酪  農=経営再生〔V〕

─究極、それはリストラ!─

村 上 明 弘

V リストラ

1.酪農と人の特質を確認

 “超・迂回、総合、科学、技術、産業”の特質を有する酪農を、だれでもがうまく運営できるとは思えません。技術分野のみを考えても気が遠のいてしまいます。そのすべてをひとりの経営者が抱えるのは、ほぼ不可能です。

 図−1に酪農経営の超・迂回フローを示します。20年前に作ったものですが、まだ参考になりそうなのでのせました。◯枠の技術要素の中に、更にたくさんの部分技術や作業があります。この流れ図を、意識的に、深々と眺めてください。そして酪農の豊かな可能性を感じてください。

図−1 酪農業の技術的成立要因

 多くの経営者には大なり小なりの得手不得手があります。特に、なんらかの理由で経営困難に追込まれている方には、それが顕著です。逆説的には、自分の得意や苦手を判断・評価できず、その不得手な分野に無頓着なあまり、困難を来すともいえます。酪農におけるそれぞれの経営や技術間の、あまりの因果不鮮明(やっていることの価値が分かりにくい)に手を焼いているわけです。

 酪農経営のエッセンスは、搾乳牛の管理です。いかに乳牛管理が苦手とはいえ、それを経営要素から外すわけにはいきません。

 その搾乳牛を管理するための必需部門が、

  • 乾乳牛の管理
  • 飼料の調達、組立、給与
  • 搾乳とその処理
  • ふん尿の処理と利用
  • 分娩の管理
  • ヌレ子の管理
  • 繁殖の管理
  • 健康に関する管理
  • 畜舎、施設、機械の管理
  • 売買に関する管理
  • 経営の管理

 などです。どんなに単純化しても、これらの項目だけは必須の経営要素で、はずせません。

 この核心部に、以下の二次的な部門が付随しています。

  • 哺育、育成の管理
    (飼養、繁殖、健康、ふん尿処理、建物・施設)
  • 飼料作物の肥培管理
  • 飼料の収穫、調製、貯蔵の管理
  • 作業機の管理
  • サイロ等施設の管理
  • 自給飼料の取出し給与の管理
  • 関連する物の売買管理

 などです。この二次的なものは、酪農全体にとっては不可欠でも、個人や地域レベルの酪農経営にとって絶対不可欠のものではありません。その経営にとって、「総合的」に有利ならば、経営の外にその供給を依存しても、なんの差障りもありません。ただし、調達不能とか価格高騰とか危急時の対策はいつも具体的に持っていなくてはなりませんが。

 この必需部門と二次的部門を明確に区分して経営を考えると、経営再生の最終手段とも言える経営方法の再構築(リストラクチャー)が見えてきます。

 すなわち、二次的(必要不可欠ではない)な部門から、不得手、不効率、不採算な所を切捨て(または大幅縮小)、その余力(資金、労力、施設、飼料、土地…)を必需部門に投入し、それを強化するわけです。要するに、経営の単純化と技術管理力の強化を、徹底的に行うわけです。

 まず、困難に陥った農場の人的な資質を把握せねばなりません。精神力、体力、得手、普通、苦手な分野を構成員ごとに判断します。

 次に資産の状況、すなわち経産牛、育成牛、建物、施設、機械、土地、飼料作物、一般作物、自給飼料、道路…などの、量、質、条件に関し、その管理力や価値を判定します。

 更に、地域や周辺の条件を確認します。地域に二次的な部門の代替性がどの程度あるかを理解して、リストラの参考にするからです。

 それは、

  • 適切な相談や指示を継続的にできる組織や人がいるか。(コンサルタント機能)
  • 地域にはどんな作物が栽培されているか。(飼料調達やふん尿仕向先)
  • 地域の気象条件や地形、地質条件は。(ふん尿貯蔵期間、飼料作の有利性)
  • 地域の酪農専業率は。他の農業種は。(ふん尿の引受先は)
  • 周辺との作業共同の状態は。(参加できるか、抜けられるか、装備や技術力は)
  • 哺育や育成の預託はできるか。その条件は。(特に哺育はどうか。その技術、費用、季節は)
  • 肥培管理や収穫調製のコントラクターがあるか。(費用、技術、融通性、継続性は)
  • 貸地(借地してくれる相手)できるか。(その単価、期間契約の融通性は)
  • 山林や農地の売買条件は。(価格、売方の融通性は)
  • 飼料の流通性は。(価格、粗飼料の安定供給、所属JAの購入制限は)
  • 飼料の配給組織はあるか。(TMR配送、サイレージ供給、注文配合飼料の供給は)
  • 搾乳モト牛の流通は。(安定供給、健康や能力の信頼性は)
  • たい肥の流通条件は。(処理流通センター的なものは、他農場の受託条件は)
  • 各種の補助支援(特にふん尿処理に関し)や制度はどうなっているか。

