地域循環型農業とともに歩む酪農経営

──鳥取県東伯郡大栄町・山下芳明さんの酪農経営──

 

佐 藤 功 憲


1.はじめに

 山下芳明さんが酪農を営んでいる大栄町は鳥取県の中央に位置し、北は日本海、南はなだらかな大山火山灰土壌の丘陵地帯に、圃場整備された広大な畑地と果樹園が開けた場所にあります。

図−1 大栄町の位置 

 海岸線沿いには280haの砂丘があり、その農地を利用して県下有数の畑作農業が営まれています。

 中でも特産品の「大栄スイカ」は町内380haの栽培面積をもち、作付面積、販売額とも全国第2位の実績を誇っています。

 その他にも、長いも、梨、芝と特産も多く、また畜産も盛んな地域です。

 国営かんがい排水事業によるダム整備が行われ、畑地のほぼ全域にかん水が可能となっています。

 農家率も高く、専業農家率は全体の25.1%を占めており、農畜産物の総販売額は70億円(平成10年)と、農業が主体の町です。

 畜産業では、乳雄の哺育・一貫経営が古くから行われています。

 酪農も県内では古くからの生産地域で、特に水田の裏作や転作田を活用した飼料作物の栽培は、全国でも早くから共同作業に取り組み、集団でブロックローテーションを行うなど歴史は古く、現在もその共同活動は活発に行われています。

 そのなかで現在、大栄町酪農組合長として頑張っているのが、今回紹介する山下さんの山下牧場です。


2.山下さんの酪農の歩み

 山下牧場の始まりは、芳明さんのお父さんが昭和35年ころに3頭の乳牛と農耕用の馬を1頭飼ったのが始まりです。

表−1 経営の推移

年 次 作目構成 頭数・面積 経営および活動の推移
昭和35年 酪 農
畑作物
乳 牛 03頭
  1頭
父親が初めて乳牛導入、酪農経営の開始
昭和43年 酪 農
肥育牛
スイカ
乳 牛 7頭
肥育牛   80頭
    50a
本人就農

昭和45年乳牛増頭に伴いスイカ栽培やめる
昭和45年 酪 農
肥育牛
乳 牛 15頭
肥育牛   80頭
乳牛舎第1回増築
昭和53年乳牛増頭に伴い肥育事業廃業
昭和53年 酪 農
乳 牛 25頭
乳牛舎第2回目増築、酪農専業経営となる
昭和62年 酪 農
乳 牛 30頭
乳牛舎第3回目増築
平成03年 酪 農
乳 牛 45頭
乳牛舎第4回目の増築、酪農専業経営の確立
平成06年 酪 農
乳 牛 48頭
長男就農
平成08年 酪 農
乳 牛 48頭
家族経営協定締結
経営分担
 本人 繁殖牛管理・簿記記帳担当
    大栄町酪農組合長就任
    (平成10年)
 妻  哺育・育成担当
    パソコンによる複式簿記の勉強を開始
 長男 飼料給与担当
    パソコンによる飼料給与診断
 家族全員
    自給飼料生産
    搾乳作業
平成13年 酪 農
乳 牛 47頭
 

 その後18歳の時に就農、当時は乳牛7頭の他に肥育牛が80頭、その他スイカの栽培も行っていました。

 昭和45年に、後継資金を利用して当時では珍しい15頭の搾乳牛舎を建設しています。

 大工であった祖父の影響もあり、自分自身で搾乳などの作業を行いやすいよう手作りで増築したそうです。

 その後も過大な投資を避けながら昭和53年、昭和62年、平成3年と自分の経営規模に適した増築を行い、現在の牛舎に至っています。

 増築した牛舎の全景

 息子さんの健さんは、平成6年に北海道の大学で酪農経営を勉強後、就農しています。小学校のころから仕事を手伝っていて、中学生のころにはパソコンを使って飼料給与診断を行い、エサの組み立てもしていたそうで、若き地域酪農の担い手でもあります。


3.経営の概要

(1)酪農従事

00 本人(芳明〈よしあき〉さん) 51歳 繁殖牛管理担当
  妻 (広子〈ひろこ〉さん) 51歳 哺育・育成担当
  長男(健〈けん〉さん) 27歳 哺育・育成担当
  搾乳作業・自給飼料生産 家族全員  

