大家畜経営の自給飼料戦略(I)

 

飯 田 克 実

 はじめに

 大家畜経営の場合、生乳をはじめ肥育牛や肥育モト牛の販売単価アップが困難な状況にある現在、生産コストのダウンによる所得率の向上に加えて、多頭化によるスケールメリットなどが経営展開の基本条件となります。もちろん、水田転作や荒廃畑などの有効利用、更に、環境対策としての牛ふん尿利用は、自給飼料生産の役割を担う面からも各地で注目、期待されています。

 生産費のうち、飼料費の占める割合は、全国平均で酪農が約40%、肉用牛が約35%(うち、乳用おす肥育は約50%)となっています。しかも、流通飼料費の占める割合は平均で酪農が約77%、肉用牛繁殖が約45%、肥育に至っては98%も占めています。それだけに、飼料対策によるコストダウンは経営を大きく左右する場合が多く、特に自給飼料は良質・低コスト生産、そして効果的な給与がポイントになります。

 もちろん、経営条件によって改善の対応などは変わりますが、積極的で計画的な自給飼料生産がベースになる場合も多く、特に昨年からスタートした「飼料増産運動」の活用や推進は期待が大きいといえます。そこで、先進事例の自給飼料対策などに学び、地域との共存をベースにメリットを高める具体的な方策、特に環境対策、所得率や年間所得のアップなどの新しい展開が必要です。

 1.先進事例の自給飼料生産

 畜産関係団体などが毎年、酪農や肉用牛経営を主体に「全国経営発表会」を開いていますが、優良事例の発表は大家畜経営のレベルアップに向けての役割も大きいようです。特に酪農と肉用牛繁殖の場合では、自給飼料生産に積極的なケースが多く見受けられます。経営によっては放牧利用を加えていますが、通年サイレージをベースにした計画的な生産と利用で経営の展開を図り、メリットを高めている事例が多くみられます。

 これらの事例では、TDN1kg当たりの生産コストは表−1のように20〜65円で、平均は41円となっています。流通乾草などよりも明らかに安く、約半値が主体です。一方、約10年前は表−2のように平均で52円となっており、最近は生産者の努力によって約25%のコストダウンが図られています。しかし、単収や作業条件などによって生産性の差が大きく、表−3のように大型機械の利用方法、特に、年間の作業量や償却負担の軽減対策がポイントになります。

表−1 先進事例での自給飼料のTDN1kg当たり生産コスト

(酪農・肉用牛経営全国発表会、1992〜1996年)
部 門 20〜29円 30〜39円 40〜49円 50〜59円 60〜69円 事例合計 コスト平均
酪 農
肉用牛
2
4
2
7
10
3
3
3
2
0
19
17
44円
37
合計(平均) 6 9 13 6 2 36 (41円)
割合(%) [17] [25] [36] [17] [5]
(注) 1)数字は事例数(飯田集計)。
  2)最低は20円(肉用牛)、最高は65円(酪農)。

表−2 自給飼料のTDN1kg当たり生産コスト

(先進農家、1990、中畜調査・累計)
部 門 25円以下 26〜50円 51〜75円 76〜100円 100円以上 合 計 TDN1kg
生産コスト
繁 殖 17 28 18 9 3 75 50円
肥 育 3 17 14 7 4 45 52円
酪 農 5 29 14 15 3 66 53円
合 計 25 74 46 31 10 186 (52円)
比率(%) (13) (40) (25) (17) (5) (100)
(注)数字は事例数で( )は平均。

表−3 大型機械の利用方法と飼料生産

(混播牧草、ロールベール・ラップ方式)
項    目 宮城・K事例 岡山・M事例
所有・作業方法 2戸・5戸 個人
作付面積(ha) 16.5 11.5
10
a


生草収量(t) 4.6 5.5
TDN収量(t) 0.79 0.84
労働時間(hr) 3.5 8.3
生産費用(万円) 3.2 5.5




資材費(万円) 1.0 1.9
労働費(万円) 0.3 0.7
減価償却(万円) 1.0 2.7
修繕費(万円) 0.6 0.2
その他(万円) 0.3 0
生草1kg生産費(円) 7.0 10.0
TDN1kg生産費(円) 41 65
(注)中畜全国発表会資料を集計・整理(1993年、酪農経営)。

 もちろん、TDN自給率は経営条件による差で大きいですが、最近(約10ヵ年)の平均では酪農が約37%、肉用牛の繁殖が約56%、そして肥育が約8%です。一方、所得率は酪農が36%、繁殖が56%、肥育が22%で、いずれの事例でもTDN自給率が高いほど所得率はアップしています。そして酪農の乳飼比の平均は36%で、TDN自給率が高いほど乳飼比の低下による経営の安定化が共通的です(労働力1人当たり年間所得の平均は、酪農が約560万円、肉用牛の繁殖は約450万円、肥育が約750万円)。

