牛群検定をもっと生かすために(II)

 

川 井 倫 次

酪農経営原則を生かした低ロス・高リターン酪農を実現する

 前回は牛群検定の都道府県別実施状況(普及率)を示しながら、府県によって普及率の差がなぜこんなに大きくなってしまったのか、その実状について述べると同時に、これまで実施してきた牛群検定の成果とこれからの課題についても言及しました。

 また、最近の生乳生産が前年水準を維持できなくなっていることが話題となっていますが、これは搾乳モト牛(後継牛)の資源不足の状況下では、当然の帰着であるとだれでも考えるでしょう。しかし、もう1つ憂慮すべきことが起こっています。それは1頭当たり乳量の伸び(年当たり)のうち、遺伝的改良量は順調に伸びているにもかかわらず、飼養管理による改善量が伸び悩んでいるという事実です。

 この現象は牛群能力を階層別にみて、中クラス以下の階層で主に起きていると筆者は推測していますが、これも結局牛群検定がじゅうぶん生かされていない証拠であり、これらの階層のレベルアップこそが生乳生産対策としても重要な課題となります。

 繰り返しの中に法則性をみつける

 どの道にも、その道で“神様”とか“名人”とか呼ばれる人がいます。打撃の神様、料理の鉄人、製造の名人、販売の神様など。こう呼ばれる人は共通に“熟練”の腕をもっています。この熟練というものは、簡単なようでその実はくせ者で、単に長い間1つの仕事をしていれば熟練の域に達するものではありません。繰返しの仕事の中に“法則性”をつかんだ時、その人は熟練の人といえるのだと思います。ものを作る場合、繰返し行われる共通の部分を研ぎすまし、法則化していったとき、熟練の度合いは更に高まると考えてよいでしょう。

 酪農の場合もこれと同じことがいえます。繰返しの仕事の中に1つの規則性を発見するには、物事を統計的に数値でみることが必要となります。同じようにやったつもりでも、成功することもあれば失敗することもあります。そうした体験から成功するパターンと失敗するパターンの違いを振分けていく。この振分けの作業をうまく出来る人がどんどん成功の道へと進んでいき、これが出来ない人は停滞を余儀なくされます。

 このように、酪農を成功に導くためのキーワードは「繰返しの中に法則性をつかむ」ということ。含蓄のある言葉として理解してほしいのです。

 また、酪農経営とは大金をかけた実験であるともいうことができます。実験といっては誠に申し訳ありませんが、あえて刺激的な言い方をさせていただきたいのです。現在、酪農家に取入れられている飼養管理技術の大部分は、試験・研究機関等の試験研究によって確立された技術を酪農現場で実用化したものであり、この成果はすべて実験の賜物であると考えてよいでしょう。実験なくして新しい技術は生まれないのです。やりっ放しでデータがとれない実験なんて何の意味もありません。

 酪農経営もこれと同じように考えればよいのであり、データの必要性はじゅうぶん理解できると思います。いろいろなデータを組合わせて、どこに問題があるのかを検討します。問題のあるところに必ず“発展のタネ”が隠れています。このデータをとるシステムとして牛群検定事業があるということをぜひ理解してほしいのです。

 酪農の経営原則って、なに?

 酪農とは「遺伝子を持った生きている乳牛」を飼うこと。この基本はいつの時代でも変わることはありません。この基本をおろそかにして酪農経営は絶対に成功するものではありません。すなわち、酪農経営の基本は乳牛個々の遺伝の力と生理の力を効率よく働かせるために、いろいろな作業を効果的に組合わせる仕事であると考えればよいと思います。そのためにはいろいろな条件が必要となるでしょう。つまり、生産管理のための基本的考え方です。これを酪農経営原則といいます(筆者)。

○数値がモノサシ

 生産管理はすべて数値によって行われます。この牛は乳が何kg出ているか、乳成分は何%か、ならばエサはいくら与えればよいか。これが生産管理の出発点です。厳しい経営環境を迎えようとしている時、これらの基本数字の把握もしないで、いくらコスト低減を叫んでみても、それはナンセンスというもの。牛群検定はこれらの基本数字を適確に教えてくれます。

