環境保全と飼料配合設計

── 主として窒素、リン、金属ミネラル類と汚染の関係についての考察 ──

 

前 川 勝 文

はじめに

 近年、すべてのものにおいて環境にやさしいことが条件となってきている。この「環境にやさしい」という本来のことについての議論はないが、人間の目において、あくまでも主観的に判断されることが多い。当然のことながら、畜産においても環境についてかなり前から議論をされてきているが、まだ解決には至っていない。例えば、「牛がいるから汚いに違いない」、「豚は臭い」、「鶏はケージ飼いで鶏卵生産工場となっている」という具合である。私たちが説明を行っても真剣に聞こうとする消費者は少ない。

 しかし、メディアが報道すれば一気に「臭い」「汚い」「動物愛護に反する」という文字が新聞、テレビに氾濫する。そして消費者はそちらに反応をし、畜産物生産を敵にしてしまう。しかし、その生産物は十分に享受している。この不可解な現象を解く必要があると同時に、畜産関係者も環境のことをもっと考えなければならなくなってきていることが事実であるということを認識しなければならないであろう。

 畜産生産において多頭数飼養をしなければ経営が成り立たなくなってきたためだ。もともと都市近郊型で生産を行ってきた場合、住宅が都市近郊に集中し、畜産生産者の周りに水源地、住宅地ができ、後から移ってきた人たちから問題視されるようになってきている。しかし、生産者が安心して生産ができる場所へ移ろうとすればその地域の行政、住民の同意を得なければならない。これも容易ではなくなってきている。たとえ、同意を得て生産が可能となっても、環境問題に過剰なくらいの投資を行わなくてはならない。

 畜産に絡む環境問題にはにおい、ハエなどの昆虫類、ほこり、水質汚染、土壌汚染などがある。日本においてもすでに、欧米諸国同様、窒素、リンに対して制限が課せられ、排水にもBOD(生物化学的酸素要求量)、SS(浮遊物質)、水の色などの規制がある。今後は土壌汚染の原因となる重金属なども規制の対象となるであろう。

 そこで今回は、理解が広まっているアンモニア(窒素)、リンと環境について簡単に触れたあと、金属ミネラル類と汚染の関係についても考えたい。

環境汚染を防止するために

 一般的に環境汚染といわれる場合、いくつかの問題があげられるが、畜産に関してあげれば前述のように(1)におい、(2)ハエ、ネズミ等の昆虫、動物類、(3)ほこり、(4)水質汚染、(5)土壌汚染があげられるであろう。このほかにも考えられることがあるかもしれないが、飼料と関係するのはこの5点で十分であると思う。

 現在の飼料の多くは、粗蛋白質(CP)、可消化養分総量(TDN)で配合されることはなく、有効アミノ酸、消化エネルギー(DE)あるいは代謝エネルギー(ME)にて配合されているが、飼料の表示がTDN、CPのことが多く、これに合わせた飼料配合が行われることが多い。生産者も長年、TDN、CPに馴れ親しんできたためにTDN80%、CP18%の飼料ならよいが、同じ栄養素が配合されたとしてもTDN75%、CP15%の飼料は悪いと判断してしまう。

 その結果、飼料会社はTDN80%、CP18%に合わせるために不必要な栄養素を配合する結果となる。これがアンモニア発生の原因となり、家畜への負担を増加させる結果となっている。この表示方式を変更することで、アンモニア発生をかなり抑えることが可能となると思われる。同時に、飼料が安くなり、加えて生産性があがることも期待できる。

 また、においの問題は換気とも関係があるであろう。一般的に、日本人の「換気」の概念は「窓を開けること」とされているが、畜産においては家畜を最適な環境、経済的な生産環境にすることである。畜舎から有害なガス、温度、湿度を排除することが換気の目的であり、空気を入れ換えることとは少し意味合いが違う。酸素の補給はほとんど換気において考えなくともよいことがある。ただし、ウインドウレス畜舎においては酸素補給も大きな目的の1つとなっている。

 この経済的生産環境を維持するために有毒ガスを排除するわけで、そのガスの1つにアンモニアがあり、適切に換気を行っていればにおいの問題も最小限となるはずである。

 次にハエなどの昆虫類においては、彼らの繁殖、増殖の要因である栄養素、温度、水分などを排除することで減らせると考えられる。また、昆虫類の習性を知り、天敵を用いることでも減らすことは可能である。ただ単に、化学製品での退治に頼るのは別の環境汚染となる可能性があることを知っておかなくてはならないであろう。殺虫剤と人間の知恵を上手に組み合わせることが必要である。それには網戸も考えられる。あるいは下水処理、装置には蓋をすることも必要になるかもしれない。

