乳牛の供用年数の延長を考える(I)

── ポジティブな淘汰とネガティブな淘汰 ──

 

岡 田 直 樹

1.供用年数は短くなっているか?

 乳牛を生産に利用している年数を“供用年数”といいます。普通の農場であれば、初産分娩から、廃用として出荷されるまでの期間です。このところ、供用年数が短くなっている、といわれています。まず、この点を確認してみましょう。

 図−1は、北海道の乳牛の供用年数を、平均産次数でみたものです。平均産次数とは、その時点で飼われていた経産牛全体の産次数を平均化したものです。平均産次数の動きは、時代によって変化がみられます。

図−1 平均産次数の変化(北海道)

注:『乳用牛群能力検定成績のまとめ』による
平均産次数は前後3年の移動平均値

 1983年(昭和58年)までは、平均産次数は現在よりも長いものでした。1983年の平均産次数は3.49産です。仮に、すべての産次数で同じ数だけ牛がいるとすると、農場に初産から6産の牛が1頭ずついる場合、平均産次数は(1産+2産+…+6産)÷6頭=3.5産となりますので、平均産次数は3.49産というのは、およそ6産で経産牛を廃用にしているといえます。

 1983年から1990年(平成2年)にかけては、平均産次数は年々短くなってきます。1983年では3.49産だったものが、1990年には2.88産になります。2.88産とは、経産牛をおよそ5産に達しない段階で廃用にしている状態です。この期間に、経産牛を飼う期間は1産短くなったわけです。1990年以降、平均産次数は、短いまま推移しています。

2.なぜ、供用年数は変化するのか

  なぜ、供用年数は時代とともに変化するのでしょうか。次にこの点を考えてみたいと思います。大きくみれば、供用年数の変化は、酪農を取り巻く条件にあわせて、牛の飼い方が変わることによって起こります。

 1983年から1990年にかけて平均産次数が短くなった背景には、(1)牛乳の生産調整が行われ、牛乳増産にブレーキがかけられたこと、(2)1985年以降には加工原料乳保証価格が引き下げられたこと、があります。このため、農場では増産せずに所得を得る必要が強まり、コスト低減にむけて乳量の低い牛を積極的に売却し、乳量の高い牛に置き換える、“駄牛淘汰”が行われました。これらによって、平均産次数は短くなったと考えられます。

 1990年以降に平均産次数が下げ止まるのは、生乳需給状況が緩和し牛乳増産ができるようになったことと、個体販売価格が暴落し早い産次数で経産牛を売るうまみがなくなったことを背景とします。このため、農場の所得確保の手段は、積極的な淘汰によるコスト削減から積極的な頭数拡大による収入増大へと重点が移り、平均産次数の短縮にブレーキがかかりました。

3.ポジの淘汰とネガの淘汰

 では、1990年以降、供用年数が長くならないのはどうしてなのでしょうか?

 この回答を得るため、農場における“淘汰”の意味を考えてみます。“淘汰”とは、いわば“経営者による農場からの牛の追い出し”です。では、経営者は、なぜ牛を淘汰するのでしょうか?

 実は、農場での乳牛の淘汰には、2つのパターンがあります。

 1つは、ポジティブ(積極的)な淘汰、すなわち“ポジの淘汰”です。これは、経営者が計画的に淘汰を進める場合で、例えば乳量が6000kgしかないとか、種付けが難しいとかを理由に「今回で搾りきってはらみで出そう」などと計画を立てて淘汰する場合です。ポジの淘汰は、乳量水準のそろった取り扱いの容易な牛群を作ることを目的に、理想とする牛群からはみ出す牛を計画的に追い出す管理行動です。

 2つ目は、ネガティブ(消極的)な淘汰、すなわち“ネガの淘汰”です。これは、経営者が意図しないところで病気やケガなどが起こり、やむを得ず淘汰する場合です。ネガの淘汰は、牛に目が届かないことや栄養管理の失敗などが原因であり、農場の技術レベルに見合った牛群が形成されていない結果、事後的に起きる淘汰とみることができます。

