これからの養豚経営を考える(II

鹿 熊 俊 明

第2章 コスト低減を目指して

 1.規模拡大はコストを下げる

 施設を整備拡充することによって規模拡大を進めることができ、大量購入などで物財費などの節減を図ることができます。飼養規模は、1頭当たり管理時間を大きく左右し、管理労働費に直接関係し、規模拡大すればコスト低減の大きな要因となります。

 表−5は、規模別作業別労働時間をまとめたものですが、肥育豚1頭当たりについて規模別にみると、100頭未満が9.86時間を要するのに対し、1000頭以上では2.16時間で、4.6倍の時間を要しています。小規模では家族労働力が中心ですが、大規模では雇用労働力であり、外国研修生であることもあり、労働費はかなり節減できます。

表−5 規模別作業別労働時間(肥育豚1頭当たり) 単位:時間

「農業経営統計調査 平成12年肥育豚生産費(114月〜123月)」

 労働時間の内訳けをみていくと、飼料給与時間などでは100頭未満は1000頭以上の7倍を要しており、敷料等搬出入では5.9倍ほどの差がみられます。

 規模別の肥育豚生産費をみると、表−6のようになります。規模別に費用の差異の大きいものは、労働費、流通飼料費、診療衛生費の順になっています。労働費は100頭未満では1万3329円、1,000頭以上は3093円で100頭未満の23%となっております。飼料費は、同様に1万7406円と1万4903円で85.6%となっています。

表−6 肥育豚生産費(肥育豚100kg当たり) 単位:円

「農業経営統計調査 平成12年肥育豚生産費(114月〜123月)」


 2.国際化に対応しうる生産性の向上

 遺伝的能力の高い種豚の選抜・利用を図る効率的な改良体制の整備が必要であるとされ、DNA解析等新技術の開発・利用を図ることが進められています。すでに肉質の優れた種豚選定やある種の豚肉の特定などにDNA診断が利用されています。

 精液保存技術等が進み、容易に人工授精ができるようになり、指定助成事業などの支援もあって、その普及と定着が進められています。

 改良増殖が整えば、枝肉の質と形態を斉一化して輸入物に対抗しなくてはなりません。

 SPF豚(特定病原菌不在豚)の生産方式が一部生産者によって進められていますが、この普及と定着により、診療衛生費、飼料費を節減し、生産コストを低減させることができるので、生産施設などの整備とあわせて考えられています。

 HACCP(Hazard Analysis Critical Contorol Point 危害度分析重要管理点)方式の考え方に基づく体系的な衛生管理手法の早期構築、生産衛生管理基準の策定などによって更に抗菌剤非依存型の飼養管理技術を確立する必要があります。

 防疫対策についても的確な情報の収集・提供体制の整備、情報に基づく効率的な自衛防疫体制を確立することが大きな課題になります。

 遺伝子操作トウモロコシの飼料問題、更なる飼料費の低減、予防衛生費の低減、施設建設費の低減など問題も多くあります。豚コレラ撲滅対策の推進は進められているものの、接種を継続しようという団体もあって、オールジャパンで豚コレラをフリーにするには、難しい状況にあるようです。また、多機能・省力型ワクチン等の開発などが課題としてあげられております。

 3.自然循環機能の維持増進

 食品廃棄物(食品製造副産物の未利用資源など)は、推定年間2000万tといわれていますが、利用率は低く、リサイクル率は極めて低く問題になっています。

 「食品循環資源の再利用等に関する法律」がこの4月から施行されましたが、初期の計画がスムーズに進むことを望んでやみません。未利用資源の効率的な豚への給与については、排出者、収集運搬・処理業者、自治体等関係者が一体となって分別収集、貯蔵、粉末乾燥、発酵処理などによる飼料化を推進していかねばなりません。

 リキッドフィーディング技術についてもマニュアル作成が急がれております。高水分の飼料を液状のままパイプラインを使って省力的に給与できる方法で、ビッグダッチマン方式ともいわれ、昔から利用されていました。同技術には、次のような特徴があります。

