大家畜経営の自給飼料戦略(II)

 

飯 田 克 実

 
4.生産性向上の具体的対策

 自給飼料の生産性向上のための対策については、経営条件などによって対応は変わりますが、いかなる場合でも低コスト生産、しかも良質での大量確保が基本となります。もちろん、具体的な方法は地域によっても変わり、北海道などの寒地と九州などの暖地では、大きく違います。一般的には、年平均気温が10℃の地域では、年間の10a当たり生草で約10t、15℃の地域では約15tを目安(乾物率は15%前後)に、夏作と冬作などを組合わせる方法がとられます。
 
 

 もちろん、経営条件などによって寒地型と暖地型を使分けます。ローズグラスの場合、多くの府県では1年生ですが、沖縄などは越冬して多年生として「省力・多収」ができます。いずれの地域や栽培条件でも、生産性のアップ、低コストと高品質がポイントで、経営条件の活用が基本となるのは当然です。
 
 
 1)草種・品種の特性を活用

 全国での市販草種は約50種、品種は約550種と多く、トウモロコシが約150種でトップ、次いでソルガムとスーダングラスが約80種。以下、順にイタリアンライグラス約40種、青刈りエン麦約30種、オーチャードグラス、アルファルファがそれぞれ約20種、赤クローバ、白クローバは約15種ずつなどです。

 各草種とも品種改良によって、多収性や耐病性、それに早晩生など特性の差も大きくなっていますが、太陽エネルギーを有効に利用しやすい葉身直立型(アップライトリーフ)が増えています。また、冬作物では寒さにあわなくても出穂する播性(感温性や感光性)などの分化も大きく、温暖地や暖地での秋作栽培(8月下〜9月上旬に播種すると、11月に出穂・年内収穫)もみられます。 

 一方、サイレージ用トウモロコシの場合、有効積算気温(日平均気温10℃が基準)によって、品種の早晩生を活用した計画的な栽培が一般的です。 

 トウモロコシやソルガムなどの長大作物は、太陽エネルギーを立体的に利用するので、牧草などよりも単収が多いことは当然です。しかし、台風などによる倒伏が問題ですから、早播きや品種の組合せなどによる安定多収がポイントになります。台風シーズン前の収穫を原則に、暖地でのトウモロコシは4月の播種、そして、7月末〜8月の収穫を基本にすれば安定・多収などメリットが大きくなります。 

 もちろん、草種によって耐湿性の違いも大きいし、品種によっても耐湿性や消化率なども変わります。そこで、草種や品種の特性を活かす作付体系として、図−1のように湿害の心配な水田転作ではソルガムやイタリアンライグラス、そして排水のよい普通畑ではトウモロコシやエン麦が有効です。しかも、2体系の組合せは労力配分、牛ふん尿や固定サイロの利用にも好都合で、経営としての有利性がアップします。 

図−1 作付体系の組合せによる飼料生産


(1983.愛知・T酪農家、○:播種、×:刈取り)
(注) 1)大型機械体系で、大型気密サイロ詰め、全量サイレージ利用。
2)水田転作のうち、7.5haは借地。
3)エン麦(秋作)の跡地などへ牛ふん尿施用。
 2)栽培技術のレベルアップ

 規模拡大や借地などによる牧草・飼料畑の拡大は労力的にも大変です。多収穫一辺倒ではなく、大型機械の能率的な作業をベースに、多収穫とともに高品質生産のための適期作業、刈取り適期を重点にした生産技術がポイントになります。例えば、梅雨期の6〜7月、それに秋霖期の9月は作業をしない作付け方式が生産性や作業能率アップの条件になります。

 つまり、多収穫一辺倒ではなく適期作業、大型機械での高能率化が条件ですし、しかも、牛ふん尿の積極的な利用ができる作付け体系も重要です。もちろん、経営条件によっても変わりますが、サイレージ利用をベースにした生産は有利性が高く、牧草は出穂前後、トウモロコシやムギなどのホールクロップ利用は黄熟期ごろに収穫するように計画的な栽培が必要です。この場合、労力配分も重要で、早晩生の品種を活用、倒伏による低質・低収、それに作業ロスの対策として、計画的な栽培が生産性アップの必須条件となります。 