 1990年以後平均産次数が伸びないのは、この間の急速な多頭化のもとで、ポジの淘汰やネガの淘汰の起き方が変わってきたことによります。1990年から2000年の間に、北海道では1戸当たりの成牛飼養頭数は34.2頭から54.8頭へ、1.6倍になりました。限られた家族労働力でより多くの牛を飼うため、よりそろった牛群をつくる必要が強まりました。この結果、ポジの淘汰に関しては、飼養頭数が多い農場ほど「日常管理の容易性」や「搾乳作業の容易性」など、効率的に牛を飼うための淘汰基準が強められるようになりました。また一方で、多頭化のもとでネガの淘汰の頭数は急増しました。「繁殖障害」、「疾病」、「乳器障害」、「へい死」などを理由としたネガの淘汰の割合は、1988年には乳検検定頭数の8.6%だったものが、1997年には17.5%へと倍増しています。

 このように、限られた家族労働力のもとで多頭化が進められるなかで、ポジの淘汰の基準が厳しくなり同時にネガの淘汰の発生も増大していることが、平均産次数すなわち供用年数が伸びない理由といえます(図−2)。

図−2 大規模化に伴うポジ・ネガの淘汰の増大

4.供用年数と経済性

 「供用年数が短いと不経済だ」ということがよく言われます。これは、本当なのでしょうか?北海道のある町の90農場を対象に平均産次数と収益性の関係を調べてみると、両者の関連性はまったくみられませんでした。つまり、「供用年数が短いと不経済だ」ということは確認できませんでした。実は、供用年数は、長ければ1乳期当たりの減価償却費の負担が下がる、より少ない育成頭数ですみ育成費用が下がるなどのメリットがあり、短ければ遺伝改良による乳量・乳質の向上が早まる、牛群のばらつきが少なくなり多頭化を進めやすくなるなどのメリットがあります。このため、供用年数は、農場の労働力数、飼養頭数、乳量水準、技術力、あるいは当面農場が何を目指すかによって変わり、一概にどの程度が良いとは言い切れないわけです。

 供用年数の経済性を考える際により重要なことは、“ポジの淘汰とネガの淘汰では経済性に違いがある”ということです。

 経済性の違いは、次の点から起こります。

 ポジの淘汰は、乳量・乳質や作業面で問題ある牛を、乳期の終わりなど経済的に影響の少ない時期に、代わりの牛の確保を前提として行います。一方、ネガの淘汰は、時として能力の高い牛でも起こり、また代わりの牛がスムーズに確保されるとは限りません。8農場を調査したところ、初産、2産牛の淘汰86頭のうち69頭(80.2%)はネガの淘汰でした。また、ネガの淘汰の50%以上が分娩後3ヵ月以内の泌乳最盛期に起きるのに対し、ポジの淘汰では分娩後3ヵ月以内に淘汰されたケースはありませんでした。

 8農場の調査では、次のことも見いだされました。

(1) 淘汰率(経産牛の何割が淘汰されたか)が高い農場ほど、平均産次数が短い。

(2) ポジの淘汰とネガの淘汰の割合は、淘汰率に関係せず農場により大きくばらつく

 つまり、どれだけ淘汰されるかによって平均産次数が決まるのですが、その淘汰がポジの淘汰によるかネガの淘汰によるかは農場ごとにばらばらです。こうしたことから、供用年数の経済性を考えるに当たっては、「供用年数が短いと不経済」ではなくて、「ネガの淘汰が多いと不経済」という点を重視すべきです。多くの農場では、ネガの淘汰を減らし、ポジの淘汰による牛群形成を進めることにより経済性の改善が期待できます。また、ネガの淘汰は初産、2産牛が多いため、ネガの淘汰が減れば供用年数はより長くなるでしょう。

5.淘汰ではどれくらい経済性はかわるか

 ポジの淘汰とネガの淘汰では、経済性はどれくらい違うのでしょうか?経営主が年度当初に期待した所得が、淘汰によってどれだけ変化したかを計算しました。表−1は、8農場で年間に淘汰された1頭1頭について所得への影響を計算し、ポジの淘汰とネガの淘汰に分けて集計したものです。計算は次の3段階で行っています。

表−1 淘汰による所得変化額(経産牛1頭当たり)

単位:円/頭
淘汰に伴う所得変化 潜在的な損失を
含む所得変化
段階III
(共済金を含めない)
段階 I
(共済金を含める)
段階II
ポジの淘汰 155,355 155,355 155,355
ネガの淘汰 101,859 257,587 −105,778
注:8牧場の平均値

