黒毛和種去勢牛の適正出荷に向けて

── 黒毛和種去勢牛の適正肥育期間と飼料給与体系の検討 ──

西 村 隆 光

 
  はじめに

 牛肉の輸入自由化以降、和牛(特に黒毛和種)では、肉質(特にロース芯への脂肪交雑)の良さを輸入牛肉と最も異なる点として、以前にも増して改良および飼養技術の改善が進められてきました。しかしながら、日本経済の低迷や健康食品志向、また、BSEの発生ならびに偽装表示問題などさまざまな要因により、消費者の和牛肉への関心と評価が高まり、最近では枝肉市場の相場も以前とは異なる様相を呈しています。特に、最近では、上物(4・5等級)の相場が、相変わらず伸び悩んでいるにもかかわらず、スソ物(2・3等級)の相場はBSE発生以前を上回る展開をみせています。

また、肥育モト牛については、BSEの発生による一時的な下落はありましたが、生産農家の高齢化などによる戸数および頭数の減少などもあり、子牛市場価格は高値で推移しています。

これらのことから、黒毛和種の肥育農家では、品質の高い牛肉づくりに加えて、肥育期間の短縮など経営の効率化を図ることが必要となっています。

  肥育期間短縮への取り組み

 山口県の黒毛和種去勢肥育牛の一般的な給与体系では、出荷時月齢27〜28ヵ月齢、体重710kg以上が1つの目安として取り組まれています。そこで、当試験場では、肥育期間を短縮し、出荷月齢24ヵ月齢、体重650kg以上を目標とした肥育試験に取り組みましたのでその概要を紹介します。最初の試験には、生後8ヵ月齢の黒毛和種去勢子牛4頭(以下「供試牛」という)を用いました(表−1)。供試牛の父牛「幸鶴」、「第一福鶴」号は、平成8年度に本県が兵庫県より導入した純粋の但馬牛であり、一般的には短期間の肥育に不向きな血統といわれています。供試牛は、24ヵ月齢で出荷体重、肉質とも確保できるように、1日当たり増体量の最大時期を試験区1では試験開始から16〜24週目に、試験区2で28〜36週目に設定しました(表−2)。

表−1 供試牛の概要 単位:日、kg、cm

表−2 期間DGの設定 単位:週、ヵ月齢、kg

 これは、黒毛和種の肥育体系において、仕掛け(濃厚飼料給与の最大期)を早くする方法と一緒の考え方です。

 肥育試験の結果ですが、終了時の体重は試験区1:728.5kg、試験区2:652.0kgとなりましたが、試験区2の1頭が586kgと増体の伸びが見られなかったためです。

 枝肉成績は表−3のとおりで、肉量面では3号牛を除く3頭で枝肉重量420kg(体重650kg、歩留64%)を上回り、ロース芯面積も50cm2を確保できました。しかしながら、2号牛はバラの厚さが不足し皮下脂肪が厚いため、歩留等級において B 等級となりました。

表−3 枝肉成績 単位:kg、cm2、cm、%、No.

 肉質面では3号牛を除く3頭ともBMS No.5、BCS No.3で肉質等級において4等級となりました。

 次に収支概算を表−4に示しました。1号牛は BMS No.5の A4等級でしたが、皮下脂肪の厚さおよび枝肉全体への脂肪付着が適度で、BCS No.3と肉色も濃くなく、照りも見られたため、単価1992円、販売価格93万6638円、差益32万0139円。2号牛は肉質はBMS No.5、BCS No.3でしたが、バラの厚さ不足と皮下脂肪が厚かったため B4等級となり、単価1783円、販売価格76万5264円、差益12万6715円。3号牛は、肉量および肉質形質とも劣り、A3等級で単価1354円、販売価格48万3649円、差益▲15万5890円。4号牛は皮下脂肪が若干厚めでしたが、肉質、歩留等級ともに1号牛と大差はなくA4等級でした。しかし、バラに瑕疵(ズル)があったため、単価1491円、販売価格66万9161円、差益5万3772円となりました。以上のことから、黒毛和種去勢牛の24ヵ月齢出荷に向けた飼料給与は、仕掛け時期を早めることで可能と思われます。しかし、枝肉成績のバラの厚さおよび脂肪交雑が今ひとつ伸び悩んでいるのは、肥育前期からの濃厚飼料の多給により、丈夫な腹づくりが十分出来ていなかったため、肥育期間中の濃厚飼料の総摂取量が不足したことや脂肪前躯細胞の増殖に必要と考えられている総繊維などが不足したためと推察しました。