 牛飼いなら月1回ぐらいは牛の言い分を聞いてやってほしいのです。牛群検定の数字がまさに乳牛の言い分であり、乳牛の発信する無言のサインと考えればよいのです。

○分解して明解

 昔からドンブリ勘定ではダメだといいます。しかし、いまだにそのような酪農家が多いのはなぜでしょうか。よくある例を示してみましょう。

 表−1をみてください。単純な例ですが、こういう現実が意外に多いのです。

表−1 もうかる酪農ともうけの少ない酪農の比較 (単位:円)

1号牛 2号牛 3号牛 1頭当たり
A農家 300,000 200,000 (−)50,000 450,000 150,000
B農家 300,000 200,000 ── 500,000 250,000

 A農家は3頭搾って、3号牛が5万円の赤字となったために計45万円の利益。一方B農家は赤字となる牛は飼養していないので、2頭で50万円の利益。どちらがもうかるか、これはだれの目にも明らかでしょう。1頭当たりの利益にすれば大きな差となります。要するに、「酪農は赤字の牛は飼わない。もうけの小さい牛よりもうけの大きい牛をそろえる」。これが鉄則なのですが、現場ではなかなかうまくいっていないように見受けられます。

 酪農の利益は10頭経営も100頭経営も、結局1頭1頭の利益の積上げで決まります。牛群を1頭1頭に分解することによって、はじめてもうけの仕組みがみえてくるのです。この原則を忘れていては絶対にもうかりません。このように、牛群検定は乳牛個々の能力を正しく評価してくれますので、これを根本的に解決することができます。

○原理が基本

 酪農は自然の中で営まれ、そのどれをみても自然の原理に基づいて営まれています。牛がエサを食べる、これは胃袋の消化生理という原理に基づきます。乳を搾る、これには泌乳生理というものがあります。サイレージを作る、これは乳酸発酵という原理があります。このように、酪農家が毎日行う作業の1つ1つに意味があり、原理にかなっていなければなりません。

 すなわち、基本原理をよく理解してこれを忠実に実行していけば、あとは「筋道どおり」に進むものなのです。酪農家の中には、基本技術を忘れて枝葉の技術に走っているものも多いと聞きますが、これでは逆です。牛群検定は乳牛の消化生理や栄養管理の状況を適確に教えてくれます。これを生かすことが、まさに基本技術に忠実ということになるのです。

○微細の差

 酪農は毎日が生産活動であり、エサやりも乳搾りも365日休みません。だから1日の差は小さくても、1年経てば大きな差になります。こういう現象が酪農には非常に多いものです。例えば、エサの栄養バランスが少し崩れていても、1日では分からないが1年も経てば、乳量にも繁殖にも大きな影響が出ます。このように、1日としては小さいが1年では大きな損失につながってしまいます。更に悪いことに、この損失は直接目に見えないから厄介です。

 以上のようなことが経営原則としては非常に重要な考え方であり、見えないものを見えるようにしてくれます。これが牛群検定の役割であり、低ロス・高リターン酪農を実現するための基本です。損している、これを知らないで何かもうけることはないかと悩んでいます。大事なことは、まず損しないことを考えること。これが結局はもうけを大きくしてくれます。牛群検定とはこの経営原則を実現するための仕組みなのです。

 個体の能力差が結果として農家間格差を生む

 乳牛は世代間隔が長く産子数も少ないので、改良を進めるには長い年月がかかり、なかなか思うようには進まないものです。受精卵移植等の技術も、残念ながらまだ底辺を拡大するまでには至っていません。まだまだ人工授精による交配が重要な役割を演じ続けなければなりません。

 1頭の牛を改良するのに、その経済効果を期待するまでには3〜5年もかかります。人工授精する場合、ただ安くて種が付きさえすればいいとして、精液の吟味もせず漠然と授精する人。一方、この授精チャンスを最大に生かして、どの精液を使えば最良の娘牛を作ることができるかを真剣に考える人。この2人を比較すると、前者の何も考えない人はたった1回の授精チャンスで3〜5年も遅れてしまうことになります。これが毎回繰返されれば、取返しのつかないことになってしまいます。

 このことが結果として、個体の能力差をますます拡大し、ひいては牛群の能力差、そして農家間格差をも大きくしてしまいます。

 図−1をみてください。

図−1 泌乳量の階層別分布(ある地区の経産牛1頭当たり:全農家/H10)