 これらを総合的に解釈して、リストラの種類と程度を決めるわけです。経営にとって最も負担(重荷)になっている分野を整理し、必需分野の充実と拡大(縮小もあり得る!)を意図します。

2.負担の解消と相互関連

 二次的な分野を経営から外すとどんな影響があるのか、新たな時代背景の中で、それを冷静に検証してみると良いでしょう。

(1)新たな時代背景

 近年、酪農を取巻く条件が大きく変化しています。その内容をじゅうぶんに把握し、時代の方向をとらえたリストラ策を立て、誤りの少ない、生産性の高いやり方をせねばなりません。

全体
・農場内における労働力の減少傾向
・飼料作面積の拡大制限
・中途的な多頭数飼養
・共同作業の減少
・分業、作業請負の発展傾向
・センター化の発展の傾向
  哺育育成管理センター
  飼料調合配給センター
  ふん尿処理、流通システム
  圃場代替管理コントラクター
  飼料の収穫調製コントラクター
・粗飼料の広域流通
・円高基調と流通改善による飼料価格の割安、安定化の傾向
・食品副産物飼料の豊富な流通
・初妊牛の価格安定
・ETやF1どりの普及

施設機械
・省力多頭管理システム
  フリーストール
  ミルキングパーラー
  各種ロボット管理
  飼料の混合、給餌機

一般技術
・コスト効率の良い飼料設計技術
・生産性、安楽性のある管理法
・繋ぎっぱなし管理
・群分け管理
・混ぜエサ(TMR)給与
・健康管理法の充実
・移行期(分娩とその前後)技術の進歩

 以上を心得、以下に二次的部門を経営から外したときの影響(効果)と対策を解説します。

(2)育成牛の状況

 経営の困難な農場においては、経産牛の健康状態もさることながら、育成牛も惨状を呈しているのが普通です。その場合、育成牛に関し、大抵は以下のことが起こってます。

  • 繁殖障害や分娩時トラブル、あるいは下痢肺炎などによる、育成牛数の不足。
  • 一時的な帳じり合わせや生活費確保のため、初妊近腹牛を売ることによる、更新牛の不足。
  • 高く売れる牛を販売してしまうことによる発育不良、低性能牛の経営内残存。
  • 施設や技術の不備、時間や意欲の不足による不健康で発育不良な育成牛の生産。
  • 発育を待ちきれず種付けし、非常に小柄なまま分娩する牛の生産と、続く難産、そして虚弱初産牛。
  • 更新用にあがってくる牛が少なく、かつ低性能なため、経産牛の淘汰が順調にできず、生産性に乏しい親牛を飼い続けねばならない状態。

 もし、このような惨憺たる状態にあっても、育成牛部門を持ち続けることが経営に有利なのだろうか。熟慮を要します。

 ここで大切なことは、人に与えられた時間には制限があるということです。毎日働き続けられる時間はそういっぱいありません。作業人数に制限がある限り、この時間的な制約は厳しく受止める必要があります。できないものはできないわけです。それを無理してすべてをやり続けようとすると、道理が引っ込み、不調に油を注ぐことになります。多くの技術や作業が、生じた矛盾の後始末的な仕事になり、いったい何をしているのか分からなくなったら、一度原点に戻り、できる範囲のことを模索してみるべきでしょう。

 図−2に育成牛部門をやめたときの変化を、フローチャート的に表現しました。

図−2 育成牛を持たない場合の変化フローチャート

 しかし、いくら不採算部門を整理しても、それにより「生じたゆとり」を残った部門の生産性向上に寄与させられないなら意味がありません。経営の困難な農場においては、そこの所をじゅうぶんに再確認しておかないと、ただ面倒な部門を捨てただけになってしまいがちです。

 育成牛管理の目立つ特徴は、以下です。

・哺乳:気を遣う作業が毎日朝夕にある
・発育:消化機能や体格がどんどん変わる
・栄養:ほとんど粗飼料中心の飼養である
・存在:月齢別の分布頭数が大きく変動する
・保険:幼齢期は適用されない
・作業:搾乳以外は親と同じ管理作業がある
・相応:惰性管理になり、手抜きされやすい