  1. 飼料摂取時のこぼれが少なくなる。
  2. 飼料の粉塵の減少により呼吸器病の発生が少なくなる。
  3. 夏場における豚の飼料摂取の減退が少なくなる。

……などの利点があります。

 食品残さの未利用資源利用による生産物は、貯蔵や処理に誤りがなければ、安全であり、品質・食味・安全性について問題のないことを消費者にアピールしなければなりません。

 次に、家畜ふん尿処理について、ある飼料メーカーの指導者は、「雇用労働力を持つような大規模経営では、経営主が自分でその労働力を使って施設をだんだん拡大したり、たい肥舎を設置できるが、家族労働だけの100頭ぐらいの一貫経営では、たい肥舎設置の労働力は捻出できない」と話します。

 「家畜排せつ物の適正化及び利用の促進化に関する法律」は、畜産業の健全な発展に資することを目的に作られた法律ですが、利用の促進を図るための「都道府県計画」を策定し、個人においては処理高度化の整備目標など、「処理高度化施設整備計画」を認定してもらわなければならなくなっています。

 そして農家は、欧州ですでに行われているたいきゅう肥出納簿のような、家畜排せつ物発生量、処理の方法および処理の方法別の数量についての記録を平成14年11月まで、家畜排せつ物処理施設や保管をする管理施設は16年11月までに設置しなければなりません。

 環境保全対策の投資は、飼養規模がある程度大きくないと難しく、小規模農場では廃業してしまおうかと考えているところもみられます。そこでは規模拡大をして、処理施設の設置を考えるか、小規模経営農家のための共同処理施設の設置が考えられます。

 共同利用施設は、市町村営から任意組合までいろいろな運営形態がありますが、順調に利益をあげているところはあまりないようです。

 たいきゅう肥や液肥などの生産物を滞りなく流通するには、野菜や豚肉と同じように川下(需要者)にいかにスムーズに運び、利用してもらうかが問題となります。利用する人がいなかったり、利用する人がめんどうくさがったりしたのでは、ふん詰まり状態になってしまいます。

 これらのことをスムーズに進めるために、「たい肥センター協議会」の設立、たい肥投入効果の実証展示などにより土づくりを推進し、「野積み」や「素堀り」を解消してたい肥化を進めようとしています。これらを推進するために畜産環境アドバイザーの養成、たい肥流通の促進、排せつ物処理技術の開発など多くの問題があり、畜産関係者の仕事量は大きく膨らんでいます。

 4.規模拡大に伴う技術は大丈夫か

 飼養規模が拡大するにつれ、飼料費などの流動費が多額となり、一時的な借入金依存率は高くなってきます。今日のように金利が最低水準にある時は、借入金利の負担による経営や生活を圧迫するケースは少ないと思われますが、大きな資金の融資に当たっては、元金返済と利子支払は年金現価係数表により、返済年数と金利の関係から年間どれほどの返済が可能であるかという視点で、借入金を決めるなど経営改善計画をじゅうぶんにチェックすることが肝要です。

 スケールメリットを求め、多頭化と省力化により収益増加が期待できますが、飼育技術などが未熟なためにあるいは技術を修得していないために、繁殖・肥育成績が増頭以前よりかえって悪くなり、生産性が低下しているケースもみられます。増頭計画や新技術・新飼養施設の導入に当たってはその技術水準、施設の利用計画と併せて従業員の技術と責任者の経営管理能力などをじゅうぶんに把握することが肝要です。必要に応じて研修なども実施すべきです。

 経営や技術指導は、地域所在の農業改良普及センター、農協および畜産会などが協力しているケースがみられます。これらの機関と接触して各種の情報を得るようにします。これらの機関は畜産の資金需要に関する各種資金制度にも対応しているので、資金需要についても相談できます。養豚経営は、制度資金への依存度が高いので、融資に当たっては制度資金の仕組みをじゅうぶんに理解しておくことが肝要です。