 これはある地域の例ですが、なんと牛群平均7000kg以下の農家が約50%以上もいます。一方では9000kg以上の農家もいます。なぜこんなに差がついてしまったのでしょうか。これらの酪農家は総じて牛群検定には無関心、改良には目もくれない、ただ惰性でやってきた結果、こう考えざるを得ません。このような酪農家にこそ、牛群検定に加入し検定情報を有効に活用する姿勢が求められています。

 乳牛に高い経済価値を付与する

 乳牛改良の基本的意義は、もうかる牛を選抜して、もうからない牛を淘汰するということです。そして、乳牛に高い経済価値を付与することにあります。そのためには、まず雌牛を必要頭数生産することが先決で、しかも遺伝的に優れたものを作らなければなりません。これは当然のことなのですが、現実には搾乳牛(後継牛)資源不足の論議にまで発展しています。

 要するに、乳牛改良とは選抜・淘汰を円滑に進め、そのために優秀な後継牛を必要頭数生産する。そして、自分の牛群に遺伝的に優れた初産牛をできるだけ多くラインナップする。これが牛群改良の基本的な考え方です。経産牛は遺伝的には既に決まっていますから、牛群のレベルを上げるためには優れた初産牛に頼るしかありません。とにかく優れた初産牛を作ることなのです。牛群検定はこのための基本的データ(牛群改良情報)を提供してくれます。

 遺伝資源は自らの責任で確保する

 優れた後継牛が明日の経営を担うという言葉がありますが、最近はこの言葉が軽んじられている状況をよくみかけます。初産牛の頭数が極度に少ない牛群、初産牛の能力格差が大き過ぎる牛群等、各地を巡回しているとよく目にします。この能力格差の現象は導入牛にも発生しているように思います。

 かつてF1がいなかったころは、生まれてくる雌牛は段階的に選抜され、良いものは後継牛に、悪いものは肥育モト牛にと仕分けされていました。ところが近年は、いわゆる悪い牛にも和牛を付けておけばいくらでも買ってくれる。こういう牛がたまたま導入された場合、一番困るのは酪農家自身であり、初産牛から淘汰要員ではたまったものではありません。初産牛が良くならなければ、3年経っても4年経っても牛群は良くならないのですから。

 したがって重要なことは、後継牛は自らの責任で確保するという姿勢。改良が進めば進むほど他人任せにはできない。このことをしっかり自覚することだと思います。

 図−2をみて下さい。牛群改良情報の遺伝評価値を使って、牛群内の序列付けを行い、後継牛生産に必要な頭数を選定し、これを次世代への遺伝資源(後継牛生産用雌牛)とします。単なる搾乳用ではなくたいせつな遺伝資源として管理する。こういう発想がいま強く求められています。

図−2 遺伝資源は自らの責任で確保

 検定をしていない農家では、この遺伝情報がありませんので困ってしまいます。ただ乳がよく出るというだけでは遺伝資源とはいえません。遺伝資源とは信頼できる方法によって正しく計算された評価値がなければなりません。直ちに牛群検定に加入することが必要です。

 そして、現在は生まれてくる雌子牛の絶対数が少ないのですから、生まれた時は遺伝的に100%成功していなければなりませんし、哺育・育成過程での失敗も絶対に許されません。

 したがって、これからの乳牛改良は信頼性の高い交配方法、種雄牛の選定等科学的改良プログラムが不可欠となります。

EPA: Estimated Producing Ability(推定生産能力)

 先天的な能力であるEBVに、育成の影響等、後天的な能力を加えた生産能力。

EBV: Estimated Breeding Value(推定育種価)

 EBVは、雌牛が持つ遺伝的能力です。この遺伝的能力の一部が娘牛に伝えられる。乳量や乳脂率などそれぞれの形質について表示される。

NTP: Nippon Total Profit lndex(総合指数)

 乳脂率を下げずに、乳蛋白質率を年当たり0.01%改良する場合に、乳量・乳成分量と長命連産性の改良量が最大となるように、泌乳形質と体型形質のEBVに重み付けした指数。