 育成牛は、今の管理技術が、すぐに生産性アップとして見えにくいものです。そのために、なにか忙しくなったり、経営悪化でやる気がなくなったりすると、すぐ手を抜かれやすい傾向にあります。結構な気遣いと労力、作業の時間的拘束を要します。施設的にも、タイプの違う複雑な流れを要します。しかも、平均よりも割増しの規模で、施設各部の面積を持たねばなりません。そして、意外に粗飼料中心のエサ給与で量を要し、2歳牛などは親並みの粗飼料を食込み、結構な飼料畑を使います。一方、幼齢期の疾病・廃用には保険の適用はありません。経営の困難な農場ほど幼齢牛の病気が多い傾向なのに、治療や廃用に保険は効きません。

 この育成牛部門が、ヌレ子以外、完全に経営から無くなると、まず大幅に作業的ゆとりが生じます。このゆとりを搾乳牛部門の生産性向上のために、全面的に利用するのです。特に予防的な管理に多用します。乳牛における健康水準の大幅アップは、結局、大幅な廃用減少を招きます。経営から育成牛部門を除外した時の最も大きな不安材料は、更新あるいは多頭化のための購入牛の相場変動です。これが長期にわたり高騰するようでは困ります。そういう意味からも、結構な生産と元気で長持ちする牛を目指して、この作業的ゆとりを予防的な技術構築に傾注するわけです。すなわち更新率の大幅な減少です。

 次に、粗飼料面でかなりゆとりを得ます。今や、流通粗飼料は濃厚飼料や中間飼料よりも高価なものです。また、自給粗飼料の生産も、多くの人の想像以上に高くついています。育成牛を仕上げるということは、労働的にも、飼料的にも、存外にコストがかかっているわけです。

 私の経験では、育成や飼料生産を最もコスト高にしている要因は、エサや機械施設や肥料などの直接的な生産費のみではないようです。経営の困難な農場においてのそれは、労力不足や後始末作業に逼迫している中、ただいたずらに、やらねばならぬ、終わらせねばならぬ式の育成牛や作物の管理をしている場合があります。そのこなすためだけの作業が、結局は育成牛も自給飼料も、あげくは親牛までも低質化させてしまい、最終的なコスト高(少ない見返りのコスト)を招くわけです。すなわち、間接的なコスト高なのです。この計上し難いところに、育成や飼料生産の最大のコストが、経営の困難な農場にはあるのです。中途半端な労力や施設機械力の中で、大きな償還圧を受けている農場は、ここのところの意味をよくよく吟味してみると良いかと思います。

 時代的な背景は、分業的な意味合いも含め、専門の哺育・育成の農場や肥培収穫調製のコントラクター、更にはふん尿の処理会社や飼料の調合配給センターなどの成立を条件付けしているようです。無理な作業体系の中で、個人完結的にやるよりも、はるかに総合的なコスト効率を得る可能性があります。

 更に、既存の育成牛(妊娠確定の牛は残す)を販売することにより、なにがしかの臨時収入があります。少し大きな額なら経産牛管理施設の充実に使います。大抵はそう多額ではないので、即戦力の近腹牛をわずかでも購入するのが一番でしょう。

 育成牛を扱っていた場所や施設が空きます。どんな小屋や場所でも、その気になれば相応の改造ができます。多目的に使えるスペースや乾乳牛舎への転用、安楽な分娩場や入換え搾乳牛用への利用などは、生産性と作業性の向上に大いに貢献します。

 育成牛を持たないことはまた、産子の種類選択も変わります。和牛のETやF1どりのみの繁殖もできます。その場合、胎子が小さいので、難しい分娩前のクロースアップ管理をスムースにできるし、分娩も非常に軽く経過します。経営の困難な農場においては、分娩時トラブルが目立つので、そのためにも有効です。思い切ってホルスタイン以外の子を取れば、育成牛の所有に未練がましくなりません。うっかり?ホルをとると、いつの間にか育成牛が飼われていることが起こりがちです。一度やめた後では、2年以上もの間、費用と労力をかけ続けることになるのですが…。

 経営の困難な農場ほど困難に陥っている作業に、育成牛のふん尿処理があります。何年分もふんが積もり背が天井につきそうだったり、胴体が船のように浮かんで見えるパドックだったりします。育成牛がいなくなればこれらは解消します。意外にやりにくい育成牛のふん尿処理の作業から解放されます。