 ネズミなどの動物類においては飼料の保管が最も注意をしなければならないことであろう。特に、袋物で購入する場合は扉のついた保管庫を用意する、あるいはネズミ類の習性から外れた場所に保管するという考慮も必要となる。殺鼠剤も飼料に混入しない方法をとる必要性がある。

 もうひとつ注意しなければならない動物は野鳥である。日本人の性格として(良い面の1つでもあるが)鳥にエサを与えることがある。これが、野鳥を適切な羽数以上に増やしてしまうことになる。また、へい死幼畜を野外に投棄すれば、カラスなどの肉食、雑食の野鳥の増殖につながり、人間に対する問題ともなり得る。特に、スズメ、ハトは飼料を好み、反芻動物の粗飼料は巣の材料ともなり、増殖を促進する結果となる。この良しあしは畜産側の人間としては「悪」とみなしたいが、一般的には「善」とみてしまう。これらの野鳥の増殖がもたらす害というものを一般の消費者にも知らしめる必要性があるであろう。

 アメリカの飼料工場では、休日には警官の射撃訓練の的に野鳥がなっている。この結果、警官と飼料会社双方に益が出ているということである。これを日本で行うのは無理があると思うが、このような考え方をもつ必要性があり、野鳥の害を少なくすることも環境、エコロジー双方で必要なことかもしれない。

 3番目のほこりについては、ウィルスなどの病原菌を運ぶことも知られ、畜舎のそばに住む人には嫌がられることは確かである。このほこりにも大きく分けて2つのグループになる。1つは家畜由来のもの、もうひとつは飼料由来のものがある。家畜由来のものには、老化した皮膚(フケ)、羽毛、ふんなどが挙げられる。

 これらは生理的なものであるのでなくすことは不可能であるが、換気フィルターあるいは畜舎に網戸を設けることで少なくすることは可能であろう。このことにより、病原菌を撒き散らすことも防止できる。しかし、ふん尿の処理において微粉末となり、飛来することがあることは注意したい。また、ふんの山積みは一般消費者にとってここちよいものではない。

 飼料由来のものは減少をすることは可能である。その方法は、(1)ペレット飼料を利用する、(2)油脂添加を行う、(3)液状飼料を利用するなどの方法がある。ペレット飼料の場合はほこりをなくすこと、エサの無駄を省くことができる。そして一般的な対処方法でもある。しかし、肉豚飼料、産卵鶏飼料には経済的な面で向かない。

 (2)の油脂添加はどの飼料でも可能である。またこの利点は給餌機械のチェーン、歯車類の磨耗を防ぐということもある。大きな飼料用サイロの場合は粉塵爆発を防ぐことも可能である。しかし、油脂を噴霧する機械、維持においての費用が必要で、油脂噴霧割合は1%前後で良いとされている。

 液状飼料は家畜の種類によって向き不向きがある。養豚、牛の飼料ではある程度可能であるが、養鶏飼料では困難であろう。また、日本の気候においては衛生面の管理に注意をしなければ環境にはやさしくなるが、家畜に腐敗した飼料を与えかねない。

 ほこりを減少させる、最後の手段は草木を植えるのも手かもしれない。これら植物がネットとなり、ある程度のほこりを防御してくれる。同時に、草木を十分に手入れすることで、近隣からの苦情も少なくなる。苦情を申し立てに来たが、農場が美しい季節の花で飾られ、草木が十分に手入れをされていれば文句の数も少なくなる。これは心理的なものであろうが、効果的である。

水質汚染を防止するために

 畜産による水質汚染の根源は、リンと水の色であろう。有機リンの排せつにより、河川、海の富栄養の問題が常にあげられている。多くの企業は多大な投資により、有機リンの減少に努めてきている。

 畜産からリンの排せつを減少させるには、飼料配合設計時に全リンではなく、有効リン、あるいは非フィチン態リンによる配合設計が必要である。オランダをはじめ、EU諸国では厳しいリンの規制が出来上がっている。アメリカにおいても州ごとで違うが、メリーランド、ノースカロライナ、アイオワ州などではリンの規制が出来上がっており、他の州も追随している。連邦政府も規制に取り掛かっている。

 リンはフィチン態リンを酵素により分解することで単胃動物は十分に利用ができる。また、この酵素(フィターゼ)の価格も安価になってきている。ただ、メーカーにより効果の表示方法が違うために混乱が起こるが、メーカーの指示による配合率で60〜70%のフィチン態リンが有効となる。同時に、このフィチン態によって化学的に結合していたミネラル、アミノ酸も有効となるために家畜の成績は向上する。反芻動物は第一胃内微生物により相当量のフィチン態リンが分解されるためにフィターゼの添加は必要ないとされているが、最近は高能力乳牛に対して添加をするケースもある。

