養豚生産現場における衛生管理対策の

現状と対策(II)

 

酒 井 健 夫

2 豚感染症の予防

 養豚経営の生産性や収益性を向上させるには、感染症の発生を最小限に抑制することが重要である。感染症は、ウイルス、細菌、原虫あるいは真菌などの病原微生物が豚に感染し、体内で増殖して発症する疾病である。感染症の発生状況や症状の程度、あるいはそれに基づく各種の障害は、種々の要因に影響される。例えば、微生物の病原性や感染力といった病原体側の要因、豚の日齢や移行抗体の保有状況あるいは栄養状態等の宿主側の要因、さらには輸送や密飼いによるストレス等の飼養環境側の要因が感染症の発生に影響する。そこで、感染症の発生を阻止するには、感染源の排除、感染経路の遮断、宿主の感染防御能の増強が必要である。このためには、適切な衛生管理技術と飼養環境の整備が重要である。

(1)導入豚の選定

 子豚や繁殖候補豚を導入する場合は、導入元の飼養環境または周辺地域の感染症の発生状況を事前に調査し、さらに豚群や個体の健康状態を十分に観察する必要がある。また、慢性型の呼吸器疾患や消化器疾患などの確認が困難な感染症については、導入前に検査を行い、その発生状況に基づいた必要な予防接種を計画的に実施することも求められる。特に、繁殖候補豚を導入する場合は、血清疫学的検査や微生物学的検査を行い、事前に特定の感染症に罹患していないことを確認する必要がある。

(2)病原体の侵入防止

 前述したが、一施設での飼養規模が大型化し、あるいは一地域に飼養施設が集約化した中で、一度侵入した病原体を排除することは不可能である。そのため、病原体の施設内への侵入防止および施設内での伝播阻止を図る上で、飼養施設への外来者の立ち入り禁止、車両の乗り入れ規制、導入豚の消毒の徹底、豚の豚舎間の移動制限、従事者の担当施設以外への立ち入り制限、作業マニュアルの制定と実践、豚舎内外の定期的消毒の実施を行う必要がある。なお、導入豚は少なくても3週間は検疫豚舎で飼養し、消毒やワクチン接種を行い、健康であることを確認した上で一般飼養管理区域に搬入する必要がある。

(3)疾病の早期発見と隔離

 感染症を予防する上で、豚および豚群の健康状態をはじめとする飼養施設内外の異常の有無を詳細に観察し、その状況を記録しておくことが重要である。すなわち、豚の元気、食欲、ふん便の性状、栄養状態、発育状態等の健康状態に異常を認めた場合は、直ちに当該の豚を隔離し、獣医師に診断や治療を依頼する。回復の見込みのない豚は直ちに淘汰し、淘汰豚や死産豚については病理解剖(剖検)などを行い原因を究明して、適切な衛生対策を講じる。なお、法定伝染病や届出伝染病が疑われた場合は、家畜防疫員の指示に従って防疫措置を講じなければならない。

(4)適切なワクチン接種

 ワクチン接種は、豚群に有効な免疫を与えて病原体の感染を阻止し、あるいは病原体が施設内に侵入した場合でも、発病を阻止する上で極めて有効な手段である。しかし、ワクチンの接種は、衛生的かつ健康的に飼養されている豚に対して、適切に実施しなければ十分な効果は期待できない。また、ワクチン接種を効果的に実施するには、その地域に適した衛生管理プログラムに基づいて計画的にワクチン接種を行う必要があるので、獣医師等に依頼することが肝要である。

(5)抗菌剤と抗生物質の適切な使用

 飼養施設内に常在している細菌性の慢性感染症の予防、特にワクチンが開発されていない細菌性感染症の予防や、ウイルス性感染症に伴う細菌性疾病の二次感染症の予防には、獣医師の指示に基づいて抗菌剤や抗生物質を投与して治療し、また飼料に添加して予防することが大切である。特に、抗菌剤の使用の際は、対象となる原因菌の種類を明らかにし、その特性を十分把握した上で、その原因菌に対して抗菌力が強く、病巣へ移行しやすい薬剤を選択すべきである。また、適切な量を、最適の投与方法で、一定期間継続投与して、原因菌の発育や増殖を阻止し、または殺滅することが大切である。

