たんぼの中の小さな牧場!(II)

──「ミニ牧場の作り方」教えます──

仙 名 和 浩


 前号では「小規模移動放牧」の考え方と(1)放牧地の基盤整備、(2)草地の造成法まで書きました。本号では、(3)牧柵の張り方、(4)牛の放牧準備、(5)放牧施設、(6)放牧管理について書いてみようと思います。

 牧場に仕立てる…牧柵の張り方

 小規模移動放牧では電気牧柵を使用します。電気牧柵の良さは線を張るときの扱い易さです。バラ線と違い、住宅に近いたんぼや畑に張ってもなじみやすい印象を受けますし、さわっても皮膚に傷が付かないのが利点です。電牧器は100ボルト電源を使う手もありますが、バッテリーとソーラー発電器を電源にすることもできます(写真−1)。そして、牛を移動するときに次の牧区に持運べば1セットで済ますことが出来ます。また、外から見学者が来る昼間の時間帯だけタイマーで通電をストップすることも出来ます。牛は慣れてしまえばいつでも通電していると思い込んで逃出すことはありません。

写真−1 ソーラーパネルを用いた電牧

写真−1 小規模移動放牧で最低限必要な施設は牧棚と水飲み場だけ

 電気牧柵は牛の力が加わることがないので、簡単に済ませがちですが、外柵だけはしっかり打込むことをおすすめします。特に全体の支えになる四隅の杭(主柱)は太めの丸太や支柱を使って補強します。支柱は6〜7m間隔に打込み、電牧線を張ります。電牧線は高張力線を用いて地面から30、60、100cm位の位置に3段張りするのが原則ですが、土地条件や牛によっては2段でも間に合います。緊張器を使うと電牧線をピンと張ることが出来ます。また、電気が逃げないように碍子なども使います(図−1)。

図−1 牧柵の模式図

 棚田の利用では、できるだけ放牧地を広く取りたいという思いから、ついつい法面ぎりぎりに柵を設置しようとしますが、牧柵設置が土地の崩壊を招くことがあるので注意が必要です。放牧牛は牧柵沿いに歩いて採食する癖があるので、柵の内側に約90cmの牛が歩けるスペースを確保する必要がありますし、柵の外側も牛が首を出して採食する距離を考え、法面の裾から少し離した内側に牧柵を張るようにして下さい(図−2)。この法面の草を無駄にしないために、放牧草地の草が食い尽くされる頃、何回かに分けて刈落とし、牛の餌に利用します。慣れてくると法面からブッシュカッターで刈落としてくれる草を牛が心待ちにするようになります。

図−2 傾斜地の崩壊を防ぐための牧柵支柱の位置

 牛の放牧準備…1人立ちの家畜に

 牛は普通6ヵ月齢くらいを目途に放牧地に出しますが、一般の放牧地に比べて小規模移動放牧では牧区が小さく、移動距離が短いので子牛への負担がありません。したがって、6ヵ月齢以前でも放牧が可能です。しかし、その後の管理のためにも放牧地に出す前に1〜2週間、牛を放牧に慣らしておく必要があります。具体的には畜舎の周辺に囲いを作り、時間を区切った放牧をしてみることをお勧めします。短時間の放牧から始めてじょじょに長くし、最後は終日放牧にします。その間に牛に覚えさせることは、(1)電気牧柵にさわらないこと、(2)自分で草を探して食べること、(3)雨でも一日中外で過ごすことなどです。

 特に白いひも型の通電ケーブルを1度覚え込ませると、通電していない白いひもだけで、牛に「電気が来ている」と思いこませて誘導できるようになり、牛を放牧地の1カ所に集めたり、牧区移動の通路造りが簡単になります。また、全般的なこととしては、子牛が生まれたときから手をかけて、飼い主との信頼関係を築いておくと放牧地での捕獲や種付けなど、日常管理が楽になります。

 また、生まれてからずっと舎飼いで過ごしていると、牧草を餌として認識しない牛もでてきます。特に乳牛は濃厚飼料依存型になっていて、外に出しても牧草を食べず、畜舎に戻してもらう時間をじっと待っている…、そんな牛になったりします。ですから早い時期に牧草のおいしさを教える必要がありますし、本当は放牧地に出すときも生草のあるところに数日おいて、牧草の味を思い出させておくのは悪くないことなのです。

 放牧施設…すぐに必要なものともうけてから買うものと

 放牧は「装備が身軽」というのが魅力で、小規模移動放牧も牧柵と水飲み場以外特別に必要な施設はありません。ただ、やってみると「あるといいなあ!」と思える装備もいくつかあります。そんなものも含めていくつか書いてみます。

 放牧に必要な施設の第1番目に水飲み施設があります。放牧草地が休耕田の場合には近くに用水路がありますからポンプで汲み上げて使うことができますが、そのような水路のないところでは農薬散布用のタンクを利用して水を運び込む必要があります。しかし、どちらの場合でも、必ずタンクに水を貯め、ウォーターカップかフロート付き水槽を連結して水を飲ませてください。水路があるからといって、安易に直接牛に水を飲ませると下流にO-157や水系汚染の問題を起こし地域の迷惑になります。また、水飲み場の設置場所は水を運び込む都合で道路に近いところに設置することになりますが、設置場所をよく考えないと周囲が泥濘化します。

