シリーズ
 ── たい肥利用の耕種農家を訪ねて(1)──

「積んだだけの畜ふんと
発酵したたい肥は違う」

── 岡山県総社市・サンファームハラ ──

 

大 村 昌 治 郎


 土づくりや持続的な農業生産方式の重要性等が叫ばれている中、資源循環型農業の推進には、たい肥などの有機物の施肥・利用が欠かせません。一方、畜産農家においては、ふん尿の不適切な処理による環境汚染の防止を図るため、たい肥化施設の新規投資など費用の増大、更にはたい肥のほ場還元や流通が課題となっています。耕種においても、畜産においても、どちらもたい肥の重要性・必要性は認識されていますが、なかなか、畜産から耕種へとうまく連携ができていないのが現状のようです。

 そのような中で、すでに耕種と畜産の連携を25年以上も続けているサンファームハラの原 誠一さんを訪ねてみました。サンファームハラの農場は岡山県総社市にあり、高梁川流域の砂質土壌の畑で、たい肥を利用して、ほうれん草などの軟弱野菜のハウス栽培をされています。

 
写真−1 原 誠一さん   写真−2 サンファームハラでハウス栽培されている小松菜

 このたび、原さんには、平成13年度岡山県良質堆きゅう肥共励会の審査員をお願いしたこともあり、農場におじゃまして、どのようなたい肥を利用されているか、伺ってきました。

 すでに、サンファームハラについては、岡山畜産便り1999年11・12月号に、幸農会堆肥利用組合(注:現在は幸農会土づくり研究会に変更しています。)については、岡山畜産便り2000年3月号に掲載されていますが、たい肥の利用について更に詳しく伺ってみました。

 1.栽培作目と面積

 サンファームハラで栽培している作目は、大衆的に売れるものを栽培されています。現在では、7品種で、ほうれん草、小松菜、チンゲンサイ、ねぎ、春菊、水菜、しろなを、ハウス50aに随時栽培しています。収穫された野菜は、中四国を中心に展開するスーパーマーケットチェーンのマルナカに9割、ダイエー中四国に1割出荷しています。マルナカには幸農会ブランドで、ダイエーにはサンファームハラブランドで出荷しています。

表−1 栽培作目および施肥について

栽培作目 ほうれん草、小松菜、チンゲンサイ、ねぎ、春菊、水菜、しろな
栽培面積 50a(ハウス面積)
栽培時期 1年中
栽培体系 年に7〜8回の周年栽培。
施用時期 10月〜6月に作ごとに収穫後たい肥を施肥している。
10a当たり
施肥量
ハウス(6m×50m 300m2)に、収穫後モミガラたい肥(水分30〜40%)
2tを散布(年に3〜4回程度)。
施用方法 一輪車を利用して、ハウスの中にたい肥を散布後、鍬込んでいる。

 ねぎを他作目の栽培の間に挟むことによって、連作障害を防いでいます。しかし、ねぎを合間にいれると年間の栽培回数が減って回転率は下がるそうです。

 2.たい肥の施肥状況

 たい肥を施肥する期間は、10月〜6月までの期間です。夏場に施肥をしない理由は、たい肥を施肥することによって、ハウス中の土壌の乾燥害が起きるためです。

 施肥量はハウス(6m×50m=300m2)1棟当たりに、農場にあるたい肥舎でたい肥化したモミガラたい肥(水分30〜40%)2tを収穫後に散布しています。施肥の回数は年に3〜4回ほどになります。

 10a当たりに換算すると、1回の施肥量は6.7tで、年に3〜4回施肥するので、1年間に10a当たり約20〜27tのたい肥を施肥しています。

 3.現在利用しているたい肥について

 地域住民との間で悪臭や害虫発生の環境問題で苦慮していた畜産農家と、長年の農薬や化学肥料の依存により野菜の品質低下や立枯病等の連作障害が発生していた耕種農家が、このような問題を解決するために、ふん尿の農地還元を目的に「幸農会堆肥生産利用組合」を昭和51年に結成しました。

 幸農会堆肥利用組合は、岡山県倉敷市の貝原牧場において、オガクズとふん尿を混合したものを、耕種農家が各自持ち帰り、それぞれのたい肥舎でたい肥化を行いながら、25年以上も畜産と耕種の連携を続けてきました。

  図−1 たい肥舎の配置図
 しかしながら、貝原牧場が酪農部門を中止したため、「幸農会堆肥生産利用組合」を「幸農会土づくり研究会」に変更して、現在も同じメンバーで活動を続けています。

表−2 家畜ふん尿と副資材の調達
入手先 岡山県倉敷市玉島 宗田牧場
種 類 乳用牛ふん
副資材 モミガラ 総社市秦ミニライスセンター
からもらってくる。
入手方法 酪農家が直接運搬して持ってくる。
運搬負担 1tダンプに2日に1回 生ふんで
持って来てもらっている。
受入単価 0円
たい肥化期間 12ヵ月
 
