やって得する畜産経営の青色申告(I

 

森  剛 一

青色申告のメリットと記帳の準備

 青色申告のメリットが大きくなりました。最大45万円だった青色申告特別控除が、平成12年分の所得税(13年3月申告)から最大55万円に引上げられました。貸借対照表を添付することにより、正規の簿記、つまり複式簿記であれば最大55万円、簡易簿記であれば最大45万円を課税所得から差引くことができます。

 ほかにも青色申告のメリットはたくさんあります。白色申告の人はこれを機会に青色申告に取組んでみましょう。また、青色申告の人も、55万円の控除が受けられるよう、複式簿記に挑戦してみましょう。このセミナーでは、経営管理に役立ち、しかも、簡単にできる記帳のコツから、申告のポイントまでお教えします。

1 青色申告のメリット

 青色申告特別控除とならんで、青色申告のもう1つの大きなメリットが青色事業専従者給与です。ところが、青色申告をしていても妻の専従者給与を8万円にしている人が多いようです。なぜ8万円かといえば、月額8万円の給料なら源泉所得税がかからないからのようです。なお、月額給与が87,000円以上の場合には、源泉徴収が必要となります。

 しかし、この専従者給与の決め方は正しいのでしょうか。表−1を見てください。

表−1 専従者給与額の改定と税額 (単位:万円)

専従者給与96万円 専従者給与270万円
事業主 専従者 事業主 専従者
農業所得/給与収入 504 96 600 330 270 600 0
青申/給与控除(注) 10 65 75 10 99 109
所得金額 494 31 525 320 171 491 34
所得控除 130 38 168 130 38 168 0
課税所得金額 364 0 364 190 133 323 41
納税額 31.84 0 31.84 15.20 10.64 25.84 6
(注)事業主は青色申告特別控除、専従者は給与所得控除

 試算では、農業所得が600万円の経営で、専従者給与が月額8万円、年額96万円の場合、年税額は32万円弱となります。これに対して、専従者給与を月額15万円、賞与を夏冬3ヵ月ずつの年270万円の場合、年税額は約15万円となり、専従者給与にかかる所得税と併せても26万円弱で、全体で6万円も少なくなります。さらに、この差は住民税にも影響します。

 なお、この試算では青色申告特別控除を10万円としていますが、貸借対照表を添付しない場合、青色申告特別控除は10万円になります。

 青色申告の最大のメリットは、実はこの「青色事業専従者給与」です。なぜなら、(1)「累進税率」といって所得が高くなるほど税率が高くなるため、専従者給与により家族内で所得を分散すると家族全体の所得に対する適用税率が下がること、(2)専従者が受取った専従者給与は給与所得の収入金額として取扱われ、給与収入の大きさに応じて給与所得控除が引けるため課税所得が減ること─によります。

 したがって、専従者給与として適正な金額を届出るのが節税のポイントです。夫婦二人の経営の場合、妻の専従者給与の目安としては、事業主の農業所得(青色申告特別控除前)と同程度の額から、少なくともその半分の範囲におさまるように決めるのがコツです。賞与の額としては、夏冬3ヵ月分ずつ合計6ヵ月までが上限のようです。したがって、専従者給与の月額は、専従者給与の年間の予定額を18で割って計算します。

 後に述べる源泉所得税の納期の特例との関連で、夏の賞与の支給時期は6月ではなく7月(または8月)とした方が、源泉所得税の資金繰りに与える影響が少なく有利です。

 青色事業専従者給与の増額は節税だけでなく妻や子の仕事の励みにもなりますので、まさに一石二鳥です。青色事業専従者に実際に支払うことが専従者給与の必要経費算入の要件となっていますので、帳簿上だけでなくできるだけ預金口座振込で支払うようにしましょう。

 ところで、新たに専従者となった場合には、年の途中でも2ヵ月以内に税務署に届出をすればよいのですが、すでに今いる専従者の分について青色事業専従者給与として必要経費にするには、その年の3月15日までに届出ておくことが必要です。なお、専従者給与の金額を変更した場合には、遅滞なく変更届出書を提出する必要があります。

 月額15万円の給料の場合、源泉所得税額は4,670円(扶養親族なし)となります。源泉所得税は給料から天引きして、翌月の10日に納めるのが原則です。ただし、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書兼納期の特例適用者に係る納期限の特例に関する届出書」を提出すれば、1〜6月までの支払分を7月10日、7〜12月までの支払分を翌年の1月20日と、半年に1回の納付で済みます。