 もちろん、雑草対策も重要で、輪作や除草剤の利用なども必要です。イチビやキハマスゲ、それにワルナスビやオオオナモミなど外来雑草は、牧草・飼料作物の低収と低質などの大きな要因となってしまいます。そこで、除草剤の効果的な散布も必要ですし、草種の輪作は雑草対策に加え、牧草・飼料作物の連作対策としても効果的です。 

 生産性や安定性を高め、しかも、大型機械や牛ふん尿の有効利用には、草種の早晩生や作期などの組合せが有効になることはいうまでもありません。そこで、経営条件を生かした計画的な対応がポイントで、省力・多収に加え生産性のアップにより、自給飼料生産のメリットを高めることが重要です。
 
 
 3)区画の拡大と共同作業

 大型機械での作業能率を高めるには、0.3ha前後の小区画ではなく1〜2haの牧草・飼料畑が条件です。つまり、表−7のように平均で0.3haの小区画・分散に比べ、1.5ha平均の大区画の場合、約2倍の高能率作業の事例もみられます。しかも、大区画では大型機械での高能率作業ができ、表−8の事例のようにメリットが拡大します。その結果、トウモロコシ、サイレージは利用収量(利用率は約80%)でTDN1kg当たり約30円の事例もあって、2〜3haの団地化は、大型機械での高効率作業で、生産性が大幅にアップします。

表−7 耕地条件(飼料畑の大小と分散)と作業能率
(1999.栃木・酪農経営事例)
(注) 大区画・集積の平均区画は1.5ha、小区画・分散の平均区画は0.3ha。

表−8 圃場区画と収穫作業の能率

(サイレージ用トウモロコシ、1999.栃木・酪農家)
(注) 大区画・集積の平均区画は1.5ha、小区画・分散の平均区画は0.3ha。

 一方、水田転作の借地で、1区画の平均が約25haの富山・U酪農家の場合、団地化によって生産性を高め、表−9のようにTDN1kg当たり換算で50円前後の試算結果もあります。もちろん、草種や単収、機械の利用や作業方法などによっても、生産コストや評価は大きく変わりますが、大区画や団地化では生産性が高く、共同作業は生産性のアップの基本です。

表−9 草種別のサイレージ生産コスト
(1ha当たり、富山・U酪農家、1999年)
(注) 1)県畜産課調査資料を集計・試算。
2) 栽培面積は、イタリアンライグラスが6.7ha。トウモロコシが3.7ha、スーダングラスが8.4ha。
3)1kg当たり生産費は利用収量当たり。

 千葉・K酪農家の場合、労働力は3人(夫婦と1名のパート)で、83頭の経産牛、それに12haの牧草・飼料畑でトウモロコシとイタリアンライグラス・エン麦混播を主体に、年間で1400tの生産をあげてます。この場合、個人所有の大型機械を主体に通年サイレージ方式、牛ふん尿の飼料作への積極的な活用の結果、TDN自給率は約42%と高いこともあって、生乳1kg当たり生産コストは60円と安くなっています。なお、飼料畑・牧草地は8団地で、0.3〜2.6ha(平均は1.5ha)のため、機械利用の作業性はよくなっています。 

 このような事例は各地にみられ、大区画化によって大型機械の移動など時間的なロスも低下し、水田転作では湿害の軽減、単収のアップも加わり、相対的に有利性が高くなります。 

 もちろん、大型機械の共同作業によってメリットは拡大しますが、トウモロコシの収穫は組作業が条件です。しかし、大家畜農家の点在化などのため、共同作業ができにくい条件では牧草などのロールベール方式を主体にします。トウモロコシやソルガムなどの多収性を生かし、大型機械の共同作業は生産性アップの基本技術です。
 
