乳牛の供用年数の延長を考える(II)

── 供 用 年 数 短 縮 の 要 因 ──

 

扇   勉

 
  酪農経営の規模拡大と高泌乳化に伴い、乳牛の供用年数は短縮しています。供用年数の短縮は、体細胞数の規制強化や乳価、個体販売価格および生乳生産枠の変動など経営環境が変化する中で、高泌乳化に伴う死廃・病傷事故の増加や、牛群改良を目的とした淘汰・更新が進んだ結果と考えられます。

 また、規模拡大に伴い乳牛1頭当たりの管理労働時間や牛の観察時間が短くなり、特にフリーストール方式では死廃・病傷事故が増えているともいわれます。

 そこで、平均産次数の低下や死廃・病傷事故の多発が、乳量水準および飼養形態とどのような関係にあるのかを調査しました。

1.高泌乳化とフリーストール方式は、平均産次を引き下げている

 平均産次と乳量水準および飼養形態との関係を調べるため、北海道の乳検加入農家より1466乳牛群を抽出し、牛舎施設(繋ぎ方式=TS、フリーストール方式=FS)および経産牛乳量(高泌乳;9000kg以上、中泌乳;8000kg台、低泌乳;7999kg以下)の違いにより、6群に分け比較検討しました。平均産次は高TS、高FS群がそれぞれ2.70産、2.53産、低TS、低FS群がそれぞれ2.96産、2.95産と、繋ぎ方式、フリーストール方式とも高泌乳群が低くなっています(表−1図−1)。飼養形態の違いでは、全TS2.85産、全FS2.68産と、フリーストール方式が繋ぎ方式に比べ低くなっています。除籍産次は平均産次よりおよそ1産次高いですが、平均産次とほぼ同様の傾向がみられています。経産牛頭数は乳量水準による差は少なかったですが、飼養形態ではフリーストール方式の方が多く、規模拡大に伴いフリーストール方式に移行する傾向がみられています。経産牛1頭当たりの年間濃厚飼料給与量は、高TS群3352kg、高FS群3770kgと、高泌乳群では濃厚飼料が多給されており、その傾向はフリーストール方式でより顕著となっています。乳房炎の指標となる体細胞数は、高TS群、高FS群がそれぞれ17.7万/ml、15.2万/ml、低TS群、低FS群で24.2万/ml、22.0万/mlといずれも高泌乳群が少なく、さらにフリーストール方式が繋ぎ方式より少なくなっています。繁殖成績では、空胎日数が高TS群、高FS群それぞれ128日、123日、低TS群、低FS群で136日、136日といずれも高泌乳群が短くなっています。

表−1 北海道の1,466乳牛群における牛群検定成績と乳量水準および飼養形態との関係

注1)英字 a 、b 、c は、飼養形態別に乳量水準間の有意差(p<0.05)を示す。
注2)*は乳量水準別に飼養形態間の有意差(p<0.05)を示す。

図−1 乳量水準および飼養形態別平均産次

 このように平均産次は高泌乳群が低く、なおかつフリーストール方式がより低かったことから、高泌乳化に伴う濃厚飼料の多給および飼養規模拡大が平均産次を下げているものと考えられます。しかし、体細胞数および空胎日数は高泌乳群が優れ、なおかつフリーストール方式がより優れた成績を示していることから、これらの牛群では乳房炎および繁殖障害の牛を積極的に淘汰しているとも考えられます。

2.除籍割合はそれほど高くない

 乳牛の供用年数は、日本では牛群の平均産次や除籍産次で示し、欧米では多くが除籍割合で牛群を評価しています。除籍割合は経産牛の在群年数、すなわち生産寿命の平均値のほぼ逆数となることから、経済指標としてより有用と考えられます。

 経産牛頭数に対する全除籍頭数割合(除籍割合)は、北海道では高TS群、高FS群それぞれ29.0%、26.6%、低TS群、低FS群で24.7%、21.2%と、いずれも高泌乳群が高くなっています(表−1)。イングランドにおける340乳牛群および50乳牛群の調査では、除籍割合はそれぞれ22.1%、23.8%と報告され、アメリカの平均は約31%とされています。また、アメリカにおける経済モデルからの試算では、最適除籍割合は約25%であり、その時の生産寿命は47.8ヵ月となり、それらは若牛価格により変動しますが、乳量、乳価および飼料費による影響は少ないとされています。本調査における除籍割合は、高TS群の29.0%を除けば、イングランドの除籍割合や試算された最適除籍割合に近く、特に高い値ではないと考えられます。