 青色申告特別控除、青色事業専従者給与のほかにも、青色申告のメリットには、さまざまなものがあります。その主なものを表−2にまとめてみました。

表−2 青色申告の主な特典

項 目 内  容
青色申告特別控除 最大55万円の所得控除
専従者給与の必要経費算入 原則として全額必要経費算入
中小企業者が機械等を取得した場合等の特別償却※ 対象設備:1台230万円以上の機械装置全般
限度額=取得価額×30%
電子機器利用設備を取得した場合等の特別償却※ 対象設備:1台160万円以上のトラクター等、特定のもの
限度額=取得価額×30%
家畜排せつ物処理・保管用施設の特別償却 対象設備:たい肥舎、発酵槽等
限度額=取得価額×16%
特定情報通信機器の即時償却 対象設備:パソコン、デジタル複写機、ファクシミリ等
限度額=取得価額全額
農業経営改善計画を実施する個人の機械等の割増償却 対象設備:規模拡大実施者の農業用固定資産のほぼ全部
限度額=普通償却費×15%
貸倒引当金の設定 限度額=個別評価分+期末貸金帳簿価額×5.5%
※印の所得税額の特別控除 限度額=取得価額×7%(事業所得税額の20%が上限)
純損失の繰越控除 翌年以降3年間繰越控除可
純損失の繰戻還付 前年分の所得に係る税金からの還付可

2 記帳簡略化のポイント

 記帳を簡略化するポイントは大きく分けて、2つあります。1つは転記や集計の作業をパソコンで自動化すること、もう1つは、仕訳の数そのものを少なくすることです。

 複式簿記は仕訳帳と元帳からなります(仕訳帳の代わりに伝票を使うこともあります)。手書きの場合、仕訳帳(伝票)に起こした仕訳を勘定科目ごとに元帳に転記し、さらに元帳ごとの残高を集計して残高試算表を作成します。パソコン簿記なら仕訳の入力だけで済み、元帳への転記や試算表の作成をパソコンが全部、自動的にやってくれます。

 ところが、パソコン簿記であっても仕訳の入力は省略できません。そこで、さらに手間を省くには、仕訳の数、すなわち取引件数を少なくすることです。これは、パソコン簿記に限らず、手書きの帳簿でも省力化になります。

 具体的な方法としては、家事用と事業用に預金通帳を分けて、事業に関係のない入出金は家事用の通帳に整理します。一般に、同じ金融機関に同一人の名義の預金口座を2つ作ることはできないので、事業用通帳の名義は、屋号つき、例えば「中野牧場 中野民夫」とすると良いでしょう。

 この際、家事関連費や、社会保険料・小規模企業共済は、事業用口座から支出することにします。水道光熱費など家事関連費は、いったん全額を必要経費として計上し、決算整理の際に家事用と事業用にあん分して、家事分を必要経費から除外します。また、社会保険料は必要経費になりませんが、所得控除の対象となりますので、事業主(貸)勘定で経理しておいてパソコンで集計すると、申告の際に便利です。

 パソコン簿記でめんどうなのは、毎日、パソコンを立上げて入力することです。しかし、簿記というものは、現金取引があれば、毎日、帳簿を付けて帳簿残高と現金の実際在り高を照合しなければなりません。預金取引なら預金通帳に取引の記録が残るので、記帳をサボっても通帳さえ取っておけばあとでまとめて記帳してもあまり支障はありません。これは手書きの簿記にも言えることです。

 そこでいっそのこと、現金勘定を無くしてしまうのが究極のワザです。その具体的な方法を表−3にまとめておきましたので、試してみてください。

表−3 現金管理を省略するポイント

 収 入 
(1) 売上代金の入金はできるだけ口座振込とするよう、得意先に依頼する。
(2) 現金売上げや売掛金の現金回収など現金収入には手をつけずに、即座(又は翌朝)に預金口座に預入れるのをルールとし、(1)「○月○日現金売上げ」(1)得意先名(売掛金現金回収)(2)その他(雑収入等取引の内容)などの入金の種別を通帳にメモしておく。
支 出
(1) 公共料金などの支払いは口座振替制度を利用する。
(2) その他の支払いはできるだけ締日及び支払日を決め、掛け取引とするよう仕入先に依頼する。
(3) 小口の現金支出は、専従者など事業主以外が立替払いする。これを専従者などに対する未払金として記帳して集計し、専従者給与等とともに口座振込により精算する。
(4) 買掛金、給与(小口支払いの精算を含む)、事業主生活費、借入金などの支払日はできるだけ月1回に統一する。

