食品リサイクルを視野にいれた
日本畜産のあり方について

 

池 田  護

 私が大学を卒業した昭和60年ごろの自給飼料のイメージといいますと基本的には粗飼料自給化という背景から、草地学演習や牧場実習に駆り出されて乾草の梱包やサイレージ作りにいそしんだイメージが強くありますが、その数値は表−1にあるとおり現在の日本において酪農で30%強、肉牛肥育生産者にいたってはほとんど国産粗飼料は使用されていないのが現状です。これは、自給飼料がわずかにコスト面で優位にあるものの利便性、労力負担等が要因となりハンドリングの良い輸入品に依存する傾向があることを示しています。コスト的に優位な原料がこの実態ですから、私の関係する飼料産業にいたってはコストからして優位ではないのでみるも無残な結果です。表−2に示すように配合・混合飼料は約2,400万t生産されておりますが、その主たる原料であるトウモロコシなどの穀類は表−3に示すとおり大部分を輸入に頼っております。大豆油カス、ナタネ油カス、ふすま、コーングルテンフィードなどは国内メーカーから購入されることが多いものの、源をたどれば海外原料といえます。

表−1 平成12年度の大家畜経営における飼料自給率の推移(TDNベース)
(単位:%)
酪 農 肉用牛
全 国 北海道 都府県 繁殖経営 肉専肥育 乳雄肥育
33.8 54.0 17.7 60.3 3.8 1.5
資料:農水省『畜産物生産費』、『日本標準飼料成分表』から算出。

表−2 平成12年度の配合飼料・混合飼料の生産動向
(単位:千t)
養鶏用 養豚用 乳牛用 肉牛用 配合飼料計 混合飼料計 配・混合飼料計
10,237 5,980 3,257 3,678 23,231 770 24,001
資料:農水省『流通飼料価格等実態調査』
注:配合飼料には、その他家畜用を含む。

表−3 平成12年度の飼料・飼料原料の輸入動向
(単位:千t)
トウモロコシ コウリャン 大麦 小麦 大豆油カス 魚粉 合計
11,129 1,816 1,337 635 692 333 15,942
資料:財務省『貿易統計』
注:トウモロコシ、コウリャンは飼料用である。
*配・混合飼料製造ベースで考えると上記輸入量は65%にあたる。

 ここでよく考えなければならないのは「世界ベースでの日本畜産の生産性(コスト)」です。私がかかわる養豚で申しますと日本の生産費は米国の約3倍、欧州の約2倍といわれております。真っ向から戦って勝てるコストではないのは一目瞭然です。そのような状況を背景にWTOなどの場で各国と協議しながら徐々に輸入畜産物の量が増加しているのはご承知の通りと思います。ちなみに豚肉の自給率は平成11年度の速報ベースで58%、牛肉は36%、鶏肉は65%、牛乳・乳製品は70%、鶏卵は優等生で96%です。牛肉などは昨年のBSEの発生もあり、さらに自給率が下がる傾向にあると予想されています。

 日本の畜産の生産性は畜産研究者の長年の貢献により、世界的に高い水準にあると思います。私のかかわる生産者の皆様をみてもそれは確かだと思います。鶏卵生産やブロイラー生産は狭い土地でも比較的集約的に生産できるため世界水準レベルの生産性を上げるまでになっていますが、養豚や肉牛生産、酪農にいたっては生産的にいくらがんばっても周辺のインフラが整っていない今日では世界競争のレベルにはなかなか到達しません。さらに今後は養鶏産業も含め、環境問題や後継者問題、高齢化による消費低迷、労働者不足など畜産において頭が痛くなる問題がめじろ押しです。

 このような背景をマーケティング的に考えてみて、日本の畜産における「競争優位点」を導き出そうとしてもそれは至難の技です。コストの面で世界的に勝てないのだから、畜産は日本からなくなっても良いのでしょうか。表−4に各国の食料自給率を示しまた。よく話題になることですが日本の食料自給率は41%…。農業・畜産業に携わる私たちにとってあまりにもショッキングな数字です。私自体「家畜栄養」を専攻したおかげで飼料メーカーで働くことができましたが、今まではひたすら生産性の追求を中心に考え、アミノ酸やビタミン、微量ミネラルや有機ミネラルなど常に「最大成長とは?」などといいながら最高の生産性を追い求めてきました。現実のところまだまだ畜産も学問的に追求できることがいっぱいあると思います。しかし、機会があって欧州の環境問題の実態や飼料用酵素、加熱処理技術を目にすることが多くなり、考えは徐々に効率を重視する方向に向くようになり、「飼料の中にはまだまだ利用できる栄養分がある」のではと思い、結構早い段階から酵素を利用した弊社養豚用飼料「エコシリーズ」等を開発してきました。生産者から高い評価を頂きましたが、飼料内の未利用成分の効率追求だけでは食料自給率41%を抜本的に改善できるものではありません。