 サンファームハラでは、たい肥の原料となる家畜ふんは乳用牛ふんで、岡山県倉敷市玉島の宗田牧場から、2日に1回1tダンプで運搬されます。たい肥舎は、面積が180m2で、2列構造〔1列(6m×15m)×2〕になっています。1列はモミガラ置場として、もう1列はたい肥の発酵槽として利用しています。

 家畜ふんの水分調整はモミガラを使って行っており、ふんと同量もしくは2割増(1.2倍)の容積のモミガラを混合してから、たい肥化を行っています。モミガラは未粉砕モミガラを使用しています。未粉砕モミガラは吸水性は良くないですが、通気性改善の面では良好な性質があり、粉砕モミガラは逆の性質をもっているとされています。粉砕しないと吸水性が悪く水分調整できないのではないかと思われますが、原さんは「粉砕モミガラを使わなくても水分調整はできる」と実践されています。

写真−3 2日前に持込まれた家畜ふんとモミガラを混合したものをローダーで積込んでいる

 
写真−4  積込んだ直後の家畜ふんとモミガラの混合物
 
写真−5  約1年間かけてたい肥化したモミガラたい肥

 そのため、じゅうぶんなモミガラと混合した状態では、水分調整もしっかりとされており、排汁はでていません。

 使いやすいたい肥というのは、「有害物質がぬけたもの」と考えられて利用されています。また、「発酵菌などは必要ない」と、たい肥化に添加剤を利用していません。

 たい肥化において、たい肥舎とローダーがあればじゅうぶんであり、過剰な投資により、利用するたい肥のコストが高くならないように留意されています。

表−3 たい肥の施用効果

たい肥の連年施用 している。
たい肥を施用することで、
土壌はどう変わるか?
排水が良くなる。保湿保水性が良くなる。
冬場の保温性が高まる。根張りが良くなる。
野菜の生育は? 良くなる。団粒化し、根の伸びがよいので、野菜の生育もよい。
病害虫の発生は? 病害虫の発生は多くなる。キスジ、ハモグリバエ(葉に中に地図を描く)などが発生する。たい肥を入れると保温性が高まるため、土の中で越冬できる。コガネムシなどの幼虫もいる。殺虫剤は粒剤で使用している。
連作障害の発生は? 軟弱野菜の栽培は、生育成長途中で出荷するため、連作障害になりにくい。
作物の根張りは? たい肥を入れることで土壌が団粒化するため、根の伸びがよい。
作物の収量は? たい肥を入れると、株張りが少なくなり、作物が大きくなるため、回転率が良くなる。
生産された野菜の品質や
味は? 消費者の反応は?
品質や味などは消費者には受けが良いようだが、はっきりしたことは分からない。たい肥を入れたから品質が良くなったから、味が良くなったというのは分からない。
日持ちは? 消費者の話によると、日持ちはしているらしい。

 使いたいたい肥としての腐熟度の考え方は、「有害物質がでない状態であれば、腐熟していると考えている」とのことでした。畑からヒトヨダケが生えてくると、たい肥中のリグニンなどの木質が分解されているということが分かるそうです。「積んだだけの畜ふんと発酵したたい肥は違うんだ。そこを分かっていない人が多い」とたびたび、原さんは口にされます。また、たい肥の粒度(粗さ)については、特に気にしていないそうです。更に、現在使用しているたい肥の成分分析はまだしていないそうです。

 4.たい肥の施用効果について

 一般的に、家畜ふんたい肥などの品質の良いたい肥を適量施肥すれば、作物に養分を供給するとともに、土壌の化学性・物理性・生物性を改善し地力を高めることによって、作物の安定増収を望むことができます。

 サンファームハラでは、たい肥は毎年続けて施用しています。たい肥を毎年施肥しても、「土がたい肥を食ってしまう」ので、毎年続けて施用しているそうです。「土が食ってしまう」というのは、たい肥が土に戻っていくことだそうです。

 「たい肥を施用することで、土壌はどう変わりますか?」と尋ねたところ、「排水、保湿・保水性、冬場の保温性、作物の根の張りが良くなる」と回答がありました。これは、土壌中の有機物含量が高くなった結果、土壌の団粒化が進んで軟らかくなり、土壌の物理性の改善が認められていると考えられます。

 たい肥の施用効果により、野菜の生育は良くなるとのことでした。土壌の団粒構造化により作物の根の伸びがよいので、養分や水分の吸収能力が高まり、野菜の生育も良いそうです。

