乳牛の供用年数の延長を考える(III)

── 供用年数と飼養管理との関連 ──

 

堂 腰  顕

 
 1983年に3.49産であった平均産次は、1990年には2.88産、1998年には2.81産に低下しています。80年代の供用年数の低下は、乳価引き下げによる生産コストの低減や高能力牛への代替を積極的に進めるために意図的に行われた「計画淘汰」が主な要因であると考えられますが、近年では疾病や事故による「不慮の淘汰」が増大し、供用年数の延長が困難な状況が生じています。

 不慮の淘汰は、家畜共済金を受給できるため直接的な所得減少を伴っていませんが、当該牛の牛乳生産の断念や代替牛の個体販売機会の喪失などの潜在的な所得喪失を起こしています。個々の経営によっては所得逸失額が年間200万円を超えている事例も見られています。

 前回では、平均産次、死廃・傷病事故率と乳量水準や収容方式(フリーストール=FS、つなぎ飼い=ST)との関連を調査した結果、高泌乳牛群(経産牛乳量9000kg/頭以上)は低泌乳牛群(経産牛乳量7999kg/頭以下)に比べて、平均産次が低く、病傷事故危険率が20ポイント高いことが示されました。このことから、高泌乳化に伴う濃厚飼料の多給や規模拡大が平均産次を引き下げる要因となっていることが示されました。

 ここでは、乳牛の供用年数の短縮要因をさらに詳しく分析するために、根室・十勝管内の平均産次の長い農家と短い農家を選定し、除籍・淘汰基準や飼養管理状況の違いを検討しました。また、各農家における乳牛のボディコンディション・スコアと乳検情報から、病傷事故危険率との関係を検討しました。

1 農家選定の基準

<牛群の平均産次が2.5産以下の農家と3.5産以上の農家を比較する>

 平均産次を2.5産以下、3.5産以上に分け、さらに収容方式をつなぎ飼い方式とフリーストール方式とに区分し、平均産次や収容方式が乳牛の淘汰基準、傷病事故の発生、飼養管理状況と関連があるかどうか検討しました(表−1)。

表−1 農家選定の基準と調査農家数

2 除籍理由および自家淘汰基準

<平均産次が長い農家は共済淘汰が高く、自家淘汰が少ない>

 共済による死廃淘汰(共済淘汰)は、平均産次が短い農家(短ST および短FS)では平均で30%でしたが、長い農家(長群)では72%と高く、自家淘汰の割合が低いことが分かりました。また、除籍理由のうち、共済淘汰、繁殖障害、乳房炎および運動器疾患など疾病のための淘汰は、短ST群、短FS群、長群でそれぞれ85%、93%、97%でした。また、農家が自家淘汰するための乳牛の資質は、体細胞数、空胎日数、初産乳量でしたが、明確な自家淘汰基準を持つ農家は少ないことが分かりました(表−2)。

表−2 経産牛頭数に対する除籍割合、除籍理由および自家淘汰基準


共済淘汰=共済による死廃淘汰、除籍理由=乳検成績による

 このことから、農家が自家淘汰を考える場合は、乳牛の資質以外の要因が複雑に関与しているため、必ずしも一定の基準で自家淘汰されているわけではないと考えられます。聞き取りなどによる農家の自家淘汰基準は以下のとおりでした。

○農家の自家淘汰基準

(1)飼養頭数、生産枠:特に、つなぎ飼いでは牛床が制限要因として強く働く。

(2)育種改良:泌乳能力に明確な基準を持たないまでも能力や気質が考慮されている。

(3)個体販売:個体販売価格の変動により農家の経営戦略も変化する。

(4)共済費:死廃病傷事故危険率により共済掛け金が異なるため、共済限度額を意識している。

(5)治療:繁殖障害や乳房炎の治療や淘汰の判断は、農家の意識差が大きい。

(6)組合勘定および税金対策

(7)動物愛護の精神

3 病傷事故の状況

<平均産次と病傷事故との関連は明確ではない>

 病傷事故危険率(共済加入頭数に対する病傷事故の割合)の総計は26%から181%と幅が広く、平均産次および収容方式による違いは見られませんでした。主な病傷名でも農家間の差が大きく、平均産次や収容方式による違いは見られませんでしたが、短FS群では第四胃変位が3.2%、蹄病が5.2%と多く、長群では妊娠分娩疾患12.3%、乳熱・ダウナーが6.2%と多い傾向が見られました(表−3)。

表−3 調査農家における病傷事故危険率と体細胞および空胎日数


異文字間に有意差あり(P<0.05)

