たい肥散布機の種類とその特徴について

 

澤 村  篤


 わが国の農業は、環境保全型農業と資源循環型農業に向かうことが求められています。平成11年には、「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律(家畜排せつ物法)」、「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律(持続型農業促進法)」、「肥料取締法の一部を改正する法律(改正肥料取締法)」のいわゆる畜産環境3法が施行され、良質たい肥の生産とその利用を促進する方針が打ち出されました。

 特に平成16年度までに家畜排せつ物法に基づき野積み、素堀りをなくすことを目的に、たい肥化施設の導入が急ピッチで進められており、たい肥の生産量の急増が予想されています。

 しかしながら、急増するたい肥に対し従来通りの利用では、たい肥の滞留増加が懸念されます。たい肥の利用を従来の枠を超えて、耕種農家などの新たな需要の拡大や個別利用から地域全体での利用促進や、市民農園などでの利用のほかバイオマスエネルギーとしての利用も考えなければならない時期にきています。

 このためには良質なたい肥を生産し、肥料成分やその由来を明らかにするトレーサビリティ・システムの確立によるたい肥生産者と利用者の「顔の見える関係」や、利用するまでを個別に追跡できるいわゆる産業廃棄物管理票(マニフェスト)制度に似た管理票の添付までも将来求められるかもしれません。

 こういった方向はたい肥生産にコストが掛かる反面、物理的な性状を含めた良質なたい肥生産が期待できます。さらに成分調整やペレット化などの利用促進を図るための方策が進めば、化成肥料の利用を少なくし、散布方法も後述するような多くの形態のたい肥散布機が不要となり、形態の統一による同一型式の大量生産によるコストダウンや安価なたい肥散布機の利用が将来の方向として考えられます。このことによる、たい肥の利用促進が図られることを希望しています。

1 たい肥の性状

 たい肥散布機は、たい肥を効率的に圃場に散布するための作業機ですが、たい肥の性状はふん尿の処理方式によって大きく異なり、一般的には粒状で団塊がなく、乾燥した状態が最良ですが、実際には若干、泥状の部分も含んだ状態で圃場に散布することが要求されます。

 たい肥の性状は、水分の多少により大きく異なり、含水比(乾物基準)1200%以上は液状、1200〜500%で泥状、500%以下が固形の様相を示しますが、たい肥散布機で散布できる限界は、固体として扱える300%程度です1)。この値は、敷料使用のふんで、発酵過程で副資材を用いない未熟な発酵の場合に相当します(表−1)。敷料使用の畜舎でたい肥を完熟させた場合には問題なく散布でき、おがくずや麦稈を副資材に用いることにより、たい肥はより容易に散布できるようになります。

表−1 ふん尿の性状と機械的取り扱い


「草地開発整備事情計画設計事情基準」より作成1)

 たい肥の処理方法で、発酵装置や乾燥装置を用いたたい肥は流通販売が可能で、散布は容易ですが、運搬時にかさばり、ハンドリングに問題が生じます。また、たい積など(たい積・切り返し・発酵)で副資材を用いたものは、流通販売もできる程度に乾燥しており、散布は容易ですが、副資材分だけ容量が増えますのでハンドリングに問題が生じます(表−2)。

表−2 ふん尿の処理方法とたい肥散布の問題の有無


「酪農における家畜ふん尿処理と地域利用」より作成2)

 品質と腐熟からみた、望まれるたい肥の条件3)は、取り扱いやすいこと、臭気が少ないこと、衛生的であること、など6項目があげられていますが、それぞれの項目が密接に関係しており、特にたい肥散布機の面からは乾燥させて重量が軽いこと、散布時に粉じんの発生を防ぐ観点から粉状より粒状が望まれます(表−3)。

表−3 望まれるたい肥の条件


「マニュア・マネージメント」より作成3)

2 圃場施設までのたい肥の流れと運搬を考えた自走式たい肥散布機

 たい肥は、たい肥舎や連続発酵装置などのたい肥化装置から圃場まで運搬され、散布されます。ホイールローダなどの積み込み作業機を用いてたい肥舎でたい肥散布機に積み込み、圃場まで運搬して圃場に散布されます(図−1)。

図−1 たい肥の圃場散布までの流れ

 野菜地帯では、ある程度発酵したたい肥を野菜圃場の近くのバンカーなどに一時貯留してたい肥の完熟を図った後に、圃場散布することも行われています。距離の離れた畜産地帯から野菜地帯までは大型トラックなどで運搬することで運搬コストを下げることができますが、圃場での野積みができなくなることを考えると、施設、機械が二重に必要となり、コストがかかることが問題としてあがってくると考えられます。