 なぜ損する牛まで飼うことになるのか

 農家を巡回していますと、乳量の個体差の大きいことを実感します。5000kgの牛から10000kg以上の牛まで、その差は2倍以上もあります。こんなに個体差が大きい家畜は他にいるでしょうか。この個体差をどう圧縮するか、これが現在の乳牛改良の重要な問題点です。要するに、牛群中の個体差が大きければ大きいほど、どうしても低能力牛まで飼養することになりやすく、結果としてもうからない牛を飼うことになってしまいます。特に、牛群検定をやっていない酪農家が心配です。損する牛を飼うことは酪農経営にとって致命的ですから。

 なぜ、こういうことになってしまうのでしょうか。一言でいえば、過去において交配を失敗したからです。交配は3〜5年経過してはじめて結果がでますから、その責任は非常に重いといえます。これが改良の難しさであり恐ろしさであり、これは単に酪農家段階の問題だけではなく組合、地域、あるいは県全体の問題でもあります。推定では20〜30%もの乳牛が低能力のために赤字になっていると思われる地域もあります。

 したがって、乳牛改良は地域全体で取組んでいくことに大きな意義があり、地域のリーダーの見識と行動が問われることになります。

 そこで、強く訴えたいことがあります。酪農経営原則や乳牛改良を無視した経営は生産管理機能をもたない非科学的経営ということであって、こういう非科学的方法では、これからの厳しい経営環境の中で生き残っていくことはできないでしょう。

もうけの仕組みを生かした低コスト・高収益酪農を実現する

 乳量階層別にみて中クラス以下の階層において飼養管理技術の伸び悩み現象がみられますが、これも牛群検定がじゅうぶんに生かされていないことに原因があると指摘しました。そのためには、牛群検定の本来の役割を正しく理解すること、とりわけ、生産管理システムとしての役割について、酪農経営原則や乳牛改良の重要性を説明しました。

 そして、これからは経営原則や乳牛改良を無視するような非科学的方法では絶対に通用しないということも強調しました。更に、これから説明する儲けの仕組みについてもじゅうぶんな理解が得られるよう期待します。

 わかっているようでわかっていない、もうけの仕組み

 生乳の生産コストは飼料費、労働費、減価償却費が主なもので、この3項目だけで大部分を占めてしまいます。したがって、コスト低減の方法としては、この3項目について重点的に取組めばよいのであり、この考えは至極当然のことでしょう。

 しかし、これだけいわれても具体的に何をすればよいかわからない。講習会等で酪農家の皆さんに質問をしてみると、いろいろな意見が出ます。一番多いのが飼料の価格を下げる。2番目が1頭当たり乳量を増やす。どれも間違いではありませんが、具体性に欠けていますし、理論的にもふじゅうぶんであると思います。これは「わかっているようでわかっていない」ことの代表的な事例です。

 そこで最初に、酪農利益構造(もうけの仕組み)について説明してみましょう。これは損益計算書の内容を戦略的に書換えたものです。損益計算書といえば青色申告決算書がありますが、実はこれをいくら眺めていても、もうけの仕組みはよく見えません。見えるのは経営全体としての「収入―支出=利益」だけです。これを戦略的に見るには、決算書を変動損益計算書に書換えることです。

 この変動損益計算書は一般企業ではどこでも使っていますが、酪農ではまだあまり利用されていないようです。その考え方はいたって簡単なものです。

 図−3をみて下さい。

図−3 酪農利益構造

 売上高(乳代)から変動費(飼料費)を差引いた残りを限界利益といい、この限界利益から固定費(飼料費以外の費用)を差引いて利益(または所得)となります。酪農経営の場合は、固定費は大きな経営変化(規模拡大、新しい投資等)がない限り一定の幅の中にあり、しかも牛群では経産牛1頭当たり平均で計算するのが実際的です。したがって、乳牛個々の利益も経営全体の利益も、最終的には限界利益の大きさに左右されことになります。要するに、限界利益の大きい牛はもうけが大きい、限界利益の小さい牛はもうけが小さい。この関係がまさにもうけの仕組みです。酪農利益は10頭経営も100頭経営も、結局1頭1頭の利益の積上げで決まるということ。損する牛は飼わない、もうけの大きい牛を揃える。この原則を実行するためには牛群検定は欠かせません。