 育成の繁殖管理もなくなります。経営の困難な農場ほど、育成の繁殖は極めて難しい課題のひとつです。そこから手を切れます。

 他方、育成牛部門をやめると新たに必要になるものが生じます。

 まず、後継牛の確保(購入)です。

 最も大切なのは、前述した廃用牛を極力減らすことです。もちろん、残っている牛がじゅうぶんな生産力を保持しているのが前提条件ですが。

 次に大事なことは、購入のための資金手当をきちんと意識的に行うことです。例えば初妊近腹の購入価格は、北海道なら35万円、本州なら40万円前後でしょうか。

 本当は自家育成牛の生産コストもかなりかかっています。すべての飼料を購入したとし、そこに登録代や医療代、繁殖代や施設機械費などを加え、更にモト牛代と労働価値を加えるとほぼ似たようなことになるのではないでしょうか。モト牛、自給飼料、自家労働、施設、共通利用の機械などにコスト意識が薄いがゆえの、自家育成に対する有利感なのではないでしょうか。確かに、相場変動に対する保証性や自分で育てた牛への信頼性は評価できるのですが…。しかし、経営に不安を持っている農場の自家育成は、いかがなものでしょうか。

 育成牛を持たない場合は、これら費用のうち、実費的な部分だけでも意識して、現金を残します。更新用頭数分のエサ代などです。そして、ヌレ子の販売代金は全額(雌の分が増えています)、更に、廃用牛代(親牛管理の技術力向上に伴い、健康?廃用牛が増え、その分肉代が多いはずです)の全額、それに、農業共済の廃用保険金などを足せば、それだけでもそれなりの額になるはずです。

 例えば、分かり易く、100頭の経産牛規模とします。うまくやり技術が高位安定すれば、15〜20%の更新で済みます。20%として、毎年20頭の更新を要します。平均35万円とすれば700万円必要です。

エサ代分:月0.8万円で1年間は約10万円として、年20頭分は200万円

ヌレ子代:少なく見て1頭平均3万円で1年間90頭として270万円

廃用牛代:健康廃用が多いとして年15頭で1頭6万円として90万円

農業共済保険金:5頭で25万円として125万円

 合計685万円となります。

 かなりでたらめな単価ですが、当たらずとも遠からずでしょう。相場変動はありますが、ほぼ更新費用に同じです。要はそのような考え方(より所)を持ち、資金を残す強い意志と実行力が必要なのです。はじめの1〜2年間は廃用率が高いでしょうが、技術力が高まればこの位の更新で済みます。いかに廃用の減少が大事か、理解できると思います。

 しかし、多頭化用の牛までには回りません。そのためにはまったく別の資金源が必要です。

 次に更新牛の買い方を考えてみます。

 個体価格には高い相場変動性があります。その変動を読める人はほとんどいません。ということは、最善の購入方法は、高かろうが安かろうが、色気を出さずに、定期的に、購入することです。すると、中長期的には平均的な購入単価になるでしょう。毎月最初の市でとか、2ヵ月毎とか、四半期毎などです。 しかし一方では、分娩時期の違いによる年間収益性の差や、分娩の偏りによる牛舎利用性の差、などを配慮して購入する必要も生じます。例えば、光周期や暑熱の影響のため、普通は12月頃の分娩が最も年間乳量が多く7〜8月が最も少ないとか、牛舎の床数以上に牛をおけないとか、乳価の高い夏に多く出荷するため、5〜6月分娩牛を買いたいなど…です。そういう場合は、相場と都合に合わせてうまく購入してください。

 また、近所で酪農をやめる人があり信用できる牛が出るとか、突然に割安な相場展開になったとかのために、ある程度の資金をいつでも?準備しておきたいものです。

 育成牛の購入は、病原微生物を他から持込む危険性をはらみます。自分の農場への馴致対応も必要になります。その辺りの管理技術もじゅうぶんに持合わせたいものです。

 育成牛をいなくする時は、相場を見計らって、思い切って全対象牛を一機に販売する方が、気持ちを引きずらなくてよいでしょう。

 いなくするなら、全牛いなくするのがよいでしょう。中途半端に育成牛を持ちたがる人がいますが、僅かな頭数であっても仕事の種類数は同じです。量よりも種類数が仕事を増やすことはよくあります。ケジメのためにも思い切りたいものです。

 ヌレ子の販売タイミングは、ホルなら早いほうがよいのでしょうが、和牛やF1の場合は早ければよいわけでもないようです。しかしいくら長くても20日間くらいが限度でしょう。それ以上は何のために育成部門を放棄したか、意味不明になります。時期を経てゆとりが出たら、もっと長く飼養したり、育成部門を徐々に復活させるのも可でしょう。