3 開始貸借対照表の作成

 これまで貸借対照表を作成していなかった人は、期首すなわち1月1日現在の資産・負債の勘定科目ごとの残高を調べて、開始貸借対照表を作成します。

 まず、普通預金は、通帳の記録により前年末の残高を調べます。借入金についても返済予定表により前年末の残高がわかります。

 定期預金や定期積金は、事業用資金を運用しているものについて残高を調べます。これらは、預金証書によっても調べられますが、自動継続になっているときは、残高がわからないこともあります。そこで、JAなど取引のあるすべての金融機関に前年末現在の「残高証明書」を交付してもらうとよいでしょう。この際、定期預金だけでなく、普通預金や出資金、借入金など、すべての取引について記載してもらうようにします。

 売掛金や買掛金は取引先ごとの仕切精算書や請求書によって、前年の売上げや仕入れのうち、前年末現在で未収・未払いとなっている金額を拾い出します。源泉所得税の預り金は、通常、年初の1月10(20)日に納付した金額が、前年末の残高です。

 農産物や未収穫農産物、畜産物(販売用動物)、飼料などの原材料、その他の貯蔵品については、その数量および単価を調べて残高を計算します。まず、農産物については収穫基準により評価します。したがって、自家農産物である自給飼料については、収穫時の時価で評価して計上します。一方、自家農産物以外は原価で評価しますので、購入飼料については、最終仕入原価、つまり、種類ごとに前年末に最も近い日の購入単価により評価して計算します。畜産物についてはモト畜費や飼料費等の育成に要した費用の累計額で評価します(基準金額等を基として計算することもできます)。

 育成中の乳牛など、未成熟の牛馬等については、育成に要した費用の累計額で評価します。ただし、未成育の乳牛に要した費用の基準金額を税務署が開示している場合には、年末の月齢により、該当する基準金額を用いることができます。

 固定資産のうち、建物・構築物などの減価償却資産は、確定申告書の決算書の「減価償却費の計算」欄から、その残高を勘定科目ごとに集計します。土地改良事業受益者負担金などの繰延資産についても同様です。

 土地については、今の経営者の代で購入したものは取得価額により評価します。取得価額とは、購入代金のほか、契約書作成費用などの付随費用です。登記費用や登録免許税、不動産取得税は、取得価額に算入しないで必要経費に算入します。問題は、先祖代々の土地など、相続や生前一括贈与などにより取得したものをどう評価するか、です。相続等により取得したものは貸借対照表に計上しないという考えもありますが、土地を担保に借入れをしている場合、貸借対照表に表される財政状態が実際よりも悪く表示されることになります。そこで、少なくとも事業用の土地は、貸借対照表に計上するようにしてください。

 土地の評価方法としては、時価や相続税評価額などの方法もありますが、固定資産税評価額によることをお勧めします。固定資産税評価額であれば特別な計算が不要で、毎年、市町村から送られてくる固定資産税の課税明細によって確認できるからです。

 なお、固定資産税の評価額は3年に1度の評価替えがありますが、いったん計上した金額を変更する必要はありません。

 すべての資産、負債の科目について開始貸借対照表に記入が終わったら、資産の総額から負債の総額を差引いて元入金の額を計算します。なお、事業主貸、事業主借は、開始残高はありませんので、開始貸借対照表には記入しません。

4 青色申告をするには

 青色申告をしようとする場合、一般には、その年の3月15日までに青色申告承認申請書を税務署に提出します。したがって、平成12年11月現在で白色申告の人が、青色申告に変えられるのは平成13年分からということになります。青色申告の承認申請をした場合、本来は、税務署から承認または却下の通知が来ることになっています。しかし、実際に通知されることはほとんどなく、その年の12月31日までに通知がない場合は、承認されたものとみなされることになっています。