(2)家畜平均飼養頭数

00 経産牛 47.0頭
  育成牛   21.4頭

(3)自給飼料の生産

00 イタリアン 00 840a
  ソルゴー(混播)   730a
  水稲   30a

(4)施設・機械

00 成牛舎 370m2
  育成牛舎   80m2
  乾乳牛舎   380m2
  草舎   192m2
  トラクター   3台
  ロールベーラ   1台
  ラッピングマシーン   1台
  コーンハーベスター   1台
  ホイルローダー   1台
  マニュアスプレッダー   1台
  ショベルローダー   2台
  ロータリー   1台

表−2 経営の概要

期間 平成12年1月〜12年12月 経営実績




労働力員数
(畜産)
家  族(人) 2.9
雇  用(人) 0.1
経産牛平均飼養頭数(頭) 47
飼料生産用地のべ面積(a) 1,390
年間総産乳量(kg) 408,250
年間総販売乳量(kg) 408,000
年間子牛・育成牛販売頭数(頭) 39
所 得 率(%) 32.7

牛乳
生産
経産牛1頭当たり年間産乳量(kg) 8,681
平均分娩間隔(ヵ月) 13.2
受胎に要した種付け回数(回) 2.1
乳脂率(%) 3.82
無脂乳固形分率(%) 8.65
粗飼料 経産牛1頭当たり飼料生産のべ面積(a) 28
借入地依存率(%) 95
乳飼比(育成・その他含む)(%) 35.1
経産牛1頭当たり投下労働時間(時間) 140.2


手作りで増築した牛舎


併設されている運動場


奥さんは大型作業機の扱いもなれたもの


4.経営の特徴

 経営の一番の特徴は、自給飼料を中心にコスト低減を図っていることです。

(1)自給粗飼料生産によるコストの低減

 経営の基本は、乳牛1頭当たり10aの草地を確保すれば、粗飼料生産とたい肥処理に対応できるという考え方です(乳飼比35.1%)。このため、古くから水田裏作、転作田等共同作業体制を確立して自給飼料を確保しています。

 酪農経営の基盤である自給飼料生産

(2)集団での飼料作物共同生産活動

 町内には南側に黒ぼく土壌の丘陵畑作地帯、東側に水田地帯、北側に砂丘地帯があります。このうち東側の水田地帯、東園、西園集落では水田と砂丘畑による大規模農業が営まれていて、砂丘畑への作付け労力が水田裏作利用と競合し、水稲単作栽培のみの土地利用となっていました。

 昭和48年に、水田裏作の生産奨励施策が打ち出されたのを契機として、酪農家と耕種農家が話し合いを行い、水田裏作(約36ha)に飼料作物栽培体系を確立し、機械の共同利用による粗飼料生産が始まり、今日まで長年にわたって続いています。

 2つの集落との間に、役場の仲介で覚書を3年ごとに交わし、借地面積はその都度協議、決定されています。

 粗飼料生産を中心とした専業酪農経営が確立できたのは、地域グループ員の団結の強さはもちろんのこと、酪農専門農協の支援、農業改良普及所等の関係機関の支援体制が充実していることがあげられます。

(3)牛に無理なく、そして長持ちさせることを目指して

 県内、またグループ員の中にも購入飼料に依存して、大規模化あるいは1頭当たりの乳量を1万kg以上に設定するなどして所得の増大を図っている経営が多く見受けられますが、当経営の基本は自給飼料生産を中心としていることから、急激な規模拡大はしないで、1頭当たり乳量も8500kg程度と抑えた設定にし、牛に無理をさせないで、長持ちさせる飼養管理を心掛けています。育成牛の段階から子牛に粗飼料を多給するなど、経験による工夫で経営が安定するよう努力しており、平成12年度末の平均産次数は4産になっています。

(4)経営の分担を明確に

 平成8年10月に家族経営協定の締結をして、経営分担を明確にし、経営の合理化に努めています。

 芳明さんは繁殖牛管理、簿記記帳と渉外担当、奥さんは哺育・育成担当、長男は飼料給与担当、粗飼料生産は家族全員で当たり、それぞれの分担・分野で工夫し努力することで家族の絆を大切にしながら、経営の効率化が図られています。この協定の締結も地域でいち早く取り組み、家族ぐるみでの経営意欲の向上がみられ、その結果が健全経営につながっています。

