家畜ふんの簡易な脱臭

── 米ぬかの脱臭効果の実証 ──

 

古 本  史

はじめに

  畜産経営における課題の1つにふん尿や家畜由来の悪臭があります。悪臭は、時として、畜産経営の存続を左右する事柄ですので、さまざまな角度から検討されてきました。しかし、悪臭は極めてやっかいな課題で、人の鼻は微量でも悪臭を感知する反面、慣れると判別しにくくなるなど、客観的な判定基準にさえ問題が残されています。

 われわれは、過去2年間、家畜ふんやたい肥の悪臭に対し、強い脱臭能力をもつ微生物資材を探してきました。客観的な判定基準も新たに考え、市販微生物資材もいくつか調査しましたが、いずれの資材からも明確な効果は確認できませんでした。

 そこで次善の策として、旧知の資材による臭気の吸着を検討した結果、夏季では有効期間が1週間程度と短くなってしまいますが、安価で確実な脱臭技術を見いだすことができました。

微生物資材を用いた脱臭技術とその有効性

 バイオ技術により開発された市販微生物資材のうち生菌を含む4銘柄について、その脱臭効果を判定しました。そのうち、1銘柄については官能試験の成績では脱臭効果が期待できたため、再度、精密に調査することにしました。

 その調査では、客観的な判定基準を得る目的で、加熱による資材の滅菌処理を行いました。微生物増殖に伴い悪臭物質が分解されるのであれば、その資材を滅菌すれば脱臭効果はなくなると考えたわけです。調査では、指定量の3倍の資材を新鮮な鶏ふんと混合して、1日おいて調査しました。

 しかし、市販の微生物資材と滅菌した資材との間、また、対照区との間にもアンモニアやアミン類の1つであるメチルアミンの濃度に差を認めることはできず、生菌の作用による脱臭が認められませんでした。(図−1、2

図−1 鶏ふんへの市販脱臭資材の散布効果   図−2 鶏ふんへの市販脱臭資材の散布効果
 

 代永の報告(畜産会経営情報No,134、『畜産コンサルタント2001.6』)のとおり、微生物の脱臭効果を確認することの難しさを、改めて認識した調査結果でした。

 この現象は、微生物資材をたい肥化促進に利用する場合と同じであり、多様な環境下で微生物の増殖やそれに伴う悪臭成分の分解を期待することは容易ではないようです。短期間の調査であったため本来の効果が確認できなかったのかもしれませんが、処理に必要な経費を考えれば、今回の微生物資材を用いた脱臭技術を実用的な技術とは評価できませんでした。

 しかしながら、ふんやたい肥の悪臭に悩む畜産農家はこのような資材の利用に迫られています。その数も少なくはないと考えられますので、確実な脱臭技術を開発する必要がありました。

 そこで、身近にある安価な資材で確実に脱臭することを目標にした、ローテクながら、実用的な脱臭技術について検討しました。

脱臭に有効な資材の選択

 衆知のように、鶏ふんの乾燥処理では土壌脱臭技術が使われており、関連して、腐葉土の脱臭効果が知られています。また、家庭用コンポスト装置の発酵促進と脱臭に米ぬかの利用が雑誌等でも推奨されています。活性炭をはじめとする炭化物には、脱臭効果があることも知られています。このことを参考にして、米ぬか、腐葉土、くん炭、木炭そしてたい肥の副資材であるオガクズについて、その脱臭効果を比較しました。

 調査では乾燥鶏ふんに加水して発酵を促したものを悪臭の発生源として、発酵を開始した鶏ふんの上に各資材を2cm施用しました。その結果を図−3に示しました。

図−3 各資材の脱臭能力

 鶏ふんは、加水と適当な環境温度から発酵が進み、4日後には対照区で300ppmと極めて強い刺激臭が認められました。調査した資材のうち、米ぬか、腐葉土の表面施用は極めて効果的に脱臭を実現させており、4日間、アンモニア臭はほぼ消えていました。しかし、木炭、オガクズ、くん炭では、2日目以降から脱臭効果は薄れ、3日目になると強いアンモニア臭が認められるようになりました。

 このことから、家畜ふん、たい肥の表面に米ぬか、腐葉土を施用することで、強い脱臭効果が期待できることが確認できました。くん炭、木炭、オガクズには強い脱臭効果は期待できないようです。これは、アンモニア等悪臭の発生が急激で、しかも多量であったためかもしれません。

