暖地における飼料イネなどによる自給飼料生産

佐 藤 健 次

はじめに

 草食家畜、特に大家畜を飼養する畜産経営において、安定的な自給飼料生産は健全な家畜生産の基本であり、更には経営の安定に寄与するたいせつな作業です。本年の3月に口蹄疫が発生し、輸入飼料依存型の畜産に警鐘を鳴らす事態となっています。これを契機に飼料、特に自給粗飼料の増産の機運が高まってきています。このことは、わが国の畜産を健全な方向に導いている「天の声」と思います。

 一方、新しい農業基本法に基づいて、水田農業経営の確立のために麦、大豆、飼料作物などの本格的生産が推進されています。飼料自給率の向上のために、畑地同様、水田で飼料作物を「本作」として生産することが求められています。これもわが国の畜産の発展にとってたいせつなことです。家畜のエサとして、わが国の伝統的な稲作栽培技術を応用できる「飼料イネ」が注目され、行政サイドや農協、普及サイド、国や県の研究機関などで多面的な取組みがなされています。

 ここでは、このような背景を考えながら、暖地における飼料イネなどによる自給飼料生産について紹介したいと思います。特に、暖地では飼料作物の周年作付けと利用ができますので、コントラクター(作業受託組織)の利用がたいせつになると考えられます。この視点からも紹介したいと思います。

従来型のエサ作りの基本

 暖地とは、厳密には九州・四国の中部以北が該当し、年平均気温はおおよそ14〜16℃のところですが、ここでは西南暖地(平均気温約16℃以上の九州の中部以南の平野部)も含めて考えます。この地域では夏期の高温・多雨・日照などの気象条件を生かして、飼料作物を周年栽培・利用することができます。

 図−1のように、中山間と平地ではほぼ一年を通じて栽培ができます。飼料作物を2〜3毛作の周年作付けや、水稲の裏作、あるいは冬野菜などとの輪作による夏期の飼料作物作付けなど、いろいろな栽培・利用ができます。

図−1 標高と土地利用時期別の飼料作物栽培の可能な条件

 暖地での基本的な作付体系は、トウモロコシやソルガムなどの長大飼料作物、暖地型牧草、栽培ヒエなどの夏作と、イタリアンライグラス、麦類などの冬作との組合せが一般的です。特に、夏作にトウモロコシやスーダングラス、冬作にイタリアンライグラスやエンバクを栽培する作付体系が多い傾向があります。これらの体系では、品種の選定や省力的な播種法の選択などがたいせつなポイントとなります。

 品種選定の考え方の参考のために、表−1に都府県向けトウモロコシ主要品種の特性をあげています。現在、数多くの品種を利用することができます。しかし、品種選定の基本は変わりません。比較的標高の高い中山間地では、寒冷地や温暖地の品種を上手に選ぶことも大事です。平地では、暖地向け品種で、しかも周年作付けの作業などを考えて、選ぶことがたいせつです。例えば、トウモロコシの播種では省力的な不耕起播種や部分耕播種を行い、前作物の収穫後に播種作業をすることができます。効率的な作業を考えて、適切な品種を上手に選ぶと良いといえます。

表−1 都府県向けトウモロコシ主要品種の特性

系統名 育 成 機 関 熟 期 耐 倒

伏 性

耐ごま

葉枯病

収量 雌穂

割合





備 考
NS105 ノースグロワーズシード 極早生    
P3699 パイオニア 早 生 や強    
ナスホマレ 草地試   茎葉消化性高
NS68 ノースグロワーズシード  
TX330 トライスラー や強 や高  
セシリア パイオニア 極強  
FFR747 F F R 中早生 や高 や高    
DK649 デカルブ 極強 や高    
Garst8388 ガースト 中生 や高  
EXP771 デカルブ  
G4742 チバ・ガイギー や高  
DK789 デカルブ 極高 極高  
XE1031 ゲン・コーポレイション や高 や高    
ゆめそだち 九州農試 極強 極強 極高 極高      
タチタカネ 中信農試 中生晩 極強    
はたゆたか 九州農試 極強 極強      
P3470 パイオニア 晩 生 極強 極強     晩播・
夏播き
専用
P3008 パイオニア 極強 極高    
G5431 チバ・ガイギー 極強    
DK623 デカルブ 早 生 極強 極強      
DK652 デカルブ 早生中 極強 強/極強 や高      
G4655 チバ・ガイギー 中 生 中/や強 極強 中/や低      

 作付体系の例として、表−2にはスーダングラス3体系ごとの主な作業体系を、表−3には体系ごとの収量を示しています。これは、当研究室の成果ですが、基本的な体系と考えます。すなわち、(1)エンバク+スーダングラス(3回利用)、(2)イタリアンライグラス+スーダングラス(2回利用)、(3)エンバク+トウモロコシ+スーダングラス(1回利用)の3体系です。ここでは、乳牛舎のスラリーの利用のために、スラリーインジェクターで土中注入を行っています。牛舎からのふん尿を有機質肥料として、土に戻し、家畜のエサである飼料作物を栽培しています。この体系では、表−3のように、年間の10a当り乾物生産量が2.5〜3.0t期待できます。省力的作業で生産量が多いと、低コストを実現できます。コツコツと生産することがたいせつだと考えます。