 たい肥散布機の圃場での散布作業時間は、運搬に伴う走行時間や積み込み時間などを含めた全作業時間の3割程度1)といわれており、たい肥舎と圃場との距離が離れれば離れるほど散布作業時間の比重は急激に低下します。例えば、運搬距離を5kmとすると、後述するトラックなどをベースとした自走式たい肥散布機では能率が半分になり、トラクタけん引式のたい肥散布機では2km程度で能率が半分になります。また、運搬距離が5kmとした場合のたい肥散布のための往復距離は、1日で10回程度運搬したと仮定して100kmにもなり、トラクタけん引式のたい肥散布機では5kmが目安と考えます。10km以上になると往復回数にもよりますが、トラクタけん引式のたい肥散布機では作業は困難で、トラックをベースにしたたい肥散布機やトラックなどであらかじめ運搬する方式を検討することが必要です。

 たい肥散布機には、トラクタけん引式と自走式があり、特に自走式はコントラクタの利用を考えたトラックベースのたい肥散布機があります。トラックの後輪にクローラをつけて圃場での走行性も確保しながら、道路走行も一般のトラックと同様な速度で走れるものも市販されています。さらに荷台をコンテナにして交換できるマルチアタッチメントシステムのトラック作業機も市販されています。これらのたい肥散布機は、10t程度の大型トラックをベースにしており、対象はコントラクターなどの大規模な利用を前提としています。

3 たい肥散布機(マニュアスプレッダ)の構造

 たい肥散布機は、一般的にはたい肥をたい肥舎から圃場まで運搬し、圃場ではたい肥を打ちほぐしながら圃場に全面散布するために使用されます。その主要な構造は、たい肥箱、たい肥を細かく打ちほぐして散布する散布装置(ビータ、ロータ)、散布装置へたい肥を送り込むための搬送装置からなります。散布装置や搬送装置は、一般的にはたい肥箱に取り付けられ、このたい肥箱を運搬するための走行部の様式で、(1)たい肥箱の下部にタイヤを取り付けトラクタでけん引するタイプ(トラクタけん引式)、(2)トラックなどの荷台に取り付ける自走式タイプ(トラックベース式)、(3)小型のクローラ型運搬車に取り付ける自走式クローラタイプ(小型運搬車ベース式)に分けられます。

 1)たい肥箱

 たい肥箱の容量は、積載重量で800〜1500kg程度の小型、1500〜3000kgの中型、3000kg以上の大型に分けることができます。たい肥箱の大部分は、たい肥専用に設計されていますが、運搬機と汎用利用を考慮したものもあります。

 例えば、トラクタけん引式ではフォレージワゴンにたい肥運搬機能を取り付けたもの、トラックベースではコンテナをベースにしたもの、小型運搬車ベースでは荷台を取り替えるタイプなどがあります。

 たい肥箱の形状は、箱形の物が大部分ですが、円筒形をしたもの(ロータスプレッダ)もあります。

 2)散布装置

 散布装置は、たい肥箱の後部に取り付けられ、後方へたい肥を散布するのに用います。散布装置には、縦軸型と横軸型があり、この様式によりたい肥散布機の型式が異なりますので、非常に多くの型式が市販されています。縦軸型の散布幅は6m程度で幅広に散布でき、横軸型は3m程度で作業機の全幅よりやや側面にまでに散布できます。

 さらにブロードキャスタのスピンナーのような高速で回転するディスクで少量の細かく、乾燥したたい肥も散布できるディスクタイプもあります。これは良質なたい肥を散布できることから、散布幅を規制してハウス内や果樹園でのたい肥散布にも用いられています(表−4)。

表−4 散布機構の様式

タカキタカタログより

 3)搬送装置

 搬送装置は、たい肥箱の前方から後方にある散布装置までたい肥を搬送するためにたい肥箱の底部に取り付けた床コンベヤです。コンベヤの速度は、約0.5〜3m/分まで段階的に変速でき、作業速度、たい肥の散布量、たい肥の状態に応じて変化させることができます。最近ではリモートコントロールでトラクタからコンベヤ速度を簡単に変更できる機種もあります。この床コンベヤ方式は、コンベヤチェーンが過負荷で切断する場合もあり、さらに柔らかいたい肥に対しては搬送能力が落ちる場合もあります。たい肥箱の前面の壁を油圧により後方へ押し出すタイプのゲートタイプの搬送装置も市販化されており、この機能を有するたい肥散布機は積載重量が2000〜4000kgと中型から大型の機種でみられます(写真−1)。

 

写真−1 ゲート移動タイプの搬送装置(タカキタカタログより)

 4)その他の機能

 トラクタけん引式のたい肥散布機では、(1)運搬時のたい肥落下を防止するため、散布装置の前に油圧で上下するゲートを設けて、たい肥の後方落下を防止するパワーゲート機能、(2)たい肥散布機を運搬機として利用するため散布装置を油圧で持ち上げ、たい肥を落とす散布装置リフト機能、(3)旋回性の改善を行うためにけん引ヒッチを改良した倍角ヒッチ機能、(4)たい肥箱の低床化、さらに(5)軟弱地での走行性を確保するためのクローラ走行部、ダブルタイヤ、広幅タイヤの採用による走行部の機能向上がみられます。これらの機能向上は、将来的にはすべてのたい肥散布機で選択可能になるものと考えます。