表−4 平成10年度の各国の食料自給率(熱量ベース)
(単位:%)
オーストラリア フランス 米国 ドイツ 英国 スイス 日本
287 139 132 97 77 59 41
資料:農水省を中心としたホームページ等の検索による。
*日本における同年度の穀類自給率は27%。

 やはり日本の畜産のあり方(カテゴリー)を変えるような「パラダイム・シフト」を起こすべき時期が近づいていると考えられます。そんな中、21世紀に向けた循環型社会の構築を目指して「食品リサイクル法(食品循環資源の再利用等の促進に関する法律)」が平成13年5月に施行され、飼料メーカーという立場もあり関係委員会等に多く参加させていただくこととなり、前述したような「日本畜産パラダイム・シフト」的な考えがよりいっそう高まる傾向になりました。この法律は食品廃棄物等の「発生の抑制」「減量」および「再生利用」に努め平成18年度までに再生利用等の実施率を20%に向上させることが目標とされています。

 現実、生産性やコストを考えると飼料産業からして見ると、食品残さの飼料原料への再利用など極めて受け入れにくいことなのですが、表−5に示した通り、食品廃棄物総量は約2000万t/年、家畜ふん尿は約1億t/年です。私たちを取り巻く産業は食品産業に比較して大量の有機物を日本に廃棄しているのです。この実態を目の当たりに年1%ずつでも食料自給率をあげるためにも畜産は「食品リサイクル」に貢献せねばなりません。

表−5 平成8年度の食品廃棄物および家畜ふん尿の排出の現状
(単位:排出量万t)
資料:厚生省(平成8年度実績)より農水省推計
・食品廃棄物総量   @+A+B=1,940万t
・事業系食品廃棄物総量   @+B=940万t

 実際のところ、近年、畜産業も輸入原料の使用比率は確かに高まっているのですが、本来積極的なリサイクル産業であったことは皆様ご承知の通りです。BSE発生以後いろいろと問題を抱えるようになりましたが、肉骨粉、チキンミール、フェザーミール、血漿蛋白等基本的に自前の産業から排出したものは再利用してきた流れがある上、表−6でもわかるとおり食品産業から排出される「カスやヌカ」などのほとんどは飼料化されています。今後、積極的に再利用を進めなければならないものは食品廃棄物に占める一般廃棄物(流通産業、外食産業や家庭・給食からの廃棄物)部分です。これは肥料にも飼料にもほとんど利用されていませんが、これをムリとあきらめることはできません。

表−6 平成8年度の食品廃棄物の処理の現状
(単位:万t)
食品廃棄物の
区 分
排出量 処    分
焼却
埋立
再生利用
肥料化 飼料化 その他
一般廃棄物
うち事業系
うち家庭系
1,600
600
1,000
1,595
(99.7%)
 
5
(0.3%)
 
5
(0.3%)
 
産業廃棄物 340
 
177
(52%)
47
(14%)
104
(31%)
12
(3%)
163
(4%)
事業系の合計
(合計から家庭系一般
廃棄物を除いたもの)
940
775
(83%)

49
(5%)

104
(11%)

12
(1%)

165
(17%)
合  計 1,940
 
1,772
(91%)
52
(3%)
104
(5%)
12
(1%)
168
(9%)
資料:厚生省(平成8年度実績)より農水省推計

 表−7に生物系廃棄物(食品のみならず、畜産系、農業系や汚泥系等も含んだ数値)の窒素、リン酸やカリに換算した値を示しましたが、それらを日本の土壌に廃棄してしまうと、現在流通する化学肥料に比較して化学肥料などまったくいらないほどの富栄養な土壌になってしまうことがわかります。

表−7 生物系廃棄物の窒素、リン酸、カリ換算量
(単位:万t、%)
  排出量 対化学肥料比
N(窒素) 132 260
P(リン酸) 62 102
K(カリ) 84 193
資料:生物系廃棄物リサイクル研究会(1999)
*日本はたい肥で溢れてしまう!

 一般廃棄物の再利用の目指すためには「食品リサイクル法」のパンフレットにはあまり強く述べられておりませんが、

  • 食品以外の物質(はし、つまようじ、プラスチック・ラップ類、たばこ等)は絶対に混ぜないように教育・啓蒙を徹底し分別させる。
  • 飼料・肥料が最終目的ではなく畜産生産者や耕種農家が望む、利用しやすく、生産物が安定・安全に販売でき、消費者に喜んでもらえるような循環ができるようなネットワークを築けるよう心がける。

 以上が重要事項と思います。

 最後になりますが、弊社もこの春より日本の主食である米由来残さの積極的な利用を推進します。これは家庭排水からの湖沼のリン汚染軽減などの面からも非常に注目されている取り組みです。畜産学も科学ですから学術的な理論構築も非常に大事だと思いますが、畜産を学ぶものとして本来の「家畜のきた道」を省みるべき取り組みも必要と感じながら、日本の食料自給率を毎年1%ずつでも改善できるような研究にチャレンジしていただきたいと願っています。

(筆者は日本農産工業(株)飼料本部マーケティング部)