表−4 開始貸借対照表の作成方法

勘定科目 残高
証明
記入方法
現金 × (期首の時点で事業用現金の実際の有り高を確認するのが原則)
普通預金 通帳より前年末の残高を調べて転記
定期預金 預金証書、残高証明により確認
その他預金 残高証明により確認
売掛金 前年末段階で未収となっている販売代金(売掛金)や固定資産売却代金・雑収入等(未収金)を仕切精算書、請求書等で確認
未収金  
有価証券 JA等への出資について出資証券、残高証明により確認
農産物等 前年の決算書等の農産物の期末棚卸高を転記
未収穫農産物等 前年の決算書等の農産物以外の期末棚卸高を種類ごとに集計して転記
肥料その他の貯蔵品
未成熟の果樹
育成中の牛馬等
税務署で開示している種類(畜種)別の基準金額に基づき年末の月齢により取得費を計算して記入
前払金   前金で支払った肥料等の購入代価で未引取り分を調べて記入
貸付金   取引先や従業員など事業関連の貸付を調べて記入
建物・構築物 前年の決算書等の「減価償却費の計算」欄の未償却残高を種類ごとに集計して転記
農機具等
果樹・牛馬等
土地 購入したものは取得価額、相続・贈与により取得したものは固定資産税評価額
土地改良事業
受益者負担金
  繰延資産となる資産の取得費対応部分について、前年の決算書等の「減価償却費の計算」欄の未償却残高を転記
買掛金 前年末段階で未払となっている仕入代金(買掛金)や固定資産購入代金等(未払金)を請求書等で確認
未払金  
借入金 返済予定表、残高証明書により確認
前受金   前金で受取った販売代価で未出荷分を調べて記入
預り金   1月納付の源泉所得税納付書の金額など前年末時点での未納額
貸倒引当金 前年の青色申告決算書の貸倒引当金の繰入額を転記
元入金 資産の総額と負債の総額の差額を記入
○=残高証明の取れるもの
△=場合によって残高証明の取れるもの
×=残高証明の取れないもの
−=残高証明の対象とならないもの

 一方、相続して青色申告する場合の青色申告承認申請書の提出期限は、(1)相続がその年の8月31日以前のときは相続の日から4ヵ月以内、(2)相続がその年の9月1日から10月31日の間であるときはその年の12月31日、(3)相続がその年の11月1日以後であるときは翌年2月15日─となっています。なお、相続により取得した資産の取得価額および減価償却費の計算は、被相続人の取得価額および取得日、耐用年数、未償却残高を引継ぐことになります。ただし、償却方法は引継ぎませんので、被相続人が定率法を選択していて、相続人においても引続き定率法による場合にも、改めて届出書を提出する必要があります。

 また、新規に開業して青色申告をする場合は、(1)1月15日以前に開業したときは3月15日、(2)1月16日以後に開業したときは、開業の日から2ヵ月以内─が提出期限となっています。経営移譲を受けた場合も、同様の取扱いになります。

5 経営移譲を受けた場合

 生前に農地の使用貸借や贈与などにより経営移譲を受けた場合、農地以外の農業用固定資産についても、父など旧経営者の所有のままで息子が使用することがあります。このように、生計を一にする親族名義の不動産を無償で事業の用に供している場合には、親族名義の不動産の固定資産税や減価償却費、除却損などを必要経費にすることができます(所基通56−1)。したがって、相続の場合と同様、貸借対照表にもこれら親族名義の不動産をその取得価額や耐用年数、未償却残高をそのまま引継いで計上します。

 不動産については、登記名義を変更した場合などのように、特に贈与したと認められるものを除いては、贈与はなかったものとされます(昭35直資15)。不動産とは、建物、建物付属設備、構築物などで、畜舎やたい肥盤なども含まれます。

 ところが、不動産以外の農業用財産については原則として、贈与があったものとして取扱われます。ただし、搾乳牛などの牛、馬や農機具については、旧経営者を被相続人とする相続財産価額にその財産の価額を算入することを了承し、書面で贈与を留保する旨の申出をすることにより、贈与がなかったものとして取扱われます(昭35直資15)。具体的には「不動産以外の農業用財産の贈与を留保する旨の申出書」(資猶34-A-4)を贈与税の申告期間中(翌年3月15日まで)に提出することにより、贈与がなかったものとして取り扱われます。

 なお、上記の手続きをしなかった不動産以外の農業用固定資産、それに棚卸資産については、経営移譲の際に原則として贈与税が課せられることになります(贈与税の基礎控除は60万円です)。しかし、帳簿価格等の適正な時価によって親から子へ売買した場合には贈与税はかかりません。ただし、口座振込みなどにより、代金の授受が実際に行われたことを確認できるようにしておく必要があります。子が資金を準備できない場合には、親から子へ売買代金相当額を貸付けるという方法もありますが、「ある時払いの催促なし」では、贈与と認定される恐れがあります。金銭消費貸借契約書により返済額、返済方法を定めておくとともに、それに基づいて定期的に返済をする必要があります。この場合、返済の事実が確認できるよう、必ず本人の預金口座から相手の預金口座への振込みとしてください。

(筆者:森税務会計事務所 税理士・行政書士)