 除籍理由では繋ぎ方式、フリーストール方式とも、乳房炎、乳器障害、繁殖障害および売却の割合が高くなっています(表−2)。乳量水準では、繋ぎ方式、フリーストール方式とも、高泌乳群が低泌乳群に比べ、乳器障害、繁殖障害、運動器病、消化器病、死亡および売却の割合が高い傾向がみられます。飼養形態による違いでは、高TS群および高FS群の乳器障害はそれぞれ3.6%、2.5%、繁殖障害は5.8%、4.0%といずれも繋ぎ方式が高くなっています。また、乳量水準にかかわらず、消化器病はフリーストール方式が高く、売却は繋ぎ方式が高くなっています。イングランドでは、340乳牛群の調査で不妊5.6%、年齢3.7%、乳房炎3.6%、低乳量2.0%、蹄病1.7%、その他5.5%、50乳牛群の調査で不妊8.7%、管理上2.7%、乳房炎2.4%、BSE1.8%、蹄病1.3%とされ、疾病による除籍理由では本調査と同様に乳房炎および繁殖障害が主の原因となっています。

表−2 北海道の1,466乳牛群における除籍理由(経産牛頭数割合、%)

注1)英字 a 、b 、c は、飼養形態別に乳量水準間の有意差(p<0.05)を示す。
注2)*は乳量水準別に飼養形態間の有意差(p<0.05)を示す。

 このように除籍理由は乳房炎、乳器障害および繁殖障害など疾病によるものが多く、乳量水準や飼養形態によりやや違いがみられます。しかし、他の報告では、農家が除籍牛を決定する場合には、疾病ばかりではなく、乳量、種付け状況、乳期、産次、飼養頭数、乳生産枠、育種改良および個体販売価格などをも考慮するとされ、実際の除籍理由は複数にわたることも多いと考えられます。

3.死廃事故は乳量水準や飼養形態で変わらない

 死廃・病傷事故と乳量水準および飼養形態との関係を調べるため、根室管内の乳検および共済加入農家より217乳牛群を抽出し、牛舎施設(前記と同様)および経産牛乳量(高泌乳=9000kg以上、中泌乳=7000〜8000kg台、低泌乳=6999kg以下)の違いにより、6群に分け比較検討しました。全死廃事故危険率は、各群4.64〜5.96%と、乳量水準および飼養形態による差はみられません(表−3)。病類別では繋ぎ方式、フリーストール方式とも、泌乳器病、運動器病、消化器病および妊娠分娩期・産後疾患が高く、次いで循環器病および外傷・不慮の事故他でした。道南の調査では、全死廃事故危険率はフリーストール方式が繋ぎ方式に比べ高く、なかでも消化器病および分娩期疾患が高いと報告されています。しかし、本調査では全死廃事故危険率は飼養形態による差がみられず、地域差があるものと考えられます。

表−3 根室管内217乳牛群における死廃事故危険率(%)と乳量水準および飼養形態との関係

注1)英字 a 、b 、c は、飼養形態別に乳量水準間の有意差(p<0.05)を示す。
注2)*は乳量水準別に飼養形態間の有意差(p<0.05)を示す。

4.高泌乳で病傷事故は増加する

 全病傷事故危険率は、繋ぎ方式では高、中、低泌乳群おのおの92.1%、73.1%、76.8%、フリーストール方式では80.9%、55.5%、59.1%と、高泌乳群が中、低泌乳群に比べ約20ポイント高くなっています(表−4図−2)。欧米とは診療体制が異なるので単純には比較できませんが、アメリカ・ニューヨーク州の調査では、1年間治療しない泌乳牛の割合が61.7%と報告され、本調査の病傷事故危険率はいずれの飼養形態においても高い数字と考えられます。病傷名では高泌乳群は乳房炎、卵巣疾患、子宮疾患、第4胃変位、胃腸疾患、産褥熱およびケトーシスの危険率が高い傾向にあります。乳量水準と病傷事故との関係を検討した他の報告では、高泌乳化により乳房炎あるいは乳熱の発生は高くなるが、その他の疾病は変わらなかったと述べられています。また、高泌乳牛で乳房炎が多いのは、漏乳による感染リスクの高さに加え、低泌乳牛は乳房炎に罹患した場合売却されやすく、高泌乳牛は治療されることが多いためとされます。本調査の高泌乳群でも、乳房炎の危険率は高く、体細胞数は低いことから、高泌乳群では乳房炎に罹患した牛を積極的に治療する傾向があると考えられます。

