マイコプラズマ感染症とサーコウイルスによる
PMWSに関する最新情報

 

マーク・モンバーク

 豚呼吸器疾病の中心をなすマイコプラズマ感染症に関する最新情報および世界中の養豚関係者の間で話題になっているサーコウイルス2型(PCV−2)による「離乳後多臓器性発育不良症候群」(PMWS)のEUにおける対策等について報告する。ヨーロッパで経験したことは日本でも活かしていけるという前提に立って話を進めたい。

(1) 豚のマイコプラズマ感染症−その予防と新ワクチン情報

 マイコプラズマ感染症はワクチン接種による予防がもっとも成功した例だが、なぜマイコプラズマが養豚産業にとって、それほど重要なのかについて最初に説明したい。豚に肺炎を引き起こす原因には20〜30種があるが、マイコプラズマ・ハイオニューモニエMycoplasma hyopneumoniae(以下マイコプラズマ)は単に流行性肺炎を発症させるばかりでなく、気管線毛を損傷させ、それにより二次感染を起こすことになることにも注目しなければならない。気管線毛には運動性があり、細菌やほこりを体外に排出する作用があるが、ダメージを受けるとそうした浄化作用がなくなるためである。

 もう1つ、免疫関連細胞の機能も抑制されるため、Bordetella bronchiseptica およびPasteurella multocida(いずれも萎縮性鼻炎=ARの原因菌)、PRRSV(豚生殖器・呼吸障害症候群ウイルス)、APP(Actinobacillus pleuropneumoniae、豚胸膜肺炎の原因菌)などさまざまな病原菌に感染しやすくなり、複合感染を引き起こす。これらをひっくるめて、マイコプラズマ誘発性呼吸器疾病(MIRD)ということができる。

 マイコプラズマ感染症による損害は、肺炎発生率の増加、増体量の低下(1日当たり−70g)、飼料効率の低下、抗生剤の使用増加、同一豚房内の体重のバラつきなどがあげられる。マイコプラズマは世界中で多発している複合呼吸器疾病の主要原因であり、肥育豚においてもっとも治療費のかかる重要な疾病であるといえる。

 予防対策としては、@連続式のピッグフローをオールイン・オールアウトに切り換える(飼育密度も考慮する)、A飼養環境を整え症状の増悪化を最小限に止める、Bオキシテトラサイクリンなどの抗生物質をパルス投与する(ただし、投与を中止すれば再発することや消費者の薬剤多用に対する懸念が強まっていることからヨーロッパでは現在行われていない)などがあげられる。

 デンマークでは、撲滅を目指してSEW/MEW(隔離早期離乳・投薬早期離乳法)、帝王切開、子豚のsnatching(間引き)などが試みられているが、実行した農家の10%が1〜2年以内に再感染しており、撲滅は困難と考えられる。

 実質的にもっとも効果的な対策方法は、マイコプラズマワクチンの使用である。1990年半ばに欧米で最初のワクチンが開発され、発売当初はユーザーの養豚農家は懐疑的であったが、現在では全農家の70〜80%が使っており、最も普及している豚用ワクチンの代表である。

 ワクチン効果は、細胞性免疫もしくは局所免疫がともに重要な働きをして、マイコプラズマによる肺炎の発生を低下させるが、感染防御効果はなく、ワクチンを使用しただけでマイコプラズマを撲滅させることはできない。

 ここでフォートダッジ社のマイコプラズマワクチン「レスピフェンドMH」の有効性を検証するために行われた臨床試験を紹介する。

 本試験はフォートダッジ社のアニマルヘルス・サービス部とオランダ・ユトレヒト大学獣医学部が共同して企画し、信頼性を確保するために第三者である養豚専門獣医師が盲検法により実施したものである。

 平均母豚数353頭規模の16の閉鎖豚群を用意、その豚群をまったく同等のA群とB群に群分けした。オーエスキー病以外のワクチン接種はせず、全豚群を近代的かつ良好な管理下で飼養した。各獣医師は1豚房内にプラセボ(偽薬)およびレスピフェンドMH接種豚を同居させ飼養条件をできるだけ同一になるように工夫した。ワクチンは1週齢および3週齢で2回、全体で約5000頭が接種された。

 その結果は表−1の通りである。結論としていえることは、ワクチン接種をすると1日当たり増体量が29g増加し、飼料効率も有意に改善(−0.11)した。

表−1 マイコプラズマワクチンの臨床試験結果(仕上げ期)

プラセボ レスピフェンド p値
群あたり肥育頭数 108 108 0.536
1日増体量 720 749 0.011
飼料要求率 2.68 2.57 0.030
死亡率 2.7% 2.3% 0.564
治療率 12.1% 7.0% 0.277
と畜日齢 190.7 189.6 0.268
と畜時体重(生存時) 110.9 113.3 0.041

 つまり、経済的にみると、体重1kg当たり110gの飼料を節約することができ、1頭当たり3ユーロ(約400円)ほどの付加価値がついたことになる。日本は飼料コストが高いのでワクチンによる付加価値はもっと高くなるはずである。とくに大規模近代的養豚場においても対費用効果が確認されたことは意義が大きいといえる。