表−2 ス−ダングラス3体系ごとの主な作業体系

表−3 3体系における前作作物とス−ダングラスの乾物収量及び年間収量

前作作物 スーダングラス
播種法
前作収量
kg/10a
スーダングラス収量
kg/10a
年間収量
kg/10a
エンバク 部分耕
表面撹拌
945 1,765
1,961
2,710
2,906
イタリアン 部分耕
表面撹拌
1,277 1,187
1,342
2,464
2,619
トウモロコシ 部分耕 1,699 338 2,037(2,982)
注) 表面撹拌はロータリで5cmの深さで撹拌。
前作がトウモロコシ跡以外は2年間の平均。
カッコ内はトウモロコシの前作にエンバクを栽培し、収穫した場合の年間収量。

 写真−1に、作溝播種機(耕うん幅4cm、条間30cmで6条播種方式)の作業の状況を示しています。この機械は、播種装置がロール方式で、ギニアグラスの小粒種子からトウモロコシなどの大粒種子まで播種が可能な構造をもっています。現在、栽培法の研究中ですが、今後期待できる播種機といえます。これは稲の不耕起播種機なので、後で述べます、飼料イネの播種でも利用できます。このような播種機を利用して、コントラクターが地域内の合理的な播種作業を行うことも、飼料生産で重要になると考えます。

写真−1  作溝播種機での播種作業
耕うん幅4cm、条間30cmで6条播種方式。
トラクター前部に除草剤散布機がある。

最近注目されている飼料イネ栽培

 前述のように、飼料イネの栽培が急速な勢いで広がっています。飼料自給率の向上、日本の水田を守るという視点からも大事なことです。ここでは、飼料イネに関する研究的な情報を中心にお話します。

(1)飼料イネの品種は?

 育成品種では、1984年中国農業試験場(中国農試)育成のアケノホシ(中間型、晩生)、1986年北陸農業試験場(北陸農試)のアキチカラ(ジャポニカ、早生)、1987年中国農試のホシユタカ(中間型・長稈、極晩生)、1989年北陸農試のハバタキ(インディカ、早生)、1989年北陸農試のオオチカラ(ジャポニカ・大粒、早生)、1990年農業研究センター(農研センター)のタカナリ(インディカ、中生)、1993年東北農業試験場(東北農試)のふくひびき(インディカ、極早生)、1992年九州農業試験場(九州農試)の地方系統・西海203号(中間型)及び1984年埼玉県農業試験場育成のくさなみ(中間型・長稈、極晩生)、はまさり(中間型・長稈、極晩生)があります。

 最近では、地方系統として、1995年中国農試育成の中国146号(中間型大粒・長稈、中生)と中国147号(中間型・長稈、晩生)や、農研センター育成で2000年度品種登録申請中の関東飼206号(アケノホシと中国113号の交配、晩生の早)が有望です。宮崎県ではインディカのテテップやKB3506を奨励しています。他に、北陸地方の在来種を起源とするスプライスが注目されています。現在、飼料イネ栽培のための種子がじゅうぶんあるとはいえません。利用しやすい、身近な品種を利用することが得策と考えます。

(2)飼料イネ栽培は播種、移植?

 飼料イネの栽培では、水田に種子を直接播種する方法あるいは苗を移植する方法があります。播種法には、乾田直播と耕起・代かき後に播種する湛水直播があります。10a当り播種量は、おおよそ前者で4〜6kg、後者で3〜5kgですが、土壌条件や品種特性をみて増減する必要があります。乾田直播では散播や条播があります。湛水直播では、九州農業試験場水田利用部で開発された「水稲の打込み式代かき同時土中点播栽培技術(通称:ショットガン直播)」があります。

 移植法は従来の田植機を使用する方法です。栽植密度は1m2当り25〜30株、1株苗数は3〜4本を目安とします。茎葉を多く収穫する場合、高密度が有利であるということから、生物系特定産業技術研究推進機構の「密植式田植機(通称:千鳥植え田植機)」を使用することもできます。この機械は米の収量増と品質向上を目的として開発・利用されていることから、有効利用を図れます。

(3)収穫回数

 飼料イネ栽培では、従来の稲作同様年1回の栽培・収穫技術が全国的に展開されています。九州では、再生イネ(ヒコバエ)も利用して、年2回収穫する生産技術が検討されています。なお、宮崎県の一部の農家では既にこの方法を利用しています。

