咳・くしゃみ回数でわかる豚呼吸器感染症

仙 名 和 浩


 はじめに

 豚の呼吸器感染症は、今日の養豚経営にとって、重要な生産阻害要因となっています。したがって、養豚場ではなんらかの予防対策を行っていることと思います。豚の呼吸器感染症は、豚呼吸器複合感染(PRDC)という言葉があるように、複数の病原体による混合感染の状態にあることが一般的です。

 したがって、呼吸器感染症の予防対策を適切なものにするためには、農場で発生している疾病の種類や、どの時期に感染し発病しているかを知ることがたいせつです。そのために通常は、抗体検査や鼻汁中の細菌検査、と畜場に出荷した肥育豚の肺病変や鼻甲介骨病変の検査が行われています。

 しかし、これらの採材・検査は、専門の検査機関に依頼する必要があり、その費用も安くはありません。ですから、1つの農場が年に何回も受診するのは難しい状況にあります。そこで、咳・くしゃみ回数の計測でもっと簡易に呼吸器感染症発病の状況や疾病対策の効果を判定できる手法について紹介します。

 咳・くしゃみ回数の計測法

用意するもの

 10分間を計測できるタイマー、数取り器2個(なければメモ用紙に正の字で記入)、メモ用紙、筆記具、電卓またはパソコン。

計測法

 毎月1回、可能であれば2回、一定の時間帯に行います。時間帯の目安は、管理作業が一段落し、豚が落着いた時間帯とします。後で紹介する調査例では、午前11時から午後4時の間で、農場ごとに一定になるようにしました。

 計測は、豚舎に人が入ったときの豚の騒ぎが落着いてから10分間行い、聞こえた咳・くしゃみの全回数をそれぞれに記録します。仮に1頭の豚が「コホ、コホ、コホ」と続けて咳をした場合は、3回と計測します。次に、豚の在庫頭数を数え、100頭当たりの回数を求めます(次式)。

咳またはくしゃみの総数÷在庫頭数×100=咳またはくしゃみ回数

計測時の注意点

 給餌直後など豚の行動が活発な時間帯は、さまざまな騒音が豚舎内で発生しているため、咳・くしゃみを聞取るのが困難です。また、面積の大きな豚舎では、豚舎全体の咳・くしゃみ回数を1回で計測するのが難しいことがあります。

 その場合は、計測場所を2カ所とし、2回の計測値を合計します。頭数の目安としては、離乳豚舎では600頭以上、肥育豚舎では400頭以上の豚舎は、2カ所以上で計測をした方がよいでしょう。

 計測の長さは長いほど精度は良くなります。特に咳は、同じ豚が連続して発することが多いため、計測時間を短くすると値は大きくばらついてしまいます。しかし、豚舎内で作業をすることなく、咳・くしゃみの数をじっと計測するのはなかなか大変なことです。そこで、精度と作業性を考えて、計測時間は10分間としています。

 呼吸器感染症浸潤の実態と咳・くしゃみ回数

 次に、「咳・くしゃみ回数が呼吸器感染症の実態をどのように表しているのか」を知るために実施した、北海道内の8養豚場における調査成績を紹介します。

 咳・くしゃみ回数は、各養豚場の離乳豚舎(離乳から体重30kg程度まで)、肥育前期豚舎(体重60kg程度まで)、肥育後期豚舎(と畜場出荷まで)で計測しました。なお、肥育前期・後期の区分のない農場の肥育豚舎は、すべて肥育後期としました。調査農場は、浸潤している呼吸器感染症の病原の数により、陰性農場、低汚染農場、高汚染農場に分類しました(表−1)。そして計測した結果を図−1に示しました。

表−1 呼吸器感染症病原の浸潤状況

農場 PRRSv Mhp App Pm+ Pm− Bb Hps 分類
A 高汚染
B 低汚染
C 高汚染
D 高汚染
E 低汚染
F 陰性
G 陰性
H 低汚染
PRRSv:豚繁殖呼吸障害症候群ウィルス、Mhp:マイコプラズマ・ハイオニューモニエ、App:アクチノバチルス・プルロニューモニエ、Pm+:毒素産生性パスツレラ・マルトシダ、Pm-:毒素非産生性パスツレラ・マルトシダ、Bb:ボルデテラ・ブロンキセプチカ、Hps:ヘモフィルス・パラスイス

図−1 農場の清浄度と発育ステージによる咳・くしゃみ回数の変化

咳回数

 今回調査した病原のうち、豚繁殖呼吸障害症候群ウィルス、マイコプラズマ・ハイオニューモニエ、アクチノバチルス・プルロニューモニエ、そしてパスツレラ・マルトシダが咳と関連のある病原と考えられます。