4 飼養管理状況

<成牛換算1頭当たりの耕地面積が少ない農家は第四胃変位の発生率が高い>

 飼料給与法では、分娩後の濃厚飼料の増給方法に農家間で大きな違いがありました。分娩後1〜3日で最大7〜8kg/日を給与する農家が4戸、分娩後6〜7日で14〜17kg/日給与する農家が2戸と明らかに増給が速い農家がある一方で、分娩後50〜60日で最大給与量8〜10kg/日にする農家が2戸見られました。乾乳後期は、多くの農家が濃厚飼料2〜4kg/日あるいは混合飼料(TMR)を給与していましたが、必要性を認めながらも濃厚飼料を全く給与しない農家も4戸見られました。しかし、これら飼養管理と病傷事故との関連は明らかになりませんでした。

 搾乳牛へのカルシウム添加剤は農家間の差が大きく、明らかに給与量が不足していると考えられる1日20g以下が26戸中8戸(30%)も見られ、特に長群では6戸中4戸で見られました。乳熱(ダウナー含む)の危険率では7%を超える農家が3戸あり、1戸がカルシウム無添加であった他は、添加量としてはほぼ適正でした。乳熱の発症には分娩前後の管理や飼料のイオンバランスなども関与するといわれているため、さらに要因解析を深める必要があると思います。

 成牛換算1頭当たりの耕地面積が0.5ha以下の農家が5戸あり、そのうち4戸では第四胃変位の危険率が4%以上と多発しており、粗飼料給与量の不足との関連が示唆されました(図−1)。

図−1 耕地面積と第四胃変位危険率との関係


1頭当たり耕地面積(ha)

 繁殖管理では多くの農家が発情観察を1日2〜3回定時に行っていましたが、1日1回が1戸、不定時が3戸見られました。また、発情がない場合など獣医師に診療を依頼する目安は、分娩後60日以内が16戸と最も多く見られましたが、獣医師に依頼しない場合や分娩後6ヵ月で依頼する場合も見られました。また、蹄管理では削蹄を年2回以上行っている農家は12戸ある反面、定期的な削蹄を行っていない農家も7戸見られました。

 牛舎構造では、つなぎ牛舎で牛床の長さが145cmと短かった農家では、病傷危険率が181%、乳房炎69%、蹄病19%と高く、牛床の長さとの関連が示唆されましたが、その他の農家では牛舎構造に大きな差が見られず、病傷事故との関連は明らかになりませんでした。

 このように、分娩前後の飼養法、繁殖管理および削蹄など飼養管理技術は農家間の差が大きく、平均産次および病傷事故との関連性が明らかになりませんでした。なお、成牛換算1頭当たりの耕地面積と第四胃変位発症との関連性は示唆されました。

5 ボディコンディション・スコアと病傷事故との関連

<ボディコンディションを測定する>

 根室管内の選定農家において牛群のボディコンディション・スコア(BCS)の測定を行い、ボディコンディション・スコアと病傷事故との関連を調査しました。ボディコンディション・スコアは、乳牛の体脂肪の蓄積度合いを表す指標として利用できます。スコア1のやせすぎからスコア5の太りすぎまでの5段階のスコアによって、0.25刻みで評価します。ボディコンディション・スコアの1ユニットの変化は56kgの体重の変化に相当するといわれており、泌乳初期に減少し、分娩後1ヵ月前後に回復し始めるのが理想的であるといわれています。表−4にボディコンディション・スコアの測定方法、表−5に乳期別のボディコンディション・スコアの許容範囲を示しました。

表−4 ボディコンディション・スコア(BCS)の測定方法

表−5 ボディコンディション・スコアの許容範囲

<泌乳前中期のボディコンディション・スコアの牛群平均が2.80以下の農家は空胎日数が長い>

 泌乳日数が0〜99日および100〜199日で、ボディコンディション・スコアの平均値が2.80未満であった5戸(農家A, D, H, O, Q)のうち、農家Aを除く4戸の空胎日数は160日を超え、泌乳前期におけるエネルギー不足が空胎日数の延長につながったものと考えられました。また、乾乳期のボディコンディション・スコアの上位3戸(農家J, K, O)では、妊娠分娩期疾患または卵巣疾患危険率が高く、これらの疾患は乾乳期の太りすぎに関係していることが示唆されました(表−5)。

<ボディコンディション・スコアの許容範囲外割合が牛群の25%以上の農家は妊娠分娩期疾患や卵巣疾患危険率が高い>

 また、Furgusonら(1997)は牛群70〜80%がボディコンディション・スコアの許容範囲内に収まるべきであると述べています。許容範囲を逸脱した乳牛の割合が牛群の25%を超えた8戸(農家C, D, F, J, K, O, Q, R)のうち、4戸(農家C, D, K, R)では卵巣疾患危険率が40%を超え、3戸(農家J, O, R)では妊娠分娩期疾患危険率が14%を超えており、8戸中6戸はこれらの疾病の多発農家でした。一方、許容範囲から逸脱した乳牛の割合が25%未満の8戸では、すべて卵巣疾患危険率は40%以下、妊娠分娩期疾患は14%未満でした(表−6)。

