創意工夫と計数管理で歩む低コスト養豚経営

── 新潟県西蒲原郡巻町・斉藤春敏さんの養豚経営 ──

 

花 田  充

1 はじめに

 斉藤春敏さんは養豚に取り組んで約30年が経過しますが、長年にわたり極めて良好な繁殖成績を継続して収めており、平成13年の実績ではついに母豚55.7頭規模で年間1539頭を離乳し、母豚1頭当たり離乳頭数27.6頭の驚異的成果を打ち立てています。

 限られた母豚と畜舎スペースをフルに活用した、厳密な管理・観察と的確な衛生マニュアルに裏付けられた豚の健康管理は、高品質豚の出荷につながり、肥育しきれない子豚は一部販売して収益を確保している夫婦二人三脚の優良経営です。

 今回、斉藤さんの高位安定成績・高所得に至る隠れた経営努力を紹介しようと思います。

2 地域の概況

 斉藤さんが住む巻町は、新潟県の中央に位置し、県都新潟市より西へ30km離れた人口3万人の町です。町は大きく分けて海岸砂丘地域、山麓地域、平坦地域の3つの地域からなり、特に山麓地域、海岸砂丘地域は、角田山や日本海の風光明媚な場所として知られています。また、平坦地域には行政や教育関係の施設が集中し、周辺町村の中心的な町として位置付けられています。

 斉藤さんの養豚経営は巻町の市街地より東に位置し、周囲を水田に囲まれた田園地帯にあり古くから畜産が盛んな地域でしたが、近年は酪農、肉用牛、養豚のどの畜種をとっても指で数えられるほどに減少しています。


周囲が水田に囲まれている畜舎全景

3 経営の概要

 経営者の斉藤さんは現在48歳で、奥さん、お母さん、長男、次男、長女の6人家族です。そして、母豚55.7頭の養豚一貫経営です。現在の農業収入は養豚部門が78%を占めており、残りの22%は稲作収入です。

 養豚経営は、斉藤さん夫婦2人が従事しています。2人の作業分担は基本的にはなく、同一の作業を2人で行っています。経営管理については商業高校卒業のキャリアを生かして奥さんが中心になって管理しています。

4 経営の歩み

 斉藤さんの経営の推移は表−1の通りです。昭和47年に地元の農業高校を卒業し就農しています。在校中に中央畜産会が主催する青少年国内留学研修に応募したことから、高校卒業後直ちに栃木県内の豚ブリーダーで有名な二見種豚場に研修に入っています。

 その後、真剣に将来設計をどうすべきかを考え、「水稲と養豚の複合経営で生計を立てる」との結論に達しました。周りを見ると集落内はどこの家でも小規模ながら豚を飼っていましたので躊躇なく始めることができ、宅地内で種豚6頭の子取り経営を開始しました。

 昭和51年には、農協に勤めていた方から近くの肥育豚舎を借りて、母豚10頭の一貫経営に移行しました。昭和57、58年には2年間にわたり継続して県畜産会の経営診断を受診しました。経営の診断結果は本人の想像以上の成果を得ていたこともあり、経営継続の自信を深める第一歩となっています。また、この時にコンサルタント団員の方々より経営規模拡大の助言をいただいたことも大きな飛躍につながっています。

 昭和59年に水田20aを埋め立てて種豚40頭・一貫経営規模の畜舎を新築しました。事業費は約4000万円でした。ただ、規模拡大後の養豚情勢は決して楽なものではありません。


ビニールハウスを利用した簡易子豚育成施設

 作れば売れる時代から、計画生産と高品質な豚肉づくりへの転換と時代が変化し、また現在では安全・安心を第一に、高品質でおいしい豚肉を規格をそろえて定時・定量の出荷へと市場のニーズがどんどんとエスカレートして厳しい要望を突きつけられてきています。斉藤さんはこれを乗り越えるべく、平成7年に技術研鑚グループ「あすなろ会」を設立し、仲間とともに薬剤に頼らない健康な豚づくりや自然素材を活用した飼育方法等を取り入れて現在に至っています。

表−1 経営の推移

5 経営の特徴

 斉藤さんの経営の特徴をまとめると、以下のようになります。

(1)同一作業の同時取組み

 夫婦で大まかには作業区分を決めていますが、基本的には夫婦2人でそろって同じ作業をすることです。一見無駄に見えますが、作業するそれぞれがお互いの不足しているところを補うことができるので実は効率は良いのです。このことで、細かな精密管理ができ、極めて高位な飼養管理が維持できます。「かゆいところに手が届く」ことは、管理する上でもお互い安心できます。