表−4 根室管内217乳牛群における病傷事故危険率(%)と乳量水準および飼養形態との関係

注1)英字 a 、b 、c は、飼養形態別に乳量水準間の有意差(p<0.05)を示す。
注2)*は乳量水準別に飼養形態間の有意差(p<0.05)を示す。

図−2 乳量水準別および飼養形態別病傷事故率(%)

 高泌乳群で第4胃変位および胃腸疾患の危険率が高いのは、濃厚飼料多給によりルーメン内の恒常性の維持が難しくなっているためと推察されます。また、高泌乳牛でケトーシスの危険率が高いのは、泌乳初期にエネルギー不足に陥りやすいためと考えられます。

5.繁殖は高泌乳も低泌乳もよくない

 乳量水準と繁殖性との関係を検討した他の報告では、乳量が8025kgを超えると妊娠率が低下するという報告や、高泌乳牛ほど受胎率や卵巣の活動は低下するが、空胎日数は逆に短く、そして、それらは飼養管理を改善することにより、高泌乳の影響は少なくなるという報告もあります。また、分娩後60日間の積算乳量と繁殖性との関係はみられず、高泌乳牛で繁殖性が劣るといわれるのは、低泌乳牛がより淘汰されやすいという選択的淘汰の影響であるという報告もあります。本調査では、卵巣疾患が高TS群、中FS群それぞれ25.8%、21.7%、中TS群、中FS群19.1%、10.8%と、高泌乳群は中泌乳群に比べ危険率が高くなっています(表−4)。同様の傾向は子宮疾患でもみられ、高泌乳群では繁殖障害が多い傾向にあります。しかし、表−1でみたように高泌乳群の空胎日数は短い傾向にあり、積極的に治療が行われているとも考えられます。一方、低泌乳群でも中泌乳群に比べ卵巣疾患の危険率が高く、これには泌乳前期のエネルギー不足による卵巣機能の低下が関係しているのかもしれません。

6.飼養形態で病傷事故に特徴がある

 全病傷事故危険率は全TSが79.2%、全FSが67.1%と、フリーストール方式が繋ぎ方式に比べ低く、特に乳房炎、乳頭損傷および卵巣疾患の危険率が低かったが、逆に第4胃変位は高い傾向にあります(表−4)。フリーストール方式で乳房炎および乳頭損傷の危険率が低かったのは、フリーストール方式の多くが衛生的なミルキングパーラーで搾乳され、搾乳衛生面で優れており、牛床における乳頭損傷の機会も少ないためと考えられます。また、フリーストール方式で卵巣疾患の危険率が低いのは、スタンディング発情などの発情兆候の発見が容易な上に、ストレスも少ないためと推察されます。逆に、フリーストール方式で第4胃変位の危険率が高いのは、乾乳期から泌乳初期への移行期の飼養管理に問題があるのではないかと考えられます。蹄病はフリーストール方式の高、中泌乳群が繋ぎ方式に比べ2倍近い危険率があり、フリーストール方式では蹄の湿潤化と脆弱化により、感染の機会が高まる上に、通路の床の仕上げにしばしば問題があるためと考えられます。

このように乳検および共済成績の解析から、乳牛の供用年数、除籍および死廃・病傷事故と、乳量水準および飼養形態の関係をまとめると以下の通りとなります。

(1) 平均産次は高泌乳群が低く、フリーストール方式がより低いことから、高泌乳化に伴う濃厚飼料の多給および飼養規模拡大が平均産次を下げる要因となっているものと考えられます。しかし、高泌乳群は体細胞数が少なく、空胎日数も短いことから、乳房炎および繁殖障害に罹患した牛を積極的に淘汰しているとも考えられます。
(2) 高泌乳群は中、低泌乳群に比べ病傷事故危険率が約20ポイント高く、乳房炎、卵巣疾患、子宮疾患、第4胃変位、胃腸疾患、産褥熱およびケトーシスの危険率が高い傾向にあります。
(3) 繋ぎ方式では乳房炎、乳頭損傷および卵巣疾患の病傷危険率が高く、フリーストール方式では第4胃変位および乳熱の病傷危険率が高く、それぞれ飼養管理との関連が示唆されます。

(筆者:北海道立畜産試験場・研究参事)