 最近は個別作業に加えて、大型機械での共同作業、コントラクターへの作業委託も各地でみられます。表−3の宮城・K事例のように、大型機械の共同所有、そして共同作業は個別対応の約2倍の能率で、償却も約40%となっています。その結果、TDN1kg当たり41円の低コスト生産を実現しています。しかし、岡山・M事例は65円で、自給飼料を多給しても生乳1kg当たり生産原価は73円です。つまり、自給飼料を多給するほど生産コストが問題となり、低コスト・良質生産が自給飼料生産の基本であるといえます。

 一方、表−4の宮崎・H事例は、繁殖雌牛(黒毛和種)が39頭の経営ですが、自給飼料生産は地区の酪農家7戸、それに1戸の肥育農家との共同作業をベースにしています。大型機械の共同利用や栽培技術の交流もあって、TDN1kg当たりの生産コストは39円、そして、TDN自給率は72%(通年サイレージ利用)。子牛1頭当たり生産原価は28万円、所得率は58%で、自給飼料が経営を支えています。

表−4 肉用牛・酪農の共同作業および作業委託での自給飼料生産

(肉用牛・繁殖経営)
項    目 宮崎・H事例 大分・S事例
全体 10a当たり 全体 10a当たり
作付け延面積(ha) 9.5 1.4
利用生草収量(t) 441 4.64 76 5.40
TDN収量(t) 64 0.67 13 0.92
資材費(万円) 87 0.92 18 1.29
労働費(万円) 68 0.72 13 0.95
償却費(万円) 66 0.69 4 0.29
作業委託料(万円) 0 0 10 0.71
その他(万円) 30 0.31 2 0.11
費用合計(万円) 251 2.64 47 3.35
TDN1kg費用(円) 39 39 36 36
作 業 方 式 酪農と共同・受託 収穫など委託
主 要 草 種 (ト)+(ソ)、(イ) (ト)、(イ)
(注)
  1. その他には借地料、貸借料などを含む。
  2. 草種の(ト)+(ソ)はトウモロコシとソルガムの混播、(ト)はトウモロコシ、(イ)はイタリアンライグラス。

 表−4の大分・S事例の場合、30頭の繁殖雌牛(黒毛和種)を飼養していますが、トウモロコシの収穫作業が大変なため、近所の酪農家に作業を委託しています。委託料金を加えても表−4のように、TDN1kg当たり36円の低コストで約76tのサイレージを確保しています。夏期は共同牧野への放牧をベースにしていることもあって、子牛1頭当たりの生産原価は18.7万円、成雌牛1頭当たりの購入飼料費は6.4万円で、その結果、所得率は約68%のハイレベルとなっています。

 表−5の肉用牛肥育の福岡・U事例の場合、365頭の黒毛和種の肥育専業(労働力は5人)で、2.2haの借地を加え9.3ha(夏作と冬作を加え延べ面積は13.8ha)の自給飼料生産、そして、大型機械での高能率作業で全量をサイレージ生産し、肥育前期を重点に計画的な給与をしています。TDNは1kg当たり生産コストが43円、自給率は17%、そして、肥育牛のDGは0.77kg、肉質格付4等級以上は61%で、事故率は0.5%と低く、所得率は約18%です。

表−5 自給飼料の生産コスト(肉用牛経営、1998年)

(肉用牛・繁殖経営)
項   目 福岡・U 鹿児島・N 平 均
1a
一作当たり
資材費(万円) 0.49 0.94 0.72
機械費(万円) 2.02 0.85 1.43
労働費(万円) 0.90 0.63 0.77
その他(万円) 0.55 0.76 0.65
合計(万円) 3.96 3.18 3.57
生草収量(t) 5.6 7.1 6.3
TDN収量(t) 0.92 1.38 1.15
生草1kg生産費(円) 7.1 4.5 5.8
TDN1kg生産費(円) 43 23 33
作付け延べ面積(ha) 13.8 13.0 13.4
主要草種 ソ、イ、ム ロ、イ ソ、イ、ム、ロ
(注)
  1. U事例は肥育で稲ワラを含めるとTDN1kg当たり32円。
    N事例は繁殖で、ブロック発表。
  2. 草種のソはソルガム、イはイタリアンライグラス、ムは大麦、ロはローズグラス。

 大家畜経営の自給飼料生産は、牛ふん尿の有効利用、生産性(多収・低コストなど)に加え、品質など多面的な対応が各地でみられます。もちろん、低コスト生産のための安定多収をベースに、利用率のアップ、TMR給与など、経営条件を活用した計画的な生産と利用が、先進事例の共通性といえます。