(3)飼料作物の生産

 時代は、よほどの好条件に恵まれない限り、家族単位で飼料作物を栽培し収穫調製するのが、向かなくなってきています。労力と栽培規模と機械力、品質管理と給与技術などの関係が、とてもアンバランスな状態になってきているのです。すなわち、労力とコストに負担を強いたわりには、品質や利用性の劣る製品ができてしまう傾向なのです。

 経営困難な農場にとっては、この関係の不協和音のために、すべてを低生産性にしていることがあります。多くのコストをかけたのに、劣悪な飼料を生産してしまい、しかもそれを食わせざるを得ず、本体の乳牛まで大きく不効率にしてしまうのは、極めて悲しいものがあります。作ってしまったものは、給与せざるを得ない。これが自給飼料の宿命です。

 また、自給飼料の栽培〜調製には、季節的に集中する作業上の特徴があります。そのため、この時期になると、乳牛の管理がおろそかになりがちで、いっぺんに生産性を低下させ、下手するとその回復に半年もかかってしまうことも起こります。

 更に、調製後であっても、その貯蔵や取出しで品質劣化を招いたり、廃棄を余儀なくし利用率を著しく落としてしまうことも起こりやすいものです。

 しかし、最もコスト効率を制約しているのは、おそらく、圃場管理や収穫調製、貯蔵や取出しに関わる機械や施設の装備であろうと思います。規模に見合った適正装備をできる農場は、ごく一部ではないでしょうか。大半は過剰装備に囲まれています。経営の困難な農場はこの傾向が強く出がちです。もっとも、あまりにも不十分な装備に甘んじざるを得ない経営の困難な農場も時にありますが。いずれにしろ、この装備にかかる購入建設費やその維持管理費や償却費は、とても大きいものとなります。

 一方、圃場を維持管理するためには、相応の費用を要します。土地改良、造成更新、種子、肥料、農薬、ふん尿投与などです。これも結構な金額になります。

 そして、調製貯蔵においても、トワイン(結束材)や被覆材、サイレージ添加物などの費用を要します。

 以上の直接・間接な費用をトータルすると、相当な自給飼料の単価になります。

 近年の流通飼料の割安化傾向は、かなり好条件な自給飼料生産でないと太刀打ちしがたいものがあります。

 しかし現実は、流通粗飼料の相場変動に対する不安、飼料設計や調合時における利用性、牧草しか栽培できない地形や地域の存在、安全性に関する確認できる信頼、更には、持ってしまった機械や施設の有効化を配慮して、大半は飼料の自給をし続けることになるでしょう。もちろん、土地生産性をじゅうぶんに高める努力をして。

 しかし、経営状態が相当に困難をきたしており、飼料生産どころでない場合はどうでしょう。

 まずは、すべての管理をコントラクターに任せてみる方法があります。これはやり方次第でかなり有効です。ほぼ完全に継続的に委託できるなら、その請負料金と仕事の質にもよりますが、何も作付けせずに、飼料を全量他給(購入)するやり方に匹敵する効果を期待できるのではないでしょうか。

 しかし、地域にそういう体制がないなら、それはできません。経営の瀕死状態を、窮余の一策で回復させたいなら、飼料作の放棄に打って出るのは、土地売却や離農という最終段階の前に、有効でしょう。しかし、それ以前の惨状なら、それも無理です。その境界は、周辺事情や関わる人の力量によります。

 では、以下に飼料作をやめた場合の影響と対策を説明します。図−3に飼料作をやめた時の変化フローチャートを示します。

図−3 飼料作物を栽培しない場合の変化フローチャート

 まず、季節的に集中する作業がなくなります。

 乳牛の管理作業は、日々、連綿と、リズミカルに受け継がれます。それが酪農おける利益の原点です。

 経営に無理が来ている経営の困難な農場においては、ただでさえ日常の管理作業でアップアップな状態のところに、日常性とは異質な圃場管理や収穫調製の作業が割込みます。それは季節的に集中し、かつ作業の主力メンバーが外に出向いてしまいます。その非連続的な作業は、多くの場合、ルーチンワーク(何時もある仕事)の流れを乱し、効果的な生産の原理を崩します。しかもそれが暑熱ストレスの強い時などに当たると、相当な打撃を生産に与えます。また、はじめから夏の忙しい作業を想定し、冬季間に、せっかく築き上げた生産性の高い飼養体系を、春から秋にかけての人手の少ない時のやり方に変えてしまい、牛を不調にする場合も起こります。