 大栄町は認定農業者数が県下で一番多い町です。これも町当局、農協等の支援体制のバックアップの強さを表しています。


5.家畜排せつ物処理・利用方法

(1)家畜排せつ物の処理方法

 たい肥の処理は、たい肥舎で切り返しする方式で行っています(敷料にはオガクズを利用)。

図−2 処理フロー図

 ふん尿は、牛舎よりバーンクリーナーで搬出され、ダンプトラックで受け、たい肥舎に運搬されます。

 その後、たい肥舎において育成舎、乾乳牛舎からの搬出されるふん尿、敷料と混合しショベルローダで2〜3ヵ月切り返しを行っています。

 たい肥の利用状況は、自給飼料生産に利用する自家利用分が全体の80%、地域の耕種農家の販売が20%となっています。

 農地に還元できるふん尿の量をもとに経営規模が調節されています。

 地域の耕種農家への供給と、自給飼料畑への還元で全量を利用し、良質の粗飼料生産が行われています。

 現在、稲ワラ購入先農家への供給、農地の交換利用先へのたい肥供給で(作物の連作障害対策で3年ごとに牧草を作っている畑とスイカ等の作物を作っている畑を交換している)、ある程度の利用ができてますが、今後規模拡大する予定なので、全量自家消費できるように借地を増やす方向で検討をしています。

 今後もたい肥を利用したいという耕種農家に対しては、引き続き供給をする予定です。

(2)環境美化

 牛舎の周辺には、奥さんの広子さんが育てたいろいろな花が植えてあり、訪問者を出迎えてくれます。

 牛舎の入り口には、鉢植えの花が飾られていて、環境が良いのか?それとも日当たりが良いのか?猫のひなたぼっこの場所になっています。

 敷地内にある樹木は、運動場・牛舎に適度な木陰をつくり暑熱対策に役立っています。


6.地域振興活動にも協力

 また、毎年7月には「スイカ・ながいもマラソン」が全国各地から参加者を得て開催されていますが、そこにロールラッピングサイレージをスイカに見立てて色を塗ったオブジェを展示したり、搾乳体験コーナー、ミニ動物園を設けるなどユニークな取り組みにより地域に密着した活動をしています。


7.後継者確保・人材育成

 酪農組合の相互扶助の精神によって結束は固く、このことが飼料の共同生産体制にも生かされており、昭和48年から現在まで続き、今後とも継続するとともに後継者にも伝えられていくものと思います。

 後継者対策の一環として、親子合同の研修会の開催、町の畜産品評会において子供が参加できるジュニアの部を設けるなど、後継者の育成確保に力を注いだ活動が行われています。

 このようなユニークな取り組みや経営成果を示すことによってグループ員の後継者は育ってきています。

 また、家族経営協定の締結により、後継者が安心して酪農経営に取り組める体制が確立されているのでより活発になっています。


8.後継者の健さん活躍中です!

 息子の健さんは、地域の農業後継者で構成する「カルチャークラブ」(会員8人)の一員として活躍中です。

 このクラブ構成メンバーの経営内容は、スイカ、酪農、肉用牛肥育、梨とさまざまで、名前はアグリカルチャー(農業)がもとになっています。

 活動は、仕事の合間をぬって定期的に集まり、親ぼくを深め、意見交換を行っています。

 また、会員が所有する遊休地を有効利用し、加工用のダイコン、小玉スイカの栽培や、保育所での餅つきボランティアを行って、地域農家、園児、保護者からも好評を得ています。

 農家のみならず、住民とも交流を深めるという、地域に根ざした活動を続けています。

 異なる作目での経営間交流は、「仲間との会話の中から得るものは多い」とのこと。肥育農家がスイカ農家にたい肥を供給している例では、「お互いを知ることで、たい肥の需給が最も良いバランスで保たれている」そうです。

 「カルチャークラブ」の農業を通じての地域に根ざした活動は着実に広がりを見せ、今後ますます、地域農業の核として幅広く活動されることと思います。


9.今後の目指す方向

 現在、経産牛47頭の規模を近い将来には60頭規模への拡大を検討しています。

 そのために、まずたい肥舎を増築して、環境問題を完ぺきにしてから頭数を増やす計画になっています。

 水田裏作、転作田また遊休農地等の活用による粗飼料生産を充実させ、共同作業体制を踏まえた飼料生産組織との連携を行い、ゆとりある酪農経営の確立を目指しています。

 これからも平坦地の土地生産性の高い地域で、自給飼料生産を基本とした酪農経営で他作物と対等の所得が得られるよう、循環型農業を実践し、地域との調和のとれた、そして、将来性に富んだ経営が行えるように応援していきたいと思います。

(報告者:(社)鳥取県畜産推進機構・畜産コンサルタント)