 なお、豚への薬剤投与の際に次の点を注意する必要がある。病豚では食欲が減退する場合が多いので、飼料添加による投薬では必要な容量を投与することが困難であり、その場合は飲水、強制経口あるいは注射の経路で投薬する。飲水で投与する際は、水をこぼしにくい容器を用いるべきであり、注射による投薬の際は、定められた皮下または筋肉内に確実に投与し、折れた針を豚の体内に絶対に残置させてはならない。従って、注射の際は豚を確実に保定することが肝要である。

 また、食品衛生法の規制によって動物用医薬品である抗生物質は、投与対象動物、用法、容量、使用禁止期間等の使用規制が定められているので、応用する際はこの基準を守り、薬剤を適正に使用して畜産物への薬剤残留を防止する必要がある。

(6)飼養環境の整備

 豚の感染症を予防するには、常に施設や豚舎の内外を清掃することと併せて、排水溝を整備し、適切にふん尿を処理し、悪臭を防止することが重要である。また、施設に適した消毒方法によって定期的に消毒を行うことは、飼養環境整備の基本事項である(表−2)。また栄養や飼養管理に注意し、舎内の温湿度や換気を適切に管理した環境下で、豚を健康に飼養維持することは、予防衛生を図る上からも重要であり、さらに、密飼いを避けるための計画的生産管理も生産性を向上させる面から大切である。

表−2 主な消毒剤と使用方法

対象物 消毒剤とその主成分
豚舎消毒 逆性せっけん製剤(塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム)
両性せっけん製剤(ポリアルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル)
ハロゲン塩製剤(ノノキシノール・ヨード)
複合製剤(アルキルジアミノエチルグリシン・塩化ベンザルコニウム、ポリオクチルアミ ノエチルグリシン・ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、オクトジクロロベンゼン・キノメチオネート、オルソジクロルベンゼン・クレゾール・クロルオルソフ ェニールフェノール・メタノール)
石灰(石灰乳塗布)
豚体消毒 逆性せっけん製剤(塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム)
両性せっけん製剤(ポリアルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル)
複合製剤(ポリオクチルアミノエチルグリシン・ポリオキシエチレンアルキルフェノール エーテル)
踏み込み消毒槽 両性せっけん製剤(ポリアルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル)
複合製剤(ポリオクチルアミノエチルグリシン・ポリオキシエチレンアルキルフェノール エーテル、オルトジクロロベンゼン・キメチオネート)
豚舎周辺土壌消毒 石灰(石灰散布)

 
3 豚用ワクチンの適切な使用方法

(1)ワクチンの役割

 わが国の豚病の発生は、前述したように生産の規模拡大、専業化あるいは家畜衛生に対する認識の高まりによって、大きく変化してきた。これまで多発してきた急性伝染病は、優れた多くのワクチンの開発と実用化、その接種に対する国家的支援など種々の家畜衛生対策事業の展開によってほぼ防圧されているといっても過言でない。一方、これとは逆に宿主や環境要因が強く病勢に関与する日和見(ひよりみ)感染症や生産病が増加してきた。また、家畜や畜産物の国際流通が拡大し、これらの移送の国際化が進展する中で、海外から新しい感染症が侵入する危険性が高まっている。

 従って、これまで以上に豚の日常の健康ならびに畜産物である豚肉の安全性と品質に注意を払い、国民の要求に応えなければならない。

(2)ワクチンの種類

1)生ワクチン
 病原微生物の感染力や増殖力は有するが、豚に対して病原性が極めて弱いか、あるいは示さず、また免疫原性を有するように弱毒化した微生物株であるワクチン株を生ワクチンという。また、豚の日齢や月齢の病原性に対応して強毒株である野外株をそのままワクチン株として用いる場合もある。

2)不活化ワクチン
 微生物の防御抗原を損なうことなくワクチン株の増殖性を失活させて、接種するワクチンを不活化ワクチンという。サブユニットワクチン、コンポーネントワクチン、あるいはトキソイドも不活化ワクチンに分類される。  不活化ワクチンと生ワクチンには一長一短があるが、生ワクチンは不活化ワクチンに比較して開発や実用化に時間を要する。両者間で最も異なる点は、増殖性の有無であり、生か失活しているかである。

3)新しいワクチン
 遺伝子工学、タンパク工学、細胞工学等の先端技術を利用したワクチンである次世代型動物用生物学的製剤の開発が進展している。すでに新技術によって、遺伝子組み換えワクチンであるベクターワクチン、サブユニットワクチン、コンポーネントワクチンおよび修飾型生ワクチンが挙げられる。また、合成ペプチドワクチンおよびDNAワクチンもある。