 マイコプラズマワクチンの問題点を3つあげる。

 第一は、マイコプラズマ感染とワクチン接種のタイミングの問題である。マイコプラズマ感染は豚群により大きく異なり、季節的にも大きく変動する。肥育専門農場の場合、子豚の導入元が複数になれば、さらに感染のタイミングも変わる。

 飼養管理方法によっても、感染の度合いが違い、豚房の仕切りが壁より柵の方が、またオールイン・オールアウトより連続フローの農場が感染しやすい。最初の感染は分娩舎で起こり得る。確率は低いものの初産の母豚では100頭のうち1〜2頭で伝播の可能性がある。

 8〜10週齢で気管支肺胞洗浄液からマイコプラズマの遺伝子が検出される例が多く、抗体価は感染成立後6週間目くらいにしか検出されないことから、遺伝子検査は有用である。MIRDは通常、12〜18週齢で発現する。

 ワクチン接種は、マイコプラズマの曝露前に実施することが常識であり、これらのことを考慮すると、8週齢までに十分な免疫が成立している必要がある。免疫が成立するには、2回目接種後、1週間が必要で、2〜3週間目で最高となる。

 従って、一般的には分娩舎にいるうち(最大でも生後6週齢以内)に2回の接種を終えておくことが効果的である。単回接種の場合は免疫出現に時間がかかることが指摘されており、さらに注意を要する。

 第二に、移行抗体の影響である。マイコプラズマワクチンは移行抗体の影響を受けるという報告もあれば、受けないという報告もある。これまでの報告をまとめると、移行抗体存在下のワクチン接種群の効果はワクチン非接種群よりはよいということであって、移行抗体非存在下に比べると効果が減弱すると考えるのが妥当であろう。

 移行抗体の影響は通常、妊娠後期のワクチン接種による高レベルの抗体が原因であり、子豚接種の効果が減弱される以上、早期感染の危険性・頻度が高いなどの理由がない以上、母豚へのワクチン接種は勧められない。早期感染が認められる場合は、初産豚からの感染が多いという事実から、特に候補豚の段階で交配前に追加接種しておくのが理論的にもリーズナブルである。

 第三は、近く日本でも発売される単回接種のワクチンとの問題である。EUで2002年半ばから主に繁殖養豚農家向けに販売され、これまでの2回打ちの2倍の価格ながら労働コストの軽減になるのが大きな利点とされている。しかし、一時的に野外農場で使用されたものの免疫持続期間が十分でないなどが専門家の間で指摘されており、現在では、米国、イギリスおよびドイツでは2回接種が再び主流になってきているのが実情である。

 米国において、単回接種は、豚インフルエンザウィルス、PRRSウイルスを含む肺炎関連病原体の感染リスクが低い安定した豚群で推奨されているようである。逆に、マイコプラズマがPRDC発病の引き金を引いているような場合は2回接種用のワクチンが推奨されている。

(2) 豚サーコウイルス(PSV-2)感染と予防対策

 1991年にカナダ東部の開業獣医師により豚の新しい疾病の報告が行われた。発育遅延、全身性リンパ節症などの症状を呈することから、「離乳後多臓器性発育不良症候群」(PMWS=post-weaning multisystemic wasting syndrome)といわれている疾病だが、研究途上であり、世界の研究者が報告している内容をかいつまんで紹介する。

 PMWSは、1996年になって豚サーコウイルス(PCV=Porcine Circovirus)が関連していることが判明し、1996 年以降、米国およびフランス、スペイン、ドイツ、北アイルランド、イタリア、オランダとヨーロッパ各国での発生が報告された。

 さらに 1999 年メキシコ、台湾、韓国と広がり、最近の畜産関連の国際会議では必ず話題になるほどで、現在はほぼ世界中にまん延したといってもいい。

 サーコウイルス(PCV)には、1型と2型があり、2型が PMWS に関係していることが分かっている。最近、保存してあった検体をあらためて調べたところ、すでに1976年(イギリス)と1986年(スペイン)にサーコウイルス2型(PCV-2)の抗体が検出され、PCV-2 感染があったことが分かった。その当時は感染がありながらPMWS が発症しなかったのかについては、最近になって発症するようになったのは何故なのか、については分かっていない。

 PMWS 発症豚の病原学的検査の報告から、PRRSV との混合感染を指摘している研究者もいるが、状況証拠の段階であり、確定はしていない。

 ただし、感染実験で、PCV-2+PRRSV、PCV-2+PPV、PCV-2+免疫刺激などで PMWS を再現したとの報告があるので、あながち間違っているとはいえないだろう。

 PMWS(離乳後多臓器性発育不良症候群)とは、前述したように PCV-2感染による特徴的な組織病理学的病変を伴う疾病で、豚を衰弱させ発育不良を起こすが、PCV-2関連症状はそれだけではない。

