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「養豚生産現場における衛生問題とその対処法」

―― 日本豚病研究会「養豚衛生の実態調査」の結果から ――
 

I はじめに

 養豚の生産規模が大型化する中にあって、衛生部門の果たす役割はますます重要となっています。現在、オーエスキー病やPRRS(豚繁殖呼吸障害症候群)などの新興・再興疾病の国内発生、複合感染を伴う呼吸器病や消化器病の多発、口蹄疫などの海外伝染病の侵入リスクの増大など多くの問題について解決を迫られています。さらに、牛海綿状脳症(BSE)の国内発生以来、「食」の安全性に対する信頼が大きく揺らぎ、生産段階における安全性確保のための衛生管理は重要な課題となっています。

 こうした状況を踏まえ、日本豚病研究会では、「養豚衛生の実態調査」を実施し、生産現場における衛生問題とその対処法の実態について、養豚経営者および豚の臨床に携わる獣医師を対象にアンケート調査を平成14年1〜2月に実施しました。

 そこで、今回はそのアンケート調査の中から、養豚経営者への調査結果から養豚生産現場における衛生問題について考えてみたいと思います。

II 調査の方法

 調査はアンケート方式により実施することとし、原則として郵送により調査票を配布し、郵送による調査票の回収をしました。

 調査対象の養豚経営者は、経営規模の大小にかかわらず主として繁殖・肥育の一貫方式により生産を行っている研究会会員のほか、会員からの推薦のあった方の中から、原則として都道府県当たり豚の飼養頭数に応じて1名から数名を無作為に抽出しました。

 なお、回答者数は、養豚経営者185人、(回答率97%)でした。

III 回答者の概要

1.地域分布

 回答者の所在地域は、北海道・東北41人(22.2%)、関東66人(35.7%)、北陸・東海18人(9.7%)、近畿8人(4.3%)、中国・四国11人(5.9%)、九州・沖縄41人(22.2%)となっています。

2.経営形態

 回答数175人のうち個人経営が117人(67%)、法人経営が58人(33%)で、個人経営のうち、専業経営は69人、複合経営は48人でした。法人経営は専業経営が49人で大半を占め、複合経営は9人でした。

3.飼養規模

 最近1年間における母豚の平均飼養頭数をみると、「100〜200頭」の経営層がもっとも多く31.9%を占め、次いで「50〜100頭」が23.1%、「50頭未満」が21.4%などとなっています。肉豚の年間出荷頭数についてみると、「1000〜2000頭」がもっとも多く29.5%を占め、次いで「1000頭未満」が25.1%、「2000〜4000頭」が23.5%などとなっています(表−1)。

表−1 飼養規模(母豚飼養頭数と肉豚出荷頭数)

母豚飼養頭数 回答者数 肉豚出荷頭数 回答者数
50頭未満 39 21.4 1,000頭未満 46 25.1
50〜100頭 42 23.1 1,000〜2,000頭 54 29.5
100〜200頭 58 31.9 2,000〜4,000頭 43 23.5
200〜400頭 16 8.8 4,000〜8,000頭 16 8.7
400〜800頭 14 7.7 8,000〜16,000頭 12 6.6
800頭以上 13 7.1 16,000頭以上 12 6.6
合計 182   合計 183  

IV 養豚経営者に対する調査の要旨

1.経営の現状と見通し

(1)収支実績は1年前に比べて、「良くなった」と回答した割合は53%でもっとも多く、次いで「変わらない」が34%、「悪くなった」が13%の順となっています。これは、BSE国内発生による豚価格上昇の影響がうかがえます。

(2)肉豚の生産コストは1年前に比べて、「下がった」と回答した割合が14%、逆に「上がった」が29%、「変わらない」が57%となっています。

(3)今後の経営見通しについては、「良くなる」と回答した割合が20%、「変わらない」が47%、「悪くなる」が33%となっています。

(4)今後の経営規模については、「現状維持」の割合が58%でもっとも多く、「規模拡大」が32%あり、「規模縮小」と「廃業予定」の合計10%を大きく上回っています。なお、廃業予定の理由は、後継者不足、ふん尿処理問題などとなっています。