 飼料作物の栽培をやめ、その浮いた労力や作業時間を、主に搾乳牛部門の充実や多頭化に向けます。しかし、育成牛のように、通年に渡り、毎日、労力や作業時間が浮くのとは、その内容が異なります。飼料作物の栽培に関する作業は、時期が集中し、しかも1日としての作業量は突出します。そのため、同じ作業的なゆとりの利用仕向けでも、育成牛の時とはだいぶ異なります。主に夏場における飼養技術の向上に使ったり、環境の浄化整備やふん尿の完全管理と利用先確保、更には、飼料などの給与設計や取引に使うのが有利でしょう。

 この作業的なゆとりは、他にも様々な方面に向けることができます。多頭化や環境整備、育成牛部門や各種取引などです。

 この作業のゆとりによる効果は、計算し難くはありますが、経営の困難な農場にとってはかなり大きなものになるでしょう。ここの所の価値判断を多くの人は過小評価しがちです。

 次に、生産費に大きなゆとり?(使用しない経費)が出ます。

 現実に、自給飼料に関わることに直接・間接に投入している経費は、一般の予測を上回ります。

 北海道の十勝中央地域では、成牛を1頭1年間飼うのに0.33haほど必要です。1日平均33kg泌乳するとして摂取できる乾物は21kg位です。

 しかしそれをすべて粗飼料でとることは不可能です。消化と通過のスピードには限界があります。消化のゆっくりしたガサの多い物は、そのために採食量に限界があります。その性質を持った飼料は、ある限界以上の長さを持った粗飼料です。すなわち、繊維のある、反芻性のある飼料です。ルーメン微生物のご機嫌を最大限にとりながら、生産に要する栄養はピッタリ与える、これが、元気で高産乳を得る極意です。すなわち、粗飼料を可能な限り(食えるだけ)与え、中間飼料や濃厚飼料で不足の栄養をとってもらうのです。何が言いたいかというと、どんな栄養要求状態の牛でも、食える有効繊維量はほぼ同じで、食わしたくても食えない限界があるということです。必然的に、多い産乳を求めると、粗飼料からの栄養供給分では限界があります。それ以上の分は、濃厚飼料などの、繊維の少ない栄養の濃い物で補給せざるを得ないのです。要するに、粗飼料には食える限界があり、かつ、高泌乳状態の牛も、普通泌乳状態の牛も、乾乳牛も、14〜15ヵ月齢以上の育成牛も、ほぼ同じ量の粗飼料しか食込めないのだヨ!ということです。少ない食込みの方に異なるのは、分娩前後の移行期牛や哺乳牛や当歳牛だけです。

 結局、全乾物摂取量の約3分の1位、すなわち乾物で8kg位が粗飼料食込みの限度です。年1万kg泌乳牛でも、平均的には1日当りそれくらいが食込み上限でしょう。となると、成牛は年間で 8kg×365日=2920kgの粗飼料からの乾物摂取となります。圃場から摂取までの利用率を88%にすると、2920kg÷0.88=3318kg(1日約9kg)の親牛1頭分の原物の必要乾物になります。それを畑から得なければなりません。牧草とコーンの作付け比率をそれぞれ3分の2(67%)と3分の1(33%)とします。牧草の反収を4.5t、コーンを5.0tとし、それぞれの乾物率を18%と27%にします。すると、全体の飼料畑の反収乾物量は、(牧草4500kg×0.18×0.67)+(コーン5000kg×0.27×0.33)=988kgです。そこで、親牛1頭の必要反別は、3318kg÷988kg=約3.3反(0.33ha)となります。

 育成牛が親牛と同数いるとして、例えば親50頭なら子も50頭、育成牛の成牛換算を70%とすると、50頭+50頭×0.7=85頭の成換牛がいます。全牛分の粗飼料を自給するなら、85頭×0.33ha=28haの飼料作物地を利用していることになります。これは、十勝中部地域の標準規模です。

 この28haを管理運用するには相当な費用がかかります。直接費だけでも、おおよそ482万円になります。反(10a)当たり約1万7000円です。全管理作業に共通なトラクターやトラック、堆肥散布機や重機などは、自給飼料の生産部門とどう按分するか、かなり区別し難いでしょうが…。