 ベクターワクチンは、すでに生ワクチンに応用されている弱毒化されたウイルスや細菌をベクターとして、他の病原体の感染防御抗原遺伝子を組み込んで作出されたワクチンである。これは一種類の組み換えワクチンで、数種類の疾病に有効なワクチンであり、応用性が広い。ベクターとしては、ウイルスではワクチニアウイルス、鶏痘ウイルス、マレック病ウイルス等が、細菌では豚丹毒菌、サルモネラ菌等が挙げられる。

 合成ペプチドワクチンは、免疫を誘導するのはタンパク全体ではなく、10アミノ酸前後ペプチドであることの考えに基づき、免疫細胞が認識するエピトープおよび抗原決定基であるペプチドを合成したワクチンである。DNAワクチンは、感染防御抗原遺伝子が発現ベクターに組み込まれたプラスミドDNAを用いたワクチンである。DNAワクチンを皮下や筋肉内に接種すると、宿主の細胞内に取り込まれて、そこで遺伝子が発現し、液性および細胞性免疫が誘導される(表−3)

表−3 生ワクチンと不活化ワクチンの比較

比較項目 生ワクチン 不活化ワクチン
増殖性 あり なし
病原性の残存と復帰 可能性あり なし
免疫の成立時期 2〜7日 2〜3週間
免疫の持続 長い 短い
微生物の迷入 可能性あり なし
局所免疫 あり 少ない
アレルギー反応 ほとんどなし 可能性あり
移行抗体の影響 多い 少ない
投与量 少ない 多い
開発時間 長い 短い

(3)豚用ワクチン

 豚用のワクチンの種類について簡単に解説する。

豚 コ レ ラ
豚コレラ生ワクチン、豚コレラ・豚丹毒混合生ワクチンがある。
2000年10月より本ワクチンの接種は、原則的に禁止となり、都道府県知事の許可制となった。なお、不測の事態に備えて緊急用ワクチンが備蓄されている。
日 本 脳 炎
日本脳炎生ワクチン、日本脳炎不活化ワクチンがある。
本ワクチンは、いずれも日本脳炎の予防、特に死流産の予防を目的として、蚊の活動によって繁殖豚にウイルスが伝播する時期の少なくても1カ月前(3〜6月)に最終接種を終了させる。
豚パルボウイルス感染症生ワクチン
豚パルボウイルス感染症生ワクチン、豚パルボウイルス感染症不活化ワクチン、日本脳炎・豚パルボウイルス感染症混合ワクチン、日本脳炎・豚パルボウイルス感染症・豚ゲタウイルス感染症混合生ワクチンがある。
本ワクチンは、いずれも豚パルボウイルスによる死流産を防止し、日本脳炎との混合生ワクチンや、日本脳炎と豚のゲタウイルス感染症との混合生ワクチンが開発されている。なおゲタウイルスは全国的に広く分布し、蚊によって媒介されるので日本脳炎ウイルスと同様に夏に伝播する。したがって、ゲタウイルス感染による死流産を防止するために、3種混合ワクチンがある。
豚伝染性胃腸炎
豚伝染性胃腸炎生ワクチン、豚伝染病胃腸炎不活化ワクチンがある。本ワクチンは、母豚を免疫化させて、その乳汁免疫を応用している。
豚インフルエンザ
豚インフルエンザ不活化ワクチンがある。本ワクチンは子豚に応用して肥育効率の悪化を予防する。
オーエスキー病
オーエスキー病生ワクチン(gX−tk−、gI−tk+、gI−tk−、gI−tk+;アジュバント加)、オーエスキー病不活化ワクチン(gX−;油性アジュバント加)がある。本ワクチンは、ウイルスのtkジーンやウイルス表面糖蛋白gIおよび分泌性蛋白gXが、それぞれのワクチン抗原によって欠損もしくは除去されており、ワクチン抗体と野外ウイルス抗体を識別できる。
豚流行性下痢
豚流行性下痢生ワクチンがある。本ワクチンは、母豚を免疫化させて移行抗体によって子豚での発症を抑制する。
豚伝染性胃腸炎・豚流行性下痢
豚伝染性胃腸炎・豚流行性下痢混合生ワクチンがある。
豚繁殖・呼吸障害症候群
豚の繁殖・呼吸障害症候群生ワクチンがある。本ワクチンは、PRRSウイルスによる子豚の生産阻害の軽減を目的にされている。
豚  丹  毒
豚丹毒生ワクチン、豚丹毒不活化ワクチン、豚丹毒不活化ワクチン(酢酸トコフェロールアジュバント加)がある。
豚大腸菌性下痢
豚大腸菌性下痢症不活化ワクチンがある。毒素原性大腸菌の関与する下痢症は、エンテロトキシン産生と菌体表層の線毛(腸管定着因子)の存在が下痢発生に関与することが明らかにされ、線毛を用いたワクチンが開発されている。
豚萎縮性鼻炎
豚ボルデテラ感染症不活化ワクチン、豚ボルデテラ感染症精製(アフィニティークロマトグラフィー部分精製)不活化ワクチン、豚ボルデテラ感染症精製不活化ワクチン、パスツレラ・ムルトシダトキソイド、豚ボルデテラ・プロンキセプチカ・パスツレラ・ムルトシダ混合トキソイド、豚ボルデテラ感染症・パスツレラ・ムルトシダトキソイド混合不活化ワクチン、豚ボルデテラ感染症・パスツレラ・ムルトシダトキソイド・豚丹毒混合不活化ワクチンがある。
本ワクチンはわが国で最も発生頻度の高い血清型の2型菌、5型菌、1型菌とその混合または菌体と各精製毒素抗原の混合によって作製されている。
豚のアクチノバシラス感染症
豚ヘモフィルス感染症不活化ワクチン(2型、2・5型、1・2・5型、1・2・5・型油性アジュバント加)、豚アクチノバシラス感染症不活化ワクチン(菌体1・2・5型無毒細胞毒素I・II・III型)、豚アクチノバシラス・プルロニューモニエ感染症不活化ワクチン(酢酸トコフェロールアジュバント加)がある。
グレーサー病
ヘモフィルス・バラスイス感染症不活化ワクチン(2・5型)がある。従来、わが国では血清型5のHps単味のワクチンが用いられてきたが、最近このワクチンでは防御できない血清型2のHpsによる本症の発生が増加したため、血清型2および5のHpsを含有する2価ワクチンが開発されている。
豚マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ・ハイオニューモニエ感染症不活化ワクチン、マイコプラズマ・ハイオニューモニエ感染症不活化ワクチン(油性アジュバント加)がある。