 段階 I :淘汰に伴って入ってきた所得を計算したものです。「淘汰した牛の販売による収益」、「代わりに供用した牛の出産に伴う子牛の販売による収益」、「代わりに供用した牛の牛乳販売による収益」を足したものです(計算では、収益を得るのにかかった費用を差し引いています)。

 段階II:段階 I の金額に、淘汰に伴って実際に受け取った「共済金」を足したものです。共済金は、病気やケガによるネガの淘汰の場合のみ発生します。

 段階III:段階IIの金額に、予定外の淘汰がなければ得られるはずだった所得、つまりネガの淘汰による潜在的な所得損失額を足したものです。「淘汰がなければ得られたはずの牛乳販売による収益」「淘汰がなければ生まれたはずの子牛の販売収益」「淘汰がなければ、売られたはずの牛の販売収益」を足します。

 まず、段階 I では、ほとんどの農場で、ポジの淘汰のほうがより大きな所得が得られています。ポジの淘汰では淘汰に伴って経産牛1頭当たり15.5万円の所得が得られていますが、ネガの淘汰では10.2万円と2/3の水準です。これは、ネガの淘汰では簿価の高い若い牛が多い半面、売値が安い傾向にあり、「淘汰した牛の販売による収益」が低いことによります。

 しかし、段階IIで、共済金を加えると、ポジの淘汰とネガの淘汰の関係は逆転します。ネガの淘汰のほうがポジの淘汰より経産牛1頭当たりで10万円以上大きい所得が得られます。つまり、淘汰に伴って実際に入ってくる金額は、ネガの淘汰のほうが大きくなります。このことは、ひょっとすると、“病気やケガによる淘汰が起こっても、経済的には問題がない”という意識につながっているかもしれません。

 でも、本当にそうでしょうか。ネガの淘汰では、“本当は得られるはずだった所得の分損している”ことに気がつく必要があります。段階IIIで、このマイナス分を加えると、ネガの淘汰では経産牛1頭当たり10.6万円も所得が赤字となることが分かります。

6.経営改善のツールとなる

 農場全体で、ネガの淘汰による所得の目減りがどれくらいあるのか試算したものが表−2です。ひどい農場では、年間280万円もの損失が起こっています。多くの農場で、ネガの淘汰が解消されたとすると、現状の所得を10%以上伸ばすことが期待されます。つまり、ネガの淘汰の解消は大きな所得改善効果があるわけです。

表−2 ネガの淘汰による所得損失

ネガの淘汰による所得損失 現状
所得
ネガの淘汰
解消による
期待所得
所得
増大
効果
ネガの
淘汰数
1頭当たり
損失額
所得
損失額
(頭) (1000円) (1000円) (1000円) (1000円) (%)
7経営平均 11.4 −130.9 −1,525 7,192 8,717 112
(参考:A経営) 13.0 −213.8 −2,779 2,305 5,084 221

7.経営改善にむけた積極的な牛群コントロール

 これまで、多頭化に伴って牛群をどのようコントロールしていくかということは、あまり意識されてこなかったように思います。このため、農場によって、淘汰の仕方はまちまちです。多頭化のもとでは、ポジの淘汰により、労働力数と技術水準にあわせて牛群をきちんとコントロールすることが大変重要となっています。ネガの淘汰は、知らず知らずのうちに大きな損失を引き起こす恐れがあります。

 では、ネガの淘汰を減らすために、農場では何を考えたらよいのでしょうか?

 重要なのは、淘汰の記録をきちんとつけることです。1頭ごとに、淘汰の日時、理由・原因、処分方法、収入や費用、ポジ・ネガの区分などを整理し、一覧にします。これによって、年間どれくらいネガの淘汰が起きているかつかむことができます。さらに、ネガの淘汰による所得の損失額を推測してみます(簡単には、ネガの淘汰頭数に、表−1の10.6万円をかけることで計算できます)。

 ネガの淘汰が多いことは、牛群がきちんとコントロールできていない証拠です。このときは、淘汰の原因を徹底的に追及し改善策を立てます。技術的な向上・改善を図るとともに、場合によっては農場の従業員数や技術レベルにあわせて頭数規模や乳量水準の変更を検討することも必要でしょう。

(筆者:北海道立中央農業試験場生産システム部経営課・課長)