水田を基盤とした大規模肉用繁殖雌牛経営

── 目指すは繁殖雌牛100頭・後継者の夢は一貫経営 ──

 

1 はじめに

 池田寛さんの営む「池田和牛農場」は、岡山県中北部に位置する津山市下高倉西にあります。津山市は東西に中国自動車道が貫通し、岡山市からは国道53号線が走り、鉄道はJR津山線、姫新線、因美線が交わる交通の要衝の地です。人口は約9万人、城下町として発展した街で「岡山の小京都」とも呼ばれ、親しまれています。古い家並みと新しい町並みが城址を取り囲み、郊外には水田地帯が広がるという静かなたたずまいの町です。

 そして、津山市は県内でも畜産の盛んな地域で、乳用牛1,296頭(40戸)と肉用牛1,221頭(63戸)が水田を基盤に飼育されています。

2 経営の取り組みと推移

 池田さんは昭和46年、22歳で就農したのを機会に、当時飼養されていた繁殖雌牛13頭を父親から任せられたのが和牛との取り組みの始まりでした。以来ひたすら、一貫経営を目指し頑張っています(表−1)。

表−1 経営の推移

 その後、周囲の市街化が進み、平成4年には自宅付近の水田が道路用地の対象となり、将来的に当地での経営継続と規模拡大が危ぶまれたため、約4km離れた適地に約65aの土地を確保しました。

 そして平成5年、購入地に40頭収容の牛舎を新設し、規模拡大を図ると共に、飼料基盤確保のため水田1haを購入しました。その後も、育成牛舎などの建設や水田の購入・借地などを進めました。平成12年には畜舎周辺の環境保全のため隣接地を購入すると同時に、翌年にはフリーバーン牛舎(30頭収容)を建設し現在に至っています。

3 経営の概要

 池田和牛農場の飼養頭数は現在、繁殖成雌牛86頭、育成牛7頭、子牛80頭、肥育牛7頭計180頭、飼料生産基盤は水田685a(うち借地285a)となっています。

施設および機械の主なものは次のとおりです。

施設: 成牛舎3棟1,156m2、子牛・育成牛舎1棟357m2、農機具および籾殻庫1棟216m2、たい肥舎2棟185m2
機械: トラクター3台、モアコンデショナー1台、ロールベーラー1台、ラッピングマシーン1台、ロールカッター1台、ボブローダー1台、マニュアスプレッダ1台、トラック2台、トレーラー1台

 経営に従事しいている方は寛さん(53歳)と妻の富美子さん、息子の健二さん(24歳)とその妻の彩子さん、父親の利男さん(75歳)の計5名の三世代です(写真−A)。

 

写真−A 池田和牛農場を支える三世代の皆さん

 飼養管理などの作業分担は、分娩前妊娠牛管理は利男さんが、繁殖牛および育成牛、子牛の管理は本人と健二さん、授精関係は健二さん、保育牛管理は彩子さんが行っています。また、彩子さんと富美子さんは共にパソコンによる記帳、記録、経営管理などを受け持っています。

 経営の成果概要は表−2のとおりです。

表−2 経営概要

4 経営の特徴

(1)母牛群の改良と種雄牛の選択に最も気を配っている

 優れた能力を持った育種価の高い母牛群を確保するため、優良な雌牛の導入と優良子牛の保留を続け、平成8年からは早期改良を図るため受精卵移植に取り組み、優良雌牛の保留確保と県外からの導入を行うことにより母牛群の早期改良を図っています(写真−B)。

 写真−B 成牛舎の飼養状況

 また、交配種雄牛には特に気を配り、市場性の高い種雄牛の情報収集と買参人との情報交換、関係畜産農家との交流など情報収集を常に重ね、雌牛に合った市場性の高い種雄牛の交配を行っています。

(2)水田からの自給飼料の確保とたい肥還元による飼料生産を推進

 稲作と肉用牛の複合経営から始まったため、畜産から生産されるたい肥は水田にかえし、その水田から飼料を得るという、今まさに求められている資源循環型農業を自然と進めていました。規模拡大に並行しての水田購入、利用権設定など安定した土地確保などにより自給飼料生産基盤の確保に努めると共に機械の効率的利用を図るため、意識的に自宅や農場周辺に土地集積を図っています(写真−C)。