 ただし、たい肥の施肥により病害虫の発生は多くなるそうです。よく発生する害虫は、キスジ、ハモグリバエ(葉に地図のような筋をつける)などです。たい肥を入れると保温性が高まるため、害虫の幼虫などが土の中で越冬できるので、コガネムシなどの幼虫など害虫は多いそうです。そのため、殺虫剤は粒剤で使用しているとのことでした。

 たい肥の施用による連作障害の発生はないそうです。サンファームハラのような軟弱野菜の栽培は、作物が次々と葉を形成・展開している栄養成長途中で出荷するため、連作障害になりにくいそうです。

 作物の根張りについては、たい肥を入れることで土壌が団粒化するため、根の伸びがよいそうです。

 収量については、たい肥を入れると、株張りが少なく、作物が大きくなるため、回転率が良くなるそうです。

 たい肥について感じている問題点としては2点挙げられ、1つは害虫、もう1つは夏場の乾燥害でした。

 たい肥を使ったことで「野菜の品質や味または消費者の反応は?」と伺ったところ、品質や味などは消費者には受けが良いそうだが、たい肥を入れたから品質が良くなったとか、味が良くなったということについて、はっきりしたことは分からないとのことでした。日持ちについても、消費者の話によると良いそうです。

 5. 畜産との連携を図るため、誰がどこにどのように働きかけたらよいでしょうか?

 持続的な農業生産方式の重要性など、資源循環型農業の必要性がいわれている中、耕種と畜産の連携を図るために、どのようにやっていくべきか伺ってみました。

 「自分たちは、後継者グループでいっしょになったときに、自分たちで働きかけてやってきた。今でもその関係は続いています。むりやりに行政的に連携をしても、うまくはいかないだろう」といわれました。

 幸農会のように、必要性から生まれた農家同士の自然発生的グループで、自分たちがおかれている問題点を解決するために、家畜ふん尿・たい肥を利用して野菜を栽培しようとしたため、うまくいったのではないかと考えられています。一方通行ではダメで、お互いに必要性を感じたときというのが、うまくいくためのポイントかもしれません。

 更に、お互いにメリット(畜産は家畜ふんを処理できる、耕種は肥料・土壌改良材としてたい肥を利用できる)もあるし、デメリット(投資や労働力などの負担)もある、ということをじゅうぶん納得した上で取組んできたそうです。

 6. 今後、たい肥利用を促進するために何が必要でしょうか?

 耕種農家に対して、たい肥についての情報はほとんど入ってこないそうです。原さんは、農家やたい肥センターなどの売込みの努力が足りないのではないかと感じられています。今のところ、口コミでしかたい肥の情報が入ってこないといわれていました。

 そこで、畜産農家は少しでもたい肥を使ってもらうために、地域の耕種農家などに使ってもらうように宣伝していくことが必要になるでしょう。

 原さんは、「本当に売込もうと考えるのなら、たい肥を利用したいと思っている生産組合などに、1年はただで使ってくれといって、たい肥を置いていくぐらいのことをしなければならない」といいます。

 原さんは、まだまだ、「使う側(耕種)と出す側(畜産)の認識が違う」と考えています。だから、たい肥の魅力を教えるところや人が必要だといいます。

 「自分たちは、幸農会として、農業祭でたい肥の無料配布をしている。たい肥は無料なのだが、1袋100円で買ってもらって、自由に袋詰めしてもらっている。すぐにたい肥はなくなるよ」と畜産と耕種が連携して一般の人に対してのたい肥の普及にも努力されています。

 7.岡山県良質堆きゅう肥共励会に参加して

 原さんには、平成13年度岡山県良質堆きゅう肥共励会の審査員として、参加していただいたので共励会についての感想を聞いてみたところ、共励会全体については、「良い取組みである」と感じられていました。また、「共励会の意義はとてもあるので、一般の耕種農家へ知らせるなど積極的に共励会やたい肥の売込みをするなど、やったあとのケアが必要だろう」と耕種側に対する、畜産の取組み姿勢をみせた方がよいといわれました。

 最後に、はじめて、サンファームハラへ行き、長時間にわたって、原さんから、たい肥についての考え方などを聞かせていただきました。長年の幸農会土づくり研究会として、たい肥の利用について研究をされており、耕種としての意見・考え方を伺うことができました。

 今回、原さんに伺ってきたことが、畜産関係のたい肥の流通に関して少しでも寄与できればと考えています。

 近い将来、サンファームハラは農場面積を3ha(うちハウス面積は2.5ha)にする計画をもっています。そのときには、更にたい肥が必要になるので、たい肥舎を増設して対応されるようです。耕種と畜産の連携を深めながら、更なる発展をされることでしょう。

(筆者:(社)岡山県畜産会・畜産コンサルタント)
本稿は、岡山県畜産会発行『岡山畜産便り』2001年10月号に掲載されたものです。