たんぼの中の小さな牧場!(I)

──「ミニ牧場の作り方」教えます──

古 川 良 平

 
 自分のエサで牛を飼おう!…飼料増産のすすめ

 昨年から減反政策が強化され、水田を活用した麦作りや大豆の「本作化」が進められていますが、転作には転作奨励金が出ているのをあなたはご存じですよね!? その「転作作物」に「飼料作物」も入っているのもご承知と思います。そこで、もし、あなたが牛を飼っているなら、ぜひこの制度を使って、かわいい牛たちのために飼料作物を作ってみてはいかがでしょう!なにしろ、昨年はわが国に82年ぶりという口蹄疫の発生が確認され、海外からの稲ワラが限りなくクロに近いといわれたのですから、日本の飼料自給率を高めるためだけでなく、牛たちの安全のためにもいいことだと思いませんか!?

 それでは、もう1度。ここでいう飼料作物に「牧草」も認められるのでしょうか?大丈夫です!ただ、空いている水田などが狭かったら、せっかく牧草を作っても機械が入らなくて収穫作業が難しくなりそうです。それならば、いっそのこと牧草を刈取らないで直接牛に食べさせてしまったらどうでしょうか?それもセーフです。 

 さて、そうすると、あなたの周りには使われていない水田や農地はありませんか? 

 エッ、そんな農地は近くにいくらでもある!? それはすごくラッキーです!だって、あなたはすぐに「牧場」を開くことが出来るからです。などというと、不動産屋みたいですが、農地は空かしておいては金になりません。活用してこそ農地です。ただ、悪徳不動産屋と間違われないために、まえもっていっておきましょう。この牧場、名前は牧場でも北海道で見られるような何百haもある大きなものではありません。ほんの些細なミニチュア模型みたいな牧場です。でも、牧場は牧場です。2〜3頭ならちゃんと飼えるのです。“ちっちゃな土地”も集めれば広さとしては大きくなりますが、分散した土地は1つにくっつけて、広くするわけにはいきません。そこで、「土地を動かす」かわりに、「牛を動かす」ことで、小さく分散した土地をあたかも1つの広い土地のように、牧場として使ってみようというのです。名付けて「小規模移動放牧」といいます。そこで今月と来月の2回にわたってこの「小規模移動放牧」について書いてみようと思います。
 
 渡り鳥放牧…小規模移動放牧の考え方

 最近は高齢化や過疎化が進んで、あちこちに農地が虫食い状態に空いてきています。それらの土地に牧柵を張り、繁殖雌牛や育成牛の放牧に使おうというものです。例えば近くの畑地跡のA地区に40a、棚田のB地区に25a、山に近い遊休農地C地区に30aといった具合に、飛び離れたところに遊休農地が確保できたとします。つぎに、これらの遊休農地の土地にそれぞれ牧草を作り、牧柵を張ります。春の草の出来具合を見ながら牛を基地となる畜舎から2〜5頭程度の単位で、これらの牧草地に連れ出し、昼夜放牧をします。そして、例えばA地区に2週間滞在して柵の中の草を食べ尽くしたら、B地区へ、その後にC地区へ、そして再びA地区へと牛を移動して回る…、これが基本です(図−1)。

図−1 小規模移動放牧の概念図


 ただ、草の生育は季節によって変動します。春は草の生育もよく、量も豊富ですが、夏から秋にかけては草の生産量が減ってきます。例えば、A→B→C地区と順調に2週間ごとに移動させてきたが、もう1度A地区に戻そうとしてもA地区の草がじゅうぶんに回復をしていない。そんな時は、牛たちを一時的に畜舎に収容して、A地区の草の回復を待ったり、C地区での放牧頭数を減らして、滞在日数を稼ぎ出すことで、A地区の回復を待つ必要はあります。要するに、放牧は牛の食べる草の量と、草の生育量を上手にバランスさせることが基本技術となるのです。そして、小規模移動放牧では土地が狭いだけに、この見極めが大切になってくるのです。

 それでは、どのように準備し、どのように運営していけばいいかを、2回にわたって書いてみることにします。項目としては、(1)土地の基盤整備、(2)草地の造成方法、(3)牧柵の張り方、(4)牛の放牧準備、(5)放牧施設、(6)繁殖、(7)放牧地管理などです。
 
ミニ牧場を作ろう!…小規模移動放牧の準備

1)土地条件の違いによる基盤整備…氏素性を見極めて 

 いま、使われていない農地はどんなところでしょう? たぶん、細切れの条件の悪い土地のはずです。それを放牧地にするにはそれなりに基盤を整備して、草地にしなければなりません。そこで遊休農地を土地の条件別に図−2のようにA〜Dの4種類に分類し、特徴と留意点を書いてみます。