 写真−C 飼料の刈り取り風景

 飼料の作付けは、水田685aにイタリアンライグラス(タチワセ)とスーダンなど(ヘイスーダン、ラッキーソルゴー)をのべ13.7ha栽培しており、平成2年からは自給飼料生産の省力化を図るため、ロールベール体系を導入し、安定した飼料生産を行っています。

(3)徹底した飼養管理

 繁殖経営にとって最も重要な分娩前後の管理の強化と事故防止のため、平成5年から分娩2ヵ月前の母牛を自宅牛舎へ移動し、経験豊かな父親の利男さんが厳しい監視と管理を行うことにより分娩時の事故防止を図っています。そして、分娩3日後には子牛、母牛ともに農場へ戻す早期離乳を行っています。

 また、母牛はフリーストールへ収容して、発情の早期発見を図ると共に子牛はカウハッチ(平成12年から)で哺乳し、1.5ヵ月くらいから運動場に併設された牛舎に入れて自由運動と日光浴をさせています。また、子牛の群は、月齢・性別などを揃え編成・飼育することにより、斉一性の高い子牛の育成に努めています(写真−D)。

 写真−D 自由運動させている子牛

(4)地域資源を有効に活用した低コストたい肥生産を行う

 敷料については、ライスセンターなどから籾殻を無償で入手し経費節減に努めています。また、業者からの米ぬかを無償で入手して、これに酵素を加え発酵の種菌とし、畜ふんに混合して発酵を促進することにより、良質たい肥生産に努めています。また、地域との結びつきを大切にしており、周辺のトマト、アスパラなどの野菜栽培農家からの求めには優先的に供給しています。

(5)パソコンの活用により技術・経営管理と情報収集を常に行う

 家畜飼養の多頭化により経営および家畜管理等が複雑化した時期に併せパソコンを導入しました(平成9年)。経営記帳を始め、子牛出荷販売記録、授精記録、繁殖成績などの状況をリアルタイムでチェックして、定期的に家族で技術・経営などの内容について検討し、経営の現状把握と改善のため努力しています。

 また、情報の発信とインターネットによる情報収集も行い、全国の仲間との情報交換や最新技術情報に目を光らせ、経営に生かしています。

(6)ゆとりと楽しい経営を継続するため、給料制と週休制を導入

 経営の安定した継続のためには、自立、そしてゆとりと夢のある経営を実践することです。これは後継者の確保の面から最も大切です。後継者の健二さんが就農した平成11年から給料制を導入、結婚を機に平成13年4月から週休制を取り入れました。これにより、夫婦での旅行、視察、趣味などができ、心身一新により常にフレッシュな心で仕事や生活にゆとりと夢をもって取り組んでいます。

5 おわりに

 繁殖雌牛100頭規模、そして後継者の目指す肥育経営の取り組みに向かい、規模拡大と施設整備を着々と進めています。施設整備については哺乳作業省力化のため、哺乳ロボットの導入も既に決め、牛舎を1〜2年後を目途に新設する計画です。増頭は受精卵移植の活用と保留ならびに優良牛の導入により続行中です。

 今回のBSE発生では打撃を受けましたが、逆に安全で肉質の優れた畜産物生産をすることが和牛経営の生き残り戦略であるとの教訓を得たということです。安全な畜産物の供給を心に銘じ、地域に根付いた自給飼料生産に重点を置き、自然循環型畜産を目指して三代の知恵を結集し、地域との融和を保ちながら奮闘しています。

 池田和牛農場の目標達成の前には、幾多の試練があるかもしれませんが、1日も早く自給飼料基盤に立脚した全国の模範となる安定した和牛専業経営を築き上げられんことを心から願うとともに、私たち畜産関係者も応援したいと考えています。

(筆者は(社)岡山県畜産会技術主幹)