 夏の放牧地では日陰があると牛たちも楽ですが、黒毛和種はホルスタイン種より暑さに強いので、東日本では避陰施設がなくとも過ごすことが出来ます。

 牛の移動距離が長い場合には家畜を移動するための家畜移動用のトレーラーが必要になります。トラクターに付けて引かせるタイプですが、3頭程度を乗せるスペースがあるといいでしょう。しかし、かなりの金額が必要になりますので、放牧をやってもうけてから考えることにしましょう(図−3)。

図−3 家畜移動用トレーラー

 もうけてから考える少しぜいたくな施設としては移動給餌車があります(写真−2)。これは切断乾草を貯めておける車で、牛のための屋台ともいえるものでコンパネで作られています。中央部の屋根を上に開くと、乾草貯蔵スペースがあり、左右両側には飼槽が付いています。底と飼槽部分にはステンレス板が用いられていて、牛が食べた分だけ中央の貯蔵スペースから落ちてくるようになっています。この車の便利な点は、春先には放牧草がじゅうぶんでなくとも牛を放牧地に出すことができます。牛は草地で足りない餌を給餌車の切断乾草を食べることで補給できますし、草の管理面からは早めに草を食べさせることでスプリングフラッシュを押さえることが出来ます。しかし、本来的な使用目的は、放牧地の滞在期間の延長で、Aの放牧地で草が乏しくなったので、次のBの放牧地に動かしたいけれど、まだBの放牧地では草の回復が済んでいないときなどに威力を発揮します。ただ、注文して作るとかなり高いものになるのが欠点です。

写真−2 移動給餌車

 放牧地での管理…細かいことですが

1)転牧回数は?

 小規模移動放牧は肉用繁殖牛(育成牛や乳用牛の乾乳牛も可能)を分散した草地に巡回放牧するもので、各草地に牧柵を張り巡らせておいて、草の生育状況にあわせて牛の頭数を増減させて草と家畜のバランスをとる放牧方法です。とすると、どのくらいの移動になるのでしょうか。当研究所の調査ではもし20a位の草地が2〜3カ所に分散していると、2頭で7〜20日間隔で1シーズン14回程度になります。でもこれは目安ですよ!

2)放牧群は何頭が適切?

 もともと牧区が大きくないので(大きければ2つに分けて使う)3〜4頭程度がいいのではないでしょうか。2頭ですと転牧の時に1頭1頭離れ離れになって扱いにくいし、3頭ですと2頭を誘導すればもう1頭は渋々ついてきます。それにこの放牧方式は、草の生長がよく「草が多いな」と判断したら牛舎から牛を運び込み、草の生長が落ちて「草が足りなくなった」と思ったら牛舎に牛を引上げる…、といった方法で草と牛のバランスをとるのが基本ですので、何が何でも3頭放牧しなければという堅い考えはしてほしくないのです。「柔らかい頭」、それがこれからの放牧には必要なのです。

3)放牧地で子供を産ませる時の注意

 この小さな放牧地に妊娠牛を持込んで子牛を産ませることも可能です。ただ、休耕田のように放牧地があまりにも平坦で、その上、草が短いと「子牛の脱柵現象」がみられます。それは、母牛にとって、生まれたばかりの子牛は弱いので、外敵から子供を守るために「そっと隠しておきたい…」という心理が働くのです。そこで子供を隠す場所がないと非常に不安になり、柵の外に追出して、隠してしまおうとします。ですから、分娩時期が近づいてきたら、放牧地の隅の目立たない所にブッシュや草ぼうぼうの場所をわざと作ってやることも必要なのです。胎子が正常位ならば介護なしに分娩します。運動しているせいかあまり難産にはならないようです。分娩後、母牛は日に2〜3回、子牛の所にそっといって授乳します。そして、少し大きくなると、子牛の方もブッシュから出てきて、母牛と一緒に放牧地を走り回るようになります。この時、母牛と飼い主との間にじゅうぶんな信頼関係があると、生まれてきたばかりの子牛との接触を許してくれて、その後の管理が楽になります。子牛の発育も一般に良好に推移します。たぶん、舎飼いと異なり放牧地では他の牛との距離があり疾病に感染する機会が少なくなるためか、下痢や呼吸器病にかかることもなく健康に育ちます。

 以上、一通り「小規模移動放牧」についてお知らせしました。後はみなさんの実行と経験の積重ねだけです。おっかなびっくりで結構です。2〜3年をかけて技術の習熟に励んで下さい。大体、草地作りに2〜3年かかるのですからあわてないことです。でも、これから秋にかけては、牧草を播くチャンスでもあるのです(春にもありますが)。ただし、牛は生き物です。夏の放牧は良しとして、冬の餌の確保もお忘れなく。

(筆者:独立行政法人 農業技術研究機構 畜産草地研究所 放牧管理部長)