2.繁殖母豚の確保・導入モト豚の馴致

(1)繁殖モト豚の確保は、「外部導入と自家育成の両方」が45%でもっとも多く、次いで「外部導入のみ」が34%、「自家育成のみ」が21%の順となっています。自家育成の理由は、母豚代の節減を図るためが多いようです。

(2)繁殖モト豚の外部導入における最近1年間の導入元農場数は、「1農場」が69%でもっとも多く、次いで「2農場」が22%の順でしたが、「3農場以上」が9%ほどありました。

(3)導入時の繁殖モト豚に対する馴致処置については、「隔離豚舎に収容、必要に応じ投薬・ワクチン接種」が55%であったのに対し、「特別な処置は行わない」は34%の割合となっています。また、「同居豚のふん便または腸管乳剤等の強制投与」が8%ほどありました。

(4)繁殖母豚の更新率は「25〜40%」との回答割合が70%を占めており、更新理由としては、「老齢化」が断然多く、その他に「不受胎」や「更新プログラム」、「無発情」などがありました。

3.人工授精の実施状況

(1)人工授精の実施状況についてみると、「母豚全頭で実施」が18%、「一部母豚で実施」が35%であり、実施の割合は両方合わせると53%に達しています。また、「現在は未実施だが、今後は実施予定」が9%ほどあり、人工授精の急速な普及がうかがわれます(図−1)。

図−1 人工授精の実施

(2)精液の供給では、「すべて外部供給」の割合が79%を占めてもっとも多く、次いで「すべて自家供給」が12%、「自家供給と外部供給の両方」が9%となっています。

4.子豚の生産・衛生状況

(1)離乳日齢は、「21〜28日齢」の場合が70%でもっとも多く、「14〜21日齢」および「21〜28日齢」が各15%となっており、「14日齢未満」はありませんでした。

(2)哺乳豚の死亡率は、「5〜10%」が50%でもっとも多く、次いで「5%未満」が31%、「10〜15%」が15%などとなっており、死亡率は全体として高レベルにあります(図−2)。

図−2 哺乳子豚の死亡率

(3)哺乳豚の死亡・淘汰の主な原因(複数回答)についてうかがったところ、「圧死」と回答した割合が47%でもっとも多く、次いで「飢餓・衰弱死」が29%、「下痢」が16%などとなっています(図−3)。


図−3 哺乳豚の死亡・淘汰原因

5.母豚・哺乳豚管理における注意事項

(1)母豚管理で重点的に取り組んでいること(複数回答)は、回答数の多い順に「栄養・飼養管理の適正化」、「発情観察の強化」、「淘汰・更新基準の適正化」、「異常産の発生防止」などとなっています(図−4)。


図−4 母豚管理での重点化事項

(2)哺乳豚管理で重点的に取り組んでいること(複数回答)は、「下痢・肺炎対策」および「保温対策」の回答数が断然多く、次いで「栄養補給の実施」、「その他疾病対策」などとなっています(図−5)。

図−5 哺乳豚管理での重点化事項 

6.肥育豚の衛生状態

(1)離乳後から出荷時までの死亡・淘汰率は、「5〜10%」と回答した割合が43%でもっとも多く、次いで「5%未満」が37%、「10〜15%」が16%などとなっています。

(2)死亡・淘汰が多い日齢は、「離乳後〜40日齢」が38%、「40〜80日齢」が39%の回答割合となっており、死亡・淘汰の大半は80日齢以内に起こっています。肥育前期における疾病対策は最重要課題であるといえます(図−6)。