 1頭当たり泌乳量とコストの関係

 農水省は酪肉近代化基本方針にそって、10年後の経営指標(モデル)を発表しましたが、コストは現在より20%程度削減することを目標とした内容になっています。一般論として、例えば現在のコストが80円であれば16円の削減、70円であれば14円の削減ということです。要するに、15円程度のコスト低減を目標とする内容と思えばよいでしょう。この15円のコストをどうすれば下げることができるのか。この具体的方法についてはまだ明示されておりませんが、これをたとえば飼料価格だけで対応しようとすれば、飼料単価を現在より20〜30円と大幅に安く調達しなければなりません。これは現実にはなかなか難しいことです。ではどうすればよいのでしょうか。

 表−2をみて下さい。

表−2 泌乳量が収益とコストに及ぼす影響(ある酪農経営の事例:H10年)

単位:kg、円、%

 これはある酪農家の1頭1頭の利益を変動損益計算書で試算したものです。この牛群は個体乳量の差が大きく5000〜1万kgの広い範囲にあり、6086kgが損益分岐点乳量となります。そして、泌乳量の差が限界利益に直接影響を与えその差を大きくし、更に固定費は同じなので、この限界利益の差がそのまま差引利益の差となります。例えば、7000kgの牛と9000kgの牛を比較すると12万5300円の差になります。これは大きな差です。

 また、コスト削減効果をみますと、乳量が7000kgから8000kgへ増えるとコストは8.37円の削減効果、8000kgから9000kgへ増えると6.48円の削減効果となります。要するに、泌乳量が1000kg増えるとコストは6〜8円下がると考えればよいのです。このように泌乳能力差によるコストへの影響は非常に大きいものであり、これを極論すれば、1頭当たり泌乳量がコストを支配していると考えても差し支えないと思います。

 限界利益は3つの力の相乗効果で決まる

 酪農利益は限界利益の大きさで決まると述べましたが、それでは、この限界利益をより大きくするにはどうすればよいか、その方法を考えてみましょう。乳の生産力とエサの関係を考えてみればわかります。エサを与えないと乳は出ないが、同じエサを与えても牛によって乳の量が違う。なぜこの差が出てしまうのでしょうか。

 図−4をみて下さい。

図−4 儲けの仕組み

 それは第1に持って生まれた遺伝の力、第2には生理機能が正常に働いているかどうか、第3にはこれらを引出す飼料の力。この3つの力がバランスよく発揮された時に限界利益が最大となります。要するに、限界利益の大きさはこの3つの力の相乗効果によって決まるということになります。

 そして、飼料の力をあえて3番目に置いたのは、それなりの意味があります。確かにコストに占めるシェアを考えると、飼料費は重要であることは間違いありませんが、今後とも長く購入飼料の価格がどんどん下がっていくことは、よほどの円高にならない限りありえませんし、むしろ価格は国際情勢からみて高騰傾向になっていくと考えた方が常識的でしょう。したがって、飼料価格を下げることによって生産コストの削減を図ろうとしても、それには限界というものがあり、あまりこれにこだわり過ぎるとコスト低減の本来の方法を見失ってしまうのではないか。その方が心配になります。

 問題はこの3つの力の相乗効果をどのようにして引出すかということです。実はこれが難しい問題なのですが、これを整理し解決してくれるシステムがあります。それが牛群検定です。このことを是非理解してほしいのです。

 牛群検定はこの遺伝・生理・飼料に関する情報を的確に提供してくれます。特に遺伝情報、繁殖管理情報、栄養管理情報は得意の分野であり、この情報を有効に活用することによって、最終的には酪農利益(コスト)をコントロールすることができるのです。

 いままでは、牛群検定に利益コントロールの役割があることに無関心であり過ぎたように思います。コスト低減に本気で取組もうと思うなら、牛群検定に全力を尽くすべきです。また、牛群検定にも参加しないでいくらコスト低減を叫んでみても、それはナンセンスといわざるを得ません。

 組合の幹部の皆さん、特に検定普及率の低い組合幹部の皆さん、利益コントロール機能としての牛群検定の役割についてもよく理解され、酪農家の経営安定と組合発展のために牛群検定を積極的に活用していただきたく、期待します。

