は必要に応じてヘルパー制度を利用します。
 それでは、初めてのせり市です。平均以上の価格で子牛が売れることを期待して、家族皆で、早めに出掛けることにしましょう。
 折角の機会だからと、あれもこれもと欲張りすぎて、予定の時間を大幅に超過してしまい、皆が楽しみにしていたあとの懇親会の時間が足りなくなってしまい、冷たい視線を浴びながら慌ただしく苦い酒を飲んだ、貴重な経験を生かすことなく、今回もついご好意に甘え、だらだらと3回にわたって書き続けてしまいました。
 現場技術を中心に書いたつもりですが、読み返してみると独善的な技術論が多く、お役に立つような内容であったか、はなはだ疑問です。皆様方の忌憚のないご批判をお願い致します。


(筆者:愛媛県畜産試験場主任研究員)



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