 図−1から読みとれるように、これらの病原の浸潤数が増えると、つまり陰性→低汚染→高汚染の順に咳回数は増加しました。そして、発育が進むにつれても咳は増え、高汚染農場の肥育後期豚舎では著しく高い値となっています。

 この結果から、呼吸器感染症の浸潤のある農場では、病原の浸潤数の推測や発病程度の指標として咳回数が利用可能と考えられました。

 今回の調査から、呼吸器感染症の病原の浸潤が認められない陰性農場では、ほとんど咳が観察されないことが明らかとなりました。このことから、SPF豚農場などの清浄度が高い農場では、農場になかった病原の新たな浸潤をチェックする方法として、咳回数の計測は有効であると考えられました。

くしゃみ回数

 次はくしゃみ回数についてです。くしゃみには、パスツレラ・マルトシダやボルデテラ・ブロンキセプチカが関連すると考えられます。両病原が浸潤することにより(低汚染および高汚染農場)、くしゃみ回数が増加することが確かめられました。咳と異なり、くしゃみは離乳豚舎で多く、発育とともに減少しました。また陰性農場の豚でも観察されました。

 豚の鼻汁からは、パスツレラ・マルトシダなどの病原菌ばかりでなく、病原性のない常在菌も分離されます。恐らく、これらの細菌が子豚期に初めて感染することが多いため、離乳豚舎のくしゃみ回数が多いと考えられます。

 このほかに、飼料の粒が細かいことや、豚舎温度を上げるために換気不足となりアンモニアなどによって刺激されることも原因として考えられます。

 以上のことから、くしゃみ回数についても、いくつかの病原の有無や、その感染の程度を示す指標として利用可能であることが示されました。

咳回数による呼吸器感染症対策の効果判定

 これまで述べたように、咳・くしゃみ回数の計測は、農場の呼吸器感染症の実態を知る有効な手法であることが明らかとなりました。そこで、呼吸器感染症対策の実施前後に、咳回数を計測することにより、対策の効果判定に利用可能かどうか検討しました。

 図−2に呼吸器感染症対策として、マイコプラズマ肺炎不活化ワクチンの接種を開始した後、肥育後期豚舎の咳回数がどのように推移するかを調査した事例を示しました。豚舎内の肥育豚がすべてワクチン接種豚となった平成11年3月以降、咳回数が減少すると同時に、と畜場出荷豚の肺廃棄率も減少し、ワクチンの効果が確認されました。このように、咳回数は呼吸器感染症対策の効果判定に用いることも出来ます。

図−2 H農場肥育後期豚舎の咳回数と畜場での肺廃棄率の推移

※矢印以降全頭MPS不活化ワクチン接種済みSEPおよび胸膜炎は肺の廃棄理由

 咳・くしゃみ回数の指標

 咳・くしゃみは、それだけでは特定の疾病を診断することはできません。しかし、これまで述べたように、一定の方法で定期的に計測・数値化することにより、呼吸器感染症の実態を把握する方法として役立つのです。皆さんが実際に計測したときの指標となるように、先ほどの8養豚場の調査結果をもとに、陰性農場と陽性農場(低汚染+高汚染)について、咳・くしゃみ回数の目安を表−2に示しました。

表−2 咳・くしゃみ回数の目安

症状 陰・陽性 程度 離乳 肥育前期 肥育後期
陽性 多 い 12.3 15.5 32.4
農場 平 均 3.2 6.4 13.7
少ない 0.0 1.2 2.9
陰性 多 い 1.2 0.0 0.1
農場 平 均 0.3 0.0 0.0
少ない 0.0 0.0 0.0
くしゃみ 陽性 多 い 28.7 20.9 13.2
農場 平 均 17.6 10.4 7.5
少ない 9.2 3.5 3.4
陰性 多 い 11.0 2.7 2.1
農場 平 均 4.2 1.9 0.6
少ない 0.6 1.3 0.0
(注)回数は/100頭/10分間で表示。

 咳・くしゃみ回数の計測は、毎日の管理作業の中で少しの時間を割くことによって、簡単に行えます。まず、実際に計測してみてください。

 なによりも自分の農場の実態を数値化して実感することがたいせつです。計測した結果の解釈や、呼吸器感染症の予防対策の組立てに際しては、必要に応じて獣医師のアドバイスを受けると良いでしょう。

(筆者:北海道立畜産試験場・畜産工学部感染予防科)