家畜ふんたい肥と土づくり

── 第2回・家畜ふんたい肥の使い方・JAあいち知多有機センターの事例 ──

 

後藤 逸男

  家畜ふんたい肥は肥料として使う

 前回に記したように、たい肥のルーツである稲わらたい肥にはあまり肥料成分が含まれていないため、土壌改良資材としての性質が強い。しかし、家畜ふんを原料とするたい肥の場合には、肥料として使った方がよい。家畜ふんたい肥は、その原料により牛ふんたい肥、豚ぷんたい肥、鶏ふんたい肥に大別されるが、含まれる肥料成分の含有量と肥効には著しい違いがある。従来、作物の施肥基準や施肥設計ではあまりこの点にこだわらず、例えば施肥設計として、窒素・リン酸・カリ各20kgの他に10 a 当たりに対してたい肥2tとされてきた。すなわち、たい肥中の肥料成分量が施肥設計に反映されていなかったことが、野菜畑やハウスにおけるいわゆる土の生活習慣病に結びついたわけである。とはいえ、土壌診断と比べて生産現場での家畜ふんたい肥の成分分析が難しく、またたい肥の原料だけでなく、製造場所や時期により成分量が大きく変動するため、現実的にはたい肥中の肥料成分をカウントすることは困難であったが、平成11年の肥料取締法の改正により流通するたい肥の成分が表示されるようになった。耕種農家がこれらのデータを上手に利用しながら施肥設計を立て作物を栽培することによる最大の利点は、肥料代が削減できることである。特に、高価な有機質肥料を使っている農家には影響が大きい。また、家畜ふんたい肥中の肥料成分を有効活用することで貴重な肥料資源の節約とたい肥の過剰施用による地下水の硝酸汚染を抑制することにも大きな意義がある。ただし、耕種農家がこのような家畜ふんたい肥の使い方をすれば、利用量が減ってしまい、ただでさえ、だぶついている家畜ふん尿の処分にはならないということになる。この点がたい肥を作る側と使う側の大きな矛盾点であるが、これを乗り越えないと、この問題は解決できない。

 家畜ふん尿の処理にできる限り金をかけないで、少しでも安く、少しでも多く耕種農家に使ってもらいたいと思うと、その結果、たい肥の品質が悪くなり逆に敬遠されてしまう。そこで、畜産農家にもあまり負担をかけないで、これまでより少し多めの金を払ってでも耕種農家が喜んで使ってくれるたい肥を提供することが最も基本的な家畜ふんたい肥の作り方といえる。なお、耕種農家が好んで使うたい肥とは、臭くなく、水分が適切であること、散布しやすく肥料成分含有量の変動が少ないこと、そしてできる限り安いことである。

 家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律の施行により、平成16年11月以降には家畜ふんの野積みが禁止されることで、現在各地では国の補助を利用した大型たい肥センターが作られ、稼働を始めている。筆者らはそのようなたい肥センターの1つである JA あいち知多総合有機センターから生産される家畜ふんたい肥を対象に、その品質と合理的な使い方について検討したので、その概要を紹介する。

  JAあいち知多総合有機センターのたい肥活用プロジェクト

 愛知県知多半島に位置する JA あいち知多では管内の畜産農家から排出される家畜ふんを有効利用するとともに、環境にやさしい農業を実践する目的で、平成11年度農業生産体制強化総合推進対策事業によるたい肥センター(JA 総合有機センター)が始動し、平成12年春よりたい肥の供給が開始された。有機農業推進部会ではこのたい肥を有効利用して、消費者が求めるおいしくて安全な農産物を供給することを計画している。そこで、家畜ふんたい肥を肥料として活用するケーススタディとして、平成12年4月より3年間にわたって地元の農業改良普及センターも加わった共同プロジェクト研究を行った。

(1)有機センターのたい肥はばらつきの少ない完熟たい肥

 有機センターから生産されるたい肥は、乳牛ふんを主体として肉牛ふん、豚ぷん、鶏ふんを原料とし、スクープ式たい肥化槽に18日間、たい積熟成槽で約1ヵ月たい積したものである。平成12年5月から月ごとに継続して成分分析を行った。その結果、平成12年5月から平成13年12月までの月別成分分析値の平均は、窒素1.5%、リン酸2.5%、カリ3.8%であり、比較的リン酸とカリ含有量が高かった。また、成分の変動を示す変動係数が20%程度と小さく、年間を通じて肥料取締法に規定される特殊肥料品質表示基準の誤差許容範囲内にほぼ適合した安定したたい肥が生産されていた。たい肥の水抽出液を用いたコマツナの発芽率はイオン交換水と全く同等で、播種1日目には約80%、2日目以降ほぼ100%に達した。

 このたい肥中には約1.5%の窒素が含まれていたが、土壌に施用してもほとんど無機化せず、74日後の無機化率は約6%にすぎなかった。従って、このたい肥を圃場に10 a 当たり1t 施用しても、肥料として無機化する窒素量はわずか0.9kg/10aとなる。すなわち、このたい肥を施用しても窒素肥料として効果はほとんど期待できない。このように窒素の無機化率が著しく低いということは、このたい肥が完熟たい肥であることを示している。また、このたい肥中のリン酸とカリの肥料効果をポット栽培試験で調べたところ、10 a 当たり2t 施用すると、その中のリン酸とカリは化学肥料に十分匹敵することがわかった。

