粕類を上手に利用するためのサイレージ化技術

 

今 井 明 夫

 
 はじめに

 食品関連産業から産出する各種粕類は家畜飼料として利用価値の高いものが多くあります。しかし畜産農家の経営規模の拡大と食品産業の製造システムの変化に加えて、輸入飼料が安価に入手できるようになって粕類利用のメリットが小さくなり、産業廃棄物として厄介者扱いされることが多くなっています。2001年から食品リサイクル法が施行され、飼料としての利用を推進することが緊急の課題になってきました。

 近年、酪農を中心に混合飼料給与方式(TMR)が広がりつつある中で、地域内で安価に入手できる飼料資源として各種粕類が再び注目されるようになってきました。酪農では地域ごとに共同して運営する飼料配合センター(TMRセンター)が各地に設立されており、また大規模な肉用牛肥育農場では、生産費の40%を占める飼料費の低減のために、自家配合飼料の原料として粕類などの副産物利用が始まっています。 

 主な粕類の産出量は表−1のようにビール粕が100万t、トウフ粕が70万tと多く、ついでウイスキー粕や醤油粕が主なところです。 

表−1 主な粕類の産出量(中央畜産会 1996)


副産物 年間発生量(t) 水分(%)
ビール粕 998,207 74
ウィスキー粕 279,887 76
ジュース粕 116,004 80
トウフ粕 704,046 79
醤油粕 90,671 30
 サイレージ化の意義と粕類のサイレージ適性

 水分の高い粕類を利用する場合、乾燥処理をしたものがもっとも安定した品質で給与することができます。しかし、そのための設備投資額と燃料費等ランニングコストを飼料代金として回収することは困難です。K社のビール粕の処理別発生量をみると、1989年までは、そのほとんどが生粕利用でしたが、1997年には50%が脱水サイレージとして流通し、乾燥処理と生粕利用が各15%、その他20%であることからも、乾燥処理のコスト負担が大きいことを示しています。

 また豆腐業界ではトウフ粕の処理が経営を左右するくらいに重要な課題になっています。業界の専門誌によれば乾燥処理のコストは、乾燥物1kg当たり50円以上となり、生粕を廃棄物処理業者に引取ってもらう経費は1t当たり1万円以上となっています。 

 したがって、地域に畜産の受け皿が存在する場合には、高水分のままサイレージ化して利用することにより、大きな経済的メリットが得られます。地域にTMRセンターがある場合には給与する家畜に合った配合設計でウェットタイプの粕混合飼料として利用することができます。 

 一般にサイレージ調製の基本的条件は、(1)新鮮な材料、(2)適度な水分、(3)適量の糖分、(4)早期密封処理する…の4つといわれています。粕類を利用したサイレージ調製の基本的条件でも粕類がもっているサイレージ適性が重要となります。図−1のように粕類のサイレージ適性を整理した資料があります。5角形の近い方がサイレージを作りやすいことを示しています。トウフ粕やビール粕は糖含量が低く、またトウフ粕の乳酸緩衝能は大きいようです。ジュース粕はサイレージを作りやすい材料ですが、水分が極めて高いのが難点です。(表−2

図−1 主な粕類のサイレージ適性(原図:石黒裕敏 1994)


WSC:可溶性糖類

表−2 サイレージ化に適する材料の評価


(原図:石黒裕敏 1994)
5 4 3 2 1
WSC(%DM) 〜20 19-14 13-08 07-02 001〜
乳酸緩衝量(mg%/DM) 〜10 11-60 61-110 111-16 161〜
乳酸緩衝量/WSC 03 04-09 10-15 16-21 022〜
pH 〜4.2 4.3-4.8 4.9-5.4 5.5-6.0 6.1〜
乳酸菌(CFU/gFM) 〜105 105-104 104-103 103-102 102
WSC:可溶性糖類
 代表的な粕類のサイレージ化技術

(1)ビール粕と発泡酒粕

 ビール工場では高能力脱水機によって水分を65%程度まで減少させたビール粕に、乳酸菌と糖原料を加え、内袋付きトランスバッグに詰めて脱気後密封します。輸送中および給与までの間に乳酸発酵がすすみます。 

 ビール業界では低価格の発泡酒の販売が急速に伸びてきました。発泡酒は麦以外の米、トウモロコシ、マイロなどの副材料を原料の75%近く使用しているため、発泡酒粕には可溶性糖類が残っていてサイレージ発酵に適していると思われます。 

 近年全国で増えている地ビールの工場では脱水機や袋詰め設備を持っていないところが多く、ビール粕の処分が問題となっていますが、後述するプラスチックドラム缶を利用する保存方法が手軽な方法です。 

(2)トウフ粕

 中央畜産会の調査によると中規模以上の工場のトウフ粕は75%が飼料用に回っているとされていますが、その扱いの50%は回収業者任せであり、工場に保管施設があったとしても開放系の一時保管庫にすぎないようです。したがって好気的変敗が起きやすく、安定した品質で利用するには問題があります。 