 農林漁業金融公庫では融資対象者を中心にして経営動向をみていますが、その資料を基に参考まで評点値を求めてみました。繁殖成績の悪かったところは、PRRS(呼吸器・生殖器症候群)などの感染を受けたところであり、良かったのはSPF豚(特定病原菌不在豚)飼養農家でした。

 経営改善計画が出された段階で、経営体が技術的にどの範疇にあるのか、その評価と改善目標が必要であり、その目安として5段階評価を表−7に示しました。この評価基準は、項目の平均値と標準偏差を基に算出しました。

表−7 平成9年度 養豚経営と技術についての統計値(農林漁業金融公庫)

平 均 最小値 最大値 標準偏差 I II III IV V 係数
1 経営者年齢 48.68 38.00 81.00 9.36            
2 専従者日役 703.54 300.00 1440.00 243.36            
3 母豚飼養数 99.78 19.00 350.00 61.79            
4 豚販売/母豚 645.60 455.72 894.88 103.19 〜490 〜590 〜700 〜800 3
5 飼料費/母豚 343.36 265.03 509.54 54.93            
6 1kg枝肉単価 439.40 345.49 625.44 48.69 〜370 〜415 〜460 〜510 2
7 養豚専業率 92.13 57.32 10.39 10.61            
8 豚費用/母豚 618.35 446.13 949.05 106.50            
9 豚粗益/母豚 191.03 7.74 439.12 85.05 〜65 〜150 〜230 〜320 3
10 農所得/母豚 86.94 −49.45 269.88 62.24            
11 借金計/母豚 422.20 10.00 1415.85 252.84 800〜 550〜 300〜 45〜 〜45 2
12 分娩回/母豚 2.16 1.90 2.60 0.14            
13 哺乳数/母豚 21.17 15.00 26.50 2.75            
14 出荷数/母豚 18.58 13.50 24.70 2.38 〜15 〜18 〜20 〜23 4
15 豚出荷日齢 188.45 150.00 212.60 13.20            
16 豚出荷体重 111.48 100.00 120.00 3.41            
17 枝肉上物率 58.05 20.00 80.30 12.11            
18 豚販売単価 32.80 25.00 45.00 3.55 〜27 〜31 〜35 〜38 3
19 肉豚餌単価 39.70 29.00 50.00 5.51 48〜 42〜 37〜 32〜 〜32 2
20 飼料要求率 3.10 2.35 3.95 0.35 3.6〜 3.3〜 2.9〜 2.6〜 〜2.6 1
単位  1:歳 2:家族労働 3、13、14:頭 4、5、8〜11、18:千円 6、19:円 7、17:% 12:回 15:日 16:kg
評点算出基礎  III:平均値±1/2標準偏差 II=IV:平均値±(1/2〜3/2)標準偏差 I=V:平均値±3/2標準偏差の以上か以下

評点×係数=得点 係数は1〜4の重み付けをした。評点が全Vであれば100点となる。

 養豚経営では優良事例とそうでない事例との技術格差はかなり大きいので、少なくとも標準的数値以上の技術水準であることが望ましいと思います。

 評点IIIで母豚1頭当たり肉豚販売額をみますと59〜70万円ですが、評点 I では49万円以下になっています。出荷頭数においても評点 I の15頭以下と評点IIIの18〜20頭と差がみられます。

 この評価法は、グループ内の成績が基になっているので、仲間の成績が良ければ評価基準が高くなるようになっています。

 5.技術はモト豚費を変える

 一貫経営における肉豚の生産費(図−1)は、肥育モト豚費と出荷までの管理費でほとんどが決まります。管理費の多くは、規模によって左右される飼料費や一般管理費になります。モト豚費の方が技術的な問題を抱えており、技術の差異が大きくみられます。生産費は産肉能力のほかに季節などの環境や性別なども関係要因となりますが、技術水準が問題となる肥育モト豚数の変動の方が大きく影響しています。

図−1 肉豚の費用構成

 このように肉豚生産の低コスト化の要因として、技術的に肥育モト豚費の削減があげられます。

 ほかにふん尿処理施設費とその管理費用などがあり、立地条件や規模・方法などによって差異が大きくみられますが、ここでは、技術格差から生ずる肥育モト豚の変動要因に焦点を当ててみたいと思います。