 温暖な気象条件の九州地域での2回収穫・利用の例としては、4月下旬の田植え後、7月下旬と10月上旬の2回収穫する栽培技術が考えられます。1回目の刈取りでは茎葉を収穫し、2回目の刈取りでは実のついたホールクロップを収穫します。現在、10a当り約1.5tレベルの乾物生産が得られています。

(4)収穫調製

 飼料イネの収穫では、畜産農家の所有するモアー、ロールベーラなどで行うことが一般的といえます。収穫体系には出穂前後や糊熟期以降に乾草として収穫する場合や、黄熟期頃にホールクロップサイレージとして収穫する場合、更には従来のワラを収穫する場合があります。収穫は、機械作業が中心となるので水田をじゅうぶん乾燥することがたいせつです。収穫時の脱粒モミのロスが問題点として残されていますので、この点に注意する必要があります。

 調製では、アンモニア処理、尿素、発酵緑汁液(FGJ)や乳酸菌などの添加剤を使用して良質な粗飼料を確保することができます。

 写真−2(a)〜(c)には、飼料イネ収穫機のダイレクトカッティングロールベーラとラッピングマシンの作業状況を示しています。(a)では飼料イネを刈上げながら更に切断してロールを作り、(b)ではそのロールをラップフィルムで包み、(c)ではこれを保管場所まで移動します。トラックの荷台に載せ、牛舎までも運搬ができます。湿田でも作業ができるようにクローラ型で、直径1mのロールを作ることができます。この機械は収穫時のロスが少なく、機能的には優れています。

 
     
写真−2 飼料イネ収穫作業
(a)クローラ型収穫機での刈取りとロールの作製をします
  (b)収穫機で作られたロールをラップフィルムで包みます

(c)ラップフィルムで包んだロールを保管場所まで移動します

(5)飼料イネの収量と品質

 飼料イネ、特にホールクロップサイレージ用飼料イネでは、可消化養分総量(TDN)で10a当り約1.3tを目標としていますので、10a当り乾物収量では約2tが目安となるといわれています。現状では10a当りの乾物収量は約1〜1.5tが一般的です。現時点では栽培をして実体験を積むことが重要と考えます。普通の稲作技術で、まず飼料イネを作ることが大事です。飼料イネ専用品種の種子がじゅうぶんに確保されてはいませんが、行政サイドの意見を参考にして利用できる品種から栽培してみましょう。

 飼料イネの品質は収穫する生育ステージや品種によって異なりますが、ケイ酸含量が多いなどの特徴があります。九州農業試験場の例では、2回収穫体系における飼料イネ「スプライス」の1番草は乾物率が低く、乳酸含量が少なく酪酸含量と酢酸含量がやや多いサイレージが、2番草のホールクロップでは乾物率の高い良質サイレージができています。化学組成では、粗蛋白質含量は1番草で10.9%、2番草で6.4%、粗灰分は1、2番草のいずれも20%を越える高い値であります。ロールベールサイレージの栄養価は、TDN含有率でおおよそ50〜55%程度です。家畜はよく採食しますので、飼料イネは重要な粗飼料として期待できます。

(6)コントラクターを利用した飼料イネ作り

 この視点で、最も可能性が高く、普及を期待できる作付体系が、耕畜連携による水田での夏作の飼料イネと冬作のイタリアンライグラスの作付体系だと考えます。圃場整備などによる開田の場合、大型機械が作業できる土壌条件を確保しやすいので、飼料イネとイタリアンライグラスをロールベーラで収穫できます。大型の機械でなくても現有の飼料作用機械で、耕種農家で栽培したイタリアンライグラスと飼料イネ(乳熟期前後)を収穫する作付体系を確立することもできます。この収穫時に、耕畜連携の橋渡しをするコントラクターの活躍が期待できます。日本的「結(ゆ)い」の発想を再確認し、日本人のための日本的エサ(飼料イネ)作りが可能です。

 図−2に、水田を所有する畜産農家(熊本県大津町K牧場)が飼料イネを取入れた作付体系を示しています。夏作の飼料イネ(2回刈り)と冬作のイタリアンライグラスの作付体系が作業的にも無理のない条件で組込まれています。このような条件を更に発展させることが考えられます。例えば、コントラクターが耕種農家の水田で栽培された飼料イネとイタリアンライグラスを収穫し、畜産農家に供給することです。地域作りも含めて、日本の畜産を再構築できる日本的草地農業とも考えられます。

図−2 畜産農家での飼料イネ導入時の作付体系

▽:播種・移植、 □:収穫

おわりに

 以上、従来型の飼料作物の生産と飼料イネの栽培について述べました。飼料作物の栽培の基本は大きく変わりませんので、その地域での栽培技術を反すうしながら徐々に展開することがたいせつと考えます。すなわち、風土に根ざした栽培技術の展開こそが、現在求められています。畜産農家として、土−草−家畜の間におけるものの流れを把握し、豊かな畜産経営を実現されることを期待します。ここで紹介したことが、お役に立てば幸いです。

(筆者:九州農業試験場 草地部・飼料生産管理研究室長)