 トウフ粕もビール粕と同様に早期密封が基本です。新潟県畜産研究センターではトウフ粕の微生物調査の結果(図−2)から、工場から排出後2〜3時間後には好気性菌の著しい増加がみられることから、利用農家へ配送した後でサイロ詰めをするのは危険であり、あらかじめ、工場で密封処理することを勧めています。ただし、排出直後の高温状態では乳酸菌の付着が不良となる可能性があり、30℃以下になってから容器に入れる方がよいでしょう。 

図−2 トウフ粕の保存と微生物相の変化(新潟畜研 1995)


(3)果実ジュース粕

 全国でミカンジュース粕は約8万t、リンゴジュース粕は約3万tが産出すると推定されています。生産地と製造する季節が限定的ではありますが、前述のように乳酸発酵に適した材料であり、フスマやビートパルプ等水分調整を兼ねた副材料を添加してサイレージ化することが一般的に勧められます。 

(4)醤油粕

 醤油粕の水分はおよそ30%で、まとまった量を年間を通して入手でき、そして、短期保存も容易なことから今後利用を考えたいものです。しかし、醤油粕は塩分の多いことから給与上課題があります。醤油粕の乾燥や焼却の施設は塩分による損耗と悪臭や水質汚染などの問題が多く、業界では流通経費を負担しても飼料利用の道を求めている状況にあり、トウフ粕やビール粕の水分調整材として混合サイレージ化することでじゅうぶん活用できると思われます。 

(5)茶殻のサイレージ化

 茶類の飲み物が多くなって、各製造メーカーでは抽出後の茶殻の処理が問題となっていますが、これについても最近サイレージ化の研究が始められており、脱水茶殻に乳酸菌と繊維分解酵素を添加して良質なサイレージができ、蛋白質やカテキン、ビタミンが豊富であると報告されています。
 
 
 粕類サイレージの貯蔵と運搬の用具

(1)トランスバッグ

 ビール粕に代表されるように大量調製、流通にはトランスバッグが一般的です。飼料用バッグは内袋を使用して気密を保持することができ、フォークリフトで吊り上げたまま下部を開放して飼料混合機への投入作業を容易にすることも可能です。 

 地域の飼料配合センターなどでは一連の作業システムを設備していますが、乾燥物の飼料配合と異なり、一歩間違えば危険な変敗に至ることから作業ラインの構成は衛生管理面から適切な設計が必要です。 

(2)プラスチックドラム缶

 豆腐工場や小規模のビール工場、さらに脱水茶殻などは、回収業者を介して農家へ渡ってからサイロ詰めをするのでは変敗の危険性があります。工場で新鮮な材料をすばやく密封処理することが必要です。プラスチックドラム缶は軽量で腐食の心配がなく、使用のたびに水洗するだけでよいことから近距離で繰返し使用する保存容器として最適です。トウフ粕の入ったドラム缶の重量は130〜150kgとなり、移動や運搬には若干の用具を必要とします。トラックへの積込みには油圧式昇降機、軽量クレーン、フォークリフトが使用できます。ドラム缶に入っているトウフ粕を飼料混合機に投入するには油圧式の昇降反転機(写真−1)が市販されているので便利です。 

写真−1 ドラム缶サイロの昇降反転機(新潟畜研 1995)

(3)コンテナサイロ

 プラスチックドラム缶の欠点を補い、詰込みと取出しを容易にできるのが開口部の大きいコンテナサイロです。しかし空気と接触する危険性も大きいのでトウフ粕の表面に酢酸かクエン酸を少量散布し、さらにフスマや脱脂米ヌカを乗せてからシートで密閉するとカビの発生や変敗部分を少なくすることができます。重量が重くなるのでフォークリフトや大型の昇降機が必要です。
 
 
 粕類の飼料特性を理解して給与する

 粕類の多くは、食品原料から特定の成分を抜取った「残渣」なので、当然、栄養成分の組成は偏っています。しかし、これは逆に少量でさまざまな成分補正ができることにもなり、ビール粕、アルコール粕等に含まれる蛋白質はバイパス蛋白質の比率が高いため、使い方次第で高泌乳牛用飼料の材料として有効です。 

 ビール粕は粗剛な低消化性繊維を多く含むため、ある程度の粗飼料効果も期待できますが、ビール粕の繊維を有効に利用するためにはじゅうぶんな炭水化物の併給が必要となります。ルーメン内分解消失パターンは、粗飼料ペレットに類似しており、いずれの成分もじょじょに消失するために使いやすい飼料資源です。 

 デンプン粕やジュース粕等は蛋白質の少ないエネルギー飼料の特徴があることから、分解速度の早い高蛋白質飼料と併給するには好都合な飼料です。 

 トウフ粕の栄養成分は、高消化率の粗蛋白質・粗脂肪を含むことから高エネルギーかつ良質な蛋白質飼料といえます。また繊維成分は、粒度が小さいため粗飼料的な物理性は期待できません。トウフ粕の繊維のルーメン内分解消失パターンは濃厚飼料で構成された配合飼料に似ています。
 
 
 おわりに

 高水分粕類の利用では品質劣化の防止がもっとも重要です。ですから製造する食品工場と流通業者、飼料配合センター、利用農家のいずれにおいても必ず衛生的な品質管理に最大限の注意を払う必要があります。そうすることによって、飼料の低コスト化と家畜の生産性の向上を実現することができます。
 


(筆者:新潟県妙法育成牧場・場長)