 臨床的には、発育不良以外に、蒼白、黄疸なども認められる。発生時期については、図−1に示したように5〜20週齢(高頻度は8〜12週齢)の豚で好発し、罹患率2〜60%(同4〜10%)と必ずしも高くはないが、発症豚の致死率は50〜100%(同70〜80%)と高いのが特徴である。また、抗生物質療法に反応しないことも特徴の一つである。発症率は、連続的ピッグフローによる分娩から肥育までの一貫経営(オールイン・オールアウトではない飼養形態)および導入元が複数のモト豚を混合した肥育舎で飼養した場合に高くなるようである。

図−1 PMWS罹患豚の月齢分布

 肉眼的病変は、肺虚脱(69.8%)、リンパ節腫大(69.8%)、肺の硬化(53.4%)、胃潰瘍(37.8%)、腎臓の白斑(18.2%)、黄疸(6.1%)などだが、これらは PMWS の特異病変ではない。

 組織学的病変は、リンパ節のリンパ細胞減少(87.2%)、組織球浸潤(77.0%)、封入体(45.3%)、融合細胞(36.5%)の4つが特異的な所見である(表−2)。

表−2 PMWSの組織学的病変

病  変 度 数
リンパ節のリンパ細胞減少
組織球浸潤
封入体
融合細胞
リンパ節の壊死
間質性肺炎
中等度の肝炎
強度の肝炎
間質性腎炎
129/148
114/148
67/148
54/148
18/148
130/148
.82/148
11/148
67/148
87.2
77.0
45.3
36.5
12.2
87.8
55.4
7.4
45.3

 最もよく冒される器官は、扁桃、リンパ節、パイエル板、肺、脾臓、肝臓、腎臓で、これらは診断に最も適した組織といえる。

 以上を踏まえて、PMWS の確定診断は、(1)PMWSに一致する臨床症状の存在、(2)特徴的な病理組織学的所見の確認、(3)病変部位からのPCV-2の3点で行われる。

 ところで、PCV-2に感染しているにもかかわらず豚の PMWS 発症率が低い養豚場があるが、何が PMWS を発症させる決定要因になっているのか、それが、いま PMWS 研究のターゲットになっている。

 誘発する因子はかなり分かってきた。PCV-2株の遺伝的変異、月齢、個体に対する影響・同腹子に対する影響、品種(品種によってかかりやすさが違う)、免疫調節(免疫抑制性ウイルス、併用ワクチン接種の影響)、PPV(豚パルボウイルス)や PRRSV(豚生殖器呼吸器症候群ウイルス)の同時感染、マイコトキシン(カビ毒)などが発症を誘発するようだ。

 PCV-2感染と同時に診断された疾病は、PRRS、オーエスキー病、豚皮膚炎腎症症候群、グレーサー病、Strep.suis による髄膜炎、サルモネラ症、Escherichia coli による胃腸炎、非特異的な下痢、カタル性化膿性気管支肺炎だ。これらの疾病をみつけたら、PCV-2感染の可能性があるので、見逃してはならない。

 「豚皮膚炎腎症症候群」(PDNS=Porcine dermatitis and nephropathy syndrome)はPCV-2によって再現はされていないが、発症豚から高率に PCV-2が検出されているので、原因として疑われている。PDNS 発症豚がいれば、その豚群は PMWS にかかっていることが多い。

表−3 豚皮膚炎腎症症候群(PDNS)

 PDNS は皮膚および腎臓をターゲットに典型的な病変を呈する。それは、後肢の出血斑と腫大し脆弱化した点状出血のある腎臓である。罹患率は0.05〜1%と低いものの、PDNS 発症豚の致死率は90〜100%と非常に高い。発病病理学的には3型アレルギーが疑われている。

 以上、PMWS についての概要を述べたが、病理については極めて多くのことが分かってきた。しかし、疫学的には解明されていることははるかに少ない。なぜ疾病が発生するのか、なぜ豚群間の伝染病のようにみえるのか――分からないことが多い。そのため、その感染予防対策は立てようがないのが現状である。

 ただし、私の経験からいえば、感染した場合は1〜2ヵ月間がピークで、その後、徐々に減少し、8ヵ月後くらいに終息するので、この最も危険性の高い時期は少なくとも一般的な衛生管理、飼養管理面で環境を整えることで症状の程度をいくらかでも改善できるようである。以下にそのポイントを挙げておく。

  1. 畜舎などの建物の十分な換気
  2. 適切な飼養環境づくり
  3. 適切なワクチネーション・プログラム(ワクチン接種計画)の実施
  4. 去勢、注射など処置時の厳密な衛生管理(例えば、注射針の交換は少なくとも1腹ごとに行う)
  5. 病豚の早期隔離(病豚舎に隔離後、安楽死させるのがベスト)
  6. オールイン・オールアウトの実施

(筆者はフォートダッジ・アニマルヘルス ドイツ・ベネルクス社
養豚学術・技術部長、獣医学修士)

本稿は、フォートダッジ株式会社、財団法人化学及血清療法研究所、共立製薬株式会社の共催により7月中旬に全国3ヵ所で行われた「養豚セミナー」の講演(通訳・福英司獣医師)の内容の一部を本誌がまとめたものである。