 2.経営改善を左右する生産性と利用率

 単収が多い、つまり10a当たり生草で7tの収量といっても、草種や刈取り時期などで乾物率が大きく変わることは当たり前です。特に、サイレージ用トウモロコシの場合の乾物率は、一般的には乳熟期が20%前後、糊熟期は25%程度、そして黄熟期が30%前後です。つまり10a当たりの生草収量が同じ5tでも、乾物収量は1.00t、1.25t、1.50tと変わります。しかも乳熟期の生草収量7tは乾物で1.4t、黄熟期の生草6tは乾物で1.8tですから、乾物での評価が基本となります。

 トウモロコシサイレージの乾物当たりTDNは、65〜70%と高いので、代表的な高品質粗飼料です。しかし、生草での評価は見かけであって、乾物をベースにします。もちろん、消化性などからTDNがポイントで、NE(正味エネルギー)での評価も必要です。つまり、飼料価値の評価は多面的な側面もありますが、当面はTDN(可消化養分総量)をベースにした評価が必要です。

 当然ながら牧草などの場合、出穂期を過ぎると硬化現象などによって消化率の低下が大きいので、乾物ではなくTDNでの比較・評価が基本となります。しかも、硝酸態窒素やミネラルの含有率も品質評価として重要です。特に牛ふん尿の多用によって品質の低下も大きく、TMRなど給与方法の改善が有効利用の条件になる場合もみられます。

 一方、収量性の評価は生育や収穫量ではなく、利用量が問題です。一般的には生育量の約70%、収穫量の約80%を目標にロス防止が必要です。つまり生育の旺盛に加え作業や調製ロスを少なくすることが利用率アップのポイントで、実質的なコストダウンになります。

 つまり、生産性を向上して有利性を高めるには、TDNの多収をベースに利用率の向上が必要で、サイレージなどの調製や利用技術のレベルアップも条件になります。一般的には生育量の20%をロスとして取扱うのが適当で、実質的には20%のコストアップでも評価できる自給飼料生産といえます。そして大量確保がポイントで、コスト高や低品質では経営改善の役割は期待できません。

 「作ればよい飼料生産」ではなく、「経営にプラスの大きいエサ作り」がキーポイントで、特に年間の給与計画による作付けと品質のレベルアップ、そしてTDN1kg当たり40円程度を目標に50円以内での計画的な生産は、メリットを拡大・アップすることができます。

 多収穫一辺倒、特に生草や乾物の多収に代わって、良質生産、つまり乾物当たりTDNが65%程度が目標となり、約60%以上での省力多収が必要です。そこで、草種や刈取り時期など作業が問題で、大型機械での高能率作業が条件になります。もちろん適期・適作業をベースにしますが、牧草地・飼料畑の大区画化(1〜5ha程度)、水田転作は圃地化と排水対策など生産基盤の整備も、生産性向上の条件として重要です。

 多頭化に対応する労働力対策として、自給飼料生産をコントラクターなどへ作業委託するケースもみられますが、経営全体としてみた場合、評価できる場合が多いようです。特に労働力対策や牛ふん尿の有効利用、更に大型機械への投資面などからも作業委託が必要な場合も多く、農協が対応するケースなどでは地域としてメリットが大きいといえます。コントラクターと条件などについての話合い、それに、具体的な作業展開は、大家畜経営と地域の発展のカギを握る場合も多く、農作業の一部、それに、経営としての評価も必要です。

 この場合、良質・低コスト生産、そして利用率のアップを条件に、地域としての協力や評価などがポイントです。つまり、大家畜経営の飼料生産は、生産性のアップに加え、ロス防止と良質を重点に、全体としてメリットを高めることができます。

 もちろん、適期収穫などのためには、計画的な栽培、特に草種とともに早晩生の品種の組合せなども必要です。つまり地域全体としてメリットを高める条件を検討し、生産性などを高めプラス面を増大します。しかもコントラクター主体の場合など、大型機械の移動が相対的に少ない計画的な栽培が、作業能率のアップによるコストダウンに必要となります。

 3.良質・低コスト生産の条件

 栽培技術のレベルアップに加え、大型機械による高能率作業が条件と分かっていても、乳牛や肉用牛の飼養規模拡大とのバランスもあって、個人対応だけでの飼料生産は労力的に大変な場合が一般的です。特に作業能率のアップには牧草地や飼料畑の団地化や区画の拡大が条件で、府県でも交換耕作などによる1ha以上の団地化が推進されています。そして大型機械の利用で10a当たり作業時間が半分程度に削減できた事例も各地でみられます。