表−4 収支概算 単位:kg、円

 そこで、追試験として、肥育前期に粗飼料を多給し、24ヵ月齢の出荷ができないかという試験(以下試験2とします)に取り組みました。

 この試験は、主に一貫生産農家を対象として、生後5〜6ヵ月齢の黒毛和種去勢牛8頭を単飼育により、肥育前期に粗飼料を多給し24ヵ月齢での枝肉出荷を目標としました。(しかし、試験終了時期が、BSEの発生による出荷延期時期となったため、1ヵ月程度遅延しました)。肥育前期の粗飼料多給方法ですが、肥育前期における粗飼料からのTDN給与割合を試験区では40%、対照区では27%に設定しました(図−1)。

図−1 粗飼料からのTDN給与計画

 試験2の結果ですが、終了時の体重は粗飼料多給区:713.0kg、対照区:700.0kgとなりましたが、粗飼料多給区で1頭607kg、対照区で1頭655kgの個体がみられました。

 腹づくりの目安として腹囲−胸囲の差(以下胸腹差とします)を測定しましたが、肥育開始時で粗飼料多給区:31cm、対照区:32cmであったものが、前期終了時には粗飼料多給区:34cm、対照区:32cmとなりました。また、粗飼料多給区では前期終了時に開始時の胸腹差を上回ったものが4頭中3頭でしたが、対照区では4頭中1頭でした。

 枝肉成績は表−5のとおりで、肉量面では粗飼料多給区の平均枝肉重量は448.6kgで、2号牛を除く3頭で枝肉重量420kgを上回り、対照区では平均439.6kgで5号牛を除く3頭で上回りました。ロース芯面積は、粗飼料多給区:44cm2、対照区:48cm2となり、50cm2を上回ったのは各区1頭ずつでした。また、両区とも枝肉重量に対してバラの厚さが不足し、皮下脂肪が厚い傾向にありました。

表−5 枝肉成績 単位:kg、cm2、cm、%、No.

 肉質面では2号牛を除く7頭でBMS No.4以下の脂肪交雑不足に加え、全頭BCS No.4でやや肉色が濃く、さらに、肉のキメシマリでは3等級以下となりました。

 次に収支ですが、枝肉販売日が平成13年11月24日と2頭目のBSE発生直後のため、大きく相場を下げるとともに、肉質等級が2〜3等級ということもあり、販売価格はモト牛価格を下回り、飼料費と合わせると1頭当たり30万円近いマイナス収支となってしまいました。

 試験2では、粗飼料多給による丈夫な腹づくりと総繊維などの十分な供給により、脂肪交雑の向上、バラの厚さやロース芯面積の確保を狙いとして取り組みましたが、その結果は、全く逆の結果となってしまいました。このことは、肥育前期に粗飼料の多給に重点を置き、濃厚飼料や補助飼料などを極端に給与制限したため、筋肉づくりに必要な十分な栄養(特にタンパク質)が供給されなかったことが一要因と思われました。このことは、血中尿素窒素が、肥育前期では低く推移したことからも推察されました(図−2)。

図−2 血中尿素窒素(BUN)の推移

試験−2の枝肉写真

     
     
     