 米ぬか、腐葉土のうち、入手しやすくしかも安価な資材はといえば、それは米ぬかです。そこで、以後米ぬかを利用した、確実に脱臭する技術について検討することにしました。

 次の段階では、施用量を検討しました。表面に2cm、1cm、0.5cm施用しました。(図−4)環境温度が上昇したことから、処理後1日目に急激な発酵が起きていました。そのためか、劇的な脱臭効果は認められませんでした。しかしながら、2cm施用した場合、安定した脱臭効果が認められました。対照区では、表面の乾燥化が肉眼で認められ、乾燥が進むにつれてアンモニアの発生量は減少しています。ふん表面の乾燥は、臭気の低下に関係ある要因かもしれません。

図−4 施用量の選択

 同時に、各処理区とも対照区のアンモニア濃度の消長とは強い相関を示しており、微生物による分解作用が発生したと考えるより、物理的に悪臭の吸着が米ぬか等で起きていると推察されました。

副産物としてのハエ防除

 温熱環境下の屋外での、高水分のふんを用いた試験では、必ずハエの発生が伴います。特に、夏季の試験では、脱臭調査かハエの発生調査か分からなくなります。

表−1 米ぬか、フスマの2cm表面施用とウジ発生の関係

個体数/調査容器
項目 施用量 場所−1 場所−2 場所−3 平均
対照 144 336 101 194
米ぬか 2cm 000 000 000 000
フスマ 2cm 000 000 000 000

表−2 米ぬか、フスマの0.5cm表面施用とウジ発生の関係

個体数/調査容器
項目 施用量 場所−1 場所−2 場所−3 平均
対照 251 309 242 267
米ぬか 0.5cm 000 137 057 065
フスマ 0.5cm 000 292 000 097

 しかし、今回、対照区では多数のウジの発生が認められたにも関わらず、米ぬかを表面施用した場合、ウジの発生が認められませんでした。好奇心から、その原因を調査してみることにしました。

 バケツをそれぞれ3つ用意し、新鮮な牛ふんの表面に米ぬか、フスマを2cmの厚さに施用しました。最初の1日間ハエの出入りを自由にし、その後5日間、ナイロンの網をかぶせてハエの接触を遮断しました。米ぬか、フスマの施用量を0.5cmの厚さで、前の試験と同じ経過でウジの発生を観察しました。

 それぞれ6日目に、個体数を肉眼で計測しました。対照区では多数のウジの発生がありましたが、2cmの厚さで施用した場合、米ぬかとフスマともウジの発生が確認できませんでした。しかし、日を変えて調査した0.5cmの施用では、対照区に比べ少ないものの、米ぬかとフスマでもウジの発生が認められました。

 ハエの輸卵管が長くないこと、2cmの乾燥した層を作り出したこと、さらには、米ぬかとフスマに何らかのハエ発生抑制物質が含まれていること、この3つの理由でハエの発生が抑制されたものと考えています。この機序について、更に調査していますが、恐らくその物理性の影響が強いと思われます。

米ぬか施用の実用性

 このように、身近な資材にも強い脱臭効果があることが確認できました。この技術の適用範囲としては、

(1) 水分のあまり高くないたい肥やふんを対象に、
(2) 除ふん後にしばらくたい積させる場合や、構造的に好気的発酵が難しいたい肥舎、
(3) あるいは、切返し作業が定期的に実施できにくいたい肥舎、
(4) そして、緊急的な悪臭対策としての利用が考えられます。

 購入すれば米ぬかも安くはないこと、その生産には季節的な変動があるため悪臭が問題になる夏季には入手しにくくなること、粉状のため施用に労力が多くかかること、そして効果が短期間で終わること、このようなことが課題として残されています。

 対応としては、コイン精米所等での米ぬか引取りの権利を得ることで、安価な米ぬかを安定して確保することも必要でしょう。施用の省力化と効果の持続性改善の問題は、現在当センターで技術開発を急いでいます。

 以上の調査の結論として、確実な脱臭効果が期待できる安価な微生物資材が確認されるまでの期間、米ぬかの表面施用による脱臭は緊急避難的な技術としても実用的だと判断しています。

(筆者:広島県立畜産技術センター・環境資源部長)