 繁殖遅延により年1000kg/頭の乳量を損失している

 利益コントロールとしてもう1つ重要な現実問題があります。それは乳牛の機能障害(疾病)防止対策です。特に繁殖障害、乳房炎、産前産後の代謝障害は大きな損害をもたらしますので、この防止対策は重要な課題となっています。紙面の都合もありますので、ここでは繁殖の問題だけを取上げてみたいと思います。

 昔からそうですが、「種さえ順調に付けば儲かるのになぁ!」。これが酪農家の実感です。しかし、繁殖が遅れたためにいくら損したかということになるとよくわからない。ただ概念的に思うばかりではダメで、この経済損失を計算することによって、その重要性をしっかり確認し、原因を徹底的に追求して解決しようと考えることが重要だと思います。

 最近、都府県では特に分娩間隔が悪くなっており、440日となってしまいました。これは目標より60日の繁殖遅延であり、この経済損失はいくらになるのでしょうか。計算の方法として一例(筆者)を紹介してみましょう。

 図−5をみて下さい。

図−5 繁殖遅延による乳量損失

 乳量損失は図−5のAとBの差であり、これを計算すると年間約1000kgの損失となります。要するに、分娩間隔が目標380日に対し60日遅延することにより、乳量は約1000kg損失するのです。この損失乳量は非常に大きく生産コストに換算すると約6〜8円/kg(筆者)に相当します。これ以外にも産子、診療、廃用等の損失が加わるから大変です。このように、繁殖遅延はコストアップの大きな原因であることを再確認しなければなりません。そして、これを緊急の課題としてそれぞれの地域で取組むべきであり、そのためにこそ牛群検定を積極的に活用してほしいのです。

 高能力牛群ほど繁殖成績が良い

 酪農家の中には、高能力牛は繁殖が悪いと考えている人がいます。確かに、牛舎の1頭1頭を見ればそのような傾向はあるでしょう。しかし、牛群と牛群を比較してみると能力の高い牛群の方が、低い牛群より繁殖成績は良いことが分かります。

 表−3をみて下さい。

表−3 乳量階層別分娩間隔(都府県)

5,000
kg台
6,000
kg台
7,000
kg台
8,000
kg台
9,000
kg台
10,000
kg台
平均(日)
平成12年 455 459 450 437 429 424 440

 5000〜6000kg台が最も悪く、それより能力が高くなるにつれてよくなっています。要するに、高能力牛群の方が繁殖成績が良い。これを逆に考えれば、繁殖が良いから乳量もよく出ると言うこともできます。乳のよく出る牛は食欲も旺盛、食欲が旺盛ならエネルギー摂取もじゅうぶん、エネルギーが充足すれば卵巣回復も早い。こう考えればよいのです。

 繁殖成績の良い酪農家は検定データを有効に活用しており、総じて技術水準も高いと思います。これは多くの酪農家を回ってみての実感です。しかし、いまだに乳が出過ぎると繁殖が悪いとか、乳量はそこそこで繁殖が良い方が安全とか考えている酪農家もいます。このような酪農家はとかく牛群検定には無関心のようですが、こういう酪農家こそ牛群検定に加入して生産性を高める努力をすべきです。

 乳量・乳成分率の動きを見て判断する

 泌乳と繁殖を理解するには、泌乳サイクルにおける生理的変動を知ることが前提です。特に、乾乳期の生理、分娩の生理、乳量と乾物摂取量の関係、繁殖と乳成分率の関係等が重要で、これらはすべて栄養管理との関係であり、泌乳も繁殖も結局は栄養管理のよしあしにかかっていることを認識しなければなりません。

 牛群検定はこの重要な栄養と繁殖の状況を的確に検証してくれますので、これを分析することによって、今何が問題であるかが分かります。特に泌乳初期における乳量と乳成分率の変化が重要です。例えば、乳蛋白率の動きをみて卵巣機能の回復状態を、乳脂肪率の変化をみてルーメン発酵状態を判断する。このように、泌乳ステージの進行に伴う乳量と乳成分率の変動をよく観察すれば、栄養管理が適正に行われているかどうかを確認することができます。詳しいことについては次回に説明します。

(次号へつづく)

(筆者:社団法人家畜改良事業団・家畜改良アドバイザー)