 その大体の内訳は次のような内容かと思います。肥料、種子、農薬で反当り0.7万円くらいかかるとして28ha×0.7万円=196万円。燃料0.1万円として28万円。建物機械の償却費0.5万円として140万円。修繕費0.2万円として56万円。賃料料金0.1万円として28万円。諸材料など0.12万円として34万円。借地はないので入っていません。また、サイレージ添加物をしっかり使うと更に増えます。ただし、その時は品質も高まります。この額はみなさんの地域ではどうでしょうか。条件でかなり差があるでしょうから、この数字は単なる参考にしてください。

 経営の困難な農場においては、更に修繕費や資材費に上乗せが必要になるか、単位収量が減るか、利用率が低くなるかが、多くの場合起こります。おそらく1〜2割くらいのコスト高になっているでしょう。550万円になるかもしれません。

 この他に、計算困難なものとして、先に説明したところの時期的に集中する肥培管理や収穫作業による労力不足のために生じる牛群の生産性低下があります。これは農家による程度の差が大きく、多くの経営困難な農場ではそれがこと更に強く出がちです。

 また一方、貯蔵格納の施設にかなり大仕掛けな物がいるうえ、その取出しを、相応な機械類に頼り、雨にも負けず、風にも負けず、吹雪にも、マイナス30℃にも負けず…毎日毎日やらねばなりません。そのため、とても機械を降りての手作業なんかはしておられず、土が混ざろうが、ビニールが入ろうが、カビの固まりがあろうが、サイレージに発熱を生じようが目もくれないことになります。経営悪循環におけるルーチンワークは、ただ終わらせたいだけの仕事になりやすく、相当にお金と時間を費やしたはずの貯蔵飼料を、ついつい、ないがしろにしがちです。

 これが、例えば粗飼料は全量を他給(購入)ということになると、短期間ずつ、あるいは大型車1台分ずつ購入すればよいことになります。それも、多くは乾草飼料の取扱いになります。すなわち、場所も少なく、作業も単純で、しかもたいていは屋内でできます。

 これらを金銭に換算することはとても不可能ですが、農場次第では、巨大な生産の不効率に結びついていることは、体験的に明白です。

 多くの経営の困難な農場おいて、複雑怪奇に迷宮入りした作業のための作業を、肉体的に、時間的に、まずゆとりを作り、ついで精神的にもゆとりを生ませ、それを経営の核心部分で、分かり易い、価値高い作業に作りかえることが、思い切った再生には大切かと思います。

 飼料作をやめると、そのお金でどの位の粗飼料を購入できるか、計算してみます。

 直接的なコスト550万円は単価35円(粗蛋白20%、12年初夏の十勝の平均購入単価?)のルーサンヘイに置換えると、550万円÷35円=約157.14tになります。これを成牛換算1頭当りになおすと、15万7140kg÷85頭=約1850kgになります。乾物になおすと、ルーサンヘイの乾物率を87%として、1850kg×0.87=1610kgです。2920kgの年間必要な1頭当りの粗飼料乾物量(前述)に対し、1610kg÷2920kg=約55%既に確保したことになります。仮にルーサンヘイが1kg当り45円に高騰したとしても、40%強は得られます。

 しかも、栄養価は自給品より蛋白質やミネラルではかなり高い割合になります。エネルギーはコーンサイレージよりはかなり低いので、総体でやや下がりますが。ルーサンは消化管の通過性はかなり高いので、それ主体で給与すると、食込み量の限界は増えます。しかし、一般的にはイネ科草と併用して与えるので、そう変わりはしないでしょう。

 要するに、飼料生産の規模や機械施設の体系にもよりますが、直接的な生産費だけで、必要の少なくても40〜50%を購入できるらしいということです。これに前述の計算不能な影の生産費を入れたらもう既にかなりな線に達します。

 飼料作物栽培をやめる場合の最も大きい困惑は、既に揃えてある装備類…共通機械や貯蔵施設、肥培管理や収穫用の作業機などをどうするのかということです。これは、コントラクター利用の時なども少しは悩みますが、飼料作物栽培をやめる場合はその比ではありません。しかし、決断したら思い切るしかありません。ころ合いを見計らって、売れる物はしっかりと売却するのがよいかと思います。無くなってはもういかんともし難いので、新方式の前進に全力投球の構えになれます。

 ここで少し話題を変えます。

 リストラは、経営の困難な農場における最終手段の一歩手前の経営改革なのですから(最終は土地の売却?)、相当緻密に事を運んでも、天下の情勢に予測を超える激変が起きたら、その時は諦めるしかありません。それができないなら、もっと余裕のあるうちに手を打つか、離農していなくてはならないかと思います。なすすべが限られてきた中の決断ですから、全力を尽くしても、運命のいたずらで激変に出くわしたらやむを得ません。ですから、このクラスの経営再生計画になると、経営者およびその家族と組織の責任者のじゅうぶんな理解(腹分かり=覚悟)が欠かせないのです。

