中山間地域農業をささえる肉用牛の共同生産

 

中 島 哲 文


はじめに
 今回紹介する斉木牧場は、稲作農家4戸の婦人たちが共同で繁殖和牛の飼育を行っている事例です。

斉木牧場の婦人たち

 本事例のある広島県高野町は、標高600mの中国山地の山あいに位置し、「小さな農地面積」「高齢化」「過疎化」といった中山間地域農業の課題を抱えており、肉用牛生産の担い手を高齢者や女性に多くを依存しています。

 この地域の一般的な規模の農業経営は、いわゆる零細であるがゆえの不利な部分、例えば労働力や機械稼動のロスとそれに伴う経費のムダ、小さくても求められる作業の連続性(休みの取れない農業経営)などを有しています。

放牧を取入れた省力管理を実現

 このような中、本事例では次のような取組みを行うことによって、肉用牛(繁殖)と稲作を組合わせた収益の高い、中山間地域における農業経営の実現を目指して取組んでいます。

女性ならではのきめ細かい飼養管理


経営の概要
(1)労働力の構成……各戸1人、合計4人(労働力の主体は婦人)

表−1 労働力の構成(肉用牛飼育管理時間)

区 分 分 担 人 数 備  考
当番制 1人 実時間30分で1ヵ月交代
全 員 4人
 〃  60分

(2)肉用牛の飼養頭数、出荷状況

表−2 肉用牛の飼養頭数、出荷状況(平成11年)

区  分 成雌牛 育成牛 子 牛
期  首 17.7 1.7 10.7
期  末 18.7 3.7 10.7
平  均 17.6頭 1.8頭 10.7頭
年間出荷頭数     11.7

(3)施設等の利用

表−3 施設等の利用

区  分 員数 面積 備   考
牛  舎 1棟 200m2 木造 トタン 中二階
放牧場 530a 4牧区
トラクター 2台 31.5ps、22ps
モアー 1台 共同
ロールベーラ 1台
カッター 1台
マニュアスプレッダー 1台
ショベル 1台


経営の歩み
 平成元年に草地の所有権を共有していた稲作農家4戸が、三沢農機利用組合を結成(任意組合)し、水稲の品種を統一して田植えから収穫、出荷までを共同で行うことになりました。

共同牛舎の全景

 稲作の共同作業を進める中で、各戸の繁殖牛を集めて共同飼育をすればさらに省力化・効率化が図られ、しかも、副産物のモミガラや稲ワラの有効利用と共同草地への放牧が可能になるというのが、設立のきっかけとなりました。

 平成3年に県単独の事業(肉用牛経営規模拡大緊急対策事業)により共同牛舎を建設し、各戸で飼育していた牛を持寄り、共同飼育の「斉木牧場」をスタートしました。

 以降、飼養管理の省力化のもとで増頭が可能となり、現在では繁殖牛18頭まで規模拡大し、4戸の共同経営が定着しています。


経営の特徴
(1)共同飼育(4戸)で効率生産

 経営規模のほぼ同じ4戸の農家が、共同牛舎で繁殖雌牛18頭の共同飼育により省力で効率的な飼養管理を行っています。

 (1)平等負担:お互いの牛を持寄り、施設などの負担金も同額で負担し、労務も平等

 (2)平等配分:利益は平等配分

 (3)当番制と複数管理で休日のとれる牛飼いを実現

 (4)環境負荷の少ないリサイクルできる適正な頭数規模(ふん尿は全量が耕地に還元可能)

農業機械共同利用によるメリットは大きい

(2)放牧を取入れた省力管理と低コスト生産

 5月中旬から11月中旬までの共同放牧地と公営放牧場の利用は、労働力の軽減と(1)繁殖成績の向上(分娩間隔12.5カ月)(2)強健性(平均産次5.1産)(3)子牛の発育が良好(日齢増体量:雌0.921kg、去勢0.953kg)で高い市場評価(4)冬期の粗飼料確保といった生産性の向上などによる低コスト生産に結びついています。

 また、適正な放牧管理によるシバ型草地の活用は、当地域の景観保全や地域資源の利用の面からも重要となっています。

 (1)共同放牧地:大牧区(1.6ha常時開放)と輪牧区(1.2ha、1.1ha、1.1haにそれぞれ2週間)に毎日約2時間の制限放牧。放牧対象牛は分娩後3ヵ月位からの親子(子牛は出荷前日まで)。

 (2)公共放牧場:離乳後の雌牛を一部、春から秋まで預託。

 (3)牛飼いの主体は婦人達で、朝方に1人が給餌に約30分(1ヵ月毎の当番制)、夕方に4人全員で給餌やボロ出しなどに約1時間、その他に放牧地への開放(15時〜17時)を行い、発情や事故の発見に気をつけています。なお、夕方の共同作業は婦人達の良き情報交換の場ともなっています。

 (4)自給飼料の生産も共同で能率的に行い、低コスト生産に努めています。また、畦畔草は各自がそれぞれ持寄っています。

(3)農業機械共同利用組織との連携による収益性の向上

 共同牛舎は農機利用組合の施設に隣接して建て、トラクター、マニュアスプレッダーなどの大型機械を相互に利用して、施設稼動率の向上と機械経費の軽減に役立っています。

 稲ワラは飼料および敷料として、堆肥は耕種部門における貴重な有機質肥料として活用され、肉用牛部門と耕種部門(水稲、施設野菜)を組合わせた収益性の高い農業の実現を目指しています。

 こうした農機利用組合との協調によって、本事例は地域農業振興の中核となっており、会員の機械作業の共同化に加え、高齢農家や兼業農家の機械作業を引受けるなど、地域農業の振興及び維持に果たす役割は大きいものがあります。

 また、高齢化の進行と担い手不足などによる肉用牛繁殖農家の減少が激しい中で、共同の力によって、肉用牛+水稲+野菜の複合経営も定着し、20代の若い後継者も育っています。


経営の成果
 平成11年(1月1日から12月31日)の所得は239万円、子牛出荷1頭当りの所得は22万円です。所得率は57.2%で県平均の25.3%をかなり上回った良好な成績となっています。

 経営実績・生産技術については表−4のとおりとなっています。

表−4 経営実績・生産技術

繁殖経営の推移

実績の分析結果


おわりに
 もともと経営規模が小さく、高齢者や女性に依存しがちな肉用牛繁殖経営の維持は、高野町に限らず、本県の中山間地域における肉用牛生産の最重要課題の一つとなっています。

 そうした中で、牛飼いの共同化によって飼養頭数の増加、稲ワラやモミガラなどの有効活用、転作田の利用、さらに休日が取れる農業の実施などなどの成果をあげている本事例は、中山間地域農業の振興や維持に果たす役割は大きいと思われます。

 加えて、放牧を取入れることによる景観保全や地域資源の利・活用は、緑の牧場を通じた都市住民との交流も生まれ、中山間地域における畜産の実態や農業・食への理解を深められ、そのうえ女性の活躍の場が広がり、高齢者の生きがいや労働意欲の向上に貢献できると思われます。

 代表者の前田さんは「出来る者がやる。無理はしない。果実は平等配分する」このことが、長続きするための秘訣と話されています。今日も、楽しい井戸端会議の牛飼いが始まります。

(報告者:広島県畜産会・畜産コンサルタント)