 もちろん、草種や品種の特性を生かすことも条件です。一般的には牧草が出穂期前後、トウモロコシなどホールクロップ利用は黄熟期の刈取りが基本で、当然良質・多収がポイントになります。そして地域の気象特性などを活用し、都道府県の奨励品種を参考にして、経営条件、作業適期や労力対策などから計画的な栽培を基本にします。

 この場合、牛ふん尿の有効利用が必要で、一般的には10a当たり生草収量の計画が5tのとき、牛ふん尿も約5t、そして、生草が7tのときは牛ふん尿も7t施用を目安にします。この場合、硝酸態窒素の増加による品質低下は、悪天候、日照不足でなければ心配はないようです。そこで安定多収と良質、牛ふん尿の有効利用から、サイレージ用トウモロコシに注目しています。細断型ロールベーラーの開発などもあって、経営全体としてトウモロコシ栽培の再評価も必要でしょう。

 最近は、牧草・長大作物も消化性のよい新品種のほか受光体制のよいアップライトリーフ(葉身直立型)なども増え、栽培条件を生かした品種の活用がみられます。特に、作業性や品質などから、刈取りの適期幅が大きい晩生種栽培は有利性の高い事例が増えています。そこで、地域や条件によって草種や品種の特性を生かすことも必要で、特に長大作物の収量性とともに品質からの評価も重要です。

 一方、低コスト生産には大型機械の償却負担がポイントで、年間の作業面積によって大きく左右されます。そこで、共同所有より共同作業が基本で、特に表−3の宮城・K事例のように酪農家の共同、それに表−4の宮崎・H事例のように肉用牛農家と酪農家の協力なども必要です。もちろん、経営条件によって草種や利用法は変わっても、良質・低コスト生産の条件は同じです。そこで、じゅうぶんな話合いで計画的に栽培すれば、自給飼料生産のメリットを大幅にアップできます。

 この場合、TDN1kg当たり40円での生産を目標に、当面は50円以内での生産、特に、利用量としての評価、それに、乾物当たりのTDNは60%台をクリアすることがメリットを高める条件です。そこで、自給飼料生産は個別よりも共同作業をベースに、条件によってはコントラクターへの作業委託についても計画的で積極的な対応が必要です。

 もちろん、大型機械での高能率・適期作業による良質・低コスト生産の場合、サイレージ利用が基本になります。そして条件によってはロールベール・ラップ方式をベースにしますが、共同作業やコントラクター方式の場合、TMR給与などには固定サイロの利用も加え、バランスがよくロスの少ない給与に役立てます。そして表−6の事例などのように、10a・1作当たり収量は生草で約5t、TDNで0.7t程度、そして、TDN1kg当たり35円前後(30〜40円)、つまり、多収よりも低コスト生産を重点にするのが、自給飼料の有利性を高めることになります。

表−6 自給飼料の生産コスト

(全国発表事例、1995年)
項   目 酪    農 肉 用 牛 平 均
鹿児島・O 山形・H 鹿児島・N 宮崎・F
10a
一作当たり
資材費(万円) 0.60 1.57 0.28 0.20 0.66
機械費(万円) 0.65 1.55 1.02 0.22 0.86
労働費(万円) 0.72 0.82 0.42 0.24 0.55
その他(万円) 0.62 0.39 0.76 0.48 0.56
合計(万円) 2.59 4.33 2.48 1.14 2.63
生草収量(t) 5.5 6.9 4.5 3.9 5.2
TDN収量(t) 0.62 1.09 0.80 0.42 0.73
生草1kg生産費(円) 4.7 6.3 5.6 2.9 4.9
TDN1kg生産費(円) 42 39 31 27 35
作付け延べ面積(ha) 20.2 14.0 14.4 2.8 12.8
主要草種 (ト)(イ)(ロ) (ト) (ト) (イ) (ト)(イ)
(注)草種の(ト)はトウモロコシ、(イ)はイタリアンライグラス、(ロ)はローズグラス

 牧草地や飼料畑の拡大とともに、草種や早晩生など品種の組合せが良質・高能率生産の条件になります。しかし、大型機械での収穫作業など「計画的な栽培」がポイントです。そこで、生産性や年間の作業計画のチェックが重要で、労力配分や牛ふん尿の利用計画なども必要です。具体的な検討と改善計画、そして実践することが“良質・低コスト生産”の基本で、経営のレベルアップのポイントです。そこで、生産コストや品質のチェック、そして具体的な改善対策と結果が重要です。

(次号につづく)

(筆者:フォレージ アドバイザー、中央畜産コンサルタント団非常勤団員)