(2)保守管理の徹底による耐用年数の延長

 畜舎や器具・機械・車輛等については、こまめに保守管理を行うことで耐用年数の延長を図っています。畜舎は築後19年が経過していますが、傷みや老朽化はあまり目立ちません。経営管理面では減価償却費の負担もほとんどなく、低コストに役立っています。

(3)自然素材の活用でヘルシーコントロール

 自然素材を活用し、飼育豚の健康管理に努めています。特に飼料にはビタミン・ミネラルの強化に加え、木炭粉末を添加しています。種雌豚には、粗飼料としてヘイキューブを給与しています。また、飲み水には、木酢酸を混ぜるとともに、肥育豚については豚体噴霧も行っています。

 
健康な豚と哺乳中の子豚   細霧システムと畜舎の側面の大型換気扇
(肥育舎内部)

(4)系統豚「ニホンカイ」を活用した母豚群づくり

 繁殖豚は基礎豚を除いてすべて自家育成豚です。繁殖豚の産子データを基に選抜し優良母豚群の構成に努めています。また、繁殖の基礎豚は新潟県で作出したランドレース「ニホンカイ」を利用しています。

(5)経営診断の活用と財務内容の充実

 経営管理については、主に奥さんが経験を生かして担当しています。また、年2回の畜産協会の確認と合わせて、収支や財務内容について定期的に検討し、黒字経営を維持しています。年の始めにはその年の収支目標を立てて計画達成のために夫婦で検討しています。

 これにより、低コストと収益確保の達成が可能となり、外部要因がかなり厳しい情勢に変化しても対応可能な体制を維持しています。

 なお、余談になりますが、平成7年には資金面で余裕ができたこともあり、長期資金(総合施設資金)の残額2200万円を一括繰り上げ償還をしています。それ以降、常に自己資本比率を90%以上に維持しています。

(6)技術研鑚グループ「あすなろ会」の活動

 斉藤さんは積極的に情報を収集し経営に役立てようとする考えがあります。そういう意味からも技術研鑚グループ「あすなろ会」の活動には積極的であり、新しい技術導入等には仲間と白熱した議論を交わして、納得するものを取り入れています。また、飼料の共同購入や銘柄豚肉「熟成豚」の販売をグループで行っています。

(7)地域に密着した養豚経営

 豚舎の周囲は水田に囲まれており、人通りはありませんが、畜舎周囲の環境保全は大切です。豚舎の周辺も宅地化が進展してきており、ちょっとしたことの環境問題が苦情の的になります。このことから、畜舎周囲には不快なイメージが湧かないように薬剤の散布や畜舎廃材の整理、資材置き場の整理・整頓など環境美化に配慮しています。特に、町が行う環境美化運動に参加し、花木の植樹や美化コンクールへの出品等を行っています。

6 経営成果の概要

 斉藤さんの経営成果は表−2の通りとなっています。1腹当たり離乳頭数11.6頭、子豚育成率92.1%、種雌豚1頭当たり年間肉豚出荷頭数24.4頭、出荷肉豚1頭1日当たり増体重656g、トータル飼料要求率3.2、上物率58.0%等々と良好であります。

表−2 経営の実績・技術等の概要

7 今後の課題

 斉藤さんの住む西蒲原郡の地域特性を考えると、稲作を切り離しての経営組み立ては難しく、どうしても稲作との複合経営を選択せざるを得ません。このため、頭数規模も家族労力の範囲に限定されることから、当面は現状の無理のない経営を継続したいとの考えです。

 ただ、今後後継者が経営に参画するようであれば情勢の変化は考えられますが、現時点では何ともいえない状況にあります。従って、現状の資本装備でいかに高位安定経営を継続させるかですが、新潟県畜産協会のアドバイスを受けながら、「あすなろ会」のメンバーと技術向上を切磋琢磨して経営を発展させようと考えています。

 農家畜産の良さを生かして、集落の方々とはたい肥の提供や銘柄豚肉「熟成豚」の販売を通じて地産・地消を推進し他作物の生産農家との横のつながりを大切にしながら地域農業の発展に寄与したいと考えています。

8 おわりに

 斉藤さんに「趣味は何ですか?」と聞いたことがありますが、本人の答えは「豚」だそうです。とにかく、寸暇を惜しんでは養豚雑誌にかじりつき、布団に入る時も経営数値を横目で見ながら睡眠に入るほどの研究熱心で意欲的です。趣味と実益が一体となっている珍しい経営体でありますが、今後とも、優れた経営感覚を発展させ、地域のリーダーとしての活躍を願うものです。

(筆者:(社)新潟県畜産協会・事務局長)