4 特徴を有したたい肥散布機

 1)水分量の多いたい肥に適応性が高いロータスプレッダ

 円筒のたい肥箱の中央付近に回転軸を設けてチェーンを取り付け、さらにチェーンの先端にハンマーを取り付けたロータスプレッダと呼ばれるたい肥散布機があります(写真−2)。

写真−2 ロータスプレッダによる作業

 この機種は、前述のたい肥散布機では散布できない水分量の多いたい肥に対しても適応性があり、簡単な構造で広範な物性のたい肥に適応できる特徴があります。しかし、一方で片側方向にしか散布できない、散布始めと終わりでは散布量の差があるなどの欠点があります。

 2)積み込み、散布ができる自走式たい肥散布機

 たい肥の積載重量が500kg、1000kgの小型自走式たい肥散布機のたい肥箱を傾けることにより、たい肥の積み込みを1〜2分でできる機械があります。歩行型と乗用型があり、積み込みのためのローダが不要で、圃場まであらかじめたい肥を運搬しておけば、この機械で積み込みから散布までできます。さらに大型の機械で、自載式のたい肥散布機の市販が期待されます(写真−3)。

写真−3 自走式積み込み・散布たい肥散布機(スター農機カタログより)

5 たい散布機を用いた作業の安全上の留意点

1)積み込み作業

 たい肥の散布作業は、散布作業よりもむしろ積み込み、運搬作業に多くの時間を要するので、積み込み機のバケット容量なども考慮して作業を組むことが必要です。積み込み時のたい肥の積み込み高さは、走行時にたい肥が道路に落下したり、風で飛散しないよう散布装置の上限を超えないように積み込むことが必要です。

 また、過度の積み込みは、坂道でのエンストや制動距離の増加、散布時のコンベアチェーンの破損など、思わぬトラブルや事故を起こしかねないので、絶対にしないことです。そのためには、あらかじめ散布量と散布機の積み込み容量を見極めて、散布回数などの散布計画を立てることが望まれます。特に、積み込みの終わりあたりが過積載になりがちですので、そういったことにならないように十分注意して作業を行うことが必要です。

2)運搬作業

 運搬作業は道路を走行することになるので、特に公道上を走行する場合は一般車両に十分気を付けるとともに、あらかじめ幹線道路の横断や走行時の危険個所を留意しておくとともに、道路運送車両法で規定する保安基準や必要な免許を持っていることが求められます。

 たい肥箱から道路へたい肥の落下を防ぐことはもちろんのこと、走行部へのたい肥の付着や圃場の泥の付着による道路上の落下についても十分に注意することが必要です。

 道路走行時は全農作業事故の約4割を占めているといわれており、非常に危険な作業であるとの認識を持って、あらかじめ十分な安全対策を行うことが必要です。

3)散布作業

 散布作業は、たい肥だけでなく石や木などの混入物が思わぬ距離で飛ぶことがあるので、周りに補助作業者などがいないことを十分に確認して作業を行うことが重要です。

 また、未熟たい肥において長わらなどの巻き付きによる機械のトラブルに際しては、エンジンを停止させ作業機が動かないことを確認します。その後、トラブルに対応し、油圧装置などにより作業部分を持ち上げている場合は落下に注意するとともに、その下部に入る場合はロック装置などの安全対策を行うことが必要です。

 ハウス内や狭小な圃場で用いられる小型の歩行用や乗用のたい肥散布機では、挟まれ事故に十分注意することが必要です。特に、作業機を後進させる場合は、後方に十分な余裕があることを確認することが必要です。後進時の挟まれ事故は、死亡事故にもつながりますので十分注意するとともに、デッドマンクラッチなどの安全装置のない作業機での後進作業は行わないことが重要です。

 なお、作業の安全に関しては関連機械のマニュアル、農作業安全のための指針4)を参考にして安全作業に留意して、より多くの家畜ふん尿が圃場などに還元されることによる資源循環の促進が図られることを期待します。

参考文献

1)『草地開発整備事業計画設計基準』(農林水産省畜産局、平成11年、日本草地畜産協会)

2)『酪農における家畜ふん尿処理と地域利用』(志賀一一他、平成13年、酪農総合研究所)

3)『マニュア・マネージメント』(原田靖生、平成8年、DAIRYMAN臨時増刊号pp40-41)

4)「農作業安全のための指針」(平成14年、農林水産省生産局長通知、例えば機械化農業 2002. 7, pp38-50 掲載)

(筆者:畜産草地研究所 飼料生産管理部 栽培工学研究室長)