 4)作業性と利用率のアップ

 大型機械による高能率作業には、大区画の牧草・飼料畑、それに、共同作業がベースになります。しかし、地域によっては大家畜農家の点在化や規模拡大などもあって、いろいろと問題も多いようです。そこで、前号で紹介した宮崎・T地区のように、酪農家と肉用牛農家の協力、あるいは最近、各地でみられるコントラクターでの対応も必要です。

 この場合、大型機械の高能率作業には、大区画に加え機械の移動を少なくする計画的な作付け収穫作業の高能率化がポイントです。そこで、北海道・U農協のように、作付け前に地区での収穫作業の順序を決める方式などはプラス効果が期待できます。 

 もちろん、生育がよく多収が基本ですが、収穫や調製のロスは問題です。一般的に作業ロスは5%程度、そしてサイレージ発酵などによる調製ロスは10〜15%が目安です。つまり、ロスの合計は20%が目安、利用率は80%を基本にしますが、低水分の条件ではロスの低下が期待でき、実質的にメリットがアップします。 

 この場合、採食性も重要で、低質による残餌が多くては問題です。つまり、収量性は採食量がポイントです。収量性は生育量や生産量ではなく、利用量、採食量によって評価すべきで、良質のサイレージや乾草、そしてロス対策などの役割も大きいのです。
 
 5)コントラクターの活用

 北海道や九州など各地で、農協や利用組合などが飼料生産の全部、収穫作業の一部受託が増えています。北海道のS農協の場合、酪農家と畑作農家の機械投資、それに、労力対策として成果をあげています。 

 一方、熊本・K利用組合の場合、酪農家のサイレージ用トウモロコシの収穫作業を主体に、86戸の刈取り・運搬を受託(年間約360ha、10ha当たり作業代金は5500円程度)しています。 

 この場合、酪農家は(1)サイレージの品質向上、(2)生産コストのダウン、(3)トウモロコシの作付け増加、(4)炎天下の労働過重の軽減で高く評価されています。 

 宮崎・M事例の場合、2.8haの借地を加え、4.0haの畑地で、トウモロコシとイタリアンライグラスを主体に、自給飼料を作っていますが、農協のコントラクターに播種からサイロ詰めまで作業委託をしています。 

 飼料作物の延べ面積は5.3ha、そして、収量は生草で約400t、借地料(38万円)と資材費(76万円)、それに作業委託料などを加えると210万円で、TDN1kg当たり35円の低コスト生産です。この場合、繁殖母牛の頭数を大幅に増やし、経営全体としてのメリットを高めています。
 
 6)水田転作の活用と粗飼料対策

 コメの需給バランス対策として水田転作が約30年も続き、全国で約12万haの飼料作物が作られています。もちろん、酪農家や肉用牛農家の積極的な取組みが各地でみられます。所有水田の全面転作、集落や地域の水田農家からの大量借地、団地化と借地期間の長期契約なども増え、自給飼料の生産基盤としての役割が大きくなっています。 

 営農集団としての対応、団地化やブロックローテーションもみられますが、地域によっては1年単位もあって、この場合、湿害による低収、大型機械での作業トラブルなどもみられます。 

 そこで、3〜5ha程度の団地化、そして、3〜5年の固定化など単収とともに作業性のアップが必要です。しかし、1年単位の借地では、後作イネの安定栽培のため牛ふん尿の施用がダメな場合もあって、飼料作は低収になるなどの事例がみられます。 

 岐阜・T酪農家は、自作水田の全面転作が0.9ha、それに約6haの転作水田を借地し、サイレージ用トウモロコシを主体に、ローズグラス、イタリアンライグラス、秋作ムギを計画的に栽培しています。この場合、TDN自給率は約50%、TDN1kg当たり生産コストは45〜50円です。その結果、乳飼比は約35%、所得率は約37%でメリットを高めています。 

 この事例は、貸し主が必要になればいつでも返す条件ですが、すでに、20年以上も借地主体の自給飼料生産が続いています。しかも、飼料畑が固定化しているので、多頭化に伴う牛ふん尿の有効利用ができ、肥料費の節減、環境対策として一石二鳥といえます。 