表−6 ボディコンディション・スコアと空胎日数および病傷危険率との関係

 これらから、今回の調査範囲内ではボディコンディション・スコアの乳期別平均値は2.8以上、牛群の75%以上はボディコンディション・スコアの許容範囲内にコントロールすることが卵巣疾患および妊娠分娩期疾患の予防になるものと考えられました。

6 泌乳前期の乳成分と病傷事故との関連

<分娩後7〜50日の乳脂肪率、乳蛋白質率を調査する>

 平成10年度乳検成績月報(平成10年4月〜平成11年3月)から泌乳前期牛(分娩後7〜50日)を抽出し、乳成分の異常値の出現割合(調査個体数に対する異常値を持つ牛の割合)を算出しました(表−7)。そして、乳成分の平均値、異常値出現割合と空胎日数および病傷事故危険率との関係を調べました。

表−7 乳成分の異常値の決定

<乳脂肪率が5.0%以上、乳蛋白質率2.8%以下はエネルギー不足を反映している>

 乳脂肪率では、分娩後50日以内で5.0%以上の割合が16%を超えた5戸(農家H, I, J, K, R)のうち、2戸(農家H, I)では空胎日数が160日を超えており、農家 J では妊娠分娩期疾患が高く、乾乳期のボディコンディション・スコアも3.74と過肥傾向であった。農家Kでは卵巣疾患が40%を超え、農家 J では妊娠分娩期疾患が高いことがわかりました(表−8)。泌乳初期において乳脂肪率が高いことは、著しいエネルギー不足による体脂肪の過剰動員を示しています。脂肪肝や繁殖性低下との関連も指摘されており、今回の野外調査でも同様の結果が得られました。

表−8 分娩後7〜50日の乳成分、異常値出現割合、空胎日数および病傷危険率との関係

 乳蛋白質率では、分娩後50日以内、2.8%以下の割合が28%を超えた3戸(農家C, D, R)では、卵巣疾患危険率が40%以上と高いことがわかりました。卵巣疾患の発生はエネルギー不足と関連しており、エネルギー不足は泌乳初期の乳蛋白質の低下として示されたと考えられます。

<乳蛋白質率/乳脂肪率比0.7以下はエネルギー不足を反映している>

 乳蛋白質率/乳脂肪率(PRO/FAT)比は、エネルギー不足の指標として有用であることが示されていますが、その基準値は明らかではありません。今回の調査では、PRO/FAT比の基準値を0.7とすると、0.7以下の割合が25%を超えた農家は8戸(農家C, F, H, I, J, K, O, R)ありました。そのうち、空胎日数が160日以上の農家が3戸(農家H, I, O)、卵巣疾患が40%以上の農家が3戸(農家C, K, R)、妊娠分娩期疾患が14%以上の農家が3戸(農家J, O, R)と、農家Fを除きいずれの農家も繁殖性の低下や妊娠分娩期疾患の多発が見られました。

 これらから、乳検成績の乳成分を繁殖管理や妊娠分娩期の事故低減に利用しようとする場合には、分娩後50日以内の乳脂肪率を5.0%以上、乳蛋白質率を2.8%以下および乳蛋白質率/乳脂肪率の比を0.7以下の異常値出現割合が指標となるものと考えられました。

まとめ

 根室、十勝管内で平均産次2.5産以下(短群)と3.5産以上(長群)、収容方式でつなぎ方式とフリーストール方式に分けて、計26戸を選定し、乳牛の供用年数短縮の要因を検討した結果、以下のような結論となりました。

(1) 除籍理由割合は短群農家では共済淘汰が平均30%前後でしたが、長群では72%と多く、自家淘汰が少ないことが分かりました。全除籍頭数の8〜9割は病傷事故に関係して淘汰されますが、明確な自家淘汰基準はなく、飼養頭数、育種改良、個体販売、共済費などを考慮して淘汰されることが分かりました。
(2) 飼養管理技術は農家間差が大きく、平均産次、病傷事故との関連性は明らかになりませんでした。
(3) BCSの乳期別平均値が2.80以下、乳脂肪率5.0%以上および乳蛋白質率/乳脂肪率比0.7以下の異常値出現割合は、繁殖性の低下や妊娠分娩期疾患との関連があることが分かりました。

(筆者:北海道立根釧農業試験場酪農施設科・研究職員)