図−6 離乳後の死亡・淘汰が多い日齢

(3)死亡・淘汰の原因について(複数回答)は、「呼吸器病」が65%でもっとも多く、次いで「消化器病」が17%となっており、両方合わせると80%以上を占めています。原因疾病として、豚胸膜肺炎、PRRS、離乳後下痢などの関与が疑われます(図−7)。

図−7 死亡・淘汰の主な原因

7.肉豚の出荷日齢・衛生費・と畜場輸送時間

(1)平均出荷日齢は、「185〜195日齢」が36%の割合でもっとも多く、次いで「175〜185日齢」が28%、「195〜205日齢」が15%などとなっています。

(2)肉豚1頭当たり衛生費についてみると、「500〜1000円」が34%でもっとも多く、次いで「1000〜1500円」が32%、「1500〜2000円」が15%などとなっています。

(3)肉豚のと畜場出荷に要する輸送時間は、「1時間未満」の割合が55%、「1〜2時間」が28%であり、半数以上は2時間以内となっています。しかし、「3〜5時間」が13%、「5時間以上」が4%ほどありました。

8.肥育豚管理における注意事項

(1)肥育豚管理でとくに注意している事項(複数回答)としては、「換気や湿度の豚舎内環境」とする回答数が断然多く、次いで「飼育密度の適正化」、「病豚の早期発見・早期治療」などとなっています。適正な飼養環境の維持に重点が置かれています(図−8)。


図−8 日常の肥育管理で特に注意していること

9.養豚関係情報の入手先

(1)経営情報(畜産物や生産資材の価格動向、関係法規、流通・金融情報など)の主な入手先(複数回答)は、「メーカー、商社などの取引先」からと回答した数がもっとも多く、次いで「各種研修・研究会」、「専門誌紙」、「同業者」、「農協」、「公的機関」などとなっています(図−9)。


図−9 経営関係の情報の入手先

(2)技術情報(資材・施設、飼養管理、ふん尿処理など)の主な入手先(複数回答)は、経営関係情報の入手先とほとんど同じ傾向であり、「取引先」の回答数が断然多く、次いで「専門誌紙」、「各種研修・研究会」、「同業者」などとなっています(図−10)。


図−10 技術関係の情報の入手先

(3)衛生情報(疾病発生動向、ワクチン・新薬など)の主な入手先(複数回答)は、「メーカー、商社などの取引先」や「家畜保健衛生所などの公的機関」の回答数が断然多く、次いで「専門誌紙」、「各種研修・研究会」などとなっています(図−11)。


図−11 衛生関係の情報の入手先

(4)必要とする情報(複数回答)については、「衛生・疾病発生」と「畜産環境」とする回答数が断然多く、最近における疾病多発の衛生事情やふん尿処理規制の強化の影響がうかがえます。

 次いで回答数の多いのは、「生産物・飼料などの価格動向」、「国内外の新技術」、「流通・消費動向」、「最新の機材・施設」などとなっています(図−12)。


図−12 現在の養豚経営で特に必要とする情報

10.資金投資・経営の取り組み方向

(1)資金投資をして改善したい優先事項(複数回答)としては、「畜舎等の建設・改修」と「ふん尿処理施設の建設・改修」であり、回答数の大部分を占める結果となっています(図−13)。


図−13 改善したい最優先事項

(2)今後重点的に取り組みたい事項(複数回答)として、「畜産環境問題・リサイクル養豚」と「豚肉の高品質化・安全性確保」の回答数が多数を占め、社会的要請を反映したものとなっています。

 次いで「定時種付・分娩・定時定量出荷」、「ゆとりある経営(週休2日体制)」などの順となっています(図−14)。


図−14 養豚経営で今後重点的に取り組みたい事項

V 終わりに

 これらの調査結果は、生産現場におけるさまざまな問題点を具体的に浮き彫りにできたと同時に、養豚衛生のあり方について多くの示唆を与える内容になっています。このたびの調査で明らかにされた問題の解決に向けての議論を深め、養豚経営の安定と発展に寄与することを願っております。