(4)ワクチン接種の注意点

 ワクチンは、前項で示した通り多くの種類があるので、定められた用法と用量で、定められた適応症に用いることによって、予防効果が得られる。また、ワクチンは要指示医薬品であるので、獣医師の処方箋と指示に基づいて使用することが大切である。さらに、油性アジュバント加の不活化ワクチンでは、ワクチン接種後の一定期間はと畜場への出荷制限が定められているので、厳守する必要がある。

 対象動物にワクチンを接種する際には、以下の点について注意すべきである。すなわち接種前に動物の健康状態について十分検査して、対象動物が(1)重篤な疾病に罹患していることが明らかな場合、(2)発熱、咳、下痢などを呈している場合、(3)治療を継続中または治療後間がない場合、(4)交配後間がない場合、あるいは分娩間際や分娩直後の場合、(5)明らかな栄養障害が認められる場合、(6)他の薬剤投与や、導入または移動後間がない場合には接種適否を慎重に判断すべきである。また、ワクチン接種後、少なくても2日間は動物を安静にして、移動や激しい運動は避けるようにし、副作用が認められた場合は、速やかに獣医師に診療を依頼して副作用に対して適切な処置を行う必要がある。

 また、ワクチンを接種する際の注意点は、次の通りである。(1)注射器具は滅菌されたものやディスポーザブル(使い捨て)のものを用い、(2)乾燥ワクチンを用いる場合は、ワクチンおよび溶解用液容器のゴム栓の注射針穿刺部分を70%アルコールで消毒し、消毒済みの注射器で溶解液をワクチン瓶注入し、よく振って均一に溶解する。(3)不活化ワクチンを用いる場合は、使用途中にも適宜容器を振ってワクチンを均一にする。(4)動物のワクチン接種部位は70%アルコールで消毒し、接種時には注射針が血管に入っていないことを確認する。(5)注射器具は原則として1頭ごとに取り替える。(6)生ワクチンを用いる場合、移行抗体の高い個体ではワクチン効果が抑制されることがあるので、幼若な豚への接種は移行抗体が消失する時期を考慮する。(7)有効期間が過ぎたものや、外観または内容に異常を認めたものは、使用しない。(8)溶解は使用直前に行い、溶解後は速やかに使用し、使い残しのワクチンは使用しない。

(筆者:日本大学生物資源科学部・教授)