 水の色の問題が最近大きく問われているが、この色を解決するには経済的にみて不可能な状態である。現在の方法は、薄める方法のみである。ふん尿中の色の1つであるビリルビン(血色素の代謝物)は化学的に分解できるが、その後処理にまた費用が必要となる。同時に家畜のふん尿量は人間と比べると非常に多い。

 例えば、1000頭の母豚においての一貫経営をすれば、人口5万人ぐらいの都市の下水処理と同じことになる。これを1社に処理を課すのは厳しいといわざるを得ない。しかし、経済的に難しいので一切行わないというのでは、日本の畜産の将来までも危うくする可能性があるために、企業努力として少しずつ進めていく必要はある。ここでの問題は、政府の補助を用いると、維持費が非常に高くなるということである。そのために補助金を避ける傾向があり、問題が山積することになるために、政府も、企業も、消費者も、畜産生産者も何らかの知恵を出す必要があるであろう。

土壌汚染を防止するために

 土壌汚染には、アンモニアとリンのバランス、重金属類による汚染などが畜産業界と大きな関係がある。重金属類による汚染には、銅、鉄、亜鉛、セレン(セレニウム)、クロム(クロミウム)、マンガンなどの必須微量ミネラルなどが関係している。

 世界において最も多く家畜、ペットに給餌されているのは無機ミネラルである。しかし、現在の家畜が家畜となる前、野生において生活していたとき、あるいは現在の野生動物が摂取するこれらのミネラルは草食動物においては、草、種子からとっていたものと思われる。ということは多くの微量ミネラルは有機の形をしている。雑食、肉食動物においては草食動物の肝臓、腸内半消化物、その他の組織を摂取することで間接的に有機ミネラルを摂取していた。化学的に結合された無機ミネラルを主体として摂取していたとは考えにくい。

 また、近年の科学的なデータをみると、無機ミネラルよりも有機ミネラルのほうが体内に蓄積される割合が高いと発表されている。その理由として、無機ミネラルの吸収率は高いが、組織がそのときに必要と思わなければ尿への排出が即座に行われる(図−1)。一方、有機ミネラルはアミノ酸、タンパク質、多糖類として吸収されるために筋肉をはじめ多くの組織内に蓄積される。また、哺乳動物の場合は金属ミネラル類がアミノ酸、糖類として胎盤を通過する。無機ミネラルでは決してみられないことである。その結果、胎子が母体から十分な必須微量ミネラルを得られるために非常に健康な状態で生まれてくる。

図−1 有機と無機ミネラルの吸収の違い

 例えば、豚においては、産時の子豚は貧血状態であるが、母豚に十分な有機鉄を給餌しておくと、産時子豚の血中鉄濃度が高くなることが報告されている。無機鉄を経口投与すれば、子豚においては大腸菌の異常増殖による下痢がみられることはよく知られている。

 鶏において、諸外国は無機セレンの投与が許可されているために日本を除く多くの国々では無機セレンが与えられている。しかし、種鶏から種卵への無機セレンの移行は非常に少ない。その結果、甲状腺ホルモンの1つである体温制御を司るT3が活性化されず、コールドストレスで死ぬことがある。また、最近のブロイラーは羽毛鑑別を行うために雄ブロイラーの羽の発育が遅い。その結果、背中に大きな引っかき傷を負い商品化率を下げているという実態もある。しかし、有機セレン投与によりこの損害も低くなっている。

 乳牛の乳房炎予防、胎盤停滞予防にセレン、亜鉛が用いられているが、無機の場合の効果は疑わしいものがあるようだ。また、日本においての無機セレンは獣医師指示薬となっていて農家が自由に用いることができないものである。

 ほかには、近年、子豚への無機銅と無機亜鉛の超多給が抗生物質と同じ効果があるといわれているが、ほとんど吸収しないために排せつによる公害の問題が考えられる。しかし、有機ミネラルを用いることで、問題が半減し、効果は倍増するという研究報告もある。

 吸収率、体内蓄積率が高い有機ミネラルを用いることは環境にやさしくなるだけではなく、家畜の生産成績をも上げるという結果となる。しかし、有機ミネラルの価格はまだ高価である。今後の使用増加により、価格は下がると予測されるが、また、それだけ価値のあるものであるとされている。

(筆者:オルテック社・テクニカルアドバイザー)