 肥育モト豚の生産費を簡単にみますと、年間モト豚生産頭数を分母におき、分子に年間生産費用をおくと大まかなモト畜の生産費が求められます。費用には、母豚になるまでの育成費用、授精費用、母豚の飼料、豚舎の償却費、金利など授精から分娩までの費用と分娩・保育から肉豚仕向けまでの費用や豚舎などの償却費などが含まれ、そのトータルは、それぞれの生産方式や経営規模によって、若干変動します。

 母豚1腹の管理費は、生産子豚が12頭でも25頭でも種付時から分娩時までの飼料費、豚舎などの償却費、水道光熱費、種付費、労働費や金利負担などほとんど変わりません。

モト豚原価 = 母豚償却費+授精料+飼料費+償却費等
離乳頭数(モト豚となりうる子豚)

 モト豚原価における被除数の費用に大きな差がないということになると、除数の生産頭数が大きく影響することになります。費用や生産頭数の期首・期末の棚卸しが正確でなければならないことはいうまでもありません。

 モト豚費を低減することに対してモト豚を1頭でも多く仕上げる技術は、なににもまして重要なことです。モト豚生産頭数を増大するには、防疫対策は欠くことのできない重要な業務の1つであることは周知のとおりです。

 受胎率向上や防疫対策は生産率をあげ、コストを低減させるための旗頭でもあることは、言うに及びません。適切な飼養管理や飼料単価・授精料などの費用削減はコスト低減の切札になることも、現在まで養豚を継続している農家は、多くの試行錯誤の上で体験済みでもあります。

生産数 = 365
115日+哺乳日数+受胎日数
×分娩頭数×仕上率

 母豚1頭当たりの年間肥育モト豚生産数は、(年間平均分娩回数×1産当たり平均分娩頭数×仕上率)となります。

 年間平均分娩回数は、〔(365日÷(在胎日数=115日+哺乳日数+受胎日数(離乳後受胎までの日数))〕で表されますが、平均分娩頭数と仕上率を大きくし、受胎日数と哺乳日数を少なくして分娩回数を大きくすることが生産頭数を大きくしてくれることになります。

 年間に分娩回数を2.5回転以上という指導指針がありますが、1回の種付けから離乳後の受胎まで146日(365日÷2.5)ということになります。

 生理的に必要な妊娠期間の115日と哺乳期間20日間を合わせると135日となり、残り11日間で離乳後に受胎するようにしなければならなくなります。

 全体の受胎率を80%として、1発情期20日間の20%の4〜5日を除くと、離乳後6〜7日で80%の離乳母豚に受胎をさせるということになります。

 このスケジュールは、大変な技術を要することであると思います。成績をあげるために育成繁殖豚を常に母豚の3割ほどを準備し、繁殖成績の悪いものから淘汰していく方法があります。

 分娩回数と年間肉豚出荷頭数の関係は、母豚1頭当たり年間平均分娩回数に平均出荷頭数を乗じたものが年間の出荷頭数になりますが、これらの関係を図−2に示しました。

図−2 母豚1頭当たり分娩回数と肉豚出荷頭数

(平成9年度)農林漁業金融公庫

出荷頭数/母豚
分娩回数/母豚=1.8464+0.01944×出荷頭数/母豚
相関:r=0.51692

 分娩回数が大きくても1腹当たり生産頭数が少ない場合には、当然のことながら年間生産頭数は少なくなり、図−2の相関係数はr=0.517となっています。母豚1頭当たり哺乳頭数と肉豚出荷頭数の間には r=0.726と分娩回数との関係より相関係数が高くなります。

 分娩回数の算出の基となる母豚繰入時期は明確にしておく必要があります。未経産豚は初回の授精から成豚としてみなすようにしなければなりません。

 成豚繰入を受胎確認後や分娩後などにしてごまかしてみてもみかけ上の成績がよく見えても、経営不振の解消や問題点の把握はできません。

(筆者:前農林漁業金融公庫・技術参与)