図−2 土地基盤から見た遊休地の分類


  平坦地 傾斜地
遊休畑地 A B
休耕田 C D
 
A、B… 一般に乾燥しているので草地は作りやすい。ただ、灌木がはびこっていることも多く、播種前の準備が必要。
多くの場合近くに水路がないので、牛の飲用水を別途考える必要がある。 
C、D… 水路が近いので牛の飲用水の確保は簡単。
草地化を早く進めるためには排水を考える必要がある。しかし、牛を入れながら(軽めの放牧で)2〜3年かけてゆっくり草地化することも可能。
D …… 一般的には、用水路からの水を止めると乾田化しやすく、草地化は楽。棚田内に湧水地点がないかを調べ、明渠か暗渠で水を畦の外に排出する。
B、D… 土地崩壊を起こしやすいので、25度を超える傾斜地は草地化を控える。牧柵設置にも注意。

2)草地を作る準備

 草地を作るには、牧草の種を選んで播く必要がありますが、種播きの前に土の表面をかき回(攪乱)しておくと発芽した種が根付きやすくなります。その方法として、現在基本的には2つの方法のどちらかが使われています。第1の方法は「耕起造成法」といわれる方法、第2は「不耕起造成法」といわれる方法です。ただ、「不耕起造成法」は応用場面が広く、土地条件によっていろいろな変形が考えられています。
 
 
早春の草地造成…理想的な「耕起造成法」

 休耕田や遊休農地といった既耕地の早春の造成は耕起造成が基本です。草丈の高いススキなどが生えていたら刈払って焼却した後、土地を耕して土壌表面を攪乱します。その後に肥料と牧草の種を播いて鎮圧します。これで牧草地になりますが、前の雑草の種も多く落ちていますので、掃除刈りをすると安定した放牧草地になります。これは理想的な草地造成法といえます。
 
 
雑木林地も草地に変える…突撃型草地造成「不耕起造成法」

 雑木林地などでは木を適当に残して(庇蔭樹にする)伐採し、残りの灌木やススキなどを刈払って焼却する。その後は牛の力を借ります。仮の牧柵を作って牛の運動場として使うことで地表の攪乱を行った後、施肥と播種を行います。そして、しばらく放置して草が使えるようになったら放牧を開始し、不良雑草を掃除刈りして安定した草地にもっていく方法です。
 
 
不耕起造成の応用…「思い立ったら吉日」型造成法

 人は「やってみたい!」と思い立ったとき、一番力を発揮することができます。「放牧を始めてみよう!」と思い立ったのだけれど、季節は春ではないし、かといって1年待つのはシャクだ…というとき、あるいは、トラクターなど機械類がないときに、「不耕起造成法」を応用してみる手はあります。例えば、使っていなかったたんぼや遊休地などに牧柵を巡らして、牛を放牧して草や藪をいじめ、その後で刈払い(雑草の草丈が低ければ刈払いの必要はない)をして、施肥と播種で草地化していく。当然食べられるものの少ない時はエサの補給が必要ですし、いっぺんにきれいな草地にはならないなど、効率は良くありませんが草地化の初期の目標は達成することができます。

3)草地づくりの必要資材…肥料と種 
 
施肥量はどのくらい?

 草地づくりの下準備はできました。次は播種が待っていますが、その前に施肥をしておきましょう。おおよその目安は、 

 施肥量(10a当たり)…化成肥料(17-17-17)で窒素換算で5kg位になるように。(できたら石灰100kgとヨウ燐50〜100kgも撒いておきましょう)。
 
牧草は何がいい?

 さて、次は牧草です。牧草の種は何を選べばいいのでしょうか? 

 これまでの草地造成は乾いた土地で行ってきました。遊休農地や畑地の跡(分類でいえばAとかB)はこれまでの草地造成で使われた牧草でだいたいうまくいきます。問題はCやDに分類されている水田だった場所です。これらの土地はこれまで草地化の経験が乏しい場所で適した草種がまだよくわかりませんが、傾斜地のDは基本的な構造が棚田ですので、田の水元を締め切れば乾燥化しやすく、比較的簡単にきれいな草地にできます(1年〜2年)。問題は平坦地の水田跡地(C)です。土地が乾きにくく、短期間の草地化は困難です。しかし、できないわけではありません。まず、いろいろな草を混播することです。そして「残った草がいい牧草!」と考えることです。最初は牛を入れるとぬかりますが、それでも3年くらいでいい草地になります(写真−1、2)。 

写真−1 たんぼの中の小さな牧場(草地化1年目)

写真−2 水の多いたんぼの例

写真−3 たんぼの中の小さな牧場(草地化3年目)

 播種量(10a当たり)は5〜6kgで、下に書いた牧草の種子を3種類くらい混ぜて播きます。
 
オーチャードグラス   2kg    
トールフェスク   2kg    
リードカナリーグラス   2kg   水田に強い 食込みに難
レッドトップ   2kg   定着はいい 食込みに難

 場合によってはクローバなどマメ科も一緒に播くといいでしょう。

(筆者:独立行政法人 農業技術研究機構 畜産草地研究所 放牧管理部長)