 これら機械類の売却は一時的な収入になります。何に使うのがベターか、償還金・利子圧の緩和や初妊近腹の導入、あるいは乳牛の生産性に直結的なことなどによくよく考えて投入したいものです。

 機械庫や乾草庫やサイロなどに空きが発生します。牛舎や敷料置き場、あるいは飼料調合場や生もの的購入飼料やバラ買い飼料の置き場などに有効です。

 農地が空きます。まさかこれを放ってはおけません。積極的に貸地します。デントコーンだけは作り続けるとか、まだ新しい草地は利用したいとか、家の周りの地続きだけはとか未練が残るでしょうが、少しであってもやはり仕事数はそう大きく減りません。事前と同じ轍を踏む可能性が大です。施肥以外はほとんど必要ない、牛舎続きの放牧地くらいなら、なんとかというところでしょうか。

 十勝中央地域の借地料はどの位でしょうか。条件によりバラバラでしょうが、平均反(10a)1万円とします。28haですから280万円です。これで、前述のルーサンヘイを購入するなら、280万円÷35円=80tになります。これを成牛換算頭数で割ると1頭当り年間、80t÷85頭=約940kg購入できます。乾物率を87%とすると940kg×0.87=約820kgになります。これは粗飼料の年間必要量の、820kg÷2920kg=約28%を買えます。安めの借地料として、1反当り0.7万円としても、196万円です。これでも20%弱になります。ルーサンヘイが45円になって、しかも借地料も安めであっても、15%強になります。

 結局、貸地料だけでも、年間の必要な粗飼料の22%前後は何とか確保できそうです。

 その他の粗飼料以外のエサ購入分を説明しないのは不思議に思われるかも知れません。しかしそれは、どんな経営方法にしろ、ほとんどは外部からの購入しかないからです。

 生産費分と貸地分の両方を足すと、粗飼料必要量の60〜80%を買えることになります。仮に必要な粗飼料がもう少し多い(1日10kg?)としても、必要の半分以上は確実に購入できるようです。これに、確かな計算をできない諸々の効果分を加えると、かなり有望な展開を想像できます。

 社会情勢や相場的なものを相手にしますから、運・不運も伴うでしょうが、計算不能の出入りをどう価値づけるかで、可能性の判断が大きく揺らぎます。しかし、時代は経営のスリム化や分業化を相当に可能にしています。

 一方、新たに必要になる物があります。それは飼料の安定的な確保です。流通している飼料には想像以上に多種多様な物が、いろいろな価格やタイプで 取引されています。この情報の収集と取引能力を高め、上手な飼料確保をせねばなりません。

 また、いつなん時、粗飼料の確保が、長期に渡り割に合わなくなるか分かりません。その時は急きょ、飼料を自給せざるを得ない可能性もあります。貸した耕作地は、契約上で少し不利でも、あまり長期の借地条件にしないで、2〜3年くらいで更改するようにした方が無難かと思います。すぐ、最小限の自給が可能なように…。

 ふん尿を自由に散布できなくなります。これには結構切ないものがあります。特に酪農専業地帯においては、よくよくその仕向け先を確保しておかなければなりません。ともかく、世間が欲しがるような高品質堆肥を作るか、ふん尿処理センターの設置を求めるかです。

 ともかく、この飼料作部門は、酪農における生産性の総体に、深くそして広く影響し合っています。ぜひ一度、作付けしない場合を具体的に熟考してみて下さい。

 最後に、いかなるリストラ策であろうと、乳牛と作業者の本体に関わる「元気」が一番です。あらゆるゆとりをまずそのために集中してください。

 以上で、昨年の7回と本年の5回に渡る「酪農の特質と経営の再生」に関する解説を終えます。

 私の経験では、酪農にはまだ膨大な可能性が残ってます。周辺の人たちとの「良い意味の協調」のもと、是非ともこの可能性を手にして下さい。少しでも、苦しい経営体が「明るく前進」し、再生の美酒!に酔えることを期待します。

 なお、詳しくは、デーリィジャパン誌「酪農を100倍面白くする技術戦略」にも解説をしていますので、ご一読頂ければ幸いです。

(筆者:北海道十勝北部地区農業改良普及センター・主査)