(2)たい肥を施用するキャベツ圃場の土はすでに肥満傾向

 この地域は古くからタマネギ・ジャガイモ・キャベツなど野菜の産地(写真−1)である。今後有機センターのたい肥を施用することになるキャベツ畑の土壌を調べてみた。この地域の土壌は本来腐植を欠き、酸性が強いやせた赤黄色土であったが、長年の土壌管理により図−1のように改良が進んでいる。全圃場のpH(H2O)平均は6.3で、カリなどの塩基類は過剰気味傾向にあった。また、可給態リン酸は平均136mg/100g、水溶性リン酸は21mg/100gに及んでいた。通常、可給態リン酸が20mg/100g程度あれば、作物が十分育つことが知られているので、リン酸が大過剰状態にある。このようなすでに肥満傾向にあるキャベツ畑で、完熟たい肥をどのように使うかが課題となる。

写真−1 JAあいち知多(大府市)のキャベツ畑

図−1  キャベツ畑の土壌診断レーダーチャート(JAあいち知多)

上限値、下限値は地力増進基本指針に準拠して設定

(3)たい肥と尿素でキャベツ栽培

 そこで、JA あいち経済連の特別栽培農産物表示認証制度に基づく有機特別栽培区(有機センターたい肥10 a 当たり2t と部会指定の有機質肥料)と有機質肥料の替わりに尿素を施用した尿素区(有機センターたい肥10 a 当たり2t と尿素)を有機農業推進部会員の畑に設けて、平成14年9月よりキャベツを栽培した。両試験区とも施用した肥料中の窒素量は同量で基肥窒素量が10 a 当たり18kg、追肥窒素量が10 a 当たり6kgであった。なお、有機特別栽培(減化学肥料栽培)の基準は、地域の慣行施肥使用量の窒素成分を約50%以上の削減である。栽培試験の結果、写真−2表−1のようにキャベツの生育・収量は両試験区間で同等であった。また、キャベツに含まれるビタミンC含有量は両試験、両区ともに61〜69mg/100gと食品分析表の値41mg/100gを大きく上回った。このようにたい肥10 a 当たり2t と尿素10 a 当たり56kgの施肥で有機特別栽培区と同等のキャベツを生産することができた。この栽培に要した肥料代を比べてみると、表−2のように有機特別栽培区では散布を含めたたい肥代1万円の他に有機質肥料代として2万5770円であった。これに対して、尿素区ではたい肥代は同じであるが、尿素代がわずか2780円に過ぎなかった。尿素区では化学肥料である尿素を使用するため化学肥料削減率は0%で、当然有機特別認証を受けることはできないが、化学肥料を使用してもキャベツの品質は変わらない。有機認証を得て少し高く売れるキャベツをつくるか、あるいは肥料代が格安の普通栽培キャベツをつくるかの選択は農家に任される。

写真−2 キャベツの施肥試験結果(JAあいち知多 有機農業推進部会)

表−1 キャベツの施肥試験結果

表−2 キャベツ栽培に要した肥料代

 このたい肥2t の中には窒素:約32kg、リン酸:約52kg、カリウム:約72kgの肥料成分が含まれている。一方、現地で生産されたキャベツの肥料成分吸収量は窒素(N)10 a 当たり34kg(10 a 当たり可食部20kg)、リン酸(P2O5)10 a 当たり10kg(10 a 当たり可食部6.4kg)、カリ(K2O)10 a 当たり44kg(10 a 当たり可食部29kg)であったので、この施肥設計によりキャベツを栽培すると、収穫後には約10 a 当たり40kgのリン酸と約10 a 当たり30kgのカリが残留することになる。土壌中にリン酸が蓄積するとキャベツのようなアブラナ科野菜の連作障害としてやっかいな根こぶ病が発病しやすくなる。調査した約半数のキャベツ圃場の作土から105個/gの休眠胞子が検出されたので、これ以上リン酸過剰を助長することは絶対に避けなければならない。また、有機センターのたい肥中の窒素はその作のキャベツにはほとんど利用されないが、牛ふんたい肥では施用10年後までに80%程度の窒素が緩効的に無機化することが知られている。この無機化窒素を上手に使えば地力窒素として有効利用できるが、多量に放出されると雨水により地下に流亡して地下水の硝酸汚染をもたらす。

  完熟たい肥ほど使い方に注意が必要

 たい肥を作る畜産農家もそれらを使う耕種農家も完熟たい肥こそが両者の求める究極のたい肥であり、完熟たい肥であればどんなにたくさん施用しても作物に害はないと考えている人が多い。しかし、完熟たい肥ほど窒素がアンモニアガスとして揮散し、リン酸やカリが濃縮されるので、過剰施用により土の生活習慣病を引き起こしやすくなる。また、完熟鶏ふんたい肥の中には畑に施用すると窒素が効くどころか逆に土壌中の窒素を取り込み有機化してしまうものさえ流通している。このような鶏ふんたい肥を大量に施用してスイカ苗に窒素飢餓を起こした事例もある。さらに、完熟豚ぷんたい肥中には重金属でもある亜鉛や銅が濃縮されていることが多いので、この点からも過剰施用に注意する必要がある。

 それでは、どの程度が適正施用量であるかを考えると、畜種・熟度・水分などによりその量は異なるが、上記のような JA あいち知多のたい肥の場合、使い込んだ野菜露地畑では年間1t/10a、ハウスでは500kg/10a程度と判断される。従来の使い方からすればかなり減らさなければならないが、その分利用者を増やせばたい肥の利用は拡大される。そのためにも、耕種農家が既存肥料の代替物として使いこなせるような良質たい肥を供給することが求められる。また、完熟たい肥の最大用途として水田を忘れてはいけない。

(筆者:東京農業大学応用生物科学部・教授)