 一方、富山・F町では酪農家グループが営農集団から転作田を借地し、牧草は個別作業でロールベール・ラップサイレージに、サイレージ用トウモロコシは大型機械での共同作業で収穫しています。この事例では、転作田は団地ですが、1区画は20〜30aが主体で、しかも、1年ごとに地区が移動する場合が多いので、生産性などが問題のようです。 

 昨年から、イネのホールクロップ利用(イネ発酵粗飼料、飼料イネ)が注目されています。この場合、大家畜農家の生産に加え、耕種農家などの栽培、大家畜農家への流通・利用が期待されます。糊熟期前後に刈取ると10a当たりの乾物収量は1.0〜1.2t程度の場合が多く、乾物当たりTDNは58%前後、TDN1kg当たりの生産コストは60円前後が一般的です。品質向上や低コスト対策も必要ですが、生産者と利用者へ助成金もあって、拡大・定着が期待されます。
 
おわりに

 自給飼料生産を行うことの利点は、経営条件にもよりますが、(1)良質・低コスト生産、(2)計画的な給与などによる、生乳や肥育モト牛、肥育牛の低コスト生産、の2点です。その結果、所得率および所得のアップによる経営改善、更に牛ふん尿の有効利用による環境対策にもつながります。 

 もちろん、流通乾草などよりも自給飼料のメリットを高めるには、良質(乾物当たりTDNは約60%以上)で安価(流通乾草はTDN1kg当たり60〜70円程度が一般的)が条件になります。そこで、TDN1kg当たり50円での生産を基準にし、40円を目標にします。つまり、TDN1kg当たり50円で生産するには、図−2のように10a当たり生産費用が3万円ならTDN収量は0.6t、そして、4万円なら0.8t、5万円なら1.0tが条件です。
 


図−2 単収と生産費用によるTDN1kg当たり生産コスト

(1995.飯田)

 もちろん、収量性によっても生産コストが左右されますが、表−10のように最近の全国優良事例のTDN1kg当たり生産コストは、30円前後、しかも、利用収量での評価もみられます。 

表−10 自給飼料の生産コスト(全国肉用牛経営発表会、2001年1月)


項   目 岐阜・O 大分・Y 鹿児島・Y 平均
10a・
一作当たり
資材費(万円)
機械費(万円)
労働費(万円)
その他(万円) 
0.43
0.46
2.11
0
0.53
0.69
0.65
0.01
0.48
0.41
0.63
0.73
0.48
0.52
1.13
0.25
合 計(万円) 3.00 1.88 2.25 2.38
生草収量(t)
TDN収量(t)
8.7
1.05
4.5
0.75
 4.8※
0.76
6.0
0.85
生草1kg生産費(円)
TDN1kg生産費(円)
作付け延べ面積(ha)
主要草種
3.5
29
2.9
(リ)
4.2
25
11.0
(混)(イ)(オ)
4.7
30
10.0
(ト)(イ)(ソ)
4.1
28
8.0
(イ)(ト)
(注) 1) その他には、借地料、賃料なども含む。
2) 草種の(リ)はリードカナリーグラス、(混)は混播牧草、(イ)はイタリアンライグラス、(オ)はオーチャードグラス、(ト)はトウモロコシ、(ソ)はソルガム。
3) ※は利用収量。
4) 関係者の協力による作表。

 鹿児島・Y事例の場合、黒毛和牛繁殖経営で、TDN自給率は65%、子牛1頭当たり生産原価は26.2万円、所得率は57%、労働力1人当たり年間所得は570万円のハイレベルです。この場合、自給飼料の低コスト・大量生産、サイレージ利用がベースで、5.1haの飼料畑のうち4.0haが借地です。つまり、水田転作や借地、それに、コントラクターなど地域条件を活用し、良質・低コストの自給飼料を生産することは経営改善・メリットの基本といえます。 

(筆者:フォレージ アドバイザー、中央畜産コンサルタント団非常勤団員)