  全和肉牛の部の成績から

 平成14年12月中旬、同年9月に岐阜県で開催された第8回全国和牛能力共進会の結果を踏まえた和牛改良シンポジウムが(社)全国和牛登録協会の主催により開催されました。その中では、(社)全国和牛登録協会、神戸大学の向井教授は、種牛の部、肉牛の部の結果から、今後の和牛改良の目標をさまざまな角度から分析するとともに、好成績を上げた県の具体的な取り組み事例の紹介をしました。(社)全国和牛登録協会、向井教授ともに肥育牛の出荷月齢に触れ、「30ヵ月齢の出荷が妥当といえるのであろうか」「24ヵ月齢の出荷が可能なのではないか」という投げかけを行いました。確かに、本共進会の肉牛の部の出荷月齢は24ヵ月齢未満であり、出品された186頭の主な枝肉形質の基本統計量が、枝肉重量412.6kg、ロース芯面積51.7cm2、バラの厚さ7.1cm、皮下脂肪の厚さ2.3cm、BMS No.6.3となり、平成13年度の(社)日本食肉格付協会去勢牛全国格付結果(枝肉重量445.2kg、ロース芯面積51.9cm2、バラの厚さ7.5cm、皮下脂肪の厚さ2.4cm、BMS No.5.0)と比較しても遜色のないものといえました。さらに、発表演題中の岐阜県の取り組み事例では、本選の2ヵ月後に開催した第8回全共記念飛騨牛カーニバルに出品された85頭の枝肉成績は、出荷月齢25.5ヵ月齢、枝肉重量441.8kg、ロース芯面積54.1cm2、バラの厚さ8.1cm、皮下脂肪の厚さ2.6cm、BMS No.7.4、4・5等級率(上物率)90.6%と大変優れた結果であったことが報告されました。また、本県での第9区若雄後代検定牛群の本選に出品(代表牛の成績は優等3席:脂肪交雑賞を受賞)できずにその後、27ヵ月齢未満で出荷された20頭の結果は、出荷月齢26.2ヵ月齢、枝肉重量426.0kg、ロース芯面積52.6cm2、バラの厚さ7.4cm、皮下脂肪の厚さ2.4cm、BMS No.5.7と先の全国格付結果と大きな差はないものと思われました。

  まとめ

 各府県立畜産試験研究機関で行われた各種肥育期間短縮への取り組みおよび上記のことから、飼料給与体系の工夫により黒毛和種去勢牛の肥育期間を短縮すること(24ヵ月齢程度)は可能であると思われました。しかし、当場の取り組んだ試験では、供試牛は、わずか4頭にもかかわらず増体の良くなかったものが1頭見られました。また、次の試験では粗飼料を十分に給与し、丈夫な腹づくりができたと思われましたが、バラの厚さ、ロース芯面積、脂肪交雑の改善は見られず、さらに、出荷した市場ニーズ(肉色は浅めで肉のシマリ・キメのしっかりしたもの)に適さず、BSE 発生という状況も重なって、大きな損を出す結果となってしまいました。

 また、第8回全国和牛能力共進会では、上位入賞牛の枝肉成績は、出荷月齢にとらわれず、脂肪交雑だけでなく、肉の色、シマリ・キメも大変すばらしいものでした。しかし、先に述べました本県の出品が叶わなかった候補牛20頭の中には、A5等級でBMS No.10のものや A2等級でBMS No.3のものもありました。

 最近では、和牛肥育の飼料給与を考える上で、従来のTDN、DCPだけでなく、肉用牛の体の組織、器官が発達する時期などを考慮した産肉生理理論を理解した上で、さらに、総繊維や分解性タンパク質(DIP)などのルーメン内での分解性や吸収性およびルーメン通過後の吸収性を考慮した栄養配分がされるまでになっています。

 以上のことから、肥育農家では安易に肥育出荷月齢を早めるために濃厚飼料多給時期を早めるなど給与体系を変更するのは、出荷牛の肉量および肉質の斉一性を欠くなどの大きなリスクを伴うことが予想されます。

 しかし、先に述べましたように、和牛肉に対する消費者のニーズは、品質の高さだけでなく、安心、安全、安価など非常に多様化し厳しいものとなっており、コスト削減などの経営の効率化は必要不可欠となってきています。

 また、全国各地にある枝肉市場では、それぞれ地域の経済性や消費者の好みなどから、和牛肉に対するニーズもさまざまです。

 これらのことを整理すると、

 (1)消費者および出荷先の枝肉市場のニーズ(肉のシマリや肉の色など)を的確にキャッチする、(2)導入し肥育するモト牛の血統、特徴を捉える、(3)肥育給与体系は、牛の産肉生理を念頭に、発育ステージに適合した給与飼料の組み合わせと時期を検討する、(4)肥育期間中は、肥育牛の能力が十分に発揮できるよう飼養管理に努める−などのハードルを乗り越えて、肉量および肉質の斉一性を確保した上で、初めて肥育期間短縮などの経営の効率化が図られると考えます。

 「黒毛和種去勢牛の適正肥育期間は?○ヵ月で、その飼料給与体系は○です。」とは明言できませんが、市場ニーズを捉えた和牛肉を無駄な経費(給与飼料や肥育延長)を掛けずに出荷していくことが最も必要であり、そのためにも、農家の皆さんには、出荷牛の枝肉を市場で実際に見るとともに、市場の生の声を聞いていただきたいと思います。

(筆者:山口県畜産試験場・専門研究員)